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本編

690 同じマクラスというパワーワードママ

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「おほ~、世界の空は私の空ですぞ~! 面舵いっぱぁ~い!」

「いちいち蛇行すんなよ、骨」

 飛空船のデビューは、なかなか良き具合になったのではないかと思う。
 未踏挑戦という冒険者ギルドの一大イベントには、各国からお偉いさん方が出席していた。

 きっと見ているはずだ。
 あれはなんなんだ、と言われた時のために、TAFのロゴがしっかり入っている。

 俺たち〈美味しいご飯で元気パワー〉は、TAFとは一切無関係。
 って言う体裁だから。
 広告する代わりに借りてるみたいな感じでいいだろう。

 それで、なんだいTAFって?
 へ~、すごいなそれは、取引しよう!

 みたいなことを、俺は狙っているのである。
 上手く行くとも思えんが、広告というのはやはり大事なのだ。

 人間、見知ったものを頼ろうとするからね。
 バッチリ印象付けて、シェア獲得に動きましょう。

 ギリスとかクロイツとか、魔導機器に優れた国以外。
 まだまだ魔導機器というものは珍しいものだ。
 別の場所に運び込む際、空輸というものは大きな手段である。

 これで、あの時助けられたマイヤーに少しでも恩返しができたら良い。
 俺は、そう思っていた。

「トウジ、空から下を眺めて探索するし?」

「まあ、それも無きにしも非ずってところ」

 眼下は鬱蒼とした森、高い山々が広がりそびえている。
 そんな中で、茂り尽くした木々の中を見つけるのは一苦労だ。
 だが、泡沫の浄水が大きな泉のような形だった場合である。
 空から見下ろすことで大体の位置をつかむことは可能なのだ。

「イグニール、地図はある?」

「あるけど、深い場所までは細かく記載されてないわよ?」

「それでいい」

 登録だけしといて、上から見た景色に合わせて大体のあたりをつけて行く。
 俺のマップ機能に現在地は表示されるから、どこにあるのかわかりやすかった。

「森や山の中に点在する池とか泉、湖は……おおよそ50個くらいか」

「見える範囲はね」

「完全に隠れて見えないものもあるかもしれないが、一先ずこれでいい」

 だだーっと見える範囲を書き写したら、あとはコレクトの直感である。

「コレクト、頼むぞ」

「クエッー!」

 バサバサと地図の上に飛んで来たコレクトが、じっと見据えて一つ鳴く。

「クエッ」

「印をつけた中には、泡沫の浄水は無いってさ」

「そっか、ありがとう」

 通訳してくれたジュノーとともに、コレクトを撫でながら全部にバツをつけて行く。
 とりあえず、見える範囲で一気にコレクト検索をかけてみた結果、ダメだった。
 それが真実か、真実じゃ無いか、という疑問に対してはコレクトを信じるのみである。
 今までの実績から、基本的にこいつの勘を信頼して良いだろうさ。

「クェェ」

「見つけれなくてごめんなさいだって」

「そんなに簡単に見つかるもんじゃ無いってのは、承知の上だよコレクト」

 できればさっさと探して、あとはピーちゃんの故郷探しに当てたかったが、仕方ない。
 とにかく、各地に点在する50個くらいの水場をいちいち回らなくて済むのはありがたいのだ。

「このあとは、実際に山に降りて、しらみつぶしに当たって行く感じかしら?」

「そうだな。情報とかあってないようなものだし、そうなる」

 でも心配はいらない。
 しらみつぶしでも、泡沫の浄水に意識を向けていれば、いつかは引っかかる。
 コレクトの感覚に、俺のお目当の代物はきっとかかるのだ。

「そうだ、トウジ様」

「なんだ、骨船長」

「古きからこの山の奥に住まうとされるピーちゃんの親、ハイオーク。彼らの済む場所を先に尋ねてみるのは、いかがですかぞ~?」

「なるほど」

 骨の言葉に、イグニールが反応する。

「軽く私たちの10倍くらいの時を生きるハイオークなら、泡沫の浄水の情報を知ってるかもしれないってことね?」

「ですぞ。さすがはイグニール殿」

「ほう……ハイオークの里か」

 骨の意見は一理あった。
 彼らは自然を愛する、良きオークたち。
 農作物にかける情熱もかなりのものだと言い伝えられている。
 良き作物には良き水が必要だから、何かを知ってるかもしれない。

「ピーちゃん」

「ぷぴぃ?」

 ポチと一緒に窓から下を飽きずに眺めるピーちゃんを呼び寄せる。
 てちてちと歩いて来たピーちゃんは、椅子に座る俺の膝によじ登った。

「アォン」

 それに負けじと、ポチも俺の膝によじ登って、二人で座る。

「なにこれ超可愛いんですけど、鼻血でそう」

「トウジ、もう鼻血出てるし」

 イグニールに鼻血を拭われつつ、俺はピーちゃんに伝えた。

「ピーちゃん、先に故郷に連れて行くよ。もう直ぐ両親に会えるからね」

「ぷぅ」

 両手を上げて万歳。
 喜んでるっぽい。

 少し寂しくも思えるけど、やっぱり親元が大事だ。
 俺が父親の代わりになんて、なれる訳がない。
 この選択は、正しいはずだ。

「連れて帰る時に、泡沫の浄水の情報を聞けないか尋ねてみようか」

「それが良いですぞ」

「ちなみに骨、少し詳しいみたいだが、会う際に気をつけた方が良いこととかあるのか?」

「ん~、特に作法とかは無いですが……」

 骨は顎に指を当ててしばし考えると、言葉を続けた。

「船で乗り込むことは不可能ですぞ。彼らはとても用心深く、エルフと組み強力な結界で里を守っていますから」

「なるほどな」

 自然の中に暮らす存在として同じであるエルフ。
 ハイオークと共生する存在で、彼らは強大な魔力を持っているとのこと。
 里は、エルフの結界で外敵が来れないような結界がはってあるんだとか。

「今しがた見下ろした時に、人工物が見えなかったのも納得だ」

「でも、どうやって探すのかしら?」

「それ思ったし。泡沫の浄水を探すのと同じくらい難しいし?」

 里の中に泡沫の浄水があるとか、そんな展開だったら見つけるのは困難だな。
 あくまで、他の冒険者にはという前置きをしておくけども。

「俺たちにはピーちゃんがいる」

「ですぞ」

 ピーちゃんがうろ覚えでも、場所を記憶しているならそれに越したことはない。
 だが、ハイオークの子供を連れていれば、他のハイオークが近づいてくるだろう。
 さらに、彼らはオークのように仲間の存在を感じる能力の強化版を持っているのだ。
 ピーちゃんはまだその辺がおぼろげな感じだが、この子の両親が勝手に気づくはず。

「よし、ある程度奥に進んだら、船を上空にとどめたまま、みんなで下に降りるぞ」

「あの、私はまた船待機ですぞ……?」

「え? うん、そのつもりだけど」

「ええ~! 行きたい行きたい行きたい! みんなと冒険したいですぞ~!」

「船長が船を離れるとは、それは船長あるまじきだぞ、骨」

「ふ、船を降りたら船長ではなくただの骨! ただの骨ですぞ!」

 こんな軽いノリの骨がただの骨って、いささか無理のある表現だけどな。
 それに、元聖女だし……。

「トウジ、みんなで行きましょ?」

「うん、ボンちゃんだけ仲間はずれはよくないし!」

「みなさん……泣きそうですぞ~! 骨だから涙出ませんけど」

「まあ、そうだな」

 帰宅の際はジュニアにドア作ってもらう。
 故に、船には必ず一人乗っている状態。
 それなら心配いらないだろう。

「ジュニア、わかった!? お母さんとお父さんの言うことちゃんと守ってお利口さんにしてね!」

 話がまとまったら、ジュノーがピューっと壁際に置かれたソファで寝るジュニアの元へ行く。

「……いつまで母ちゃん気分なんだよ。つーか、黙って話聞いてたけど、めんどい、戻りたい」

「トウジ! 反抗期だし!」

「母さんの言うことはちゃんと聞けよー」

 面倒だから、ジュノーの方に話を合わせておく。

「チッ……わかったよ。でも対価もらうからな」

「それでいいよ」

 ジュニアは舌打ちしながら頷いてくれた。
 ジュノーに言われたら、こいつはなんだかんだ言うことを聞く。
 同じダンジョンコアだからかな?

「そうだ。山がどのくらいハゲるのか、1発打ってみて良い?」

「ダメに決まってんだろ」

「えー、わりかしこの船の武器とか面白そうなんだけどなー?」

「とにかくダメ。母さんの言うこと聞いてろ黙って」

「そうだし! 危ないものに触っちゃダメだし! めっ!」

「うっぜ。まあ良いや。ガーディアンに適当にやらせて寝とくわ。じゃーな」

 船内部を一部ダンジョンにしている状況を良いことに。
 適当に作り出したお粗末なガーディアンに船を任せて、ジュニアは再び惰眠を貪り出した。

「もう、しょうがない子だし! トウジ!」

「いや、まあしょうがない奴だけど……」

 他にちょっと言いたいことがある。

「いつまで夫婦ごっこすんの? まだ飽きないの? 俺もうお腹いっぱいなんだけど」

「……? あたしとトウジは夫婦だし? マフラー作れるようになったじゃん」

「えっ」

 真顔でそう言われた。
 怖かった。

「同じ生活してるし、同じご飯食べてるし、同じベットで寝てるし、同じマクラス使ってるし」

 こわっ。
 怖すぎるんだけど、こいつ。
 ひとりぼっちが行きすぎて、思い込みが激しくなってないか?
 めっちゃ甘いパンケーキ食わせて、そっちに意識向けさせよっと……。
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