装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

889 ほのかなかほり

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「え、最近姿を見せない? 本当ですか?」

「ああ、たまには来てくれてたんですけど……」

 場面は変わって、牛丼屋。
 パインのおっさんの息子であるメッシにウィンストのことを尋ねているところだった。

「ここ数ヶ月は顔も見せてないですよ」

「そうですか……」

 メッシが言うには、どれだけ間を開けたとしても、必ず月に一度は顔を見せていたらしい。
 ギリスに滞在していた時も、彼は俺との約束をしっかり守ってくれていたようだった。

「うちの子も彼とチビにはよく懐いていたんですけどね……」

「少し心配ですね」

 そんな律儀な奴が、数ヶ月も顔を見せない。
 これは問題だった。

「メッシさん、何か伝言などはもらってないんですか?」

「あったらお話ししてますよ」

 首を横にふるメッシ。
 それもそうか。

「ちょっと彼の家に足を運んでみます。どうもごちそうさまでした」

「あの、何かわかったら僕にも教えてもらえますか? お世話になったのに、何もお返しができてないもので」

「わかりました」

 まるで家族を心配するようなメッシの表情だった。
 その顔を見て、俺は少しだけ安心した。

 ……なんだ。
 しっかりやり直せてるじゃないか、ウィンスト。

 彼の心の傷は、長い時間を経ても癒えることはないだろう。
 今でも割り切って、暮らしているのだと思う。

 そんな彼には、隣にチビ以外にも気を許せる人がいること。
 それが一番大切なことだ。

 俺の側に、みんながいてくれたように、な……。







「……何にもないですねえ」

「……そうだな」

 以前、ウィンストが住んでいたアパートへと赴いた。
 もぬけの殻。

 家財一つない状況は、なんとなく異質なものがあった。
 生活感があれば、まだ希望的観測ができたってのに。
 床に積もったホコリが、あいつがこの部屋を引き払ってしばらく経っていることを物語っていた。

「いよいよ心配になってきたな」

「アォン……」

 俺の呟きにポチが頷く。

「約束したことはきちんと守るタイプのお堅いやつだよな?」

「ォン」

 そんな奴がなんの連絡もなしに姿を消すとは思えない。
 しばらく留守にするから宿を引き払うっていう路線もある。
 そうなれば、メッシ当たりに連絡が行くはずだ。
 もしくは、俺宛に何か書き置きだったり手紙を残していくはず。

「アォン……?」

 何もない部屋を見ながら、そんなことを考えているとポチが何かに気付いた。
 鼻をクンクンとさせて、寝室の方へと進んでいく。

「どうした?」

「ォン!」

 嗅いだことのある匂いを感じたそうだ。
 ウィンストのパートナーであるチビのおしっこの匂い。
 竜のもんだから、日がたったあとでもしっかり残っているらしい。

「アォン!! アォン!!」

「え? なんだって?」

 なんとなく思考を読み取ることはできるが、詳しくはわからん。
 ジュノーを連れてきておけばよかったか……。
 こんな時、辛気臭い空気をなんとかしてくれる師匠のありがたさ。

「アォン……」

《微かに違うドラゴンの匂いもある。上書きされてる》

 伝わりやすいようにさっさとメモに書いてくれるポチ。
 部屋の隅には、チビ以外のドラゴンの匂いも存在しているそうだ。

「……えっと、つまり?」

《戦った形跡》

「え、なんで?」

《コボルトも縄張り争いに勝利したら、マーキングする修正がある》

「あ、そうなんだ……って、まさかポチ、お前も部屋中にマーキングしてたりしないだろうな?」

「アォン……」

 なんでそうなるんだ、って呆れた顔をされてしまった。
 サモンモンスターであるポチは、そんなものしないらしい。
 そう言えば俺も今まで見たことない。
 食ったものは全部エネルギーに変わってしまうってところか?
 不思議だなー。

「しかし、さすがにドラゴンもコボルトと一緒なわけないだろー」

「アォン」

《なんにせよ、別の竜種がいた形跡は、何かがあったに違いない》

 それもそうか。
 さすがは名探偵ポチ。

 ウィンストといえば、なんだかんだ他のダンジョン勢に絡まれていた節がある。
 以前、この家で襲われたこともあるのだし、何かがあったのはこれで確定的だ。

「あのー、トウジさん?」

「ん?」

「これからどうするんです? 案内人の方もいないようですけど」

「探すよ。あいつがいないと始まらないしな」

「え、でも……わかったことって別のドラゴンがいたっていう物騒な情報だけですよね?」

 どうやって探すんですか、と言いたいようだが、簡単な話だ。
 探し物にとことん強い奴がいるからな。
 ここからいろんな痕跡を探して後を追うなんて名探偵ごっこはしない。

「コレクト」

「クエーッ!」

 コレクトがいれば、魔物の体内にでもいない限りは探し出せる。
 ここに来たのは、何があったのかの調べるためである。
 幸いにも、何かがあったことは確認できた。
 情報は少ないが、竜種を相手にするだけの準備を整えておくことは可能。

「よし行くか」

「え、コレクションピークを出してどうするんですか? え? え?」

「説明めんどくさいな……コレクトは探し物が得意! 以上」

「ええー! ちょっと待ってください、色々とついていけないんですけどいつもこうなんですか?」

「うん」

 だいたいこう。
 見つからなかったとしても、ポチの覚えた匂いを俺もほのかに感じて。
 この匂いの主のことを考え続ければコレクトがほのかに気配を察知する。
 そんな寸法だ!

 まったくウィンストめ。
 約束はしっかり守ってもらうぞ。






=====
遅れて申し訳ないです。
頑張ります。
最後まで書き貫くゾ。
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