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本編
707 ゲス親子
しおりを挟むフェアリーが密集隊形を組んで、下に向かって放たれた魔力収束砲の支援を開始する。
キャノンにレーザーが合わさって、ブラストみたいな感じになった。
──ズオオオオオオオオオオオオオオオ!
望遠鏡で確認すると、特大の魔力収束砲は予定通りキングさんが作った受け皿に収まる。
大聖堂をぐるっと取り囲む水柱の外側で、その様子を呆然と見つめる司祭や民衆がいた。
厳密にいうと、呆然としているのかはわからない。
しかし、あの状況だから呆然とするしかないだろうなってことは理解できるのだ。
「よし、とりま行ってくるぜ」
ジュニアが面倒くさそうな声でドアを出現させて、そう言う。
「え、ドア出せるの?」
「は? 出せるけど何だよ、知ってただろ」
「いや、高度的に出せないのかなってさ」
「ならどうやって降りるんだよ?」
「飛ぼうと思ったら飛べるんでしょ?」
「この高さをいちいち下まで降りる面倒臭さ考えたことある?」
疑問形の応酬だった。
てかジュニア、なんか言い方キツくない?
ちょっとパパ悲しいよ。
親の気持ちが少しだけわかった気がした。
「敬語使えよ!」
「いきなりなんだよ! 今更だぞそれ! マジで鬱陶しいな!」
俺を煙たがるジュニア。
話を進めるためにざっと説明するが、ドアで適当な裏路地へ向かうそうだ。
「ならば、俺も状況を確認するために見に行かせてもらうことにするかな」
変身の秘薬を飲んで、いつだか変身していた神官に成り代わるのだ。
「いや、お前そんなものがあるなら、俺必要なくね?」
「ダメだな、この神官はすでに破門されるくらいヤバイ感じで使ったから目立てないんだ」
「チッ」
俺の言葉に、ジュニアは露骨な舌打ちをしていた。
でも、言い訳ではなく、マジで邪神教的な立ち位置にしたからね。
仕方のないことなのです。
「もう良いや、行こうぜ」
「うん、行こう」
「私はここで船を見ておく」
飛空船をロイ様に任せて、俺とジュニアはデプリ王都の裏路地へと降り立った。
ドアで簡単に移動できるとか、やっぱりダンジョンコアはチートである。
変身の秘薬を飲み神官に変身しながら、気になったことをジュニアに尋ねる。
「てか、ジュノーは自分のいる地点からダンジョンにドアをつなげることしかできないけど」
「うん?」
「ジュニアは、ダンジョンから外に向かってドアを繋げられるんだな?」
今更ながら、そう思った。
普通にそれで通っているが、なんか普通のダンジョンの仕様と違う。
「ジュノーは、ぶっちゃけ半端者だ。そして俺は生まれながらに完成形。以上」
「完成形?」
「他にも色々と理由はあるけど、図鑑のメンツのいる場所にならドアが出せる」
「ほお……」
「俺やお前の守護者みたいな立ち位置でもあるからな、キングやロイ達は」
そして、とジュニアは言葉を続けた。
「かなりのリソースを用いるが、馬鹿みたいに何個もドアを生み出してないから余裕だ」
「母親に向かって馬鹿とか言うなよ」
「てめーに言ってんだよ! もう良いよ、さっさとやることやって帰るぞ……」
俺とジュニアはそんなことを話しながら大聖堂の周りに集まる民衆に混ざった。
「……な、なんなんだよ、これ」
「い、いきなり水が溢れ出してきたかと思ったら……」
「水の柱が空に向かって伸びてって……」
「空から、光が落ちてきた……こ、これはいったい……」
予想通り、みんな目の前の状況が理解できずに呆然としている。
そんな中、ジュニアが言った。
「か、神の天罰だあ~! うわぁ~! 怖いよ~!」
……三文芝居過ぎる!
ジュニアの演技力は、思ったよりも、いや俺の想定よりも低かった。
「え?」
「ん?」
「どうした?」
クルッと、民衆の視線がジュニアの方を向く。
首を傾げて何を言ってんだこいつ、みたいな表情だった。
だから、俺も加勢することに。
「馬鹿! 物騒なことを言ってんじゃない! 一大事だぞこれは!」
まるで息子が何かおかしなことを言ってしまった様に。
そんな立ち振る舞いをしながらジュニアの口を塞ぐ。
「すいません、息子が縁起でもないことを言ってしまったようで」
「いえ……子供の戯れだし良いけど……」
「それより、その服神官兵士のものだが、この状況について知ってるのか?」
民衆の一人に聞かれたので答える。
「申し訳ない、わかりません。ですが……」
なんか適当に教団が後ろ暗いことをしていたってのを言おうとしたが、ジュニアが言った。
「勇者もいなくなっちゃったし、神様からもういらないって思われちゃったんだよパパ~!」
……パパッ!
初めてそう呼んでもらえたぞ、パパッ!
「馬鹿言うな! だから、失礼だぞ!」
とりあえず訳も分からず物騒なことを言う子供役をしてくれているので、乗っかる。
「……しかし、今のはまさに神の裁きの様だった。聖人は神の力の一端を使いますし」
「神の力の一端? 俺は聖人を見たことないけど、すごいのか?」
「ええ、さっきの光の様なものをとばして戦うので、やはりあれは神の……」
何となく含みを持たせてそう告げると。
「ま、まじか……」
「そ、そんな……」
「いやいや、大聖堂に誰かが攻撃を仕掛けたんだろ?」
「でも、誰がどうやってあんなことするんだよ」
「しかも神官兵士って聖人と一緒に戦う人たちのことだろう?」
「……マジで神の裁きか、これ」
よし、良い感じで教団に都合の悪い神の裁き的な話が広がりだしたな。
こうして噂が立つと、どうしようもない疑念が生まれてしまう。
人から人に伝わって、止めることはできなくなってしまうのだ。
状況が状況だけに、情報統制なんてできるわけがない。
箝口令を敷くとしても、逆にそれで疑惑の目を向ける様になるだろう。
「パパ~、前言ってたよね、教団って勇者を取り戻しに行くって」
「しっ! それは教団内での極秘事項だぞ!」
「おい! どう言うことだ、それ!」
「やっぱり勇者に何かして、お前らが不甲斐ないからこうなったんじゃないのか?」
「最近、お布施もすげーよこせとか言ってくるから、こいつら!」
……お?
なんか知らないけど、すごい恨みの視線を感じる様になった。
資金繰りで裏取引とかに手を染めるレベルだし。
勇者を取り戻すためにちょっと露骨に伏せをねだったりしてたのかな?
「くっ、それでも勇者のために黙って金を出すのが信者の役目だろうが!」
適当に逆ギレした感じを装う。
「なんだと! 勇者ももういないし、お前ら何やってんだレベルだぞ!」
「そうだそうだ!」
「うるさい黙れ! 今から取り戻しに行くんだ! 黙ってお布施しろ!」
「この野郎! おい! お前ら! 何の説明もないくせにお布施しろとか言ってんぞ!」
「袋叩きにしてしまえ!」
「くっ、逃げるぞ息子!」
「パパ前にも言ってたよね~? 民衆から集められた金で飲む酒はうまいって~!」
……やっぱりジュニアは俺に似ている。
クソほどにもムカつく様なセリフを、ムカつく様な表情で吐くのだ。
そのおかげで、めちゃくちゃヘイトが溜まっているぞ。
「待てこらあああああ!」
「説明しろ! おい!」
俺はジュニアを抱えてクイックダッシュして裏路地へ向かい。
そのままドアで飛空船に帰還した。
ミッションコンプリート。
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