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本編
950 奪ってくる奴は奪われるのが嫌い
しおりを挟む手足を奪われてしまった華子をグリフィーの背に乗せて、俺たちは徒歩で風上へと向かった。
絡み付くように攻撃を仕掛けてくる砂はまるで意志を持っているみたいである。
「盟主よ、追加で水はあるか?」
「ほいほい」
砂攻撃によって消耗していく水分は、魔力を消費して水を出す魔導機器で賄った。
魔力を込めると永遠に水が出てくるジョークグッズは、魔導キッチンの水道みたいなもんだ。
幸にして、魔力はたくさんあります。
回復する術をほぼ無限に持っているため、余裕なのだ。
「盟主よ、この砂塵が単純な動きで助かったな」
ロイ様のいう通り、俺たちを取り囲む砂塵はひたすら水のドームにへばりついてくる。
中央にいる華子にたどり着こうと、再び乾いた端から何度も何度も。
「もしこの砂で色々なものを奪えてたらやばかったかもね」
「うむ。そうであれば、最初の時点で死んでいるだろう」
砂塵が全てを奪う力を持つのなら、あの時点で俺たちは終わりだった。
そうではないからこそ、こうして無理やり前に進めている。
「耐久戦は得意だよ」
「だが今回は相手も奪うという術を持っている」
「そうだね。でも、やりようは絶対あるはずさ」
俺はインベントリへさっさと収納することでダンジョンのリソースを奪って来た。
さらにはドロップアイテムによって相手の予想を超える耐久力を見せる。
対するグリードとやらは、直接的に奪うという手法を用いてくるのだ。
だとしたらどうする?
戦場は深淵樹海故に、相手を削るという行為が通用しなくなる。
……もし単騎で来ているとしたら、頭良いかもしれない。
ノーガード戦法、いや無敵の人。
そんなニュアンスだろうか。
「盟主よ、具体的な戦い方は?」
「うーん、奪われなくするのが一番だけど」
「正攻法だが、ほぼ確実にそういう手合いとの戦い方は熟知していると見ていい」
「確かにね」
だったら奪われても良い戦い方をすべきなのだが、どうするべきか。
何かをぶん奪られることがわかっているのなら、あえて取りやすい場所におく。
で、引っかかった馬鹿な奴を一斉に叩く。
「……それでいっか!」
幸にして、相手が何やら欲しているような節を見せる餌がある。
「な、なんか……嫌な予感がしますぞ……」
華子に目を向けると、不安そうな表情をしていた。
「大丈夫大丈夫」
「絶対大丈夫じゃないですぞ。説明を求めるんですぞ!」
「この砂塵を起こした奴を見つけたら、餌としてわかる位置にお前を放置するだけ」
「いやですぞ! ただでさえ両手両足を持っていかれてしまったのに!」
「ダイジョブダイジョブ」
「全部なくなったらどうするんですぞ!!」
グロい断面図が見えないように布で覆い隠した華子の叫び。
全部なくなっても、それはそれで相手のやりたいことがわかるからいいんだが……それより。
「なんとなくだけど、死なないとは思うぞ?」
「なんでですぞ?」
「俺も欲深いからそうなんだが、貯め込む奴とか奪う奴って、逆に取られるのが嫌いなんだよね」
自分は平気で美味しいところを取りにいくんだけど。
逆をやられると無性に苛立つ性格をしているもんなのだ。
相手の得を自分の損だと錯覚してしまう。
「相手は強欲って二つ名なんだろ? 絶対取り戻しにくる。俺はそこを叩く」
「いや、私が餌な状況は何一つ変わってないですぞ」
「でもこうしてずーっと待ってるのも面倒だし、どっちも持久戦なら千日手になるし」
子供が産まれるから、深淵樹海で戦ってて10年経ってました、とか。
そんなことになってはいけないのだ。
「面倒ごとはさっさと終わらせるに限るね、やっぱり」
「シリアス万歳ですぞ! もっと私の体を慎重に扱うんですぞ!」
「まあまあ、とりあえずただ単純に餌にするわけじゃないから大丈夫だって、本当に」
「信じられないですぞ!」
「そこは記憶奪われた件で納得してくれ」
「……それを言われてしまうと何も言い返せないですぞ。私は餌ですぞ……」
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