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本編

860 ソルーナの後ろ

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「──ッ」

 先代スピリットマスターの殺害、その娘の誘拐未遂。
 そんな冤罪を被せられた俺は、地下牢へと乱暴に放り込まれた。

「処分は直に下される。だが、命があると思うな」

「つまり、死刑ですか?」

 何も言わず、牢獄にしっかりと鍵をかけるエルフの男。
 話を聞いてもらうために、俺は無抵抗に徹底していた。
 文句は絶対に言わない。

「弁明の余地があれば、聞いて欲しいんですが……」

 そもそも、ソルーナは人間では?
 この土地のエルフに、代々継承されるスピリットマスターの地位。

「彼も人間ですよね」

「あの方はハーフだ」

 長い廊下に並んだ牢屋が一望できる位置の席に腰掛けたエルフは言う。

「欲深い人の血を半分受け継ぎながらも、スピリットマスターになった高潔な方である」

 そしてエルフと人の交流に最善を尽くしてきた一人、だとか。
 彼のいるダーナのおかげでエルフは豊かとなり、人との関わりも少しは増えた。

「貴様の犯した罪によって、これまでの努力が全て水の泡とかしたがな」

「冤罪です。弁護士呼んでください」

「弁護ができる者がいたとして、あの状況証拠をどう覆すつもりだ?」

「それは……メイヤに聞けばわかる話です」

 状況証拠も何も、彼女が全て知っている。
 サミュエルを殺した犯人も、どうして俺が彼女を連れ出そうとしていたかも。
 なにもかもが、解決の糸口となる。

「彼女の意識はまだ戻らないそうだ。だからと言って、覆るとは思えんがな」

「意識が戻らない……」

 どういうことだ、まったく。
 透明になったり、元に戻ったり、彼女に関しては本当に謎が多い。
 本人を前に色々を聞くのも憚られたから今まで聞いてこなかった。

 だが、ダンス・オブ・アニマで垣間見た彼女の雰囲気。
 まるで別人のようにも思えた。

「……何かあるのか、あの泉に」

「はてさて、それはどうでしょうか?」

 ぼそりと呟くと、看守ではなく別の声が返答する。
 外に目をやると、ソルーナが立っていた。

「少し席を外していただけますか? 個人的な話をしたいので」

「わかりました」

 そう言われた看守のエルフは、足早に階段を上がっていく。
 二人っきりの空間。
 鉄格子の正面まで近づいてきたソルーナは、椅子に座る俺にこう告げた。

「あなたの感じている疑問について、明日お答え致しましょう」

「……それは、明日処刑されるってことか?」

「処刑ですか。それもいいですけど、あなた……処刑したところで死なないでしょう?」

「死ぬけど?」

 答えると、ソルーナは肩をすくめながらやれやれと言う。

「一度死んだのに、生きてるじゃないですか。その辺のしっかり聞いてますよ」

「……お前のバックにいるのはやっぱりビシャスか?」

 ここまで言われれば察しはつく。
 俺が死んだ場面で、それを誰かに教える人物は奴しかいない。
 知られていない、と思っていたのだが……。

 俺はあの時、性欲をグリードに奪われていた。
 蘇生してからは無事に復活。
 その辺のつながりから、バレてしまったという線も考えられる。

「ご明察。あなたのことはよく聞いていますよ」

「……くそっ」

「ダンジョンコア相手に引かない、強力な従魔を持つ、生き返る……まったく、規格外ですね」

「俺からしたら、お前みたいなのも規格外だけどな」

 俺の装備もつけていないような人の身で、どうしてあんなに強力な技が使える。
 スピリットマスターとしての逃げ用のスキルはまだしも、あの斬撃。
 明らかに、この世界で一般的な職人が作れるような装備の威力ではない。

 スピリットマスターも、ステータスの化け物だというのか。
 もしくは、こいつの出生に大きく秘密が隠されているとか。

「それは簡単な話です。ビシャスさんから、過去の勇者が使っていた強力な装備をもらっていますから」

「……過去の勇者」

「全ステータス+30%の3重複。ついでに追加で全ステ10%の合計100%追加潜在」

 な、レジェンド等級の装備じゃないか……。
 過去の勇者の装備って、そんなにすごいもんなのか?
 少し驚いたあと、ソルーナの発言を思い返して驚愕する。

 こいつ、今。
 潜在能力の数値をしっかりと言わなかったか?
 現時点で、俺しかわからない数値なのに。

 数字をしっかり確かめた、という線はない。
 こいつの口から“追加潜在”という言葉が出たのだから。

「もともと高く、そしてスピリットマスターの加護で増幅されたステータスは二倍」

「……強いな」

「超獣すら、あの一太刀で容易に殺すことができました」

 もっとも、あなたは死にませんでしたけど。
 と言いながら、ソルーナは牢屋に顔を近づけた。

「さて、あなたが気になっていることをいくつかお伝えしておきましょう」

「聞くけど、話してお前にメリットがあるとは思えないけどな?」

 敵に有利な情報を伝えるだなんて、余裕のよっちゃんか。

「それが効果的だ、と言われたからです。切り刻むよりも、それがより有効的だと」

「ビシャスにか」

「力をもらう対価として、あなたを殺すことを約束しました」

 クソみたいな約束だ。

「でも、斬っても死なない、殺しても生き返る。そんなあなたを殺す方法……」

 それは、と奴は続ける。

「絶望を見せて、自殺に追い込む。廃人にさせる。生きたまま殺す方が無難かと」

「性格最悪だな。今すぐスピリットマスターをやめちまえよ」

「フフフ、こうしてこの地位にいるのも、それこそビシャスさんのおかげですね」

「なら、ついでにそれも教えてもらえる?」

「簡単な話ですよ。虚飾の力です」

 確か、ビシャスのいるダンジョンコアの二つ名が、虚飾だったな。
 虚飾、内容を伴わない上辺だけのもの……。
 それで自分の魂を偽って、クソみたいな性格を隠していたと言うことか。

 ビシャスめ、この状況をいつから準備していた。
 もともと世界を引っかき乱すために用意していて、たまたまここに当てがえた。

 そんなところか?
 まったくもって傍迷惑な話である。

「私がスピリットマスター、かつ高潔な魂を持つのは“嘘偽りではありません”」





=====
虚飾の能力が少し語られました。
次、メイヤとマイヤーの話。
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