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本編

614 ぶっちゃけ、これを犬死と呼ぶ

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「貴様ら、妾が逃すと思うたか、思うたか……貴様ら!」

 瓦礫の中から立ち上がった軍師は金切り声をあげる。
 額の流血、焼けただれた皮膚、血走った眼球。
 どれをとってしても満身創痍の執念を感じた。

「……しぶといな」

「うむ、驚異的な生命力である。オーガ以上だ」

 その姿に、ロイ様もなんだか認めるしかないと言ったところ。
 何をかって?
 俺もわからないが、敵としては天晴れだと言いたいのだろう。

「トウジ様、おかしいですぞ」

 そんな姿を見ながら骨が言った。

「魂が残っているならば、流石に私が報告しますぞ」

「はあ?」

「あれはもうとっくにこと切れてる状態なんですぞ」

 ……死んでるのに立っているってことか。
 うん、意味がわからん。

「詳しく、かつ簡潔に説明」

「時間の経過とともに要求レベルが上がってますぞ……」

 全然そんなことないよってことで聞いた。
 骨のボーンアイからは、すでに肉から魂は離れている。
 しかし、そのまま残り、目の前に存在しているそうだ。

「……つまりは、おばけ?」

「いやお化けではなく、思念体に近いと言いますか……」

 いやいや、そう言うことだよな?
 思念体とか概念体とか、これ以上来られても無理。
 ともかく、魂のみで立ち上がっているとのことで。
 それはある種最後の気合のような形にも近かった。

「妾が、妾が貴様らを、生きて返すと思うたかッ──!」

 軍師がカッと目を見開いて前に出る。
 怨念じみたものを感じる。
 いや、怨念そのものの様に思えた。

「トウジ、下がって、もう一回火葬する──火柱」

 すぐにイグニールが前に出て軍師に向かって魔法を放つ。
 特大の火柱が軍師の足元から打ち上がった。

「クカカカカ、肉体は滅びても、貴様らは許さん、許さんでの!」

 しかし、炎の中で軍師は高笑いを浮かべる。

「──出でよ! 魂魄喰らいの引導夜叉!」

 足元に魔法陣。
 そして、俺たちの足元からすごく不気味な鬼が出現した。

「──ッ!」

 これは、麒麟を倒した後の俺たちの意識を刈り取ったスキル。
 そして恐らく、もう一つのバインドスキル。

 本来、とり憑き系の攻撃は、霧散の秘薬が防ぐはずだ。
 だが、これはあの時防げなかったのである。
 まったく、バインドスキルは本当に恐ろしい。
 デコイがない限り、一切合切を無視して拘束してしまう。

「わわわ! トウジー! なんか這い出て来たし!」

「燃やせないのは流石に無理ね……」

「アォン!」

「上に思いっきり飛ぶのは……いや、勇者たちが危ないか……」

 這い出てくる鬼たちに、みんなどうすることもできないでいる。

 くそ、どうする。
 どうする、どうする。

 指輪の力で即死攻撃が効かない俺たちはまだマシだ。
 しかし、勇者たちが耐えきれない。

 適当にデコイ役を召喚するか。
 それともフォルを出して死亡をカバーするか。

 ……ん?
 そう言えば、バインドの中で動ける奴がいたな。
 あいつに託そう。

「おい骨! お前動けるなら、なんとかしろ!」

「そんなこと言われましても……」

「後で何かしらの言うことを聞いてやるから頼む、任せた」

「ぬふう……あたし任せた、という言葉に弱いんですよね~」

 骨は、一度ため息を吐くと、つかつかと歩いて俺たちの前に出た。

「イエス、任されました。この骨がラスボス軍師の相手をしましょうぞ!」

 そして、サムズアップして、なんとも格好良く決めポーズを取った。

「さあ来いバインド! 私に取り付くのですぞ! 一切拘束を許さない骨デコイがお相手致す!」

 …………。
 なんとも言えない沈黙が流れる。
 その後、足元の魔法陣から湧き上がって来ていた鬼たちは、骨を無視してすっと引き返していった。

「か、悲しいですぞ……」

「いや、それでもグッジョブ」

 閉まらない結果だが、骨のよくわからん空気がバインドに勝利した。
 デコイになったのか、それとも通用しなかったからなのか。
 どちらにせよ、バインドの効果は未だ俺たちには現れていない。
 今度からバインドには骨デコイだな。

「──ぬぅ! こっちにこぞって出て来たではないか!」

「えっ!?」

 と、そう思っていたのだが……。
 ロイ様の悩ましい声が聞こえて来た。
 視線を向けると、ロイ様の周りにバインドがたかっていた。

「クカカカ、そいつはバインドじゃが少し違うでのう!」

「どう言うことだ教えろ!」

「よかろう、もうすぐ潰える命じゃし、一つ教えておこうかの」

 ボロボロ、と体を朽ち果てらせながら、軍師が言う。

「呪いじゃ、呪い」

「呪い?」

「妾の引導夜叉は、たとえ勇者であろうともスキルごと封印してしまえるバインドじゃ」

「つ、つまり……?」

 ゴクリと、喉を鳴らして聞く。

「その者共は、もはや勇者ではない。この魂を代価とし、勇者としての、人間の希望としての力を奪ってやるんじゃ、永遠にのう、クケケケカカカ! 勇者だけをこの世にのさばらせておく訳にはいかんのじゃ!」

「な、なんだってー!」

「お守りである主の責任になるのう? ケケケ、ただでは死なんぞ。ただではのう……」

「こ、このやろー! よくもやりやがったなー!」

「貴様らに待つのは破滅じゃ。勇者はスキルとしてこの世界に召喚される。それがあだになったのう?」

「ちくしょー!」

「妾はあの世、もしくは使い物にならなくなった勇者の中から見ておるぞ、西側諸国が魔王様に滅ぼされるのをのう……」

「ぐ、くっそおおおおおおおおおおお!」

 悔しそうな俺の声を聞いた軍師は、さも満足そうな嫌らしい笑みを浮かべ、ボロボロと朽ち果ててしまった。

「やってくれたな……やってくれたなああああああ!」

 勇者のスキルが封印だって?
 ってことは、ややこしい奴らがいなくなったってこと?
 残されたこいつらは、ただのクソガキってことだな?

 そして、魔王の力の源も俺の手中にある。
 おいおいおいおい。
 面倒ごと、一切合切持って行ってくれたぞあの軍師。

 俺の責任問題的なことを言っていたが……。
 別にお守りじゃないから結構!

 キーマンである勇者がいなくなれば、クロイツの計画も終わる。
 キタコレ、キタコレ、キタコレ!
 なんだか知らんが、全てがいい感じに事運んだ瞬間だった。
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