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本編
869 傲慢なる魂とその一撃
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「相変わらず、悪趣味な野郎であーる」
聞き覚えのある、声。
傲慢のアローガンス。
「やれやれ、またしても遅れるところだった」
見覚えのある、顔。
憤怒のヒューリー。
なぜ、この二人がここに……と思った時。
二人の後ろから、ぬっと巨大な顔面が姿を現した。
「プルァ……」
プルァ、その一言が俺に元気をくれる。
キングさん……キングさん!
「そこを退け、小僧」
「くっ」
キングさんは、ボッと地面を蹴って俺の目の前にいたソルーナに肉薄。
拳をお見舞いし、バックステップで逃げた隙に俺を掴んで距離を取る。
アローガンス、ヒューリー、キングさん。
3人が陣取る場所に連れて来られた俺に、キングさんは言う。
「……主よ、待たせた」
その言葉を聞いた瞬間。
「ふ、ぐっ」
顔をくしゃくしゃにさせながら泣いてしまった。
年甲斐もなく、わっと声をあげながら。
そんな表情とは打って変わって、俺の拳は固く握られている。
やったんだ、変わったんだ。
あいつらの用意した絶望はたった今潰え……希望に変わった。
「あとの戦いは、我に任せておけ」
俺を優しく寝かせながら、キングさんは鋭い表情で敵を睨む。
「キング、さん」
「もう喋るな。主は、起きているのさえ厳しそうではないか」
「みんな、は……?」
「主の思うような状況ではない。今の傲慢は“敵ではない”のだ」
「そっか」
安心した、そしたら急に眠たくなってきた。
激痛をずっと気合いで我慢してきた。
緊張の糸が、プツリと切れてしまった途端に遠くへ誘うような眠気。
「主! しっかりしろ!」
「その傷口……ビシャスめ、永遠に続く痛みまで持ち出したのか」
キングさんの後ろから、ヒューリーが顔を覗かせ、俺の傷口を見て険しい顔を作る。
「プルゥ……危険な代物なのか?」
「よく生き残っている、としか言いようがない」
「主よ、秘薬を飲め」
「……ごめん、もう身体が動かないんだ」
インベントリから手元に秘薬を取り出しても、掴むことができない。
コロリとその場に転がってしまう。
「憤怒よ。どうすれば良い」
「傷を受けたものが死ぬまで激痛は継続する……が」
と、ヒューリーは続ける。
「対象は一人のみ。誰かが痛みを肩代わりすれば解決はする」
「そのナイフはどこにある?」
「それを見つけることが、一番難しいのだ。ビシャスのことだ、巧妙に隠すだろう」
「プルゥ……」
……いや、待てよ。
死んだら効果が切れるってんなら、一つだけ方法がある。
ジュニアを戻せないから今までできなかったんだけど。
この場にキングさんがいて。
イグニールたちの安全も確認できたのなら……。
「キングさん、死ねばいいなら良い方法がある」
「……フォルか」
「そう」
彼女の力は、死亡回避。
HPが0になったあと、HP、MP全快にて復活する。
スロットからロイ様を外して、すぐにフォルを召喚した。
「盟主様、こっ酷くやられてしまいましたね。でももう安心して一度お眠りください」
「ありがとう」
回復効果の乗った指輪を外した俺は、すぐにHPが0になって死亡した。
が、すぐに元どおりになって、目を覚ます。
「このまま、進化もいたしますか?」
「いや、まだ良い」
そんなフォルの提案に、キングさんが答えた。
「今回、そのソルーナとか言う敵の相手は……我ではなく、傲慢だ」
「我、であーるか? 急になんであーるか?」
急に話を振られた細身の男、傲慢のアローガンスが戯けて首をかしげる。
そんな様子を鼻で笑いながら、キングさんは言う。
「あいつは貴様を殺したい、と豪語していたではないか?」
それに、と続ける。
「戯けてはいるが、戦ってみたいという気概を感じるぞ」
「……誰が戦うじゃんけんで何を出そうかと悩んでいたであーるが──」
傲慢のアローガンスは首をコキコキと鳴らしながら、一歩前に出た。
「──貴様が譲るのならば吝かではない」
「ならば私はビシャスの動向に目を光らせておこう」
憤怒も、視線を俺からビシャスに移してキッと睨む。
「おやまあ、怖いですねえ」
「貴様だけは、二度と許すことはないと知れ」
憤怒の目は怒りに燃えかけていた。
冷静に押しとどめようとしているが、徐々に魔力が高ぶっていく。
そんな雰囲気を感じる。
「クフフフ、どうしましょうか、ソルーナさん。これでは私も迂闊に動けません」
「4対2ならば厳しいですが、馬鹿正直に一人で来るのなら、問題はありません」
紫色に光る剣を右手に携えながら、ソルーナも一歩前に出る。
浮かび上がったメイヤの魂は、未だにこの戦いを見つめていた。
「キングさん」
「なんだ主よ」
「まだあと一人……助けたい子がいるんだ」
「あと一人……?」
キョロキョロと辺りを見渡すキングさんに、俺は上空に浮かぶ魂を指差して言う。
「助けるって決めたんだ。彼女は今もまだ、諦めずに頑張ってるんだ」
「そうか。ならば、その時のために我を温存しておけ」
俺が助けたい、と言うのであれば。
キングさんは無条件で力を貸してくれる。
最初は、強いもの以外で呼び出すな。
そんなことを言っていたキングさんだけど……。
俺は、確かな絆を感じた。
魂と魂が繋がり合う、それは大切なもんだ。
俺が諦めない限り。
助けたいと思い続ける限り、決して潰えはしない。
まだ、救える道が繋がっている。
「傲慢よ。あまり時間をかけ過ぎれば、我が掠め取るぞ」
魂であるメイヤの姿を見て、キングさんは時間がないと判断したのか。
アローガンスに向かってそう発破をかけた。
「かけるつもりは毛頭ないであーる」
アローガンスは腕を掲げると、ゆっくりと下ろしてソルーナを指差す。
「宣言する。誰かの力を借りないと強くなれない雑魚は、一撃であーる」
「……随分と舐められたもんですね」
「舐めてかかるのが我の基本事項である。一撃でもダメージを与えれば勝ちにしてやってもいい」
「いいましたね……? 私が、どれだけ長い間……」
ソルーナは駆け出した。
「この時のために錬磨してきたと思っているのですか!」
俺に向けていた純粋な殺気をアローガンスに向けて、全力で放つために。
「……相当恨まれているようだが、何かあったのか?」
「……うーん、知らんである」
「無闇に敵を作る癖は、さっさと直した方がいいぞ」
「ヌハハ、たとえ過去に何かがあったとしても、覚えてないならたぶん我にとってはどうでもいいことである」
アローガンスは、ヒューリーとそんな会話をしながら一歩前に出た。
「今から死ぬのに、その傲慢さ! それが命とりで──」
そして向かい来るソルーナに向かって右拳を握りしめ、無造作に振るった。
無造作といっても、早すぎて拳は見えない。
残像のようなものがアローガンスの右肩に浮かび、ソルーナの顔に直撃。
瞬間、──ドゴァッ!!!!!
抉れ、捲れ上がる地面。
付近にあった木々も、根こそぎぶっ飛んでいく。
俺が受けた一撃よりも、さらに強い一撃。
あの中での生存は、絶望的である。
「我の前には、地を這う者は全て蟻みたいなものである」
消し飛んだソルーナの後、ひっくり返った森を見ながらアローガンスは言った。
「蟻を踏み潰したとして、それを一々覚えることもなければ、謝ることもない」
=====
傲慢「ダンジョン外だから、うまく力がはいらないであーる」
傲慢「……が、多分これで死んだであーる」
聞き覚えのある、声。
傲慢のアローガンス。
「やれやれ、またしても遅れるところだった」
見覚えのある、顔。
憤怒のヒューリー。
なぜ、この二人がここに……と思った時。
二人の後ろから、ぬっと巨大な顔面が姿を現した。
「プルァ……」
プルァ、その一言が俺に元気をくれる。
キングさん……キングさん!
「そこを退け、小僧」
「くっ」
キングさんは、ボッと地面を蹴って俺の目の前にいたソルーナに肉薄。
拳をお見舞いし、バックステップで逃げた隙に俺を掴んで距離を取る。
アローガンス、ヒューリー、キングさん。
3人が陣取る場所に連れて来られた俺に、キングさんは言う。
「……主よ、待たせた」
その言葉を聞いた瞬間。
「ふ、ぐっ」
顔をくしゃくしゃにさせながら泣いてしまった。
年甲斐もなく、わっと声をあげながら。
そんな表情とは打って変わって、俺の拳は固く握られている。
やったんだ、変わったんだ。
あいつらの用意した絶望はたった今潰え……希望に変わった。
「あとの戦いは、我に任せておけ」
俺を優しく寝かせながら、キングさんは鋭い表情で敵を睨む。
「キング、さん」
「もう喋るな。主は、起きているのさえ厳しそうではないか」
「みんな、は……?」
「主の思うような状況ではない。今の傲慢は“敵ではない”のだ」
「そっか」
安心した、そしたら急に眠たくなってきた。
激痛をずっと気合いで我慢してきた。
緊張の糸が、プツリと切れてしまった途端に遠くへ誘うような眠気。
「主! しっかりしろ!」
「その傷口……ビシャスめ、永遠に続く痛みまで持ち出したのか」
キングさんの後ろから、ヒューリーが顔を覗かせ、俺の傷口を見て険しい顔を作る。
「プルゥ……危険な代物なのか?」
「よく生き残っている、としか言いようがない」
「主よ、秘薬を飲め」
「……ごめん、もう身体が動かないんだ」
インベントリから手元に秘薬を取り出しても、掴むことができない。
コロリとその場に転がってしまう。
「憤怒よ。どうすれば良い」
「傷を受けたものが死ぬまで激痛は継続する……が」
と、ヒューリーは続ける。
「対象は一人のみ。誰かが痛みを肩代わりすれば解決はする」
「そのナイフはどこにある?」
「それを見つけることが、一番難しいのだ。ビシャスのことだ、巧妙に隠すだろう」
「プルゥ……」
……いや、待てよ。
死んだら効果が切れるってんなら、一つだけ方法がある。
ジュニアを戻せないから今までできなかったんだけど。
この場にキングさんがいて。
イグニールたちの安全も確認できたのなら……。
「キングさん、死ねばいいなら良い方法がある」
「……フォルか」
「そう」
彼女の力は、死亡回避。
HPが0になったあと、HP、MP全快にて復活する。
スロットからロイ様を外して、すぐにフォルを召喚した。
「盟主様、こっ酷くやられてしまいましたね。でももう安心して一度お眠りください」
「ありがとう」
回復効果の乗った指輪を外した俺は、すぐにHPが0になって死亡した。
が、すぐに元どおりになって、目を覚ます。
「このまま、進化もいたしますか?」
「いや、まだ良い」
そんなフォルの提案に、キングさんが答えた。
「今回、そのソルーナとか言う敵の相手は……我ではなく、傲慢だ」
「我、であーるか? 急になんであーるか?」
急に話を振られた細身の男、傲慢のアローガンスが戯けて首をかしげる。
そんな様子を鼻で笑いながら、キングさんは言う。
「あいつは貴様を殺したい、と豪語していたではないか?」
それに、と続ける。
「戯けてはいるが、戦ってみたいという気概を感じるぞ」
「……誰が戦うじゃんけんで何を出そうかと悩んでいたであーるが──」
傲慢のアローガンスは首をコキコキと鳴らしながら、一歩前に出た。
「──貴様が譲るのならば吝かではない」
「ならば私はビシャスの動向に目を光らせておこう」
憤怒も、視線を俺からビシャスに移してキッと睨む。
「おやまあ、怖いですねえ」
「貴様だけは、二度と許すことはないと知れ」
憤怒の目は怒りに燃えかけていた。
冷静に押しとどめようとしているが、徐々に魔力が高ぶっていく。
そんな雰囲気を感じる。
「クフフフ、どうしましょうか、ソルーナさん。これでは私も迂闊に動けません」
「4対2ならば厳しいですが、馬鹿正直に一人で来るのなら、問題はありません」
紫色に光る剣を右手に携えながら、ソルーナも一歩前に出る。
浮かび上がったメイヤの魂は、未だにこの戦いを見つめていた。
「キングさん」
「なんだ主よ」
「まだあと一人……助けたい子がいるんだ」
「あと一人……?」
キョロキョロと辺りを見渡すキングさんに、俺は上空に浮かぶ魂を指差して言う。
「助けるって決めたんだ。彼女は今もまだ、諦めずに頑張ってるんだ」
「そうか。ならば、その時のために我を温存しておけ」
俺が助けたい、と言うのであれば。
キングさんは無条件で力を貸してくれる。
最初は、強いもの以外で呼び出すな。
そんなことを言っていたキングさんだけど……。
俺は、確かな絆を感じた。
魂と魂が繋がり合う、それは大切なもんだ。
俺が諦めない限り。
助けたいと思い続ける限り、決して潰えはしない。
まだ、救える道が繋がっている。
「傲慢よ。あまり時間をかけ過ぎれば、我が掠め取るぞ」
魂であるメイヤの姿を見て、キングさんは時間がないと判断したのか。
アローガンスに向かってそう発破をかけた。
「かけるつもりは毛頭ないであーる」
アローガンスは腕を掲げると、ゆっくりと下ろしてソルーナを指差す。
「宣言する。誰かの力を借りないと強くなれない雑魚は、一撃であーる」
「……随分と舐められたもんですね」
「舐めてかかるのが我の基本事項である。一撃でもダメージを与えれば勝ちにしてやってもいい」
「いいましたね……? 私が、どれだけ長い間……」
ソルーナは駆け出した。
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「……相当恨まれているようだが、何かあったのか?」
「……うーん、知らんである」
「無闇に敵を作る癖は、さっさと直した方がいいぞ」
「ヌハハ、たとえ過去に何かがあったとしても、覚えてないならたぶん我にとってはどうでもいいことである」
アローガンスは、ヒューリーとそんな会話をしながら一歩前に出た。
「今から死ぬのに、その傲慢さ! それが命とりで──」
そして向かい来るソルーナに向かって右拳を握りしめ、無造作に振るった。
無造作といっても、早すぎて拳は見えない。
残像のようなものがアローガンスの右肩に浮かび、ソルーナの顔に直撃。
瞬間、──ドゴァッ!!!!!
抉れ、捲れ上がる地面。
付近にあった木々も、根こそぎぶっ飛んでいく。
俺が受けた一撃よりも、さらに強い一撃。
あの中での生存は、絶望的である。
「我の前には、地を這う者は全て蟻みたいなものである」
消し飛んだソルーナの後、ひっくり返った森を見ながらアローガンスは言った。
「蟻を踏み潰したとして、それを一々覚えることもなければ、謝ることもない」
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