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10巻
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「プルァッッ‼」
楽園の王が雄叫びとともに20メートルクラスにまで膨れ上がる。
キングさんと同じように、水を吸収して巨大化できるようだった。
「プルァアアアッ‼」
キングさんも負けじと同じ大きさにまで膨れ上がり、湖の水嵩はかなり減っていた。
体を巨大化させる意地の張り合いは互角で、そこから殴り合いに発展する。
ズドンズドンズドン!
重たい音が辺りに響いて、挨拶代わりの殴り合いも互角。
立て続けに繰り出される水弾や水流ビームも互いに相殺しあって互角となった。
キングさんに真っ向から張り合うなんて、楽園の王もかなりの強さである。
残っているのは全身全霊の水柱なのだが、キングさんはそれも互角だと読んでいた。
「プルゥッ!」
これに対抗できるかな、と言わんばかりの表情で一気に小さくなる。
体内の水分を凝縮させて小さくなったスリムキングさんだ。
「プルァ?」
小さくなって何の意味がある、と首を傾げる楽園の王。
「ッ! プルァアアア!」
だが小さくなった分だけ湖の水嵩が増えていないことに勘付くと、得体の知れない脅威を感じ取ったのか全身全霊の水柱を解き放った。
「うおおおおおおおおおおお⁉」
ディスペラの自爆みたいな感じで、瀑布の波動が押し寄せて来る。
キングさんはバックステップで俺とコレクトの前に来ると「プルァ」と一言呟いた。
ビビるな、と言っているようで、そのままグッと体を縮めるとバネのように勢いをつけて水柱に体当たりする。
ドボォッ!
「プル――⁉」
それだけですごい勢いだった水柱が掻き消えた。
何と表現すれば良いのだろうか、体当たりの衝撃によって、楽園の王が作り出した巨大な水柱が一気に散らされたのである。
過去に行われたこのスリムキングさんによる真っ向勝負の体当たりは、山頂の一角を崩壊させるほどの威力を持っていたのだから、さもありなん。
直撃は免れたものの衝撃によって転がされた楽園の王に向かって、キングさんは勝ち誇ったようにニヤリと表情を歪める。
「プルァ?」
「プ、プルァ……」
楽園の王は、そんな圧倒的な力を見せつけられても、なお立ち上がった。
自分の縄張りを破壊し尽くされたのだから、せめて一矢報いたいのだろう。
まさに王、その背中に男気のようなものを感じた時だった。
「ロイ……」
優しい声が聞こえた。
車輪のようなものを背負った小さな白いスライムが、湖の周りに茂る木々の中から現れる。
喋るスライム? なんだ、あれは?
いきなり登場した喋るスライムを呆然と見ていると、そのスライムはふわふわと宙を漂って楽園の王の側に寄り添った。
「このままでは勝てませんから、どうか私を……」
「プル? プルァッ!」
告げられた言葉を否定するように、声を上げて顔を顰める楽園の王。
それでも白いスライムは背負った車輪をグルグルと動かし薄くなって消えていく。
「さようなら、ロイ……私の愛したただ一人の王……」
「プルァ! プルァアアアアアアアアア!」
すごく感動的な場面なのかもしれないが、何が起こってるのか一切わからないぞ。
白いスライムが犠牲になったみたいで、ちょっとだけ罪悪感が芽生えた。
悲壮な雄叫びを上げる楽園の王を見ていると、何だか主人公っぽい雰囲気を感じる。完全に俺たちが敵役である。
いや、楽園を荒らしに来たわけなんだから完全に悪者なんだけどさ。
「どーすんだよこれ……」
「クェェ……」
コレクトも俺と同じようなことを感じていたようで、困ったように鳴いていた。
そんな俺たちを尻目に、キングさんはさらに猟奇的に表情を歪める。
「プルゥハ」
ほう、愛の力で強くなるのか面白い、と思ってそうだ。
バシュン!
「うひっ⁉」
キングさんの顔を見ながら呑気にそんなことを思っていると、水弾が足元をえぐった。
「プルァ」
読めと言っているようなので、水底に書かれた文字に目を向ける。
奴はスライムフォーチュンの力を使って進化した。
楽園を束ねていた王は、王族のさらに上に駆け上がる。
危険だ、少し後ろに下がっておけ。
「えっ! どういうこと⁉」
唐突に告げられた衝撃の事実に、頭が混乱する。あの白いスライムが魔物を進化させる力を持っていたのなら、楽園の王はとんでもない隠し球を持っていたもんだ。
「キングさんは大丈夫なのか?」
スライムキングのさらに上位種ともなれば、現スライムキングであるキングさんにもちょっと厳しいんじゃないだろうか。それを見越して、後ろに下がっておけと俺に忠告したのだろう。
不安そうな表情が出ていたのか、キングさんは返事もせずに水弾で再び文字を書く。
我を誰だと心得る。全ての生物の頂点に立つ王である。
さらに愛する者を失ってまで強くなることは、己の弱さを認めた証。
そんな愚か者に、我が負けるとでも……?
「うおおおお、無慈悲にかっこいい」
あの感動的な場面を愚かだとバッサリと切り捨てるキングさん。まあ確かに、結局失ってしまったら意味がないからね。それにしても己の弱さを認めた証、か……。
俺は常に弱さを認めてきた人生だったから、キングさんの言葉が突き刺さった。
「プルァアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
白いスライムは光の粒子となって完全に消え、それを目の当たりにした楽園の王ロイは涙を流しながら空へ咆哮する。
倒すならこの間にさっさと攻撃したら良いと思うのだが、キングさんはバトルジャンキーなので律儀に進化を待ってから戦うつもりなのだろう。
俺が出しゃばって倒しても、後でお叱りを受ける未来しか見えないので任せることにした。
「――ァァァァァァアアアアアアアアアアアッ‼」
白いスライムが残した光の粒子に包まれて、ロイの様子がおかしくなる。
全力の水柱を放ち一回り小さくなっていた体が、ボコボコと膨張した。
膨張に追いついていないのか、顔面がやや窮屈そう。これが魔物の進化か、何気に初めて見た。
ここからどうなるのだろう、と固唾を呑んで見ていると、次第に膨張のスピードは収まり、歪な形から元のスライムの状態へ戻ると背中にポンとマントが出現した。
「えっ、それだけ? ってどこから来たそのマント」
呆気ない様子に思わずそんな声が出る。
「……それだけだと? 私の最愛のフォルトゥナが、彼女の犠牲の結果がそれだけだと?」
「喋った⁉」
重々しい荘厳たる雰囲気の声。
周りに俺ら以外の人がいないので、声の持ち主は目の前のロイしかありえない。
「マジか」
進化した結果……背中にマントが生えて喋り出すなんて予想もできなかった。
「断じて、それだけではない」
「プルァ」
悲しそうな表情で呟くロイに、キングさんが何か言っていた。
「……実力がない自分を恨め、だと?」
悲しそうな表情から一転、ロイは鋭い眼光を向ける。
「――ふざけるなよ、敵対者」
ボンッととんでもない速さで飛び出したロイは、思いっきりキングさんを殴りつけた。
「プルッ⁉」
「キングさん⁉」
避けることもできずに、まともにくらってしまったキングさんは水飛沫をあげ、水切りで水面を跳ねる石のように湖の上をぶっ飛んでいく。
湖を越えて、森の遠くで激しい衝突音が鳴り響いていた。
「そ、そんなまさか、キングさんが……ぶっ飛ばされるなんて……」
「何を驚いている?」
慄く俺に、ロイが赤く豪華なマントをはためかせて言う。
「スライムロイヤルへと進化した私からすれば……あいつは少し強いだけの下等種だ」
「スライムロイヤル……?」
それがスライムキングから一段階進化した魔物の名前なのか。
見た目は背中にマントが生えただけなのに、こんなに強くなるだなんて聞いてない。
あっ、マントに気を取られていたけど、地味にちょび髭も生えている。
ちょっとロイヤルっぽいと思った。
……って、ふざけてる場合じゃないな。さっきの一撃は、キングさんが反応できないほどの速さだった。一段階進化したという強さは、伊達じゃない。
「しかし、進化先がロイヤルか……」
ロイは空を見上げながら独り言ちる。
「楽園の管理を他の者に任せていたツケが、今ここに回ってきたのだろうな……」
「進化って、色々と種類があるんですか?」
キングさんを一撃でぶっ飛ばして気が晴れたのか、少し理性的な雰囲気を感じた。
恨みに我を失っているわけではなさそうだったので、時間稼ぎも兼ねて対話を試みる。
「答える義理があると思うか? 敵対者の主よ」
「あっはい」
そりゃそうか……さて、ならばどうしようか。
キングさんを一撃でぶっ飛ばすレベルなんだから俺の手には負えない。一撃で死ぬことはないだろうけど、手酷い仕打ちを受けるのは確定だ。
作戦としては、斥力を用いてMPが続く限りロイから距離を取り続ける。
格上のディスペラも問題なく翻弄できたから何とかなるはずだ。
もう一つの案として、今すぐキングさんの等級アップを行う。
インベントリ内にあるスライムキングのサモンカードは百十八枚。
レジェンド等級には足りないが、ユニーク等級までなら上げることが可能である。
進化したロイに対応できる切り札になるかはわからないが、キングさんならきっと何とかしてくれるという希望があった。
「最後の言葉はないか? 敵対者の主よ」
「特には」
どこかのタイミングでコレクトからワシタカくんに交代しよう。
斥力で弾いて空へ離脱、これが最適解な気がしてきた。
水弾とか、水流ビームで対空攻撃をされたら厄介だが活路はそこしかない。
「ならば死ね――出てこい、王族諸君。我が妻の仇討ちの時間だ」
そう告げたロイの体からボボボボッと水弾が飛び散る。
彼の呼び声に応えるように、周辺に飛び散った水弾はむくむくと膨れ上がり、王冠を載せた巨大なスライムへと成長した。
「は……?」
普通のスライムキングから、毛深いスライムに紫色の毒々しいタイプ。
もちろん金銀白金色の王族もいて、今この場は王族オンリーの楽園のようだった。
「マ、マジか」
「クェェ……」
多種多様なスライムの王族たちが勢揃いで俺とコレクトを取り囲む。
迂闊に動けば一瞬で殺される、と自分の本能が告げている。囲って睨まれているだけで、今にも押し潰されそうなプレッシャーだった。キングさんを前にした魔物の気持ちがよくわかる。
どうすれば良い、斥力の対象は一人のみで、この数を相手にするのは無理だ。
すぐにワシタカくんに入れ替えようかと思ったのだけど、迂闊に動けない。
一発なら死なずに耐えられるので、その間に無理やり召喚すべきか?
いやいや、これだけの数に上空に向けて水弾を撃たれてみろ、蜂の巣だ。
えっとまず、何からすれば……うわヤバい、ちょっとこれヤバい、顔面の圧力えぐい。
キングさん助けて! どこまで飛ばされちゃったの!
「どれ、私がやろう」
上手く頭が回らずオロオロしていると、普通のスライムキングが一歩前に出た。
えっ、こいつも喋れるの?
上位個体だけかと思っていたのだが、いったいどういうことなのだろうか。
「スライムキングを従えているからこそ、私が殺さねばならない」
「ふむ、良いだろう。速やかに行え」
目の前で俺を見下ろす一体のスライムキングと仇討ちの許可を出すロイ。
これは一発もらってしまうことを覚悟しないといけないようだ。大丈夫、死ぬことはない。
邪竜の尻尾攻撃に比べたら、普通のスライムキングの攻撃はまだマシだ。
「これより断罪の一撃を加える。さらばだ――」
「くっ!」
たとえ一発耐えられるとしても、怖いものは怖いので目を瞑る。
すると遠くから聞き慣れた雄叫びが聞こえてきた。
「――プルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア‼」
この声は、この声は!
「キングさん!」
「ルァァァアアアアアアアアアアア!」
間一髪のタイミングで戻って来たキングさんは、俺の目の前にいたスライムキングを突進で弾き飛ばし、ついでとばかりに核を水弾でぶち抜き消滅させる。
「何ッ⁉ この王族、ロイヤルの一撃を受けて生きているだと⁉」
「狼狽えるな、諸君! 構えろ!」
呆気に取られる王族たちを鼓舞し、ロイはすぐさま飛び出してキングさんに殴り掛かった。
キングさんは身を捩ってプルンと躱しカウンターフックを打つが、そこへ次々と周りの王族が攻撃を浴びせていく。
まさに水弾の雨、いや全方向から機関銃を撃たれているような状態だった。
キングさんは、体を変形させて俺とコレクトを守るように包んで水弾を受ける。
「下等種よ、主人が死ねば貴様にも私の気持ちがわかるかもな?」
「プルァ……ッ!」
「言葉を返すぞ? 自らの弱さを恨め、傲慢なる下等種よ」
水弾の集中砲火に耐えるキングさんを見下しながら、ロイはさらに続ける。
「そして知れ、体ではなく心に刻まれた痛みを……な」
「プル……ゥ……」
水弾が止む頃には、キングさんの大きな体はかなり小さくなっていた。
ここまで削られ満身創痍になったキングさんを見たのは初めてだった。
「キ、キングさん」
「動くな、敵対者の主よ」
声を掛けようとしたが、ロイの鋭い眼光に睨まれて口をつぐむ。
呼吸すら止まりそうな威圧感に指一本動かせない。
「下等種よ、最後に言い残すことはあるか?」
「……プルァ」
「ふむ、この期に及んでまだ私が間違っているだと? 傲慢だな、見習いたいほどだ」
何を話しているのか、ロイの口元がニヤリと歪む。
「王族の権限を渡す。貴様の主にも伝わるように話してみろ。貴様の傲慢な考え方を」
ロイの体から生み出された水が、小さくなったキングさんの体に付着する。
すると、俺のすぐ隣からバリトン並みの低い声が響いた。
「……前提が間違っている。たわけが」
ほわっ⁉ キ、キングさんも喋った⁉
声色にたまげそうなのだが、空気を読んで心の中で叫んでおく。
ちなみに俺の肩に乗ったコレクトも口が開きっぱなしだ。
「前提だと?」
首を傾げるロイに、キングさんは告げる。
「愛したスライムを殺したのは、我ではなく貴様自身だ」
「……私の中に残っていた僅かな慈悲がたった今消えたぞ、貴様」
怒ってるからあんまり逆鱗に触れないで、キングさん!
そんな俺の思いとは裏腹にキングさんは言い放つ。
「大切な者がいるのならば、何故あの時その者が命を賭すのを見過ごしたのだ」
「それは貴様が」
キングさんはロイの言葉を遮って続ける。
「敵が強かったからか? ふん、話にならんな。それは怠慢だ。貴様が我を傲慢と蔑むのならば我はさらに上から蔑もう。命を賭して守ろうとしなかった貴様の……怠慢だ」
「貴様……ッ」
「失いたくないほど大切な者が存在するのならば、何故、己の命を賭して守り抜こうとしない? ふん、あの小さきスライムの方が貴様より遥かに気高い存在だったな」
キングさんの言葉を聞いて、ロイが殺気立つ。
思うところがあったのだろうか、目を血走らせて怒りを堪えているようだった。
「……フォルトゥナのことを貴様が語るな」
「我は賭すぞ、半端に諦めた貴様とは違う」
「黙れ!」
叫び声とともにキングさんの顔面に水弾が放たれた。
だがキングさんは一歩も引かずに受け止めて、さらに言い放つ。
「覚悟のない者の一撃は、至極軽いな」
「貴様! やれ、王族諸君! 消えてなくなるまで撃ち方をやめるな!」
ロイの合図に従って、他の王族が再び水弾の雨を降らせようとした時だ。
「――プルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
キングさんの特大の咆哮が全域に響き渡り、周りにいた王族たちを仰け反らせた。
同時にパリンと砕ける音がして、俺の指先までを縛っていた圧力が消える。
どうやらロイは鋭い眼光とともに動きを縛るスキルを使っていたらしい。
「我の覚悟は初めからできている」
体積を削られて小さくなった姿でも、キングさんは凛と立つ。
「我の主は軟弱故に、道を示さねばならんのだ」
自分より巨大な王族たちに囲まれながらも、中央で吼える。
「たとえ貴様が上位種であったとしても……我が勝つ」
さらに吼える。
「どんな状況だろうが諦めん、我が勝つ」
さらに、さらに吼える。
「それを傲慢だと言うのなら甘んじて受け入れよう! 我が勝てばそれが正しい在り方だからだ!」
誓うように叫んだキングさんは、そのまま近場にいたプラチナキングに飛び掛かった。
小さな体であろうとも、その機動力を活かして水弾を躱し殴りつける。
戦いは次の段階へ、泥沼の混戦状態へと発展した。
「な、なんだこの力は……本当にただのスライムキングか⁉」
「一発当てても構わず突っ込んで来るぞ、気をつけろ!」
「全員まとめて我が相手だ、プルァッ!」
「ぐはっ⁉」
無敵の特殊能力を存分に活かして蹴散らしていく。
「主よ! 雑魚とロイは我が抑える! 貴様は何とか生き残れ!」
「わ、わかった!」
キングさんの言葉にハッとしてやるべきことを思い出してスキルを使う。
「クイッ――ぐあっ⁉」
背中に強烈な衝撃を感じた。
振り返るとプラチナキングが肉薄しており、突進でHPを一割もっていかれる。
「ロイヤルめ、私は有無を言わさず殺しておく派だったんだ」
「それには私も同感だ」
「私も賛成だ」
ダメ押しとばかりに、シルバーキングとゴールドキングの硬いボディが体に突き刺さった。
「うごっ! ごへっ⁉」
「主よ! 今向かう!」
「おい、お前の相手はこのポイズンキングだ」
「ちっ! 雑魚が我の前に立つな!」
キングさんのカバーは、スライムポイズンキングに阻まれ、俺は為す術なく宙を舞う。
空中で次々に突進され、まるでホッケーみたいだった。超痛いけど、強烈な痛みのおかげで意識を保てたのは幸運である。キングさんの特殊能力である無敵発動中に眼下を隈なく見渡せた。
「う、うおおおおおお! キングさん、クイック!」
隙をついて支援スキルを使用し、次に図鑑を開きキングさんの等級アップを行った。
……成功!
これでキングさんの無敵の効果時間が少し延びたはずだ。それからコレクトをワシタカくんにチェンジして、インベントリから回復の秘薬と高級巨人の秘薬を取り出して使用した。
出し惜しみはしない、最初から全力だ。
キングさんの言葉を思い返す。言葉通りなら死ぬ気だ。
サモンモンスターは二十四時間後に復活するから、命を賭す価値は低いのかもしれない。
だが、だが……!
絶対に、キングさんは生き返れなかったとしても命を賭して守ってくれるんだ。
今まで見てきたキングさんの背中がそれを物語っている。確信させてくれる。
強敵以外では呼ぶなという言葉の意味も、今なら何となくわかる気がした。
図鑑からいつでも見守ってくれていたんだ。
それにな、俺への絶対的な勝利の誓いと覚悟を聞かされて、主人である俺が何もせずに指を咥えているわけにはいかないんだ。
俺の中途半端で軟弱な気持ちを背負ってくれているキングさんに、年甲斐もなく期待に応えたいと強く思った。
楽園の王が雄叫びとともに20メートルクラスにまで膨れ上がる。
キングさんと同じように、水を吸収して巨大化できるようだった。
「プルァアアアッ‼」
キングさんも負けじと同じ大きさにまで膨れ上がり、湖の水嵩はかなり減っていた。
体を巨大化させる意地の張り合いは互角で、そこから殴り合いに発展する。
ズドンズドンズドン!
重たい音が辺りに響いて、挨拶代わりの殴り合いも互角。
立て続けに繰り出される水弾や水流ビームも互いに相殺しあって互角となった。
キングさんに真っ向から張り合うなんて、楽園の王もかなりの強さである。
残っているのは全身全霊の水柱なのだが、キングさんはそれも互角だと読んでいた。
「プルゥッ!」
これに対抗できるかな、と言わんばかりの表情で一気に小さくなる。
体内の水分を凝縮させて小さくなったスリムキングさんだ。
「プルァ?」
小さくなって何の意味がある、と首を傾げる楽園の王。
「ッ! プルァアアア!」
だが小さくなった分だけ湖の水嵩が増えていないことに勘付くと、得体の知れない脅威を感じ取ったのか全身全霊の水柱を解き放った。
「うおおおおおおおおおおお⁉」
ディスペラの自爆みたいな感じで、瀑布の波動が押し寄せて来る。
キングさんはバックステップで俺とコレクトの前に来ると「プルァ」と一言呟いた。
ビビるな、と言っているようで、そのままグッと体を縮めるとバネのように勢いをつけて水柱に体当たりする。
ドボォッ!
「プル――⁉」
それだけですごい勢いだった水柱が掻き消えた。
何と表現すれば良いのだろうか、体当たりの衝撃によって、楽園の王が作り出した巨大な水柱が一気に散らされたのである。
過去に行われたこのスリムキングさんによる真っ向勝負の体当たりは、山頂の一角を崩壊させるほどの威力を持っていたのだから、さもありなん。
直撃は免れたものの衝撃によって転がされた楽園の王に向かって、キングさんは勝ち誇ったようにニヤリと表情を歪める。
「プルァ?」
「プ、プルァ……」
楽園の王は、そんな圧倒的な力を見せつけられても、なお立ち上がった。
自分の縄張りを破壊し尽くされたのだから、せめて一矢報いたいのだろう。
まさに王、その背中に男気のようなものを感じた時だった。
「ロイ……」
優しい声が聞こえた。
車輪のようなものを背負った小さな白いスライムが、湖の周りに茂る木々の中から現れる。
喋るスライム? なんだ、あれは?
いきなり登場した喋るスライムを呆然と見ていると、そのスライムはふわふわと宙を漂って楽園の王の側に寄り添った。
「このままでは勝てませんから、どうか私を……」
「プル? プルァッ!」
告げられた言葉を否定するように、声を上げて顔を顰める楽園の王。
それでも白いスライムは背負った車輪をグルグルと動かし薄くなって消えていく。
「さようなら、ロイ……私の愛したただ一人の王……」
「プルァ! プルァアアアアアアアアア!」
すごく感動的な場面なのかもしれないが、何が起こってるのか一切わからないぞ。
白いスライムが犠牲になったみたいで、ちょっとだけ罪悪感が芽生えた。
悲壮な雄叫びを上げる楽園の王を見ていると、何だか主人公っぽい雰囲気を感じる。完全に俺たちが敵役である。
いや、楽園を荒らしに来たわけなんだから完全に悪者なんだけどさ。
「どーすんだよこれ……」
「クェェ……」
コレクトも俺と同じようなことを感じていたようで、困ったように鳴いていた。
そんな俺たちを尻目に、キングさんはさらに猟奇的に表情を歪める。
「プルゥハ」
ほう、愛の力で強くなるのか面白い、と思ってそうだ。
バシュン!
「うひっ⁉」
キングさんの顔を見ながら呑気にそんなことを思っていると、水弾が足元をえぐった。
「プルァ」
読めと言っているようなので、水底に書かれた文字に目を向ける。
奴はスライムフォーチュンの力を使って進化した。
楽園を束ねていた王は、王族のさらに上に駆け上がる。
危険だ、少し後ろに下がっておけ。
「えっ! どういうこと⁉」
唐突に告げられた衝撃の事実に、頭が混乱する。あの白いスライムが魔物を進化させる力を持っていたのなら、楽園の王はとんでもない隠し球を持っていたもんだ。
「キングさんは大丈夫なのか?」
スライムキングのさらに上位種ともなれば、現スライムキングであるキングさんにもちょっと厳しいんじゃないだろうか。それを見越して、後ろに下がっておけと俺に忠告したのだろう。
不安そうな表情が出ていたのか、キングさんは返事もせずに水弾で再び文字を書く。
我を誰だと心得る。全ての生物の頂点に立つ王である。
さらに愛する者を失ってまで強くなることは、己の弱さを認めた証。
そんな愚か者に、我が負けるとでも……?
「うおおおお、無慈悲にかっこいい」
あの感動的な場面を愚かだとバッサリと切り捨てるキングさん。まあ確かに、結局失ってしまったら意味がないからね。それにしても己の弱さを認めた証、か……。
俺は常に弱さを認めてきた人生だったから、キングさんの言葉が突き刺さった。
「プルァアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
白いスライムは光の粒子となって完全に消え、それを目の当たりにした楽園の王ロイは涙を流しながら空へ咆哮する。
倒すならこの間にさっさと攻撃したら良いと思うのだが、キングさんはバトルジャンキーなので律儀に進化を待ってから戦うつもりなのだろう。
俺が出しゃばって倒しても、後でお叱りを受ける未来しか見えないので任せることにした。
「――ァァァァァァアアアアアアアアアアアッ‼」
白いスライムが残した光の粒子に包まれて、ロイの様子がおかしくなる。
全力の水柱を放ち一回り小さくなっていた体が、ボコボコと膨張した。
膨張に追いついていないのか、顔面がやや窮屈そう。これが魔物の進化か、何気に初めて見た。
ここからどうなるのだろう、と固唾を呑んで見ていると、次第に膨張のスピードは収まり、歪な形から元のスライムの状態へ戻ると背中にポンとマントが出現した。
「えっ、それだけ? ってどこから来たそのマント」
呆気ない様子に思わずそんな声が出る。
「……それだけだと? 私の最愛のフォルトゥナが、彼女の犠牲の結果がそれだけだと?」
「喋った⁉」
重々しい荘厳たる雰囲気の声。
周りに俺ら以外の人がいないので、声の持ち主は目の前のロイしかありえない。
「マジか」
進化した結果……背中にマントが生えて喋り出すなんて予想もできなかった。
「断じて、それだけではない」
「プルァ」
悲しそうな表情で呟くロイに、キングさんが何か言っていた。
「……実力がない自分を恨め、だと?」
悲しそうな表情から一転、ロイは鋭い眼光を向ける。
「――ふざけるなよ、敵対者」
ボンッととんでもない速さで飛び出したロイは、思いっきりキングさんを殴りつけた。
「プルッ⁉」
「キングさん⁉」
避けることもできずに、まともにくらってしまったキングさんは水飛沫をあげ、水切りで水面を跳ねる石のように湖の上をぶっ飛んでいく。
湖を越えて、森の遠くで激しい衝突音が鳴り響いていた。
「そ、そんなまさか、キングさんが……ぶっ飛ばされるなんて……」
「何を驚いている?」
慄く俺に、ロイが赤く豪華なマントをはためかせて言う。
「スライムロイヤルへと進化した私からすれば……あいつは少し強いだけの下等種だ」
「スライムロイヤル……?」
それがスライムキングから一段階進化した魔物の名前なのか。
見た目は背中にマントが生えただけなのに、こんなに強くなるだなんて聞いてない。
あっ、マントに気を取られていたけど、地味にちょび髭も生えている。
ちょっとロイヤルっぽいと思った。
……って、ふざけてる場合じゃないな。さっきの一撃は、キングさんが反応できないほどの速さだった。一段階進化したという強さは、伊達じゃない。
「しかし、進化先がロイヤルか……」
ロイは空を見上げながら独り言ちる。
「楽園の管理を他の者に任せていたツケが、今ここに回ってきたのだろうな……」
「進化って、色々と種類があるんですか?」
キングさんを一撃でぶっ飛ばして気が晴れたのか、少し理性的な雰囲気を感じた。
恨みに我を失っているわけではなさそうだったので、時間稼ぎも兼ねて対話を試みる。
「答える義理があると思うか? 敵対者の主よ」
「あっはい」
そりゃそうか……さて、ならばどうしようか。
キングさんを一撃でぶっ飛ばすレベルなんだから俺の手には負えない。一撃で死ぬことはないだろうけど、手酷い仕打ちを受けるのは確定だ。
作戦としては、斥力を用いてMPが続く限りロイから距離を取り続ける。
格上のディスペラも問題なく翻弄できたから何とかなるはずだ。
もう一つの案として、今すぐキングさんの等級アップを行う。
インベントリ内にあるスライムキングのサモンカードは百十八枚。
レジェンド等級には足りないが、ユニーク等級までなら上げることが可能である。
進化したロイに対応できる切り札になるかはわからないが、キングさんならきっと何とかしてくれるという希望があった。
「最後の言葉はないか? 敵対者の主よ」
「特には」
どこかのタイミングでコレクトからワシタカくんに交代しよう。
斥力で弾いて空へ離脱、これが最適解な気がしてきた。
水弾とか、水流ビームで対空攻撃をされたら厄介だが活路はそこしかない。
「ならば死ね――出てこい、王族諸君。我が妻の仇討ちの時間だ」
そう告げたロイの体からボボボボッと水弾が飛び散る。
彼の呼び声に応えるように、周辺に飛び散った水弾はむくむくと膨れ上がり、王冠を載せた巨大なスライムへと成長した。
「は……?」
普通のスライムキングから、毛深いスライムに紫色の毒々しいタイプ。
もちろん金銀白金色の王族もいて、今この場は王族オンリーの楽園のようだった。
「マ、マジか」
「クェェ……」
多種多様なスライムの王族たちが勢揃いで俺とコレクトを取り囲む。
迂闊に動けば一瞬で殺される、と自分の本能が告げている。囲って睨まれているだけで、今にも押し潰されそうなプレッシャーだった。キングさんを前にした魔物の気持ちがよくわかる。
どうすれば良い、斥力の対象は一人のみで、この数を相手にするのは無理だ。
すぐにワシタカくんに入れ替えようかと思ったのだけど、迂闊に動けない。
一発なら死なずに耐えられるので、その間に無理やり召喚すべきか?
いやいや、これだけの数に上空に向けて水弾を撃たれてみろ、蜂の巣だ。
えっとまず、何からすれば……うわヤバい、ちょっとこれヤバい、顔面の圧力えぐい。
キングさん助けて! どこまで飛ばされちゃったの!
「どれ、私がやろう」
上手く頭が回らずオロオロしていると、普通のスライムキングが一歩前に出た。
えっ、こいつも喋れるの?
上位個体だけかと思っていたのだが、いったいどういうことなのだろうか。
「スライムキングを従えているからこそ、私が殺さねばならない」
「ふむ、良いだろう。速やかに行え」
目の前で俺を見下ろす一体のスライムキングと仇討ちの許可を出すロイ。
これは一発もらってしまうことを覚悟しないといけないようだ。大丈夫、死ぬことはない。
邪竜の尻尾攻撃に比べたら、普通のスライムキングの攻撃はまだマシだ。
「これより断罪の一撃を加える。さらばだ――」
「くっ!」
たとえ一発耐えられるとしても、怖いものは怖いので目を瞑る。
すると遠くから聞き慣れた雄叫びが聞こえてきた。
「――プルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア‼」
この声は、この声は!
「キングさん!」
「ルァァァアアアアアアアアアアア!」
間一髪のタイミングで戻って来たキングさんは、俺の目の前にいたスライムキングを突進で弾き飛ばし、ついでとばかりに核を水弾でぶち抜き消滅させる。
「何ッ⁉ この王族、ロイヤルの一撃を受けて生きているだと⁉」
「狼狽えるな、諸君! 構えろ!」
呆気に取られる王族たちを鼓舞し、ロイはすぐさま飛び出してキングさんに殴り掛かった。
キングさんは身を捩ってプルンと躱しカウンターフックを打つが、そこへ次々と周りの王族が攻撃を浴びせていく。
まさに水弾の雨、いや全方向から機関銃を撃たれているような状態だった。
キングさんは、体を変形させて俺とコレクトを守るように包んで水弾を受ける。
「下等種よ、主人が死ねば貴様にも私の気持ちがわかるかもな?」
「プルァ……ッ!」
「言葉を返すぞ? 自らの弱さを恨め、傲慢なる下等種よ」
水弾の集中砲火に耐えるキングさんを見下しながら、ロイはさらに続ける。
「そして知れ、体ではなく心に刻まれた痛みを……な」
「プル……ゥ……」
水弾が止む頃には、キングさんの大きな体はかなり小さくなっていた。
ここまで削られ満身創痍になったキングさんを見たのは初めてだった。
「キ、キングさん」
「動くな、敵対者の主よ」
声を掛けようとしたが、ロイの鋭い眼光に睨まれて口をつぐむ。
呼吸すら止まりそうな威圧感に指一本動かせない。
「下等種よ、最後に言い残すことはあるか?」
「……プルァ」
「ふむ、この期に及んでまだ私が間違っているだと? 傲慢だな、見習いたいほどだ」
何を話しているのか、ロイの口元がニヤリと歪む。
「王族の権限を渡す。貴様の主にも伝わるように話してみろ。貴様の傲慢な考え方を」
ロイの体から生み出された水が、小さくなったキングさんの体に付着する。
すると、俺のすぐ隣からバリトン並みの低い声が響いた。
「……前提が間違っている。たわけが」
ほわっ⁉ キ、キングさんも喋った⁉
声色にたまげそうなのだが、空気を読んで心の中で叫んでおく。
ちなみに俺の肩に乗ったコレクトも口が開きっぱなしだ。
「前提だと?」
首を傾げるロイに、キングさんは告げる。
「愛したスライムを殺したのは、我ではなく貴様自身だ」
「……私の中に残っていた僅かな慈悲がたった今消えたぞ、貴様」
怒ってるからあんまり逆鱗に触れないで、キングさん!
そんな俺の思いとは裏腹にキングさんは言い放つ。
「大切な者がいるのならば、何故あの時その者が命を賭すのを見過ごしたのだ」
「それは貴様が」
キングさんはロイの言葉を遮って続ける。
「敵が強かったからか? ふん、話にならんな。それは怠慢だ。貴様が我を傲慢と蔑むのならば我はさらに上から蔑もう。命を賭して守ろうとしなかった貴様の……怠慢だ」
「貴様……ッ」
「失いたくないほど大切な者が存在するのならば、何故、己の命を賭して守り抜こうとしない? ふん、あの小さきスライムの方が貴様より遥かに気高い存在だったな」
キングさんの言葉を聞いて、ロイが殺気立つ。
思うところがあったのだろうか、目を血走らせて怒りを堪えているようだった。
「……フォルトゥナのことを貴様が語るな」
「我は賭すぞ、半端に諦めた貴様とは違う」
「黙れ!」
叫び声とともにキングさんの顔面に水弾が放たれた。
だがキングさんは一歩も引かずに受け止めて、さらに言い放つ。
「覚悟のない者の一撃は、至極軽いな」
「貴様! やれ、王族諸君! 消えてなくなるまで撃ち方をやめるな!」
ロイの合図に従って、他の王族が再び水弾の雨を降らせようとした時だ。
「――プルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
キングさんの特大の咆哮が全域に響き渡り、周りにいた王族たちを仰け反らせた。
同時にパリンと砕ける音がして、俺の指先までを縛っていた圧力が消える。
どうやらロイは鋭い眼光とともに動きを縛るスキルを使っていたらしい。
「我の覚悟は初めからできている」
体積を削られて小さくなった姿でも、キングさんは凛と立つ。
「我の主は軟弱故に、道を示さねばならんのだ」
自分より巨大な王族たちに囲まれながらも、中央で吼える。
「たとえ貴様が上位種であったとしても……我が勝つ」
さらに吼える。
「どんな状況だろうが諦めん、我が勝つ」
さらに、さらに吼える。
「それを傲慢だと言うのなら甘んじて受け入れよう! 我が勝てばそれが正しい在り方だからだ!」
誓うように叫んだキングさんは、そのまま近場にいたプラチナキングに飛び掛かった。
小さな体であろうとも、その機動力を活かして水弾を躱し殴りつける。
戦いは次の段階へ、泥沼の混戦状態へと発展した。
「な、なんだこの力は……本当にただのスライムキングか⁉」
「一発当てても構わず突っ込んで来るぞ、気をつけろ!」
「全員まとめて我が相手だ、プルァッ!」
「ぐはっ⁉」
無敵の特殊能力を存分に活かして蹴散らしていく。
「主よ! 雑魚とロイは我が抑える! 貴様は何とか生き残れ!」
「わ、わかった!」
キングさんの言葉にハッとしてやるべきことを思い出してスキルを使う。
「クイッ――ぐあっ⁉」
背中に強烈な衝撃を感じた。
振り返るとプラチナキングが肉薄しており、突進でHPを一割もっていかれる。
「ロイヤルめ、私は有無を言わさず殺しておく派だったんだ」
「それには私も同感だ」
「私も賛成だ」
ダメ押しとばかりに、シルバーキングとゴールドキングの硬いボディが体に突き刺さった。
「うごっ! ごへっ⁉」
「主よ! 今向かう!」
「おい、お前の相手はこのポイズンキングだ」
「ちっ! 雑魚が我の前に立つな!」
キングさんのカバーは、スライムポイズンキングに阻まれ、俺は為す術なく宙を舞う。
空中で次々に突進され、まるでホッケーみたいだった。超痛いけど、強烈な痛みのおかげで意識を保てたのは幸運である。キングさんの特殊能力である無敵発動中に眼下を隈なく見渡せた。
「う、うおおおおおお! キングさん、クイック!」
隙をついて支援スキルを使用し、次に図鑑を開きキングさんの等級アップを行った。
……成功!
これでキングさんの無敵の効果時間が少し延びたはずだ。それからコレクトをワシタカくんにチェンジして、インベントリから回復の秘薬と高級巨人の秘薬を取り出して使用した。
出し惜しみはしない、最初から全力だ。
キングさんの言葉を思い返す。言葉通りなら死ぬ気だ。
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だが、だが……!
絶対に、キングさんは生き返れなかったとしても命を賭して守ってくれるんだ。
今まで見てきたキングさんの背中がそれを物語っている。確信させてくれる。
強敵以外では呼ぶなという言葉の意味も、今なら何となくわかる気がした。
図鑑からいつでも見守ってくれていたんだ。
それにな、俺への絶対的な勝利の誓いと覚悟を聞かされて、主人である俺が何もせずに指を咥えているわけにはいかないんだ。
俺の中途半端で軟弱な気持ちを背負ってくれているキングさんに、年甲斐もなく期待に応えたいと強く思った。
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