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本編
943 道すがら
しおりを挟むある程度移動してから、ワシタカくんからグリフィーへと切り替えた。
コレクトに効率の良い案内をしてもらうために、思考をグリードに寄せていく。
どうやって戦うか、ってのが懸念点だ。
「奪う力、か」
強欲のダンジョンコアであるグリードは、奪う能力を保持している。
割となんでも奪えてしまうというのが、肝だ。
「ダンジョンコアにもなって、これ以上に何を求めるんだろうな?」
「アォン」
一緒にグリフィーの背に乗るポチは、首を傾げていた。
まあ、人それぞれなんだろう。
ダンジョンコアはこの世の上位存在であり、不老不死だ。
よくある勇者とか魔王とか、そんな世界観とは別の場所にいる。
何千年の時も生きてきて、あれが欲しいこれが欲しい。
もし俺が不老不死になったとして、そんな欲望が残っているのだろうか。
きっとこう思うだろうな——終わりたい、って。
「永遠にも近い命を持ちながらも、満たされることが無い……まるで拷問だ」
ジュノーが友達でいる今、俺にもその道は残されている。
断崖凍土のラブのような立ち位置だ。
しかし、彼女には悪いが俺は永遠の命なんて必要ない。
こういうもんは受け継がれていくべきだろう。
託されていくべきだろう。
俺の子供や孫たちが、これからもずっと変わらずにいるジュノーと変わらない関係性でいて欲しい。
そう願うばかりだった。
「クエッ」
「ごめんごめん」
コレクトに別のことを考えるな、と言われてしまったので思考を戻す。
強欲に勝つ方法はなんだろうか?
ねーな、ないない。
ダンジョンコアに勝てるヴィジョンが一切思い浮かばなかった。
リソースを消耗させる作戦も本気を出したダンジョンコアにどこまで通用するか。
ただただはた迷惑な野郎なだけで、マジで敵に回すとあっさり殺されるだろう。
下手に長引かせても、強欲という能力上……あまり良くは無い。
思考を切り替えよう。
そもそも、ダンジョンコアに勝つ気でいるってのが少し間違っているんだ。
勝たなくて良い、撤退させれば良い。
無益な戦闘が起こり得ない状況に持っていくのが席の山なんだ。
だとすれば、交渉。
満たされない強欲を満たしてやるしかないとみた。
「ま、どうやって満たせば良いのか知らんけどな」
「アォン……」
のほほんとする俺の口ぶりに、ポチは溜息を吐いていた。
仕方ない。
現代社会ですらこの欲望を完全に満たせた人間なんていないんだ。
対症療法として色んなことに目を向けて満足していくしか無い。
不治の病と同じである。
「ォン?」
「料理でなんとかなったりしないのかって? わからん」
戦って、聞いてみない限りは何もわからない。
全てを欲すのが強欲だ。
富も、名声も、力も、何もかも。
全部欲しいから強欲と呼ばれるのである。
逆になんでも欲しいって感じだった可能なところから満たしてやんぜ。
って感じなんだけどね?
それで済めば良いけど、結局すまないだろうなってのが本音。
幸にして、ここはギリスから遠く離れた深淵樹海。
役者も全部揃っているような状況で、ギリスに魔の手が向くことはないだろう。
「クエッ!」
近くに感じる、と言わんばかりにコレクトが鳴く。
そろそろか。
「何かあったらすぐにキングさんを出すぞ、全力だ」
「アォン!」
「クエッ!」
「グルルッ!」
マップで位置を確認すると、深淵樹海北東部。
鬱蒼とした森に荒れ果てた形跡はなし。
南では総動員して戦っているが、北はまだ戦闘が行われてはいないようだ。
「なんとか間に合ったな」
さて、気を引き締めて辺りに目を向けていると、
「だ、誰か~助けて欲しいんですぞ~、ふえぇ~」
女性の声が聞こえた。
「ん……?」
「誰か、そこにおられるんですぞ~? 人であれば、返事をして欲しいんですぞ~?」
身構えていると、ガサガサと茂みが揺れて、まず大きな胸がドンッと出現した。
それから何かにつっかえるように身を悶えさせ、スポンと全身が現れる。
「っぷは! ここの茂みは通りずらいですぞ!」
「……」
「ややっ! 旅の人ですぞ! 助かりましたぞ~!」
我が目を疑い固まる俺たちに、いきなり出てきた女性は言った。
「私は華子・ベアトリクス・ビスマルコ! 道を知っているのであれば、教えて欲しいですぞ~!」
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