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本編
874 魂の約束・結末
しおりを挟む足りるか、足りないなら……全部だ。
俺の持ってるもの全部くれてやるよ。
「くっ」
身体中から力が抜けて行く感覚。
全ての装備が効力を発揮しなくなった証拠。
「構うもんか」
全てを出し切ったのか、とキングさんは俺に問いかけた。
ある意味、これを予期してのことだったのだろう。
言葉通り、俺は自分の持てる力を全て出し切った。
「プルァ、正念場だぞ」
そう言い残して、キングさんはパッと消滅する。
ステータスを確認すると、レベル1だった。
ジュニアも消えたことによって、ダンジョンも消失。
避難させられていたエルフたちが、地上に吐き出される。
あれだけ俺に敵意を向けていたと言うのに。
出てきたエルフたちの表情は、百八十度変わっていた。
「頼む、救ってあげて欲しい!」
「少年の力を通して、全て見ていた!」
「頑張ってくれ、トウジ殿!」
「トウジさん、まさかあなたが正しかったなんて!」
なるほどな、見せられていたのか。
ジュニアも抜け目がない。
さすがは、俺の影響が強く現れたタイプだ。
「聞こえてるか、見えてるか、メイヤ」
ビシャスに用意された、この舞台。
決まっていたかの様に、救える者はただ一人だけだった。
メイヤの犠牲は確定。
いや、初めから頭数にすら入れられていなかったようにも思える。
俺には、それがどうしようもなく許せない。
だから助けるんだ。
不幸な結末は、誰も望んじゃいない。
仕方なかったで終わらせたくはない。
「これで──」
レベル1状態の素のステータス。
屁のツッパリみたいなもんだけど、それも全て君に渡すよ。
レベル、HP、MP、各種ステータス、全部1。
逆にこれほどまでに弱い人は存在するのかってくらいだ。
「──全部だ!」
もう自分の体重すら、支えきれなくなった。
倒れて体を打ち付けただけでも、多分死ぬ。
でも、思い残すことはない。
俺はやりきった、後はメイヤを信じるだけだ。
「信じて、る……ぞ」
そうしてなけなしのもんも全てぶち込んだ時。
彼女の魂に変化が訪れる。
力を失って倒れる俺の腕を真っ白な手が掴んだ。
優しく引き寄せ、体を抱き締めた。
“……暖かい”
「手、しっかり握れてたみたいだな……」
“うん。トウジ、少しゆっくりしてて”
鮮明さを持ち、元の姿とは少し違う。
真っ白な姿となったメイヤは、ふわっと空を舞ってエルフたちの元へ向かった。
“乱暴に扱ったらだめ、死んじゃうから”
神々しい様子に、言葉を失い頷くエルフたち。
まだ意識を失ったままのマイヤーの隣に、俺はそっと寝かされる。
“ん”
俺とマイヤーの手をしっかり繋がせたメイヤは、満足そうに頷き再び浮かんだ。
彼女の視線の先には、微動だにしなくなった死の精霊。
“あれは、ここに存在して良いものじゃない……よね?”
確認する様にそれだけ言って、メイヤは死の精霊へと飛び込んだ。
「なに、を」
するつもりだ、と言おうとしたところで、エルフたちに止められる。
「安静にしてくれ! 今、すぐに治療できる者を呼ぶから!」
「ま、まって」
存在して良いものじゃない、なんて言葉。
そんな言葉やめて欲しかった。
まるで、自分ごとあの魔力を消そうとしてるみたいじゃないか。
震える手を伸ばす。
やめろ、やめてくれ、と心だけではすがりつくのだが……。
“大丈夫”
それだけ言って、メイヤの姿はかき消えた。
同時に、目の前にそびえ立っていた死の精霊の膨大な魔力も霧散する。
「ぁ、お、おい……! おい! このバカ!」
体を起こす。
「動かないでくれ!」
「こんなときどうやって押さえつけたら……あ、そんなに力を加えなくてもいけるぞ!」
「やめてくれ! 放してくれ! 俺は平気だから!」
どういうことだ。
メイヤの力が、完全に死の精霊の力を上回った。
だからこうして実体化しているんじゃないのか。
“安心して欲しい”
声は聞こえる、だが、メイヤの姿は見えない。
「どこだ! どこにいるんだ!」
“私の存在は、今のままではマイヤーにとって良くない”
「人と話す時はちゃんと顔を見ながら話すべきだろ!」
だから、出てこいよ。
頼むから、出てきてくれ。
“だから、還す約束をした”
「約束……?」
“そこで、先に会わなきゃいけない人がいる”
「だから、さっきから何を言ってんだよ」
会う会わない、そんなことよりも先に俺と会え。
このまま二度と姿を現さないだなんて……。
「頑張った俺を労う気持ちもないのか……なあ……」
俯いていると、不思議な力が働いて、前を向かされた。
“きっとまた会える”
正面から、すぐ近くから、そんな言葉。
同時に、口元に暖かい感触を感じた。
“今の私には必要ないから、残りは返す”
なけなしのステータスが元に戻っている。
全てが1ではなく、この世界にやってきた時の状態へ。
“じゃ──”
暖かい感触が消えて、空が歪み謎の空間が現れた。
陽の光とは別の淡い輝きに包まれて、白い魂が天に昇っていく。
“──救ってくれてありがとう”
“──貴方と過ごした時間はかけがえのない時間だった”
“──次は、もっと違う形で……だから、またね”
声は完全に聞こえなくなった。
マイヤーの手を握っていない方の手の中に、異物感。
そっと開いて見ると、小さな指輪が二つあった。
「思水の指輪……」
死の水ではなく、思いの水。
なんとなくだが、メイヤは自分の運命を変えることができたのではないか。
そう思った。
「でも、そうじゃないだろぉ……」
わからない、救えたのか救えてないのか。
彼女は、救ってくれてありがとうと言っていた。
きっとまた会えると、またねと、言っていた。
あとは、約束。
空か、何かがある。
「ユノ、まさかお前なのか……」
それだけ呟いて、俺は限界を迎え意識を失った。
=====
ドロップアイテム、つまり。
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