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本編

702 なるほど、戦争だ。

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『──来るのが遅いんだから、もう』

 イグニールの杖より出現した魔法陣から感じる熱量、炎。
 渦巻く炎の中から浮かび上がる、豪炎の化身イフリータ。
 どことなく、赤い髪が彼女と同じ雰囲気に感じた。

「イフリータ、前に見た時とは違うな」

『杖の魔力がバカみたいに高くなってるから、こんなもんよ』

 それに、俺が呼び出せば召喚時間は11分を超える。
 まさしく相応に、真の力を解き放ったような形だった。

「聞きたいことがいくつかある」

『わかってる。だから待ってた。そして杖を置いて行かせた』

「……杖を」

 イグニールは敢えて、この形見の杖をここに残していった。
 目の前の大精霊はそう言っている。

『全て見ていた、そして、貴方にしか託せないことでもある』

「まずは状況説明を頼む」

『まあ、11分もあれば事細かく伝えることができそうね』

 大精霊イフリータは、くすりと笑いながら言葉を続ける。

『ハウザーと呼ばれる冒険者の言葉は、全て嘘』

「……」

『そして、貴方が思っているような教団関係者の人間でもない』

「なら、誰の差し金だ」

『もう、あんまり殺気立たないの……』

 殺気立たない?
 殺気なんて立ってないし、俺はそんな武術の達人でもない。
 ただ、せっかくこれからうまい飯にしようと思ったのに。

「飯が不味くなるのがムカつくだけだ」

 あまりかっかし過ぎると、話が進まなくなる。
 それはわかっているので、なんとか気持ちを冷静にする。

「……良いから。早く教えてくれ。時間が惜しい」

『はあ……』

 ため息をつきながら、イフリータは言った。

『この状況を作り出した本人は、イグナイト家よ』

「イグナイト、家……?」

 どこかで聞いたことがある。
 クロイツの図書館にあった賢者の記録だ。
 そこに記載されていたのを思い出した。

『イグナイト家は、デプリで唯一王族との血筋を持つ公爵家』

「それとイグニールにどんな関係があるんだ」

『決まってるじゃない。彼女が血縁者だから、取り返しに来たの』

「はあ……? 血縁者……?」

 意味がわからないし、笑えないな。
 だとしたら、イグニールが王族の血を引く存在みたいな感じになる。
 そんな存在が、呑気に冒険者なんてやってる場合じゃないだろ。

 ご大層な血筋の娘さんをパーティーに引き込んで、他国に連れてったみたいじゃんか。
 俺が!

 言葉に詰まっていると、イフリータは続ける。

『そもそも、大精霊の半身を使った杖なんてこの世界は国宝級の代物よ?』

「……」

『ま、あの子は気付いてもいないし、私も伝えることなんてなかったんだけどね』

「ちょっと待て、私はってお前どっから目線の発言なんだ」

『親』

「お……は? 親? え? なんて?」

『だから、親。まあその話は別にどうだって良いじゃないの』

 いや、全くもってどうでもよくない。
 王族との関係を持つ公爵家の血筋で、さらに大精霊が親とか。
 設定が盛られ過ぎてて、とんでもないことになってるぞ。

 なんだよこれ。
 怒涛の展開すぎて最終回かと疑いそうになった。

「……状況説明しろとは言ったけど」

 なんだか状況が全く飲み込めなくなってしまった。
 でも、あれだけ絶世の美女なんだから特別かもな。
 イグニールって。

『まあ、とりあえず時間も限られてるし続けるわね』

「頼む。聞く」

『ハウザーはイグナイト家からの依頼で、ずっとイグニールのことを狙ってたのよ』

 情報を伝える、とかそんなのは適当というかマッチポンプみたいなもんだ。
 俺がデプリの上層部や教団関係との間柄があまりよろしくないことを盾に。
 それを利用して、イグニールが俺と離れるのを待っていたらしい。

 だったら神的な読みの当たり具合だな。
 俺は聖人と相対して、この結果を招いてしまった。
 くそ、回避しようもねえ。

「……イグニールが、ただでついて行くとも思わないけど……そうか」

『貴方をずっと側で見て来たものね?』

 イフリータの言う通り、イグニールは自らの意思でついて行ったことになる。
 俺が他を危険から遠ざけるように動くのと、同じことだった。

 その気になれば、一人でどうにでもなるようなこと。
 イグニールだったら、蹴散らせて当たり前なこと。

 それをしなかったってことは、イグニールからのメッセージでもある。
 いつも聞いていた声が、鮮明に脳裏に浮かんで聞こえてくる。

 “こっちでなんとかするから、心配しないで”
 ……と。

 なんだ。
 今だからわかるんだが、俺が消えた時もこんな気持ちだったのか。
 メッセージになるものを残してるだけ、俺の方がクソだな。

「で、それは理解したが、ポチはなんでいないんだよ」

『それは……』

 少しだけ時間をおいて、イフリータは言う。

『どうしても、言わなきゃダメかしら?』

「重要なことだ」

『ポチも最初は止めようとしたの』

 だが、イグニールは揉め事を避けてついて行くことを選択した。
 俺とキングさんの聖人との戦いで、これ以上迷惑をかけないために。

 そして、ポチもそれを受け入れた。
 何かあればイグニールの力になれると踏んでいた。

 だが、俺の従魔であるからと、動向は許されなかった。
 他の奴らは全て人質扱いだが、召喚による従魔は居所がバレかねない。
 そんな理由から……。

『残った奴らに、遊び半分に……でも、なんの抵抗もなしだったのが、不思議だった』

 やや目を伏せながら、イフリータは言い終える。

『見ちゃいられなかったから、そこから先は何も言えない』

「……」

 多分だけど、何かしらを俺に伝えるために、無抵抗だったと思う。
 キングさんは戦い終えたらすぐ図鑑に戻るから、そこで気づけるように。
 聖人との戦いが終わってなかったら、逃げて来ても新たな敵を連れてくるだけ。

 そう、考えたのだろうか?
 いや、俺にはわからないが、そうとしか考えられない。

 逃げると、俺に情報が漏れたと勘ぐられる可能性。
 それを予期した上で、抵抗をしなかった。



 …………。



「……………………………なるほど」

『貴方、ちょっと──』

「──戦争だ」

 絶対に許さん。
 大事なものを二つも盗られて許せるはずがない。






=====
ジュニア「ぐーぐーぐー」
ゴオオオオオオオオオオ!
ジュニア「うわー!? なんだこれー!!」

※結構断片的に書いてますけど。
※別視点で捕捉されます。
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