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本編

723 ダンジョンコアの気持ち

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「ジュノー、こんなところにいたのか」

 貴族が住む区画からだいぶ歩いた先の公園にジュノーはいた。
 草むらの中で、パンケーキを載せていた皿の上に体操座り。
 パンケーキはすでに食べ終わっているようだ。

「……」

 俺をプイッと無視するジュノー。

「飴食べる?」

「いらない!」

「あっそ、なら俺が食べるわ」

 ヘソを曲げているようなので、俺が飴を口に放った。
 なんか適当に話とかするんだろうな、と思う。
 しかし、ジュノーはこう言う関係性とか……。
 そこまで深く知っているのかどうかわからない。

 女子会と称して、何かしらの知識を得ているのは分かる。
 だが、それは言われたことをそのままやっている。
 ただそれだけなのではないか、と思うのだ。

「あーうま! 飴ちゃんうまぁー!」

 ひーひー言いながら転げてみると。

「じー……」

 ジュノーの視線がまっすぐ俺を向いていた。
 そしてボソッと一言。

「……ひくわー」

「……」

 笑ったかな、なんて思ったらすっごい蔑んだ視線をいただきました。
 これには俺もびっくりだよ。

「トウジ」

「ん?」

「飴ちゃん頂戴」

「おう」

 小さな飴をジュノーに渡すと、両手に持って抱きかかえていた。
 ベタベタしそうだけど、まあダンジョンコアだしな。
 俺はジュノーの隣に腰掛けて、とりあえず一緒に飴を舐めた。

 ちなみに、場所は公園の植木の横。
 ピクニック……では無いな。

「あのね」

「うん」

「あたし実は結婚とか好きとかよくわかんないんだし」

「まあ、それは薄々気づいてたけど」

「それでね、話聞いたままに色々試してたんだけどさ」

 ジュノーは「うーん」と首を傾げながら続ける。

「いまいちピンときてなかったんだし」

 俺は、ジュノーの話を黙って聞いていた。
 珍しく、真面目に長々と話すジュノーだからである。

「でもね、イグニールと結婚したって言われて……胸がね、きゅってして」

「うん」

「わかんないけど、嫌だなって思っちゃったし……」

 声が震えて来て、ジュノーの目から涙がぽろぽろと溢れた。
 それを見ると、俺もすごく胸を締め付けられるような気持ちになる。

「トウジごめん……勢いで変なこと言っちゃったし」

「いいよ」

 ジュノーの抱いてる気持ち、理解するとまでは言わない。
 でも、察することはできるんだ。
 俺はその想いには答えられんが、大事には思ってる。
 それを伝えよう。

「ジュノー、パンケーキの約束覚えてるか?」

「うん、覚えてる。トウジのところに押しかけた時だし」

 ああ、あれやっぱり押しかけたって判断でいいのか。(※3巻収録)
 ともかく、話を進めよう。

「ダンジョン作る代わりにパンケーキ」

「うん……でも、もうそれ関係なしにパンケーキ食べてるし……」

 確かに。
 それもそうだけど。

「この約束がある限りずっと一緒ダンジョン作ろうぜ?」

「なんか、それしか存在価値ないみたいだし! もー!」

「まあ、保険として最終的にはその約束があるってことだな!」

「回りくどいし! 結局なんだし!」

 飴を投げつけるジュノーである。
 地味に俺よりレベル高いから、本気で投げつけられると痛い。

「実際はさ、もうジュノーって家族みたいな存在なんだよ」

「……家族」

「みたいなって言うか、家族だな!」

 俺は言葉を続ける。

「今更どっか行くとか、みんなが心配するって」

「そっか、ごめん……」

 ジュノーは自分の目をぐしぐしと袖で拭って笑った。

「結婚っておめでたいことなんだし?」

「うん」

「なら、おめでと!」

「ありがと。あと、今日はポチにケーキ作ってもらおうぜ?」

「えっ! ケーキ良いの? わーい!」

 いつもの笑顔に戻ったジュノーは俺のフードに飛び込んでくる。
 俺とイグニールが夫婦になったとしても、この場所は変わらない。
 俺だって、フードのジュノーを邪険にするつもりはない。

 うっとおしい振りはしてるけど。
 急にいなくなると、それはそれで寂しく感じるのだ。

「よし、帰るぞ」

「うん!」

 皿を回収しインベントリに戻して帰路につく。
 その折、耳元でジュノーが呟いた。

「ねえ、昨日の夜って初夜したの?」

「……は?」

「初夜するんでしょ? 何するか知らないけど、何したし」

「……」

 困ったな、なんと答えよう。
 正式には初夜ってない。
 同じベッドで寝る、ということまでは発展した。

 しかし、図鑑の連中が見てるんだよ。
 俺の目を通して見てるんだよ。
 いやあいつらは別になんとも思ってない気はする。
 でも俺のテンションがそこで萎えたと言うか……。

 とりあえず。
 子供を作るのは、もう少し先の方向でってことにした。

 ほら、もし子供ができちゃったら?
 妊娠期間、旦那さんが側にいてサポートしてないとダメだろ!
 その時過ごした時間ってのが、奥さんにとっては大事。
 ネットにはそう書かれていたような、そんな気がするのだ。

 俺が動けなくなると色々と遅れが出てくる。
 故に、まだなのである!

「と、とにかくまだだよ。うん、まだまだ先の話かな?」

「へー、で、何するし? 初夜って何? 初めての夜? 意味わかんなくてちんぷんかんぷん」

 ほ、本当にちんぷんかんぷんなのか?

「色々と忙しい身だから、落ち着いてからだな……まあ、何かはイグニールに聞けよ……」

 その辺の説明はイグニールさんお願いします。
 俺には無理です。
 語れるほど経験ないし。

「わかった後で聞いとく」

「そ、そうしてくれ……」

 何を聞くのだろうか。
 いったい何を聞くのだろうか。
 そして聞いて理解できるのだろうか。

 全くもって謎な存在。
 それが、ダンジョンコアという生き物だ。

「あっ、後もう一つあるし」

「今度はなんだよ……」

「バニラ、いつ取りに行くし」

「あー……落ち着いてギリス戻った行くか……」

 忘れていたぞ、バニラの件。
 タリアスにあるんだよな?
 色々と他に欲しいものができ過ぎて、そっちを優先しまくっていた。

 良いでしょう良いでしょう。
 タリアスには良い温泉もあると言うし、ハネムーン感覚だな!
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