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tera

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本編

871 魂の約■・死の精霊メイヤ

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『想像以上です。この魔力、上位精霊にも匹敵します』

「……なんと、巨大な魔力。そして、悪意だ」

 膨れ上がったメイヤの魂を見上げながら、ヒューリーがそんな言葉を零した。

『新たに名をつけるならば、死の精霊メイヤ……とでも言いましょうか』

「とんでもない化け物を作り出してくれたな、ビシャス」

『これがとんでもないと化け物だと言うのなら、ヒューリーさんも化け物ですよね?』

「……貴様」

『似たような力ですし?』

 煽られたヒューリーは、なんとか冷静になろうとアイシクルミントを頬張る。
 ソルーナが言っていた「この力さえあれば」ってのも、あながち間違いではないらしい。
 元から巨大だった魔力は、この22年で成長し、さらなる変貌を遂げていた。
 圧倒的な力は、触れた草木を全てからして、周りを死の空間へと作り上げていく。

「くそったれ……ッ!」

 俺は、戦慄よりも怒りの方が強かった。
 魔力の源はメイヤ自身。

 この魔力の大きさも、全てはメイヤの成長の証でもある。
 自我を持たない空っぽの状態から、ここまで至った。
 亡きサミュエルとの思い出も、この中にたくさん詰まっている。

「最後の最後に、台無しにしやがって……!」

 許せなかった。

「最初から、このつもりだったんじゃないか?」

『どうでしょう』

「フィナーレだのなんだの、ビシャス、お前は」

 今まで戦っていた、ソルーナすらも前座に過ぎない。
 いとも容易くアローガンスを無力化したのを見て、そう確信した。

「どこからだ、どこから仕組んでいた」

『……初めから、とでも言った方が正しいのでしょうか?』

 フフ、と笑いながらビシャスは続ける。

『血筋、と言うよりも……もっと他の物が強く影響したみたいですね』

「なんの話だ」

『こちらの話ですよ。さて、これからどうしますか、アキノトウジさん?』

「これからどうするか、だって?」

 そんなことは、こっちだって最初から決まってんだ。
 絶対に諦めない、それだけである。

「お前がどんなに悪意に染め上げようとも、元が善意だ」

 純粋に笑い、小動物すらも可哀想だと言ったメイヤ。
 反吐が出る、悪意なんかに負ける訳がない。

「これから先、何をお前が何をしようが、全力で邪魔してやる」

『フフ、どちらの方が、悪なんでしょうか』

「言っただろうが、善意も悪意も関係ない。俺は勇者じゃないんでな」

『勇者じゃない……フフ、同じですね。貴方も』

 ならば、とビシャスは俺に向かって告げる。

『止めてみてください。貴方の活躍を心より応援しておりますので』

「もう黙ってろよ。……キングさん!」

「……出番か」

 巨体が、どっしりと俺の隣に立つ。
 そういえばロイ様を戻しているのに、まだ喋っている。
 ……フォルのおかげなのかな?

「私も加勢しよう」

「いや、ヒューリーさんは、アローガンスを探して欲しい」

「良いのか」

「あんたが万が一にも止まらなくなれば、余計に被害が広がるかもしれないからね」

 ビシャスが言っていたように、彼の性質も似たようなものだ。
 際限なく、増大していく力。

「それも、あいつの策略の一つかもしれないから……ここは俺たちに任せて欲しい」

「……わかった」

 少し間をおいてから、ヒューリーは頷きすぐにアローガンスを探しにいった。
 そして俺はキングさんと一緒にビシャスを睨みつけ、言い放つ。

「キングさん。倒すんじゃなくて、助けるんだ」

「……うむ、主はそれで良い」

 キングさんは、頷きながら優しく俺に言葉をかけてくれた。

「その選択は、決して間違いではない……と」

 まるで、俺が散々悩んでいたことを。
 くじけそうになっていたことを。
 知ってい方のように、わかっているかのように。

「我が証明してみせよう」

「ありがとう」

 選ぶのはいつだって自分だ、自分自身だ。
 だから、失敗するときだってある。
 それでも何度も挑戦していけるのは、みんなのおかげだ。



 だから俺は、──まだ踏ん張れる。



「知ってるかビシャス!」

「策を弄する人間相手より……こう言う理不尽相手の方が、まだ得意分野なんだぜ!」

 毎回、そのために色々考えてきた。
 準備してきた。

 勇者、という理不尽。
 そしてダンジョンコア、という理不尽に対抗するために。

 今回は人質を取られていた。
 だからどうすることもできずに甚振られた。

 今は?
 人質が自ら戦いに来ていると言う、謎の状況。

 ビシャスは、この状況を笑っているかもしれない。
 マイヤーで俺を刺した時のように、くつくつと。

『得意分野だからと言って、どうするんですか? 迂闊に近づけば、いくら貴方でも死にますよ?』

「いいや、死なない!」

 悪意に染められたと言うのならば、善意に染め上げる。
 ただそれだけだ。

 実績がある。
 前に、魂を縛られたウィンストを解放した時のように。

「──幸せにしてやる!」

 覚えておけよ、ビシャス。
 この場をしかと見ておけよ、ビシャス。

 お前が底なしの悪意を持っていたとしても。
 俺は底なしの幸せをプレゼントしてやるよ。

 そうだよ、それが一番良い。
 約束を守るためにも、半強制的に良い奴にする。
 むしろ、ビシャスにとってはそれが生き地獄では?

「待ってろメイヤ!」

「プルァ!」

 俺はキングさんとともに、魔力の塊へと。
 全てを殺す、死の奔流の中へと──突き進んだ。









 死の奔流の中へ、果敢に飛び込んだ一人の異世界人。
 彼を見ながら思う。

『龍崎さんがおっしゃっていたものも、そこにあるのでしょうか』

 巡り合わせというものは、なんと判りづらいことでしょう。
 初めはただ巻き込まれただけなのかと思っていたましたが。
 フフ、ここまで……ここまで、関係してくるとは……。

『まあ……足掻くだけ、足掻いてくださいよ』

 持つ者が足掻けば足掻くほど、物語は先へと進んでいく。
 停滞していた時間を進めるための鍵は、あといくつあるでしょうか。

『最後の最後は大団円。よくありがちなストーリーですよねぇ』

 嫌いじゃないですよ。

『ただ惜しむらく』

 渦中には、たくさんの死が待っているということ。
 途中では、救えるものが限られているということ。
 そこを乗り越えなければ、次の扉への鍵を得ることはできない。
 現代風に言うのならば、切符……と言ったところでしょう。

『フフ……私もその一部なのでしょうか……ねえ、龍崎さん?』








=====
悪にも、目的があるんですね。
今日は二本立てでお送りします。
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