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本編
879 ご報告。
しおりを挟む「実に美味であーる! 褒美に天界神塔フルセットを進呈するである」
「いらねぇ」
天界神塔の上層に位置する来客用の大広間。
飛空船がない今、この世界で最も高い場所。
夜景を見ながらの豪華絢爛フルコースは、素晴らしかった。
馬鹿と煙はなんとやらと言うが……。
むしろ登山家の気持ちが少しわかる気がしないでもない。
「んほぉぉぉおおお~! バニラアイスなんじゃ~!」
「これを待ってたんだし! 来た甲斐あったんだし!」
ポチは運んで来た食後のデザートを前に、テンションをあげるチビ二人。
「あいつ、バニラに飢えてたもんなあ」
「念願叶ってよかったわね」
「なんだかんだ、あると甘味がとびきり美味しくなるもんやしなあ?」
その様子を見ながら呟くと、両サイドに座るイグニールとマイヤーが反応する。
俺もバニラアイスを食べようと思ったが、ここはジュノーに譲ってやることに。
「俺のもやるよ、ジュノー」
「いいの!? トウジにしては珍しいじゃん!」
「どういう言い草だ、それ」
まったく……まあ、今の俺の人生は両サイドに目を向ければわかる。
十分甘いぞ。
これ以上甘さを求めてしまったら、あとで苦い思いをするかもしれない。
ここでバランスを取っておかないとね。
「そうだ、トウジ。大事な話があるんだけど」
「うん」
大事な話がある、とは聞いていた。
まさかイグニールからだったとは。
ゴクリ、と唾を飲み込んで大事な話とやらに耳を傾ける。
隣にいるマイヤーも何も聞いてないのか。
俺と同じような顔をしてイグニールの顔を覗き込んでいた。
「あのね、私」
「ちょっと待って、一旦気持ちの整理させて」
「……はあ?」
なんか怖いよ、大事な話とか言われても!
これが甘い話でいいように。
俺はブラックコーヒーをインベントリから出してがぶ飲みする。
「何飲んでん、トウジ」
「願掛け」
「ちょっと、それ見方によっちゃ失礼よ?」
不満げなイグニールの表情。
選択を間違ったか。
だったら糖分追加だ、
はちみつ砂糖全部入れのコーヒーを飲んでブラックを帳消し。
「胸焼けするんちゃう……?」
「さっきからどうしたの……」
「よ、よし……どんとこい!」
世の中バランスだ。
装備の強化だってバランスよくやらないといけないもんだ。
良いことばかりが人生ではない、悪いことだってある。
そんな時のために、構えておくことが何よりも重要なのだ。
「……はあ、もう。どのタイミングで言おうか悩んでたのが馬鹿らしくなって来た」
「ごめんって。で、なになに?」
「子供ができたのよ」
「子供かあ……」
全くもって想像していたようなこととは違ったので安堵する。
と、同時に。
「えっ!! 子供!?」
ワンテンポ遅れて俺は思わず立ち上がるほど驚いていた。
倒れそうになった椅子をマイヤーが支えてくれる。
「わあ! おめでたやんイグ姉! おめでとうやぁ!」
「ありがとうマイヤー。次はあなたの番よ」
「う、うち!? ……い、いやあ、なんか想像があんまり……」
顔を赤くするマイヤーをからかうイグニール。
そんな二人の様子を見ながら思ったのだが。
「早くね……? まだ、普通わからなくね……?」
「あなたが想像しているようなことは絶対にない」
「その通りだ。普通の人間ならば、発覚するのはもっと後になるだろう」
ぬっと会話に混ざったヒューリーが言う。
「しかし、私やアローガンスならば小さな魔力の存在を感じ取ることができる」
「そうなんですね」
どうやら、俺がぶっ飛ばされた後に発覚したことらしい。
それで、大事をとってイグニールはエルフの里に来れなかったそうだ。
「存在を認識されたからか、日ごとに力を増している」
「これはなかなか見所のある子が生まれてくるであーる」
ダンジョンコアに認められる。
とんでもない将来性を秘めた子供らしい。
「ハ、ハハ……」
本当に、俺の子か。
そう実感すると、なんだか力が抜けてしまった。
少し不安だったけども、案外すぐだった。
「そっか、俺の子か……」
「嬉しい?」
「当たり前だよ。まさか、こんな」
前の世界にいた時は、夢にも思わなかった。
この世界に来てからも、こうなるとは思わなかった。
そう考えると……。
孫の顔を見せてやれないのは少し残念だ。
致し方ない、その辺は受け止めよう。
「それで、ちょっと申し訳ないんだけど」
「うん」
「実はこの話を聞いてから魔力が安定しなくなっちゃって……」
強い魔力を持つ者が懐妊すると、魔力が安定しなくなる。
そんな話があるらしい。
「一緒に冒険とかいけなくなるわね……」
「問題ない。むしろ、絶対安静だ」
何かあってからでは遅い。
「稼ぐのはうちとトウジに任しとき?」
「うん」
まあ、小金稼ぎ用の薬草はたんまりある。
さらに、アルバートを経由して俺の装備をもっと売ってもいい。
絶対に不自由しない、そのくらいの金はあるはずだ。
「それよりも、この世界の医療技術だ」
出生時の安全性はどうなっているんだ?
魔力とかわけわからん不思議な存在がある。
それに引っ張られて予期せぬ結果があるかもしれない。
20年以上前のマイヤーが生まれる時もそうだったんだ。
「くそ、色々と準備しなきゃいけないぞ、これ!」
「あの、ちょっとそんなに大げさに」
「絶対に死なない装備を作るから任せてくれ!」
それだけが俺の取り柄なんだからね。
赤ちゃん用の装備だって必要になるんじゃないか。
絶対に死なない安全装備。
こればっかりは妥協は許されない、必要だ。
=====
そして暴走するトウジは新たな装備を作り出した。
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