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本編

747 知らない間に。

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「あれ、良いのか? こんなに簡単にすんなりと」

「実利で考えろ」

 ガレーは鼻で笑いながら続ける。

「友達じゃなくてもお前の側に着く方が誰だって良い」

「俺の言い方も悪かったけど、お前もお前だよなそれ」

「ふん、仕返ししたくなっただけさ」

 キザったらしく言いながら、ガレーはさらに続けた。

「トウジ、お前が一番迷惑がかからない方法を俺は選ぶ」

 そして、と力強く、まっすぐの視線で。

「できるところで友人として、力になるだけだ」

「ぼ、僕もです!」

 話の流れに前のめりで乗っかったノード。
 そんな彼の肩をガレーが抱えた。

「トウジと出会って、ノードと組んでから、俺は一つ気が付いた」

「どうした急に」

「いや、気付かされたというか、自ずと、理解するようになった」

 何やら大事そうなことなので、俺も真剣に耳を傾ける。

「──人は、力だ」

「……人は、力か」

「そうだ。俺はあの時、独りよがりな部分で周りの反感を買った」

 そこで、俺やイグニールの話を聞いて大きく納得した。
 そして、自分の歩んできた道を一つ振り返った。

「そのあとだ。ノードと組むようになり、急がば回れのやり直し」

「うん」

「色々な困難があったが、こいつと二人でともに乗り越えてきた」

 あのゴブリンに捕まった騒動から、他にも。
 俺の知らないところで色々な出来事があったらしい。
 ガレーとノードが主人公の物語ってやつ。

「力になってくれる友が側にいる。それがどれだけ心強いか……」

 パーティー活動を繰り返すことで、頭ではなく。
 より感覚で、心で、支え合うという言葉の意味を理解した。

「だから、例え戦力として数えられなくても、俺たちがついてる」

「ガレー……」

 変わったな、マジで。

「困難が差し掛かった時、もうダメだとくじけそうになった時。そういう時は、パートナーが必要だ」

「そうね」

 一度失敗したからこそ、ガレーの言葉には重みがあった。
 イグニールも、俺の手を強く握りしめながら頷いている。

「そんなわけで、俺から改めてこの言葉を送ろう……トウジ、イグニール、俺の友、結婚おめでとう」

 ガ、ガレー……!!
 なんだこいつ、めっちゃ綺麗な目をしている。
 話の流れが急展開して祝われてしまったのだけど。
 何これ泣きそう。

 ぶわっ。
 なんか近場でそんな音がした。

 俺の目に涙はない。
 隣に座るイグニールも、特に泣いてはいない。
 聖母のような視線をガレーに送るだけ。

 じゃあ、誰だ?
 と思ったら。

「ガ、ガガガ、ガレーさああああああん!」

 ノードが泣いていた。

「お? 俺はこいつらを泣かしにかかったのに、なんでお前が泣いてるんだ!」

「がれーざんの口がらぞんな言葉がぎげるなんでおぼっでなぐでえええええ!」

「まあ、俺もお前と組んで色々と変わったんだ。……これからもよろしく頼む」

「んばぶい」

「何言ってるかわからんし、めちゃくちゃ汚いぞ……色々と汁溢れまくり……」

 さて、祝いの言葉ももらったし、話を進めよう。
 力になれる方法なんて、戦力だけじゃない。
 ガレーの言う通りである。

 離れていても、何かしらで力になってくれている仲間がいる。
 応援してくれている友達がいる。
 それで十分じゃないか。

 思い返すと、俺はこの世界に来て恵まれてるな、なんてね。
 少しくらいのカルマはこれで帳消しになるのかもしれない。
 むしろ背負ってなんぼの宿命だ。

「イグニールはトウジのことばっかり考えてるから、ストレスを与えないようにしようとか思ってそうだが……」

「……な、何よいきなり。なんなのよ。怖」

「男は背負ってなんぼ。どんどんトウジに押し付けていって良いだろう。今までも、そしてこれからもスローペースな関係性が続いていく可能性を考慮すると、もういっその事ここいらでペースアップして子供を作れ!」

「それは話が飛躍しすぎだって」

「いいや。そうじゃないとなんか色々ともどかしいだろ! 俺はわかるぞ! お前らを見て来た、関係している奴らは全員が早くしろとか爆発しろとか良い加減にしろとか思ってるはず! これは総意だ!」

 いやそもそも背中を押されたとしても、俺の息子がなあ……。
 うんともすんとも言わないんだよなあ……。
 異世界に来てからからっきしだったし、特に不便はない。
 だが、それが逆に歯がゆいのだろうか?

「とりあえず冒険者業は一旦やめだ! トウジのところでお世話になる。だが、然るべきお金は頂くけどな!」

「ちょっとガレーさん! お金の話だなんて意地汚いですって!」

「大事だろうが! でも本気でやるんだぞ! 冒険者業以外はよくわからんが、商会の売り子でもすりゃ良いのか?」

「ああ、お金については問題ない」

 ガレーの能力ならば、なんだってうまくいくだろう。
 問題はノードだが……。
 こいつを側につけるとガレーが頑張りそうだから一緒にしておく。

「業務内容だけど。それはギリスに向かってから追って話す」

 ちゃっちゃと話を進めていると。

「あのー」

 ずっと置いてけぼりにされていたレスリーが手を挙げた。

「そうか、すまん。受付の立場だといきなり冒険者やめさせるって話は厳しいものがある?」

「いえ、そうではなく。私もその辺乗っかってトウジさんの商会に転職して良いですか?」

「お?」

 思わぬところからの申し出。
 レスリーがやり手の受付嬢だと言うことは知っている。

「俺としてはもちろん良いんだけど、ギルドは大丈夫なの?」

「ええ。トウジさんがお金出してるところ、存じてますし」

 耳が早いな。
 さすがレスリー。

「敏腕受付嬢も転職したいとは、トウジの商会って結構でかいのか?」

 ガレーの問いかけにレスリーが答える。

「噂を耳にしてないんですか? クロイツが国家予算をかけてまで整備してる空港のこと」

「く、空港? こ、国家予算? クロイツ? ど、どう言うことだ?」

「どどど、どう言うことでしょう?」

 眉をあげるガレーとノード。
 ふはは驚け。
 さらに、こいつらに働かせる場所は空港とか生易しい場所じゃない。
 マッドサイエンティストの管理だ。

 毒をもって毒を制す。
 ガレーの毒気は多少失われたが、仕事に関しては良い感じの毒に仕上がっている予感。

「新たな輸送手段として、各々の国の上層部に話が行き届いてますよ? その筋では有名です」

「えっ? そんな話まで? それ俺知らないんだけど」

 極秘じゃないのか?

「ええ……トップにいる人なのに、何も知らないんですか?」

「う、うん……」

 ただ金だけを無尽蔵に出してるだけだしな。
 しかも厳密にはトップではない。
 トップはマイヤーとオカロである。

「ギリス、クロイツ、トガル、ストリア。この四カ国を空で結ぶ飛空船。かねてC.Bファクトリーがやろうとしていた計画を、トウジさんのところは誰よりも先に超速で成し遂げようとしてますからね。そしてゆくゆくは全ての国にまで空路をつなぐらしく、各国のギルドの方も我先に我先にと誘致をしている状況です。冒険者ならば他国の町やらダンジョンまで格安で行けるように得点をつけて欲しいとか交渉中でもあります」

「はえー」

 俺の知らないところで、飛空船事情がめちゃくちゃ規模拡大しているようだった。
 4カ国だけかと思ったけど、結局全世界になっちゃいそうなレベルである。

「確実に成功することが約束されているようなもんですから、それに最近雑用のバカがしつこくご飯に誘ってくるので、いっそのことギルドをやめてしまおうと思ってたんですよ」

「なるほど……」

 雑用のバカって、やっぱりあいつのことかな?
 まあいいや。
 レスリーの能力もガレーと近しいものがある。
 その能力を俺は買っているので二つ返事でオッケーだ!

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