上 下
511 / 682
本編

779 誰がなんと言おうと大団円

しおりを挟む

「右手の邪竜のことは、後で説明するよ」

 ……自分で言っといてなんだが、中二かこれ。
 まあいい。
 今、目の前にあること、いる奴に集中しろ。

 アイシクルミントの効果がどのくらいもつのか。
 それは全くわからないんだからな。

 HPは……うーん、お互いにミリ単位である。
 憤怒ことヒューリーは、憤怒の効果で減少中。
 俺は、攻撃食らって半死半生のまさに極限だ。

「見ろよ」

 割れたアイシクルミントの破片が辺りに散らばっている。
 確かな清涼感が辺りに立ち込めている。
 このなんとも言えないシリアスな雰囲気を緩和してんだ。

「……」

 黙ったままの憤怒に、なんとなくそれっぽいことを言う。

「す、すげぇ綺麗だよな」

 こ、交渉人とか言ってたけど、豪語してたけど。
 正直こっからどうやって話せば良いのかわからない。

 な、何話しゃいいんだっけ。
 暴食の時、俺は何をやってたっけ。

 記憶を辿る。
 ……な、何もしてねえ。

 腕喰われて、キングさんに頼って。
 やばいところでパインのおっさんが来た。

 交渉とか、したことねーぞおい。
 やばい、どうしよう。
 と、とにかく落ち着いている状況で何か。
 何かを言わなければ。

「す、すげぇ綺麗っすね、アイシクルミント」

「……トウジ、それさっき言ったし」

「……」

 し、ししし、知ってるし。
 言った本人なんだからわかってるし。

 なんか知らないけど。
 後ろで見ているジュノー、そしてイグニールたちの視線が痛い。

「くっ、愛娘がわざわざ危険を冒して取って来たんだよ」

 マジで頼むぞ。
 回復阻害でポーション使えないんだから、マジで。

「アイシクルミントなら、お前の正気を取り戻せるかもってな」

「……」

「死ぬかもしれない状況で、お前を助けるって宣言してんだわ」

 でもって、俺は何しにここに来た?
 そりゃ手伝いにってことだな。
 だったら、最後はあいつに任せるしかない。

 憤怒の強烈な魔力も、今は収まっている。
 今だったらかなり近くで安全に話せるだろう。
 うん、それがいい。
 一刻も早く俺はこいつから離れて安全圏へ。

 そうしないと、マジで今回ばかりは死ぬ。
 HP1だし、回復阻害だし。
 キングさんの無敵時間は一撃受けてから発動する。
 すなわち、HP1だったら普通に逝っちゃうのだ。

 そうと決まれば話は早い。

「ラブ! 後はお前が話した方が良いよ」

「ッ! わ、わかったのじゃ!」

 さっさとラブを呼んで、親子で語らってもらうことにした。
 この間も長く沈黙を続ける憤怒。
 心の中で、必死に抗っているのではないかと思えた。

 あの時の、暴食と同じように。
 呪いにも似た憤怒の衝動に抗っている。

「俺ができるのはここまでだ、後は親子でゆっくり話せ」

 憤怒の襟首から手を離して、ラブとバトンタッチ。

「トウジ……」

 駆け寄って来たラブは、すれ違いざまに言った。

「……ありがとう、なのじゃ」

「うん。終わったら飯でも食おうぜ? パパさんも入れて」

 幸い、ここにはとびっきりの料理人が二人も揃っている。
 パインのおっさんと、ポチだ。
 面倒ごとが終わったら、みんなで団欒するってのがうちの定番。

「こういう時は、美味い飯を食いながら過ごすの一番だ」

「ラブちゃん! 美味しいデザートあるから! 待ってるし!」

「うん! 後はわしがパパを戻すのじゃ! しばし待っとれ!」

「俺も戻るまで1日かかるし、ゆっくり過ごしてくれ」

 そんな訳で、えっちらほっちら俺もみんなの元へと戻る。
 呆れた表情をしていたみんなも、なんだか笑っていた。
 俺の選択は、これで合っていたんだな。

「とりあえず、なんだか良い感じにまとまったわね?」

「……イグニール、あれって良い感じだし? 無理やりじゃないし?」

「ぐっ」

 誰がどう見ても良い感じだろ!
 余計なこと言うなよ。
 せっかく演出して醸し出されたイイカンジ感が薄れる。

「まっ、なんでも良いってことよ。とりあえず飯の準備すりゃ良いんだな、俺は?」

「ええ、お願いします」

「おう任せろ。今日手に入れたアイシクルミント使って、とびきりのもん作ってやる」

「ポチも召喚しておきますね」

「おう!」

 キングさんを戻して、ポチを召喚した。
 今回は本当に助かりました、キングさん。
 不完全燃焼ですが、おやすみくださいませ。

「よしポチ公! 俺たちは料理つくるぞ! 大急ぎで特製オードブルだ!」

「アォン!」

 キッチン系も大きくなってしまっているのだが、パインさんがもってるからなんとかなった。
 食材もパインさんがもってるし、やっぱりおっさんは頼れる人だ。

「そう言えば、いつの間にか巨大化解けてるけど……」

「え?」

 イグニールの疑問に、なんとなく感じていた違和感を思い出す。

「た、確かに……」

 体大きいはずだったのに、いつの間にか小さくなっていた。
 襟首持つ、とか。
 大きかったら、普通つまんでるはずなんだよな?

「まあ憤怒の効果で俺のバフが弾き飛ばされたんだろ」

「そ?」

 じゃなきゃ、ペナルティが解ける意味がわからない。
 1日はでかいままかと思っていたが、都合がいい。
 大きいままだと移動とか諸々面倒だからね。
 でも、ペナルティがつく秘薬系は飲まないでおこう。

「……ひどい怪我ね」

「え? あ、思い出したら痛くなって来たかもしれん」

 左足無いは、右手は焼けただれてるわ。
 くそ、ポーション使えないからやばいぞ。
 熱とか寒さの環境ダメージは、装備とアイシクルミントで無効化。
 後は、火傷を負った場合のダメージだけど。
 霧散の秘薬を1日1回必ず飲んでるから、その辺は全部無効化。

「あっ」

「ん? 何よ? どうしたの?」

 ペナルティ、無い。
 つまり、秘薬の効果が切れている可能性があった。

「やばい、死──」






=====
トウジはいったいどこから戻っていたのか。
しおりを挟む
感想 9,833

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。