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4巻
4-2
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「プルァ!」
往生際の悪いコレクトに呆れていると、キングさんが水弾で文字を一筆啓上。
鳥よ、たまには戦え。
「クエッ!? クェェ……」
キングさんに凄まれたコレクトは、観念したように王冠の上に止まった。
観念した先が、恐れ多くもキングさんの王冠の上って、マジかこいつ。
「プルァ」
再び水弾がバシュンと飛んで、キングさんがもう一筆したためる。
主よ、我に良い作戦がある。
「ほうほう、作戦とは?」
「プルァ」
どうやら、俺がサモンカードを手に入れたいってことは図鑑の中からお見通しだったようで、絶対に獲物を逃さない作戦を思いついたとのこと。
その作戦とは、俺の手持ちにある巨人の秘薬を二つ、コレクトに使えって作戦だ。
「わかったけど、キングさんは良いんですか?」
「プルァ」
大きさ的にはキングさんが巨大化した方が一瞬なんじゃないかと思うのだが、キングさん的には、巨人の秘薬に頼るのは本当にヤバい時だけらしい。
「了解です、キングさん」
言われた通りに、コレクトに巨人の秘薬を二つ使用してみた。
「クエエェェエエエエエ!」
「うおおおおお! でけぇ!」
秘薬を二つ飲んだコレクトはみるみるうちにとんでもない大きさへと変貌を遂げる。
コレクションピークの大きさは、だいたい三十センチくらい。
それが、巨人の秘薬二つで合計二十五倍くらいになるから、約七・五メートルくらいだった。
「クエックエッ!」
ロック鳥よりも大きくなったコレクトは、これならいけるんじゃないかと胸を張る。
まったく、気の良いやつだな……。
「ギュ、ギュア……!!」
いきなり巨大化したコレクトを見たロック鳥は、血相を変えて空へと飛び立つ。
「あ、逃げた! 追え、コレクト!」
「プルァ!」
「クエーッ!」
キングさんを背中に乗せたコレクトは、すぐさま空へと飛び立ちロック鳥に絡んだ。
「ギュ、ギュアアアアアア!」
「クエーーーーーーーーッ!」
上空で巨大な鳥同士が激しく揉み合い、大立ち回り。
巨大化できる時間には限りがあるので、すぐさまキングさんがコレクトの背中からジャンプして、上から下にロック鳥を殴りつけた。
「プルァァッ!」
「ギュピィッ!?」
水流ビームを上空に噴射して、それを推進力とした高エネルギーキングパンチ。
コレクトとの揉み合いの中、横っ面を殴りつけられたロック鳥は、とんでもない勢いで地面に叩きつけられ、ドロップアイテムを撒き散らした。
「相変わらず圧倒的だな、キングさんは……」
「なんか、ちょっとロック鳥、可哀想に思えてきたし」
俺もだ、ジュノー。
いつだかのアンデッドドラゴン戦から着想を得た作戦だろうな、これ。
空中にいる敵には、こっちも空へ飛んで殴りかかった方が早いってことである。
「プルァ」
どしんと着地したキングさんは「仕事はしたから戻せ」と言わんばかりの顔だったので、素直に図鑑に戻し、交代でゴレオを召喚する。
さて、キングさんの着地の衝撃に巻き込まれた極彩蝶のドロップアイテムも大量に落ちているので、みんなでさっさと回収しようか。
「それにしても……」
回収に向かう最中、少しだけ思ったことがある。
ゲーム内では、同じ秘薬を二つも同時に使うことはできなかった。
故に、コレクトが二つ使用してしっかり二つ分巨大化したことに驚きを隠せない。
「つまり、同じ種類でも制限なしに好きなだけ使えるってこと?」
……だったらヤバいぞ。
金運の秘薬とか、幸運の秘薬とか、経験値アップの秘薬とか、飲めば飲むほどに効果が上乗せされ、とんでもないことになってしまう。
ラッキーな情報を得てしまった、そう思った時だった。
「コ、コレクト!? な、なんでそんな姿になっちゃってるし!?」
ジュノーの驚いた声が響く。
「ク、クェェ……」
目を向けると、空から戻って来たコレクトの大きさが、ひよこサイズになっていた。
だいたい六センチくらいの、手乗りコレクトである。
「ええ……何がどうしてこうなったんだ……?」
「クエックエーッ!」
「秘薬の効果が切れた瞬間、なんだか前よりも縮んじゃったって言ってるし」
「嘘だろ……マジかよ……」
同じ秘薬を二つ使用した結果が、この有様だと言うのだろうか。
まさか副作用があるとは思わなかった。
世の中、そう上手くは行かないもんで、同じ種類の複数使用はやめておくことにする。
二段階巨大化した結果、小さくなってしまうという副作用。
幸運の秘薬に当てはめて考えると、不幸になるってことかもしれないからね……。
「わぁっ、コレクト、小ちゃくて可愛い! 抱っこさせて!」
「クエェ……」
いつもはジュノーを背負うコレクトだが、今回ばかりは立場が逆転し、産毛っぽい毛並みをもふもふと抱きかかえられ、辟易としていた。
「とりあえず様子見だな、しばらくは」
能力的に戦わなくても十分なので、このままコレクトは続投で行く。
【サモンカード:ロック鳥】
等級:ユニーク
特殊能力:同行するグループメンバーの落下ダメージ50%カット
ロック鳥のドロップアイテムを確認していると、サモンカードを発見した。
さっそく名前をつけて、能力を確認すると、完全に空を移動する用の特殊能力である。
せっかくユニーク等級のサモンカードなのだから、ボスダメージを増加する系とか、いわゆる当たり能力を引きたかったのだけど、これはこれで有りだな。
今後は空の移動手段として、このロック鳥は大事にしていこうと思う。
「よし、サモンカードの登録もこれでオッケーっと」
ロック鳥の名前は厳正なくじ引きの結果、俺の案であるワシタカが採用となった。
うん、鷲っぽくもあるし、なんだか鷹っぽくもあるから、ぴったりの名前である。
実は鷲とか鷹って、種類によって呼び方が固定されてるわけじゃないらしいぜ?
「むー! あたしのデカレクトの方がかっこいいのに!」
「アォン!」
「……!」
「クエッ!」
ワシタカという名前が不満なのか、みんなが頬を膨らまして抗議の視線を送ってくる。
「くじ引きなんだから、フェアだろうに……」
つーかデカレクトって、まんまデカいコレクトをもじっただけで、なんの捻りもない。
まともに考える気があるのだろうか、こいつ。
ちなみに、あがっていたネームアイデアはこんな感じ。
・グレフ
・キャシー
・舎弟1号
・デカレクト
・ワシタカ
俺の案がワシタカだとして、消去法で選んでいけば、だいたい誰の案かわかるな?
カッコいいのがポチで、女の子みたいなのがゴレオ。
倒したのが誇らしいのか、調子に乗った名前がコレクトで、意味不がジュノーだ。
相変わらず個性豊かだな、うちのメンツって。
「じゃ、シママネキの討伐とタイドグラスの採取に行くか」
極彩蝶の素材とロック鳥のサモンカードはすでに得たので、あとは依頼をこなすだけ。
お目当の素材を手に入れてしまえば、残りの期間はのんびりダンジョン散策と行こう。
◇ ◇ ◇
それから、山の中でタイドグラスを採取しつつ、シママネキのいる沿岸へと向かった。
海に近づくにつれて、山の中にも少し漂っていた磯の香りが強くなる、と思いきや……。
──ギチギチギチギチ。
「す、すごいな……」
「カニさん、めっちゃいるし」
目の前にいる大量の大きなカニを前にして、俺達は呆れていた。
もうめちゃくちゃだよ、ひしめき合い過ぎていて磯どころかカニの匂いしか感じない。
シママネキの体高は大人の腰程度、爪を振り上げて威嚇のポーズを取ると背丈ほどに。
つまりデカい。
「ポチ、クロスボウって貫通する?」
「ォン」
バシュッ。
「ギッ!?」
甲殻の厚みもかなりのものになって、倒すのがやや面倒かと思ったが、俺の予想に反して、ポチの放ったクロスボウの矢はあっさりと固そうな甲殻を貫通した。
「ギチギチ、ギギギ……ブクブク……」
ぶくぶくと泡を吹いてしぶとく生きていたようだが、しばらく時間を置いたのちに、シママネキは時間が止まったようにドロップアイテムを落として動かなくなる。
ポチに渡してある武器の攻撃力が相当高いから、相手の防御とか関係なしっぽい。
「普通に倒せるっぽいな。よし狩っていこうか」
いつも通り、ポチは遠距離からの狙撃で、俺とゴレオは近接戦闘。
コレクトとジュノーは応援である。
「よっ、ほっ!」
最近魔物との戦いはポチ達に任せっきりになっていたが、さすがに百を超える大軍を前にしては、サボるわけにもいかない。
カニのハサミ攻撃を盾で防ぎながら、とにかく剣でカニの飛び出した目の部分を叩く。
弱点かどうかは知らないけど、大抵の動物なら弱点だろうってことで、そこを狙うのだ。
目を狙う、これぞ知恵に秀でた人類の特権だな!
そう意気込んで剣を振るうのだが、俺の剣は狙いを外れてカニの頭中央に命中した。
「あっ、やば」
「ギッ!?」
しかし、頭を叩いただけでカニはぶくぶくと泡を吹いてあっさりと死んでしまった。
「あれ、一撃?」
特にすっぱり斬り裂くことも、甲羅にめり込むこともなかったのに、一撃だった。
なるほどそうか、特殊強化の攻撃力ブーストによって、俺の武器攻撃力は店で売られている通常の武器の約八倍くらいに上昇しているから、即死したのだろう。
八人から寄ってたかって攻撃を受けているようなもんだから、さもありなん。
「ギチィッ!」
「ひょぱわぁっ!?」
呑気に剣を見ながらそんな考察をしていると、足元に寄って来ていた別のカニのハサミが俺の股間にクリーンヒットしていた。
挟まれちゃう、と思った時にはすでに挟まれていて、なんだか鈍い感触が股間に走る。
そこは男の弱点。弱点を狙う知恵こそ人類の特権とか調子こいたバチが当たったのだ。
息子、終わった……と、一瞬頭が真っ白になったのだが。
「……あれ、痛くないぞ?」
なんと俺の装備の防御力(VIT)を、カニは超えることができなかったらしい。
よかった……と、心の底からホッとした瞬間だった。
やっぱり基本は防御からだろうってことで、装備の強化も潜在能力も全てVITを優先して整えてあるのだが、その効果が今になって発揮された形である。
いや、俺の作ったパンツ装備が、全ステータスが30%もアップする神のパンツだからってのもあるかもしれない。きっとそうだ。
「はあ……デリケートゾーンの防御はこだわり抜いておいて良かった……」
文字通り、俺のパンツは勝負下着ってこと。
「トウジ、さっきから何をブツブツ独り言呟いてるし?」
「いや、さっきカニに股間挟まれてさ……」
「えっ、ちょん切れちゃったし!?」
「いや、神のパンツ穿いてるから大丈夫だった。命拾いした」
「えー、良いなあ神のパンツ、あたしも欲しい!」
「今度作っといてやるよ」
女の子のパンツを作っといてやるよ、とはなんともセクハラちっくな発言だが、相手はダンジョンコアだから別に良いだろう。そもそもこいつ穿いてないから、あぶねえ。
「つーか、もうこれ素手でも倒せるんじゃないか?」
試しにチョップしてみると、カニは死なずにピクピクと生き残っていた。
それなりのダメージは入っちゃいるが、それでも一撃殺とはいかない。
「こなくそ!」
攻撃を食らっても大したダメージにならないのは知っているので、そのまま挟まれつつ、もう二回ほど同じ箇所にチョップを入れると、ようやく倒すことができた。
ゲームでもそうだったが、やはり武器を持って攻撃しないとあまり意味がないっぽい。
でも、強化し過ぎて全身凶器人間みたいになってしまったら、それこそ日々の生活が不便になるので、これはこれで良かったと思うべきだろうな。
「それにしても……うーむ……」
「トウジ、どうしたし?」
「いや、俺もそれなりに強くなってるんだなって思ってさ」
「……ああ、まあポチとゴレオに比べたらまだまだだし?」
「そりゃな……」
あいつらは装備の必要レベルっていう制限が取っ払われているから、チートである。
それと比べられると、俺なんか霞むのだ。
「一般的な同じレベルの冒険者よりも強い、それだけで良いんだよ今の俺には」
「自分で自分を慰めて、悲しくならないし?」
「ぐっ……言ってはならんことを……」
そうやって自分を褒めてあげることで、この世界でもやっていけるって自信に変えるんだ。
あまり自分を下に見過ぎると、なんだか鬱っぽくなってくるからね。
「なら、褒めて欲しいってことだし?」
「お前さ、俺の話聞いてた?」
「あたしが褒めてあげよっか? よしよーし!」
「うっぜ」
俺の頭に飛びついてわしゃわしゃと髪で遊び出すジュノー。
うざいとは思ったが、それでも少しだけ気持ちが楽になった。
「よし、引き続きカニ狩り頑張るぞ」
「おー!」
「アォン!」
「そんでもって、今夜はカニパーティーだっ!」
今回、俺がシママネキの討伐依頼を受けた理由の大半がこれである。
◇ ◇ ◇
「今日もなかなかの成果だなあ」
夕暮れの磯辺で、インベントリ内に保持した今日の狩りの成果を確認しながら独りごつ。
羽虫、極彩蝶、シママネキ。
これらの魔物は群れる習性を持っているからか、大量に狩ることができ、獲得したドロップケテルが想像よりも多くてニヤニヤが止まらない。
ロック鳥のサモンカードも無事にゲットできて、この島に来て本当に良かった。
「トウジ、すっごく嬉しそうにしてるけど、何か良いのあった?」
「ん? あったよー」
ジュノーが俺の顔を覗き込んでそんなことを言うもんだから、見せびらかしてやろう。
「サモンカードも嬉しいけど、何よりこっちのアイテムの方が超絶嬉しいんだ」
「……何それ? 槌?」
「そう、限界の槌ってアイテムだ」
「……? それの何が嬉しいの?」
矢印に柄をつけたような槌を目にして、首を傾げるジュノー。
「やれやれ、まったく価値を知らない奴はこれだから……」
「なんかムカつくし! むがー!」
さもありなん、この世界には存在しないアイテムだからな。
実は、シママネキには集団の中で一番強い個体をボスとするって習性が存在していた。
そのボスに従って、巣を形成し繁殖を行うのである。
さて、ボス指定の個体からドロップするレアアイテムのことをご存知だろうか?
それこそが、限界の槌と呼ばれる装備の強化回数を増やすアイテムのことなのだ。
「ボス系の魔物なんてなかなか遭遇しないから、これの量産は諦めてたんだけどさ……」
シママネキはボスが倒れると、次に強い個体が自然とボスに昇格する。
つまり、ボスっぽい奴を優先して倒すことで限界の槌の量産が可能となったのだ。
「……何言ってるのかよくわかんないけど、とりあえず良かったね」
「うん、理解されないとは予想してたけど、とりあえず良かったよ」
とにかく限界の槌というアイテムがあれば、俺の装備はさらに強くなる。
ビバ強化。やっぱりゲームの醍醐味ってのは、いかに強くなるかってところなんだ。
「パンケーキじゃないなら、どうでも良いし~」
「俺が強くなって稼げると、パンケーキの材料もたくさん買えるようになるんだぞ?」
「えっ! やったー! その変な形の槌万歳だし!」
チョロいな、こいつ。手のひら返しがすご過ぎてねじ切れんばかりだぜ。
この手のシママネキのような魔物は今後出会えるかもわからない、故に。
「残り四日間をフルに使って、カニ狩り祭りをするっきゃねえようだ」
「カニカーニバルだし!」
この島から駆逐するレベルで狩って狩って狩りまくるんだ。
「ォン」
ジュノーとハイタッチしながらウキウキルンルンで過ごしていると、ポチが呼びに来た。
どうやら飯ができたようである。
ポチに案内され焚き火まで向かうと、鉄網の上でシママネキの巨大なハサミが、パチパチと音を立てて焼きあがっていた。
「うおおおお、良い匂いだな!」
「わぁー! 美味しそうだし!」
焼きあがるカニを見て、その香ばしい匂いを嗅いで、テンションが急上昇する。
カニなんて久しく食べてないぞ。
ちなみに、シママネキの巨大な体を分解したら、デカい甲羅とデカいハサミの他に、普通の食べやすい大きさのカニ身が部位ごとにランダムで手に入るのだが、やっぱりこの大きさのカニを豪快に焼いて食してみたい。
味わう方法は、やはりシンプルイズベストの焼きガニ方式である。
「アォン」
ポチは、パインのおっさんから譲り受けた耐熱性の調理用手袋で、真っ赤に熱せられた巨大なカニのハサミを焼き網から取り出すと、皿に載せて俺の前に差し出した。
「さあ召し上がれってことなのはわかるけど……どうやって食べようか……」
火元にずっと置かれていたカニのハサミは、見るからに熱そうである。
でも、殻の向こう側には魅惑のカニの身があるのだと思うと……ああくそ、早く食べたくて今にも飛びついてしまいそうだった。
絶対に火傷をしてしまうと頭では理解している。近いのに遠いとはこのことである。
「トウジ! 早く食べたい! 早く食べさせろし!」
「待てって、絶対熱いだろ!」
だがしかし、冷ましてから食うなんて言語道断。
「しゃーねえ、その辺の石で叩き割るか!」
「待つし、トウジ! さっき槌ゲットしたし? それで甲羅を砕くし!」
「おお! って……良いのか? 一応強化用のアイテムなんだが……」
まあ良い、カニ身を叩き割ったとして、カニ身の強化回数が増えるなんてことはない。
ここは食欲に任せて限界の槌を使ってカニの甲羅を叩き割りましょう。
「うおおおお!」
カンカンカンと叩き割っていくと、赤い殻の中から真っ白な身が湯気を立てて出現した。
濃厚で、強烈な香りが鼻を通って脳にダイレクトアタックをかましてくる。
「うおおぉ……」
純白の身が俺を呼んでいた。スプーンでほじって熱々の身を一口食べてみる。
「あち、あち……う、ううううまい!」
やや食べづらいのだが、そんなこともうどうでも良いってほどの味が押し寄せて来た。
大きさから大味を想像していたのだけど、大胆かつ繊細な絶品味である。
「カニって良いな、やっぱりカニって最高だな、おい」
パインのおっさんの丼もの屋で食べた海鮮丼のエビも美味しかったけど。
磯辺の焚き火で豪快に焼いたカニは、また一味違った感覚があった。
「あたしにも! あたしの皿にも盛ってよ、トウジ!」
「はいはい」
ジュノーの分も、身をほじくって皿に盛ってあげる。
「うまぁっ! うまうまんま!」
「クエックエッ!」
コレクトも、ジュノーの皿にある分を一緒に突いて食べていた。
あまりの美味しさに、二人とも一心不乱になって、カニを食べ進める。
「まだたくさんあるから、ゆっくり食えよ、二人とも」
――まぐまぐまぐまぐ!
聞いちゃいねえ……。
「まあ良いか。ほら、ポチも一緒に食べようぜ」
「アォン」
俺もポチを膝に乗せて一緒にカニ身を味わうことにした。
落ち着いて食べようと思っても、ほんのり塩気が絶妙で、ついついガッついてしまう。
隣に座るゴレオは、こういう楽しみを味わえないからすごく申し訳なくなるんだけど、俺達が美味しそうに食べてるのを見るだけで、幸せだってさ。
くう、相変わらず心優しきゴーレムかよ……。
「つーか、かなり大量にカニあるけど、さすがに毎日食べるのも疲れるな……」
「アォン!」
ふむ、パインのおっさんにおすそ分けか、それは有り。
帰ったら分けてあげよう。
往生際の悪いコレクトに呆れていると、キングさんが水弾で文字を一筆啓上。
鳥よ、たまには戦え。
「クエッ!? クェェ……」
キングさんに凄まれたコレクトは、観念したように王冠の上に止まった。
観念した先が、恐れ多くもキングさんの王冠の上って、マジかこいつ。
「プルァ」
再び水弾がバシュンと飛んで、キングさんがもう一筆したためる。
主よ、我に良い作戦がある。
「ほうほう、作戦とは?」
「プルァ」
どうやら、俺がサモンカードを手に入れたいってことは図鑑の中からお見通しだったようで、絶対に獲物を逃さない作戦を思いついたとのこと。
その作戦とは、俺の手持ちにある巨人の秘薬を二つ、コレクトに使えって作戦だ。
「わかったけど、キングさんは良いんですか?」
「プルァ」
大きさ的にはキングさんが巨大化した方が一瞬なんじゃないかと思うのだが、キングさん的には、巨人の秘薬に頼るのは本当にヤバい時だけらしい。
「了解です、キングさん」
言われた通りに、コレクトに巨人の秘薬を二つ使用してみた。
「クエエェェエエエエエ!」
「うおおおおお! でけぇ!」
秘薬を二つ飲んだコレクトはみるみるうちにとんでもない大きさへと変貌を遂げる。
コレクションピークの大きさは、だいたい三十センチくらい。
それが、巨人の秘薬二つで合計二十五倍くらいになるから、約七・五メートルくらいだった。
「クエックエッ!」
ロック鳥よりも大きくなったコレクトは、これならいけるんじゃないかと胸を張る。
まったく、気の良いやつだな……。
「ギュ、ギュア……!!」
いきなり巨大化したコレクトを見たロック鳥は、血相を変えて空へと飛び立つ。
「あ、逃げた! 追え、コレクト!」
「プルァ!」
「クエーッ!」
キングさんを背中に乗せたコレクトは、すぐさま空へと飛び立ちロック鳥に絡んだ。
「ギュ、ギュアアアアアア!」
「クエーーーーーーーーッ!」
上空で巨大な鳥同士が激しく揉み合い、大立ち回り。
巨大化できる時間には限りがあるので、すぐさまキングさんがコレクトの背中からジャンプして、上から下にロック鳥を殴りつけた。
「プルァァッ!」
「ギュピィッ!?」
水流ビームを上空に噴射して、それを推進力とした高エネルギーキングパンチ。
コレクトとの揉み合いの中、横っ面を殴りつけられたロック鳥は、とんでもない勢いで地面に叩きつけられ、ドロップアイテムを撒き散らした。
「相変わらず圧倒的だな、キングさんは……」
「なんか、ちょっとロック鳥、可哀想に思えてきたし」
俺もだ、ジュノー。
いつだかのアンデッドドラゴン戦から着想を得た作戦だろうな、これ。
空中にいる敵には、こっちも空へ飛んで殴りかかった方が早いってことである。
「プルァ」
どしんと着地したキングさんは「仕事はしたから戻せ」と言わんばかりの顔だったので、素直に図鑑に戻し、交代でゴレオを召喚する。
さて、キングさんの着地の衝撃に巻き込まれた極彩蝶のドロップアイテムも大量に落ちているので、みんなでさっさと回収しようか。
「それにしても……」
回収に向かう最中、少しだけ思ったことがある。
ゲーム内では、同じ秘薬を二つも同時に使うことはできなかった。
故に、コレクトが二つ使用してしっかり二つ分巨大化したことに驚きを隠せない。
「つまり、同じ種類でも制限なしに好きなだけ使えるってこと?」
……だったらヤバいぞ。
金運の秘薬とか、幸運の秘薬とか、経験値アップの秘薬とか、飲めば飲むほどに効果が上乗せされ、とんでもないことになってしまう。
ラッキーな情報を得てしまった、そう思った時だった。
「コ、コレクト!? な、なんでそんな姿になっちゃってるし!?」
ジュノーの驚いた声が響く。
「ク、クェェ……」
目を向けると、空から戻って来たコレクトの大きさが、ひよこサイズになっていた。
だいたい六センチくらいの、手乗りコレクトである。
「ええ……何がどうしてこうなったんだ……?」
「クエックエーッ!」
「秘薬の効果が切れた瞬間、なんだか前よりも縮んじゃったって言ってるし」
「嘘だろ……マジかよ……」
同じ秘薬を二つ使用した結果が、この有様だと言うのだろうか。
まさか副作用があるとは思わなかった。
世の中、そう上手くは行かないもんで、同じ種類の複数使用はやめておくことにする。
二段階巨大化した結果、小さくなってしまうという副作用。
幸運の秘薬に当てはめて考えると、不幸になるってことかもしれないからね……。
「わぁっ、コレクト、小ちゃくて可愛い! 抱っこさせて!」
「クエェ……」
いつもはジュノーを背負うコレクトだが、今回ばかりは立場が逆転し、産毛っぽい毛並みをもふもふと抱きかかえられ、辟易としていた。
「とりあえず様子見だな、しばらくは」
能力的に戦わなくても十分なので、このままコレクトは続投で行く。
【サモンカード:ロック鳥】
等級:ユニーク
特殊能力:同行するグループメンバーの落下ダメージ50%カット
ロック鳥のドロップアイテムを確認していると、サモンカードを発見した。
さっそく名前をつけて、能力を確認すると、完全に空を移動する用の特殊能力である。
せっかくユニーク等級のサモンカードなのだから、ボスダメージを増加する系とか、いわゆる当たり能力を引きたかったのだけど、これはこれで有りだな。
今後は空の移動手段として、このロック鳥は大事にしていこうと思う。
「よし、サモンカードの登録もこれでオッケーっと」
ロック鳥の名前は厳正なくじ引きの結果、俺の案であるワシタカが採用となった。
うん、鷲っぽくもあるし、なんだか鷹っぽくもあるから、ぴったりの名前である。
実は鷲とか鷹って、種類によって呼び方が固定されてるわけじゃないらしいぜ?
「むー! あたしのデカレクトの方がかっこいいのに!」
「アォン!」
「……!」
「クエッ!」
ワシタカという名前が不満なのか、みんなが頬を膨らまして抗議の視線を送ってくる。
「くじ引きなんだから、フェアだろうに……」
つーかデカレクトって、まんまデカいコレクトをもじっただけで、なんの捻りもない。
まともに考える気があるのだろうか、こいつ。
ちなみに、あがっていたネームアイデアはこんな感じ。
・グレフ
・キャシー
・舎弟1号
・デカレクト
・ワシタカ
俺の案がワシタカだとして、消去法で選んでいけば、だいたい誰の案かわかるな?
カッコいいのがポチで、女の子みたいなのがゴレオ。
倒したのが誇らしいのか、調子に乗った名前がコレクトで、意味不がジュノーだ。
相変わらず個性豊かだな、うちのメンツって。
「じゃ、シママネキの討伐とタイドグラスの採取に行くか」
極彩蝶の素材とロック鳥のサモンカードはすでに得たので、あとは依頼をこなすだけ。
お目当の素材を手に入れてしまえば、残りの期間はのんびりダンジョン散策と行こう。
◇ ◇ ◇
それから、山の中でタイドグラスを採取しつつ、シママネキのいる沿岸へと向かった。
海に近づくにつれて、山の中にも少し漂っていた磯の香りが強くなる、と思いきや……。
──ギチギチギチギチ。
「す、すごいな……」
「カニさん、めっちゃいるし」
目の前にいる大量の大きなカニを前にして、俺達は呆れていた。
もうめちゃくちゃだよ、ひしめき合い過ぎていて磯どころかカニの匂いしか感じない。
シママネキの体高は大人の腰程度、爪を振り上げて威嚇のポーズを取ると背丈ほどに。
つまりデカい。
「ポチ、クロスボウって貫通する?」
「ォン」
バシュッ。
「ギッ!?」
甲殻の厚みもかなりのものになって、倒すのがやや面倒かと思ったが、俺の予想に反して、ポチの放ったクロスボウの矢はあっさりと固そうな甲殻を貫通した。
「ギチギチ、ギギギ……ブクブク……」
ぶくぶくと泡を吹いてしぶとく生きていたようだが、しばらく時間を置いたのちに、シママネキは時間が止まったようにドロップアイテムを落として動かなくなる。
ポチに渡してある武器の攻撃力が相当高いから、相手の防御とか関係なしっぽい。
「普通に倒せるっぽいな。よし狩っていこうか」
いつも通り、ポチは遠距離からの狙撃で、俺とゴレオは近接戦闘。
コレクトとジュノーは応援である。
「よっ、ほっ!」
最近魔物との戦いはポチ達に任せっきりになっていたが、さすがに百を超える大軍を前にしては、サボるわけにもいかない。
カニのハサミ攻撃を盾で防ぎながら、とにかく剣でカニの飛び出した目の部分を叩く。
弱点かどうかは知らないけど、大抵の動物なら弱点だろうってことで、そこを狙うのだ。
目を狙う、これぞ知恵に秀でた人類の特権だな!
そう意気込んで剣を振るうのだが、俺の剣は狙いを外れてカニの頭中央に命中した。
「あっ、やば」
「ギッ!?」
しかし、頭を叩いただけでカニはぶくぶくと泡を吹いてあっさりと死んでしまった。
「あれ、一撃?」
特にすっぱり斬り裂くことも、甲羅にめり込むこともなかったのに、一撃だった。
なるほどそうか、特殊強化の攻撃力ブーストによって、俺の武器攻撃力は店で売られている通常の武器の約八倍くらいに上昇しているから、即死したのだろう。
八人から寄ってたかって攻撃を受けているようなもんだから、さもありなん。
「ギチィッ!」
「ひょぱわぁっ!?」
呑気に剣を見ながらそんな考察をしていると、足元に寄って来ていた別のカニのハサミが俺の股間にクリーンヒットしていた。
挟まれちゃう、と思った時にはすでに挟まれていて、なんだか鈍い感触が股間に走る。
そこは男の弱点。弱点を狙う知恵こそ人類の特権とか調子こいたバチが当たったのだ。
息子、終わった……と、一瞬頭が真っ白になったのだが。
「……あれ、痛くないぞ?」
なんと俺の装備の防御力(VIT)を、カニは超えることができなかったらしい。
よかった……と、心の底からホッとした瞬間だった。
やっぱり基本は防御からだろうってことで、装備の強化も潜在能力も全てVITを優先して整えてあるのだが、その効果が今になって発揮された形である。
いや、俺の作ったパンツ装備が、全ステータスが30%もアップする神のパンツだからってのもあるかもしれない。きっとそうだ。
「はあ……デリケートゾーンの防御はこだわり抜いておいて良かった……」
文字通り、俺のパンツは勝負下着ってこと。
「トウジ、さっきから何をブツブツ独り言呟いてるし?」
「いや、さっきカニに股間挟まれてさ……」
「えっ、ちょん切れちゃったし!?」
「いや、神のパンツ穿いてるから大丈夫だった。命拾いした」
「えー、良いなあ神のパンツ、あたしも欲しい!」
「今度作っといてやるよ」
女の子のパンツを作っといてやるよ、とはなんともセクハラちっくな発言だが、相手はダンジョンコアだから別に良いだろう。そもそもこいつ穿いてないから、あぶねえ。
「つーか、もうこれ素手でも倒せるんじゃないか?」
試しにチョップしてみると、カニは死なずにピクピクと生き残っていた。
それなりのダメージは入っちゃいるが、それでも一撃殺とはいかない。
「こなくそ!」
攻撃を食らっても大したダメージにならないのは知っているので、そのまま挟まれつつ、もう二回ほど同じ箇所にチョップを入れると、ようやく倒すことができた。
ゲームでもそうだったが、やはり武器を持って攻撃しないとあまり意味がないっぽい。
でも、強化し過ぎて全身凶器人間みたいになってしまったら、それこそ日々の生活が不便になるので、これはこれで良かったと思うべきだろうな。
「それにしても……うーむ……」
「トウジ、どうしたし?」
「いや、俺もそれなりに強くなってるんだなって思ってさ」
「……ああ、まあポチとゴレオに比べたらまだまだだし?」
「そりゃな……」
あいつらは装備の必要レベルっていう制限が取っ払われているから、チートである。
それと比べられると、俺なんか霞むのだ。
「一般的な同じレベルの冒険者よりも強い、それだけで良いんだよ今の俺には」
「自分で自分を慰めて、悲しくならないし?」
「ぐっ……言ってはならんことを……」
そうやって自分を褒めてあげることで、この世界でもやっていけるって自信に変えるんだ。
あまり自分を下に見過ぎると、なんだか鬱っぽくなってくるからね。
「なら、褒めて欲しいってことだし?」
「お前さ、俺の話聞いてた?」
「あたしが褒めてあげよっか? よしよーし!」
「うっぜ」
俺の頭に飛びついてわしゃわしゃと髪で遊び出すジュノー。
うざいとは思ったが、それでも少しだけ気持ちが楽になった。
「よし、引き続きカニ狩り頑張るぞ」
「おー!」
「アォン!」
「そんでもって、今夜はカニパーティーだっ!」
今回、俺がシママネキの討伐依頼を受けた理由の大半がこれである。
◇ ◇ ◇
「今日もなかなかの成果だなあ」
夕暮れの磯辺で、インベントリ内に保持した今日の狩りの成果を確認しながら独りごつ。
羽虫、極彩蝶、シママネキ。
これらの魔物は群れる習性を持っているからか、大量に狩ることができ、獲得したドロップケテルが想像よりも多くてニヤニヤが止まらない。
ロック鳥のサモンカードも無事にゲットできて、この島に来て本当に良かった。
「トウジ、すっごく嬉しそうにしてるけど、何か良いのあった?」
「ん? あったよー」
ジュノーが俺の顔を覗き込んでそんなことを言うもんだから、見せびらかしてやろう。
「サモンカードも嬉しいけど、何よりこっちのアイテムの方が超絶嬉しいんだ」
「……何それ? 槌?」
「そう、限界の槌ってアイテムだ」
「……? それの何が嬉しいの?」
矢印に柄をつけたような槌を目にして、首を傾げるジュノー。
「やれやれ、まったく価値を知らない奴はこれだから……」
「なんかムカつくし! むがー!」
さもありなん、この世界には存在しないアイテムだからな。
実は、シママネキには集団の中で一番強い個体をボスとするって習性が存在していた。
そのボスに従って、巣を形成し繁殖を行うのである。
さて、ボス指定の個体からドロップするレアアイテムのことをご存知だろうか?
それこそが、限界の槌と呼ばれる装備の強化回数を増やすアイテムのことなのだ。
「ボス系の魔物なんてなかなか遭遇しないから、これの量産は諦めてたんだけどさ……」
シママネキはボスが倒れると、次に強い個体が自然とボスに昇格する。
つまり、ボスっぽい奴を優先して倒すことで限界の槌の量産が可能となったのだ。
「……何言ってるのかよくわかんないけど、とりあえず良かったね」
「うん、理解されないとは予想してたけど、とりあえず良かったよ」
とにかく限界の槌というアイテムがあれば、俺の装備はさらに強くなる。
ビバ強化。やっぱりゲームの醍醐味ってのは、いかに強くなるかってところなんだ。
「パンケーキじゃないなら、どうでも良いし~」
「俺が強くなって稼げると、パンケーキの材料もたくさん買えるようになるんだぞ?」
「えっ! やったー! その変な形の槌万歳だし!」
チョロいな、こいつ。手のひら返しがすご過ぎてねじ切れんばかりだぜ。
この手のシママネキのような魔物は今後出会えるかもわからない、故に。
「残り四日間をフルに使って、カニ狩り祭りをするっきゃねえようだ」
「カニカーニバルだし!」
この島から駆逐するレベルで狩って狩って狩りまくるんだ。
「ォン」
ジュノーとハイタッチしながらウキウキルンルンで過ごしていると、ポチが呼びに来た。
どうやら飯ができたようである。
ポチに案内され焚き火まで向かうと、鉄網の上でシママネキの巨大なハサミが、パチパチと音を立てて焼きあがっていた。
「うおおおお、良い匂いだな!」
「わぁー! 美味しそうだし!」
焼きあがるカニを見て、その香ばしい匂いを嗅いで、テンションが急上昇する。
カニなんて久しく食べてないぞ。
ちなみに、シママネキの巨大な体を分解したら、デカい甲羅とデカいハサミの他に、普通の食べやすい大きさのカニ身が部位ごとにランダムで手に入るのだが、やっぱりこの大きさのカニを豪快に焼いて食してみたい。
味わう方法は、やはりシンプルイズベストの焼きガニ方式である。
「アォン」
ポチは、パインのおっさんから譲り受けた耐熱性の調理用手袋で、真っ赤に熱せられた巨大なカニのハサミを焼き網から取り出すと、皿に載せて俺の前に差し出した。
「さあ召し上がれってことなのはわかるけど……どうやって食べようか……」
火元にずっと置かれていたカニのハサミは、見るからに熱そうである。
でも、殻の向こう側には魅惑のカニの身があるのだと思うと……ああくそ、早く食べたくて今にも飛びついてしまいそうだった。
絶対に火傷をしてしまうと頭では理解している。近いのに遠いとはこのことである。
「トウジ! 早く食べたい! 早く食べさせろし!」
「待てって、絶対熱いだろ!」
だがしかし、冷ましてから食うなんて言語道断。
「しゃーねえ、その辺の石で叩き割るか!」
「待つし、トウジ! さっき槌ゲットしたし? それで甲羅を砕くし!」
「おお! って……良いのか? 一応強化用のアイテムなんだが……」
まあ良い、カニ身を叩き割ったとして、カニ身の強化回数が増えるなんてことはない。
ここは食欲に任せて限界の槌を使ってカニの甲羅を叩き割りましょう。
「うおおおお!」
カンカンカンと叩き割っていくと、赤い殻の中から真っ白な身が湯気を立てて出現した。
濃厚で、強烈な香りが鼻を通って脳にダイレクトアタックをかましてくる。
「うおおぉ……」
純白の身が俺を呼んでいた。スプーンでほじって熱々の身を一口食べてみる。
「あち、あち……う、ううううまい!」
やや食べづらいのだが、そんなこともうどうでも良いってほどの味が押し寄せて来た。
大きさから大味を想像していたのだけど、大胆かつ繊細な絶品味である。
「カニって良いな、やっぱりカニって最高だな、おい」
パインのおっさんの丼もの屋で食べた海鮮丼のエビも美味しかったけど。
磯辺の焚き火で豪快に焼いたカニは、また一味違った感覚があった。
「あたしにも! あたしの皿にも盛ってよ、トウジ!」
「はいはい」
ジュノーの分も、身をほじくって皿に盛ってあげる。
「うまぁっ! うまうまんま!」
「クエックエッ!」
コレクトも、ジュノーの皿にある分を一緒に突いて食べていた。
あまりの美味しさに、二人とも一心不乱になって、カニを食べ進める。
「まだたくさんあるから、ゆっくり食えよ、二人とも」
――まぐまぐまぐまぐ!
聞いちゃいねえ……。
「まあ良いか。ほら、ポチも一緒に食べようぜ」
「アォン」
俺もポチを膝に乗せて一緒にカニ身を味わうことにした。
落ち着いて食べようと思っても、ほんのり塩気が絶妙で、ついついガッついてしまう。
隣に座るゴレオは、こういう楽しみを味わえないからすごく申し訳なくなるんだけど、俺達が美味しそうに食べてるのを見るだけで、幸せだってさ。
くう、相変わらず心優しきゴーレムかよ……。
「つーか、かなり大量にカニあるけど、さすがに毎日食べるのも疲れるな……」
「アォン!」
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帰ったら分けてあげよう。
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