装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

846 初見殺し

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 気がつけば、俺は水の上で仰向けになって浮かんでいた。

「……ここどこだ? ……海? ……いや、お湯?」

 温かい。
 まるで温泉みたいだな、と思ったが、タリアスは温泉で有名だ。
 普通に温泉が湧いていてもおかしくない。

 天界神塔の名物である温泉も、どこか他の温泉を参考にしたのだろう。
 あんな奴が、ダンジョンの集客を狙って温泉を作り出すわけがない。

「そうだ、戻らないと……マップ……げっ」

 天界神塔のあるタリアス首都からとんでもなく遠く離れた場所だった。
 魔物の分布情報さえも載っていない、遠く、遠く離れた南の大森林。

 距離にしたらどのくらいだろう……。
 クイックを使ったワシタカくんで移動しても、不眠不休で飛んで三日以上はかかりそうだ。

「よく生きてたな、俺」

 キングさんの無敵や、HP1で耐える指輪の無敵時間を考慮しても。
 到底助からないレベルなのだが……ああ、そうか。

 詳しい日付はわからないが、たぶんぶっ飛ばされている間に回復したんだろう。
 俺の装備にはHPを自動回復する効果もつけてある。
 そう考えると、アローガンスの本気パンチの威力にゾッとした。

 グループ機能を見て、みんながまだ生きているってことは幸運だな。
 これだからステータス値のゴリ押し野郎は苦手なんだよ……。

「これから先が思いやられるな」

 今までのダンジョンコア戦は、完全に敵対した状態ではなかった。
 本気で俺を殺しにかかってきた場合、もしかしたら負けるかもしれん。
 もっと、もっと入念に準備をしないと……。

「……よし、早くみんなのところに戻らないとだな……って」

 動けない、なんだこれ。
 頭は働く、目も口も動く、でも四肢がまったく動かない。
 っていうか、首から下の感覚がなかった。

「顔面パンチで頚椎いったのか? ほんとやべぇよ……」

 それでもインベントリからアイテムは出せる。
 器用な水棲サモンモンスターに受け取らせて、秘薬を飲ませてもらえば良い。

「水島、こい」

「キュイ」

 手が使えて、泳ぎも得意といえば、やっぱり水島だ。
 イルカのおっさん、強くなくとも痒いところに手が届く便利な存在。

「お湯の中に落ちた秘薬拾って飲ませてくれない?」

「キュイ」

 ちゃぽん、と水中に潜って落ちた秘薬を取りに行く水島。

「キュァ──」

「──は?」

 潜った瞬間、短い鳴き声をあげた水島が仰向けになってぷかーっと浮かんできた。
 そしてそのまま消えてなくなる。

「……水島? 水島ァー!」

 図鑑を確認すると、水島のカードをセットしていたスロットは空欄になっていた。
 な、なんてこった……し、死んでる……。
 すまない水島、出落ちさせてしまって……。

「ミスったな、俺の手から出した瞬間に受け取らせればよかったんだ……」

 でも、潜ったら死ぬなんて、普通わかりっこないじゃん。
 許せ水島、今度美味い物でも食わせてやるから……。

「さっきの初見殺しを反省して、次はグリフィーだな」

 プランは、飛んだ状態で俺を抱えて岸辺に移動してもらう。
 そこからポチを出して、秘薬をごっくんさせてもらう。
 完璧だ。

「グリフィー」

「ガルッ!」

「よし、一先ず俺を岸辺まで連れてってく──」

 バシュシュシュシュシュ!

「ガルッ!?」

「今度はなんだ!?」

 俺の上で対空していたグリフィーに向かって、無数の矢が飛来した。
 キングさんをまだ出しているから、グリフィーにも無敵が発動する。
 多少の攻撃はビクともしない、のだが……。

「グリフィー!!」

 なんと、初撃で翼の片方がもげていた。
 飛行能力を失ったグリフィーは温水に転落し、沈んでそのまま死んで消えていった。

「……嘘だろ、いや、まじかよ」

 初見殺しにもほどがある。
 というか、この状況で俺はよく生きてるな……。
 どういう状況だよ、これ。

 入ったら死ぬ水はともかく、グリフィーへの攻撃は人の手によるものだ。
 誰かが、いる。

 どうする、どうする、どうする。
 初見殺し用に、適当なサモンモンスターを出しておくか?
 今まで一切出してこなかった奴が大量にいるしな。
 少し心が痛むのだが、この状況は致し方ない。

 っていうか、岸に無事に上がれたとしても、四肢が動かんぞ。
 回復している間に、殺されるかもしれん。

 え、これ、まさか詰んだ?
 ちょっと待ってくれよ。

「と、とにかく誰でもいい、軽そうなゴブリンとかを」

 焦りながら何を出そうか迷っていると、船を漕ぐような音がした。
 水面をゆっくり移動する音を立てながら、誰かが近づいてくる。

「……魔物に襲われていたのは、貴方? 手を取って、早く」

 船の上から、フードを被った誰か手を差し伸べられる。

「早くして、この聖域に入った者は聖域に殺されるから」

「え」

 フードから覗く顔は、よく日に焼けた小麦色と、少し癖のある美しい金髪。
 ……似ている、俺の探していた人に、よく似ていた。

「耳が丸い、貴方人間? 何故こんなところにいるの」

 ただし、耳はとんがっている。

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