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本編

922 アォンアォンアォーン!ふんす!

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「え、どうしたのポチ?」

「アォン」

「え、揚げバターよりももっと高カロリーな料理を知ってるって?」

「ォン」

「それで半巨人族の方々を救って見せるって?」

「ン」

 適当にそんなことを言ってるんだろうなと質問してみたら、全て肯定で帰ってきた。
 さすがは伝説の料理人の一番弟子である。

「アォーン」

「ロイ様」

「ジュノーがいないからと私を通訳代わりに呼び出すのはいただけないぞ、盟主よ」

 ごめんごめん、しかし俺は何となく理解できても他がわからなければ意味がない。
 俺にもわかりやすく、そして周りにもわかりやすくするためには仕方がないのだ。

「そこにいるウィンスト氏ならばわかるだろうに」

「あっ」

 そうだった。
 確かにウィンストならば、人の言葉じゃなくても理解できる。
 むしろ全ての語源を理解して、かつ論理的に通訳してくれそうだった。

「では、愛妻とのディナー中なのでな。盟主も早くこなして妻のもとへ帰った方がいいぞ」

 と、ロイ様は勝手に戻っていってしまった。
 いつからだろう、サモンモンスが勝手に戻ってしまう様になったのは。
 そんなことを思いながらウィンストを交えて会話を続ける。

「アォン」

「なるほど、毎日食べている揚げバターの量から必要なカロリーを計算すると」

「ォン」

「毎日毎日揚げバターを食べていても飽きがする。暴走の原因は、そういった飽きからついつい量を減らしてしまって、その結果カロリー不足につながっているかもしれない、と」

「ォーン」

「高カロリー料理をバラエティ豊かにすることによって、毎日飽きずに高カロリーを摂取できる様になれば、生活の質もさらによくなっていくという好循環が生まれるのではないか、と」

「わふん!」

 ウィンストの完璧な通訳に、ふんすと鼻を鳴らすポチだった。
 良いね、幸せの形の一つだ。

 特に趣味がなくても、人間の三大欲求の質が良くなればそれだけ人は幸せになれる。
 無趣味の人は、食い物の質を上げることが特におすすめだぞ。
 あと睡眠の質もね。

「アォン」

「ここは深淵樹海の近くでもあるから、高カロリースイーツの材料は事欠かない、と」

 あ、そうか。

「チョコが近くにあるのか」

「わふっ」

 チョコが直接出てきてしまうという摩訶不思議なカカオが隣接する大迷宮には存在する。
 すでに繋がりができてしまっているので、そっちから持ってくれば良いんだ。
 チョコの生産って、確かすでに始まっててテイスティ侯爵領から各国に出されていたはず。

 デリカシ辺境伯領が酒と珍味ならば、今のテイスティ侯爵領はスイーツの地。
 高カロリーな物が大量にあるはずだ。

「アォン」

「それに追加して、牛乳を使った新たなシロップを伝授してもらってきた、と」

「……パインのおっさんに?」

 またこいつは、いつのまに。

「アォン」

「その牛乳を用いたシロップは、アイテムボックスがなくとも保存が効いて旅のお供に最適な栄養食、と」

 ……なんか聞いたことあるぞ。
 練乳だろ、それ。
 コンデンスミルクだろ、それ。

 確かあれ、牛乳に砂糖を加えたすっげぇ甘いどろっとした液体だよな。
 ネットでふらっと製作過程の工場見学動画をみたけど。
 その時、本来は甘みをつけるためじゃなくて最近の繁殖を防いで保存性を高めるために砂糖を入れるって言われていた。

「アォーン!」

「その名も、まさに錬金術で造られたかの如き牛乳……すなわち——」

「——練乳だろ」

 読んで時の如くじゃねえか。
 パインのおっさんがつけるネーミングセンスって、なんか俺の元いた世界のものと似ている。
 絶対それしかなかった。

「……素晴らしいな、トウジ。私の思考を先読みするとは」

「い、いやあ」

 別にそう言うわけじゃないのだが……。

「ォンォンォンォン! グルルルルル!」

 俺に先に名前を当てられてしまったポチは、半ギレしながら俺の脹脛をぽかぽか殴っていた。

「怒るなってそんなに」

「アォン!」

 ポチが言うには、練乳は薄めて飲んでもおいしいとのこと。
 コーヒーや紅茶に少しばかり混ぜてもいけるので、半巨人族以外でも楽しめるそうだ。

「そうだ、ならコーヒー牛乳作ろうぜ」

 揚げバター、コーヒー牛乳。
 朝からこの二つを食ったら、普通の人ならば胸焼けするだろう。
 しかし、半巨人族ならば問題ない。
 むしろ半巨人族ですら糖尿病になりかねない、そんな代物を作ろうではないか。

「アォーン!」

「まだまだアイデアがあるそうだぞ」

「ほうほう、なんだねポチ君言ってごらんよ」

「ォーン!」

「せっかく深海調査に行くのなら、そこでアブラウオが獲れるのかも確かめようとのことだ」

「ア、アブラウオ……?」

「ォン」

「全身が上質な脂でできた最高に美味しいけど常人は3切れ以上食べてはいけない魚だそうだ」

 ……なんかどっかで聞いたことがある。
 バラムツだっけな。

「ォン……」

 ポチはゾッとした様な表情でさらに続ける。

「自分の師匠であるパイン氏は、アブラウオを食べて数日間、消化できなかった脂が全身の毛穴という毛穴から止まらなかったそうだ……」

 それを真似するかの如く、ウィンストもゾッとした様な表情で完璧に通訳していた。
 そこは真似しなくて良いぞ、ウィンスト。

「全身の毛穴から脂ってとんでもない状況ですね」

「美容には良さそうだから、獲ってきたらエリナ食べてみなよ」

「なんでですか! 嫌ですよ! 脂っこいものはそんなに得意じゃないんです!」

 さて、とりあえず新たな目的もできてしまったな。
 3切れくらいなら大丈夫というそのアブラウオ、食べてみたい。

 そんでもって、ここに滞在する間は半巨人族の栄養事情の改善に努めよう。
 面倒臭くはないよ、だってポチがこんなにやる気を出してるんだからね。

「高カロリーフルコース、いっちょ作ってみるか!」

「アォーン!」









=====
ギリス首都

ジュノー「なんかパンケーキにかけたら絶対おいしい奴の話してる気がするし! 今、トウジとポチが!」
イグニール「なによ急にどうしたのよ」
ジュノー「ふんぬー! みんなを守るためにこっちに残ったけど、やっぱりいけばよかったしー!」
イグニール「何を慌てているのかわからないけど、さっきパインさんがジュノーの様子を見にきたわよ」
ジュノー「なんだし!? パインが何持ってきたし!? まさか新しい甘い奴だし!?」
イグニール「練乳だってさ。フルーツにかけるだけでも最強に美味しくなるそうよ」
ジュノー「パイーン! 今日の分のパンケーキも焼いていくし!`」
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