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本編
585 脅しと目的
しおりを挟む「──このまま協力していただけるならば、ですが」
「……」
明確な脅しを前にして、俺は口を開くことをやめた。
「少し警戒させてしまいましたかね?」
「警戒するなと言う方がおかしいと思いますけど」
「ハハハそうですね」
アドラーは笑いながら言う。
「でも安心してください。手出しはしませんから、本当です」
「そうですか」
「なんなら、ギリスにいらっしゃる皆さんを呼び寄せても良いですよ?」
「どう言うことですか?」
「まとめて僕の国で面倒を見ますし、あなた方と同じ厚遇を用意します」
「なるほど」
だったら、普通にギリスにいてもらう方がいいな。
厚遇という言葉は、人質にも近いやり口だと思う。
クロイツの法律が存在する場所より、ギリスがいい。
ジュノーのダンジョンに籠らせればいくらでも耐えれる。
「俺一人で十分ですよ。ええ、俺から存じ上げてることを話しましょう」
下手に刺激するよりも彼の真意を見極めるほうが重要。
俺は再び勇者としての義務から逃れることに成功した。
だから適当におしゃべりして、無能のフリして放置されよう。
それがこの場所から早急に離脱するための最善策だと思った。
「物分かりが良くて話が早いのは好ましいですね」
「その件については同意です」
「勝手に話を進めるなアキノトウジ!」
いちいち噛み付いてくるなあ……。
呼ばれた国が違うだけで、結局勇者の役割は変わらないと思うんだけど。
「はあ……」
「ため息をつくな!」
まあ、放っておこう……。
思春期とは、得てして反抗したいお年頃なのだ。
そんな風に思っておかないと、やってけない。
「俺はまだ同意していない! 早くダンジョンを踏破しろとはどういうことだ!」
俺には勇者として、魔王と戦う使命があるという勇者にアドラーは言う。
「たった今魔王の根源たる力をあなた方は得ました」
それがどう言うことか、わかりますか?
と、諭すように言うアドラー。
うん、すなわち今のあいつらは勇者であって、魔王でもある。
なんともややこしくて規格外な存在だな!
この異世界の法則に色々と反しまくってる気がするけど……。
果たしてそれは良いのだろうか?
俺が見てきた異世界の法則は因果応報、そしてバランスが大切だ。
スローフだって言っていた。
何ものにも役目があって、そのために存在していると。
それを鑑みると……。
この状況ってやばいよなー……。
余計さっさと避難しなきゃ、なんて思えてくる。
「勇者だとか、魔王だとか、そんな次元の話ではなくなりつつあります」
「なんだと? どういうことだ……?」
「再び話が長くなるのも面倒なので、後で追って説明しますが……端的に言うと──」
ゴクリと唾を飲む全員に、アドラーは言った。
「──過去の勇者たちが、誰も成し得なかったことをやっていただくことになります」
「過去の勇者たちが成し得なかったこと……?」
「ええ、ダンジョン踏破。そしてその消滅。僕があなたに力を授けたのはそれが理由」
「この世界のダンジョンを全て消し去れば良いのか?」
「その通り。平和な世界に呼び出された勇者の使命ともなれば、そうなるでしょう?」
デプリの目的は、あくまで勇者という暴力に任せた外交だ、とアドラーは言う。
虚栄心の張った豚が、威張り散らすために強制的に呼び出されたのだ、と言う。
「平和だと? 再び魔王を呼び出そうという計画が魔国では立っていたと聞いている」
「それは豚があなた方を勝手に召喚したからですよ。魔国にとって勇者は恐怖の象徴。山脈を挟んだ隣の国に、過去に魔国を打ち負かした存在がいるともなれば、寿命が長く歴史を知る者たちは焦るでしょう?」
「なんだと……」
「まったく……連合がそれを防ぐために危険ではないことをアピールしていたと言うのに……虚栄心旺盛な豚は厄介ですね。もっとも、あの国の上層部のお国柄とでも言えますけど」
その言葉を受けて、勇者は「あまり王を悪く言うな」と言う。
だが、賢者の方は少しだけ思うところがあったのか、黙って話を聞いているようだった。
はたから見れば、全て勇者に話すのを任せているようにも見える。
しかしながら、後ろにひっついて頷く聖女に比べるとまだ理性的。
賢者として役目を授かったからには思考力もそれなりなのだろうか。
あ、ちなみに聖剣は論外な。
なんか誰でも斬れれば良いってスタンスで剣を磨き始めている。
あいつ、女子高生だろ。
この世界に来てから毒されたのか、もしくは最初からああなのか。
すげー気になる、怖いけど。
「世界が再び戦火に包まれる前に、その最悪のシナリオは僕が回避しました」
アドラーは続ける。
「魔王と勇者の力を掛け合わせて、これで世界は一つになったも同然ですね」
……確かに因縁は潰えるけど。
それってどうなの、って感じがする。
持ちすぎた力って、周りから潰されるのが歴史だよな。
脅威だ、とナニかが感じ取れば、今まで出てこなかった何かが重い腰をあげる気がしないでもない。
スローフの話を聞いた後だからか、そんな嫌な予感がぐるぐると胸に渦巻いていた。
「そして、一丸となった世界が目を向けるべきは、この世界そのものです」
「この世界そのもの……? それとダンジョンがどう関わってくるんだ?」
「僕はどうにもこの世界のダンジョンのあり方に疑問を感じていましてね」
疑問か。
なんだかダンジョンコアと会ったことがありそうな、口ぶりだな。
「人類の繁栄が、そのダンジョンによって一部停滞している気がするのです。ですから、消すか、管理下に置くか、そうでもしないと永遠に人々の平和は来ない気がするんですよ。魔族も同じように話し、働き、家族を持ち生きている存在。そんな愛すべき人類同士で戦っている場合ではないですし、私達の未来を背負う勇者を、飼い殺しておくほどに愚かな真似はしたくない。だから魔王の力を持たせて再召喚した。それがあなた方が今ここにいる理由と言っておきましょう」
◇
「はあ……」
俺はため息をつきながら用意された部屋の椅子に腰掛ける。
ポチを召喚してめでたい気持ちも多々あるが、迂闊な真似はできない。
ここでは、誰のどんな目や耳があるかもわからないからな……。
「それにしても、なんとも面倒臭い状況だな……」
リアルガチで、ダンジョン踏破を掲げる王に召喚された勇者。
これによって、勇者は国内外の揉め事ではなくそちらに注力することとなる。
世界が飼い殺して抑えつけようとしていたものを、解放された形だ。
アドラーは諸国との合意の上ですと言っていたが、本当か?
俺だったらそのまま飼い殺しさせてデプリに封印しとくぞ。
でも、ダンジョンには様々な資源が満ち溢れている。
各国で協力してダンジョン踏破に本腰を入れるのは、良い意見だと受け入れられたのだろうな……。
どうすっかな……。
スローフの話を聞いた手前、面倒ごとしか引き起こさない気がする。
それに、ダンジョンコアは別に悪い奴でもなんでもないのだ。
俺の立場から言うと。
いやだぞ、ダンジョン外交官なんて、マジで。
この後アドラーが話しがありますとか、部屋に来るらしいけど。
マジでそんなことを頼まれたりしたら困る。
「はあ、とりあえずもういいや、色々聞いてから考えよう……」
ぐるぐると渦巻く思考を先送りにして、俺は今一度ステータスを確かめた。
何もないぞー、何も。
なんかくれよ、ふざけんなよ。
勇者がパワーアップしたんだから、俺もなんか新しいのあってもいいだろうに!
なんかねーのかー!
だだだーっと職人技能を確認して、たいしてレベルも上がっていない六大性質を確認。
マップ、図鑑、インベントリ、その他諸々!
クソガー!
ねー!
と、思っていると……ありました!
【カオスアビリティ】
・解放可能
・Lv120より解放
・Lv140より解放
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