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本編
893 空竜vs巨獣騎兵
しおりを挟む「――グルァァアアアアアアアアアアアアア!!!」
「――だっしゃおらあああああああああああ!!!」
ペナルティによる反作用で24時間。
俺とグリフィーは巨人の秘薬を超越した巨神へと至る。
俺が17メートルくらいで、グリフィーが30メートルくらい。
「なっ……!?」
「ギャウ……!?」
俺とグリフィーの急激な変化に、スカイドラゴンのソラタロと偽物アルストは大口を開けていた。
ペナルティ系をあんまり使いたくはないのだけど、いた仕方ないと割り切る。
高級巨人の秘薬を使用した30秒じゃ、こいつらの相手をするにはまだ足りないと思った。
大きさだって、ここまでやってギリギリ上回ったくらいである。
戦うスキルも魔法スキルも何もない俺にできることと言えば、これだけだった。
単純に大きさで勝り押し込む。
あんまりキングさん頼りになるのも良くないだろうし、切り札は最後にとっておくべきなのさ。
俺という前座で相手が引けば、それで十分なのである。
「グリフィー!」
「グルァッ!」
俺の得物はいつも片手に持っている丸い盾と、今回は剣ではなく槍だ。
槍なんか使ったことないけど、威圧感を前面に押し出していこう。
装備も首から攻撃力のみを大幅に強化したネックレスを大量に追加で身につけておく。
「んだぁ? 光物なんかジャラジャラつけて、威圧してんのかよ?」
「そうだぞ」
威圧というワードは合っているので、肯定しておいた。
これに王冠でも付ければ、なんか神話の世界に出てくる戦神感満載。
まあ、アクセサリーに関しては威圧以外の目的が重要なんだけどな!
とにかく攻撃力を積みに積みまくり、矛先数センチでも擦れば良い。
掠めただけでHPをかなり持っていかれれば、こいつも迂闊に攻撃できなくなる。
防御が多少心配だが、常に回復し続ければ死なないから問題ない。
「でかくなったからって、それで勝てるとでも思ってんのかよ?」
「お前が本物なら勝てないかもな」
「……つまり偽物なら勝てるって言ってんのか?」
そこまでは言ってない。
だが、本物ならばたとえ俺が巨大化したところで問題なく倒せるだろう。
俺は、過去に一度だけウィンストに勝った。
怨嗟に支配されネクロマンサーになってしまったウィンストに。
でもなあ、どっちかと言えば勝ったのはウィンストの方かもしれない。
自分自身の過去にけじめをつけようと踏みとどまった彼の勝ち。
俺はその手助けをしたに過ぎないんだ。
今さらウィンストと真面目に戦えと言われたら多分負けると思うほど強いぞ。
多少不器用な部分を持ち合わせているが、あいつはそれだけ強いんだ。
レベルとかステータスとか、そんな部分で計ることはできない。
芯の部分で、俺はウィンストを認めている。
「だからかな……」
親友として。
目の前にいる偽物の存在が無性にイラついてきた。
「お前、誰に断ってその名前使ってんだ」
「ああ? 断るも何もねぇだろ」
我が物顔で、俺が小賢だと言っていたが……違う。
その名は、あいつが自分を誇示するために名乗ったものではない。
断じてない。
生き様が形となり、自然とそう呼ばれるようになった。
いわゆる、あいつ自身の歴史みたいなものだ。
「お前みたいな何も知らない奴が、気安く自称していいもんじゃない」
どれだけ……。
どれだけ辛い思いをして……。
あいつは、その過去にけじめをつけたと思ってんだ。
槍を構える。
矛先を真っ直ぐ敵に向けて、強く握りしめた。
「まあいい、過去を知ってる奴はどの道全員潰す予定なんだぜ」
それを皮切りに、アルストも竜と共に臨戦態勢へと移る。
来い、偽物。
新しい小賢になる、とか。
そんな意気込みだったらまだ救えたかもしれん。
だが、小賢しく偽るその姿勢は許せない。
「ソラタロ! 一撃に注意しろ! 当たらなければなんの問題も——」
竜が羽ばたき、アルストと共に風を纏った瞬間。
鋭い弾丸が風の皮膜を突き破り、アルストの胸を貫いた。
「——ぐはっ!?」
弾丸の来た方向を見ると、浮遊結晶でゆっくり降下するエリナに抱かれたポチがライフルを構えていた。
「ポチ!」
「アォン!」
そうか、そんな偽物早く倒してしまえって言ってんるんだな。
ポチも目の前の偽物にイラついていたみたいだった。
「わかってるよ! グリフィー!」
「グルァッ!」
相手が動揺したこの隙に、グリフィーが羽ばたいて一気に俺を前に運ぶ。
固く握り締めた矛先は、真っ直ぐ竜の胸元を貫いた。
「ギ、ギャオ……ッ」
「ソ、ソラタロ!?」
力を失って落ちていく竜とアルスト。
殺しはしない。
どうせこれも、どこぞの悪意に満ち溢れた奴が仕組んだことだろうに。
背後で含み笑いを浮かべるクソ野郎のことを考えながら、俺は告げた。
「そもそも、小賢ってのはもういないんだ。もう終わった名前なんだよ」
「う、ぐ……何が……?」
勇者によって、小賢の物語は一度幕を閉じた。
新たに始まったのは、俺の親友となった一人のゴブリンの物語だ。
「二度と騙るなよ」
そんでもって、二度と語らせない。
ウィンストが俺との約束を守り続けてくれる限り、俺だってあいつを守る。
余計な過去のしがらみは、俺が全部背負ってやるって決めてんだからな。
「……はあ、槍が通用してよかった」
アルストたちが深い樹海の中に飲み込まれたのを確認して一息つく。
通用したと言っても、かなりのダメージを与えたのみ。
今の俺の攻撃力だけだと、積みまくっても一撃で葬り去ることはできないようだ。
「バレたかな、これ……」
弱体化バレだけは、できるだけしたくなかったんだけど致し方ない。
さっさとやること終わらせて、元のレベルまで戻さなければ……。
「アォン」
「ト、トトト、トウジさん! な、なんなんですかそれ! それえ!」
浮遊結晶でふわふわしていたポチとエリナをグリフィーの頭に乗せる。
騒がれるかなとは思っていたが、案の定興奮しながらエリナは俺の体をよじ登ってきた。
戦いの最中に騒がなかっただけマシだと思っておく。
「ごはんいっぱいたべてちからをいれるとこうなるたいしつなんです」
「えっ!? そうなんですか!?」
嘘に決まってるんだけど……。
説明が面倒なので、そういうことにしておく。
「一度こうなってしまうと、24時間このままなので暫しお待ちを……」
今の状態で空を飛んで移動すると、面倒ごとになる予感がプンプンしていた。
ワシタカくんはほら、一応ギルドに周知されてる従魔だからね?
情報がギルドに入っても大ごとにはならない。
巨大なグリフォンに乗った巨人、これはさすがに不味いだろう?
「でも、服も一緒に大きくなってしまうのはなんでですかね?」
「ぎく」
意外と鋭いエリナだった。
しかしながら、俺もどうしてこんなに大きくなれるのかはわからない。
わからないけど、実際にこうして大きくなれるんだから良いじゃない。
飛行機だって、飛ぶ理屈が完全に解明されてない。
それでも飛ぶべくして飛んでるんだから、ね!
「アォン」
俺の肩まで登ってきたポチが、耳元で何かを言う。
「なになに、さっきのスカイドラゴン、ウィンストの部屋にあった別の竜の匂いと同じだったって?」
「アォーン」
「……しまった。もっとウィンストのことについて聞いておけばよかった」
しかしだなあ。
こんな偽物相手に、遅れを取るような奴じゃないだろう。
どこへ行ってしまったんだ、ウィンスト。
部屋に住んでいた痕跡も綺麗さっぱり消されていたみたいだったし、ますます謎めいてきた。
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