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第一章 - 旧友との再会

1 - マリアナさん

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■アルヴェイの森/木樵小屋/無職:ユウ=フォーワード

「うーん……これと言って特別な物はありませんね。わずかな食料、寝具類、カンテラとその燃料。あとは薪割り用の斧が予備と合わせて二つです」

 木樵小屋に放置されていた物資をベッドの上に並べながら、マリアナが報告してくれる。

「エンドロールでもあったけど、ゲームスタート時に用意されているのは本当に日銭と服とナイフだけみたいだな」

「はい。私にも同じものが支給されているところを見るに、マスター専用のアンドロイドではなく、普通にプレイヤーとして認識された、ということなのでしょうか?」

「うーん、それはわからん」

 俺たちは気づいたらこの小屋のベッドに二人で寝ていた。
 追加コンテンツダウンロード前にアイテム化しておいたマリアナは、どうやら新しくこの地に降り立った時、すでに俺と同じプレイヤーとして見なされたらしく。
 プレイヤーである俺とまったく変わらない格好で隣に転がっていたのだ。

 これはおそらく、の話なのだが……。
 追加コンテンツの説明項目にはこう書かれていた。



■エクストラエディションはスペシャル・ノーマルとは違い、所有するアイテムを二つ、キャラクターと一緒に移行することが可能になります。(スペシャルは移行特典アイテム一つ、ノーマルは特典なしです)



 普通のクリアには、アイテム移行の特典は存在しない。
 スペシャルは移行特典アイテム一つと書かれているが、単騎討伐の難易度から考えると俺の他にアイテムを二つ持ち込めたプレイヤーはいないんじゃないだろうか。
 あるとすれば、初期討伐組のあいつらだけど……それはスペシャルくさい。

 基本的に持ち込むアイテムといえば、だいたい超レアな装備とか武器だろうと思う。
 そんな中俺は一緒にゲームを続けたいから、とマリアナのアンドロイドアバターと心臓を移行アイテム欄に入れた。
 結果、アイテム単体ではなくマリアナ個人として新しいコンテンツに認識されたのではないか。と考察する。

 っていうか、そう考えないと隣にマリアナが寝っ転がっていたことの説明がつかない。
 つかないので、深く考えずにありのままを受け入れることにしたのだ。
 穴だらけの辻褄であるが、そもそもアンドロイドとしての立ち位置だったマリアナが、今度は俺と同じ目線で隣に立つ。
 ただそれだけで何も変わらないし、俺が彼女と一緒に追加コンテンツの世界に行くことを望んだ訳だしな。

「おお……これが人種族の肉体というものなのですね……」

 必死に頭を捻らせる俺をよそに、マリアナは自分の頬を膨らませたり、二の腕をプニプニつまんでみたり、挙げ句の果てに割と大きめな胸をたっぷんたっぷんと縦にバウンドさせたりして遊んでいる。

 眼福っちゃあ、眼福なんだけど。
 なんだか目に毒だなあ……。
 ただでさえドストライクなのに。

 苦労してイベントクエスト終わらせて取得したマリアナのアンドロイドアバターは俺のお気に入りだ。
 種類は、動物タイプとか、本当に機械チックなタイプとか色々あれど、なんとなく隣でサポートしてくれる女の子がいるって素敵だな、なんて安易な考えで理想を追い求めた結果だ。

「ほうほう……血が通ってる……ってこんな感じなんですね」

 前タイトルは割とリアル重視のゲームだったから、プレイヤーとそう変わらない“質感”を持ったアンドロイドアバターも存在する。
 その中でもマリアナのアバターは人間タイプの一番上等なやつだったわけだが、細部まで人と同じようにできているわけではなく、それはあくまで外装のみ。
 容姿はプレイヤーとそっくりでも、その中身は機械人形。基本は冷たい鉄と同じである。
 五感に関しても、アンドロイドは計測機器による識別判断が主だったらしいので、素肌で“感じる”ということはマリアナにとってかなり新鮮なようだった。

「楽しそうだな」

「そうだマスター、どうですか? 触りますか? 味見しますか? 今なら鼓動を確かめる、という行動を理由にしてうら若き乙女の胸に手を当て顔を埋めることが可能ですよ」

「いやせっかくプレイヤーの体手に入れたんならもっと大事にしろよ」

「ぱふぱふは男のロマンだと聞きましたよ?」

「誰にだよ! 俺のロマンはぱふぱふではありません!」

 マリアナのアンドロイドアバターを手に入れた時。
 俺のとなりで献身的にサポートしてくれるような、可愛らしい理想の女の子にしてもらえるように、心臓部分のカスタマイズをウィンストンに頼んだわけなのだが……。

「ほれほれ横バウンドです。いかがですか? このたわわゆさゆさ感。いかがですか?」

 まさかここまで積極的な思考回路にされるとは思わんかった。

「マスター不自然に目を逸らしてないで、こっちを向いてください」

「いや、いいです……」

「なんで敬語なんですか?」

「いや、なんでもないです。はい」

 なんだか大事なものがガンガン削れていっているように感じる。

「マスター、据え膳食わぬなんとやらって言うじゃないですか?」

「据え膳食わぬは男の恥な」

「知ってるならば、無視するのは据え膳に失礼では?」

「自分のことを自分で据え膳っていう女はいねえよ!」

 そもそも据え膳食わぬはってハニートラップに引っかからない男を引っかけるために作られた言葉なんじゃないかなって個人的に思う。
 ほら、バレンタインデーでチョコを送りあったり、土用の丑の日に鰻を食べるのが企業戦略だったりするのと同じように、そんなニュアンスの言葉じゃないかずっと思っていた。

「ここにいますけど!」

「そういうことじゃねーよ!」

 献身的で積極的も……なんだろう、度を過ぎれば痴女扱いになってもおかしくないよねって思いました。

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