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本編

739 圧倒的強者

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「よし、ここまで来れば一先ず問題ないだろう」

 グリフィーに乗り、キモキバくんを連れて数十分。
 サルトから東にそびえる山脈の奥へと、たどり着いた。

 懐かしい空気、景色。
 と感じないこともない。

 まあ、空から眺めるような機会は多くなかったしな。
 前来た時は、みんあで地中深くに向かったからね。

「近くに水場あったよな」

「ガル」

 頷くグリフィー。
 よし、地の利は完全にキングさんにある。

「はあ、はあ……テメェ……」

「暴れ散らしてすっかり息が上がってるな、キモキバくん」

「その名前で……呼ぶな殺す!」

「いいや呼ぶぞ。俺もお前から色々と奪うつもりだからな」

 奪っていいのは奪われる覚悟を持つもののみだ!
 ちなみに、こいつは俺に攻撃を仕掛けた。
 腕に一回噛み付いて回復阻害攻撃を入れて来た。

「その分は精神攻撃であと七回分くらいだから覚悟しろ」

「一回だろーがよ!」

「ガキか。一回は一回とか、状況と重みを考慮しないと」

 もっとも、簒奪するようなスキルは持っていない。
 だから奪えないという絶対的な不利が存在する。

「そのハンデはでかい。めちゃくちゃお前に有利」

 だから。

「追加で100回、お前の顔面をフリーで殴らせろ」

「頭おかしいんじゃねーの!」

「頭おかしい奴を相手にする時は、自分もおかしくなるのが手っ取り早いよ」

 鉄則だ。
 パニックに、カオス的状況に陥った時である。
 誰からその状況を置き去りにするような。
 さらにとんでもない状況を作り出せば、周りは冷静になる。

 うまい言い方だと、毒をもって毒を制す。
 もしくは、骨折したらかすり傷とか痛くないよね理論。

「それだともっとパニックになるだろ、てめえバカか?」

「状況を悪化させない部類に限って、通用するって話なんだけど」

 はあ、とため息をついて言う。

「そこまで読み取って会話しようね、キモキバくん」

「テメェ……殺す!」

「はい殺せません」

 こっちに来たら、速攻斥力使って引っぺがす。
 近接攻撃メインタイプだったら、近寄らなければ的だ。
 さらに数で圧されない対一状況だと、滅法強い。

「殺してみろ、奪ってみろ、奪えるもんならな」

「ふぐあああああああああ!」

 展開的には、聖人戦に近い。
 あとはぶん殴って決着だが、正直聖人より強いと感じていた。
 引力使った一人カウンター攻撃の中を食いつかれたら困る。
 何やってくるかもわからんからね。

「グリフィー交代、キングさん」

「プルァ!」

 故に、念には念を入れて無敵持ちのキングさん召喚だ。
 ここでこいつは俺が倒すとか、そんなことは言わない。
 あとが控えてんだ、さっさとケリをつけよう。

「キングさん」

「プルァ」

「こいつは野放しにしておくと周りの人を巻き込むタイプだ」

 快楽殺人犯のように、な。
 ビシャスやグリードの勢力だから、色々と聞き出したい情報もある。
 だが、そうなると手札の切り合いみたいになりかねない。
 少しの不安要素も残すことがない方法は、一気に倒すただそれだけ。

「瞬殺で」

「プルァ!」

 指輪のスキルを連続で使用する。
 引力、斥力、引力、斥力。
 大きく揺さぶりをかけていると、キングさんのサイズが変わった。

「くっ、それがテメェのスライムキングかあ?」

「そうだよ」

 高級巨人の秘薬の力で、王冠含めて25メートルクラスに膨張。
 そこから一気に普通のスライムにシェイプアップする。

「おもしれぇ技持ってんのなあ!」

 グレイトキング状態ではないキングさんの本気モード。
 それが、小さなキングさんである。
 体内に保有する水分を、全て全て、凝縮したその形。

「欲しい、欲しいぜテメェの中にある核ゥ!」

 まるでお目当のおもちゃを見つけた子供のように。
 爛々に目を輝かせたキモキバくん。

「プルァ」

 キングさんは、欲しいならば力ずくで来い。
 とばかりに一言つぶやいて、一気に前に跳躍した。

「──ッ!?」

 跳躍の勢いで、地面がめくれ上がった。
 目の前には音速の壁。
 風圧で木が根こそぎ持っていかれる。

 ゴゴゴゴゴ──ッッ!

「なんだこの音」

 振り返ると、山が一部崩れていた。
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