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本編
852 精霊の果実、青汁の秘薬
しおりを挟む「違う、違う、違う違う違う違う──」
場面は泉のすぐ側にある茂みの中に、ぽっかり空いた良い感じの場所。
そこで、俺はインベントリの中にあったユニーク等級の鎧を持ち出して試行錯誤していた。
すぐにでもワシタカくんを呼び出して、天界神塔へ移動してもよかった。
だが、再びぶん殴られてどこぞにぶっ飛ばされるという展開は避けたい。
そのためには、スタンス系のパブリックスキルオプションがついた装備が必要だった。
スタンス系とは、敵からの攻撃でキャラクターの身体がノックバックしない。
つまり、ぶっ飛ばされて後ろに下がらない、といったスキルである。
これがあれば、正面きってのしばき合いにもまだ拮抗できる。
俺のスキルはキングさんにも乗るから、どんな攻撃にもひるまないキングさんの完成だ。
強いぞ、絶対に強い。
そこそこ完成した俺の上下服装備の枠を取ってしまう形になるが……。
俺の本懐は、耐久とサポートなんだから致し方ないだろう。
「すごい量をしまっておけるアイテムボックス」
「でしょ? 特別なんだよ」
後ろから肩越しに覗き込むメイヤの言葉に頷き返しておく。
超特急で装備を合成しまくっているのだが、装備製作の画面は俺以外には見えない。
端から見れば、同じ装備を出したりしまったりと頭おかしい奴だ。
それでも何も言わないで側にいるのは、俺の体に不調がないか心配してくれているのだろう。
「大丈夫? 青汁飲む?」
「飲みません」
「定期的に摂取しておいた方が、私は良いと思うけど」
「元気モリモリです。さっき飯食ったからもう腹に入らないんで」
「牛丼ね? 美味しかった。また食べたい」
「結構大食らいだな……」
傷を治した後、インベントリに常備してある牛丼を食べた。
アローガンスとの戦いで、食いそびれたからね。
一人で食べるのも申し訳ないので、メイヤにも分けてあげた。
すると、生まれてこのかた食べたことないって勢いで食べていた。
それで病みつきになったのか。
定期的に青汁を会話に含ませながらねだってくるのである。
「あの味、私は好き。気に入った」
「そりゃ良かった。タリアス首都でもそのうちお店ができるよ」
パインのおっさんは全国各地に展開したいみたいだしね。
「……食べてみたいけど、食べれないかも」
「なんで?」
「街ではお金というものが必要になる。でも私はお金を持っていない、し……」
少し悲しい目をしながら、彼女は言葉を続けた。
「何よりこの森から出してもらえないから……でも、この場所は嫌いじゃない」
「……ポチ、おいで」
すぐに気丈な振る舞いを見せるメイヤを見て、俺はポチを召喚する。
「アォン……?」
「俺の怪我は心配ないから、今からすげえ豪華なフルコースを作ってくれ。話は聞いていただろ?」
「ォン!」
世の中には美味しいものが溢れているのに、出られない食べられない。
それは悲しすぎる。
せめて俺がいるこの間だけは、ポチの美味しいご飯でお腹を満たして欲しい。
単純に、そう思った。
俺はスタンス装備が出るまで粘らなきゃいけない。
ポチならその間にフルコースをこしらえることだって簡単だ。
「コボルト……が、料理を?」
「できるさ。ポチは伝説の料理人って言われてる人の一番弟子なんだから」
「アォン!」
「伝説の料理人! 聞いたことがある!」
「え」
目を輝かせて、食い気味に顔を寄せたメイヤに驚く。
「私が拾われる前、この地に来て食べれない果実を食べれるようにしたらしい」
あのおっさん、こんな大陸の辺境地まで……。
すげぇな、おい。
「この辺に育つ木になる果実は、命を奪う死の果実。でも不思議な力で食べれるようにしたそう」
ちなみにこれ、と彼女はポケットから袋を取り出し、中に入っていたドライフルーツを見せてくれた。
【ドライ・スピリットフルーツ】
そのまま食べれば命を奪われる、精霊の加護を宿す果実。
スピリットフルーツをドライフルーツにしたもの。
一定時間、MPの最大値を30%増加する。
スピリットフルーツは、オレンジとも赤とも言い難いが、干されていても発色は綺麗なもんである。
食べてみて、と言われポチと食べると、フェアリーベリーの味を何倍にも美味しくした感じだった。
「うおー、甘い、美味い」
「アォーン」
「このおかげで、私たちはこの地で強く生きていける力を得たらしい」
「なるほど」
常食としてるなら、とんでもない効果だ。
MPの最大値を30%増加するって、元々MPが多い人だとかなりの恩恵となる。
この世界のエルフが、俺の想像している通りだとすれば、鬼に金棒レベルだ。
「この果実を使った飲み物とか薬とかって、あったりするの?」
「これが薬みたいなもの。強いていうなら、これから抽出して即効性の魔力回復薬ができる。とても効き目がいい」
「へえ、是非作り方を聞いときたいね」
この果実を使ったレシピがあるのなら、入手しておきたいところ。
しかし、今はそんな場合ではない。
惜しいが、さっさとみんなの元へ戻る準備を整えなくちゃ。
「魔力なんて尽きることは滅多にない。だから体力回復滋養強壮の青汁の作り方を教えよう」
「いや、いいわそれ。俺日頃から健康管理はしっかりしてるタイプだから」
主にポチが。とポチがジト目でこちらを睨んでくるので付け加えておく。
「まず、その辺の雑草を適当に集めて、洗ってすりつぶして……」
「いや、だからいいってば」
青汁にかけるこの情熱はなんなんだ。
葉っぱを潰して薬屋さんごっこなんて、小学校低学年で卒業するもんだろうに。
「……で、布に包んでぎゅーって絞って瓶に汁を詰めたら完成」
「そ、そっか」
この世で一番いらないレシピを習得してしまった。
しかも、エルフの秘薬として登録されている始末。
青汁の秘薬。
効果は猛毒、HP全回復、MP全回復がランダムで現れる。
その他、腹痛、吐き気、めまい等の異常状態。
HP・MP10%回復などなど。
使用した葉っぱの価値に応じてレアリティが決まる仕組みだった。
その辺の雑草で作っても、運が良ければすごい回復薬。
もしくはすごい毒薬が生まれてしまうあたり、秘薬感は満載だ……。
=====
書き溜めてあるから毎日更新保証します。
色々と散漫な部分もございますが、ご容赦ください。
頑張りますので。頑張りますので。
5巻書影のアップに関しましては、私の回線速度が改善次第なんとかします。
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