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本編

584 ここでもまた何もなし

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 クロイツが新たに作り出した召喚術式。
 すなわち勇者召喚用の魔法陣は、魔国の技術を集めたものなのだそうだ。

 これによって……。
 混沌たる魔王の力すらも受け入れた強力無比な勇者を作る。
 それが、クロイツ側の狙いであった。

「こ、この混沌というスキルは……いったい……?」

「ユウトくん! ステータスも倍近くになってるよ!」

「ああ、今確認してるけど、素で2万近くとは……」

「これが魔王の力だっていうの? 恐ろしいわね……」

「ふむ、今の私ならば邪竜とて人たちだな」

 その証拠に、勇者、聖女、賢者、剣聖。
 この四人は『混沌』というスキルを獲得し、ステータスが飛躍的に伸びているようだった。

「新たな勇者が呼び出されるかとも思いましたが……いやはや」

 それぞれ驚く様子を見たアドラーは、クツクツと笑いながら言う。

「あなた方は、歴然たる資格保持者のようだ」

「どういう意味だ……!」

「いえいえ、言葉のままの意味ですよ」

 憤慨する勇者の言葉を受け流すアドラー。
 別に今の勇者が呼び出されなくとも良かったんだろうな。
 新たな勇者が担ぎ上げられれば、それを本物だとする。

 だが、たまたま呼び出されたのが現存勇者で。
 それに対しての皮肉交じりの言葉だったのだ。

「そんな資格いらねー……」

「責任を放棄するなアキノトウジ!」

「ええ……」

 聞こえないレベルで愚痴ったのだけど。
 勇者様はどうやら地獄耳をお持ちのようである。
 怖や怖や、と。

「そもそも責任がどうとか言ってましたけど、またスキルないんですが……?」

 これは俺からアドラーへの苦情。
 そう、またしてもだ。

 またしても、俺のステータスのスキル項目には何もなかった。
 クイックと邪竜のスキル以外はなーんにも。

 要するに、ハズレくじである。
 絶対外れるくじって、なんつーか、いじめかな?
 異世界が、召喚魔法陣が、神が俺をいじめている気がした。

 こないだ見た予知夢的なアレ。
 まさかの正夢かと思ったのだが、少し違うようである。
 勇者御一行と再会してしまうのとデプリ王とは違う少年。
 ここまでは合ってるのに、肝心なところが違っていた。

 はあ……。
 まあ良いけどさ?

 混沌たる魔王の力とかいう物騒なもの、この身に入れたくない。
 余計な宿命をまたもや回避できたのは、すごく運が良かったのかもしれない。

「スキルがないだと? 使役するスキルを持ってるんじゃないのかアキノトウジ!」

「持ってないよ」

「ロック鳥を持ってるという情報はすでに耳にしているぞアキノトウジ!」

「あのさあ、呼び捨てやめてくれる? 一応俺年上なんだけど?」

 呼び捨て、プラスフルネーム呼びは、いささか癪に触ると言うか。
 なんというか……。
 ため息交じりでそう言うと、後ろの聖女がぽろっとこぼした。

「年功序列なんでもう古いですけどね。それにあなたこそ一般人ならここでは勇者であるユウトくんを勇者様と言うべきです。少し生まれが早かったくらいで威張りちらすのは老害ですよねぇ? ……きもっ」

「……」

 こいつには関わらないようにしよう。
 なんか、エリナと同じ匂いを感じた。
 俺が勇者に言い返す時だけ、後ろから顔を出して睨んでくる。
 怖い。

「じゃ、勇者様って呼ばせてもらいますね勇者様~」

「何あの態度! ユウトくん、あいつムカつくよ!」

「落ち着くんだ、カナ。俺は別にどんな呼び方をされても良いんだ。それくらい許容する」

「ユウトくぅん!」

 なにがユウトくぅん、だ。
 胸の谷間に勇者の腕を挟み込みやがって、あいつ。
 ちょっと羨ましいと思ったけど。
 イグニールに頼んだら怒られるよな、さすがに。

「アキノトウジさん、本当に混沌たる魔王のスキルが得られてないのですか?」

 勇者達のやり取りを無視して、アドラーが俺に尋ねる。

「トウジでいいです。ええ、持ってません。調べてもらえたら良いですよ」

 念のため、邪竜の指輪はインベントリ内に戻しておく。
 クイック付きの手袋は、旅の途中で手に入れましたと言えば良いはずだ。
 それでスキルを手に入れました、とスキルなしを強調できる。

「ほお、では取り急ぎ調べて確認を──」

「──そんなはずはない!」

 再び勇者が会話に介入してくる。
 無視しても入ってくるから仕方ない奴だ。

「スキルも何も持たないでロック鳥や強力なスライムを使役できるはずがないだろう!」

「その情報が間違ってるんじゃないですか、勇者様ぁん」

「適当を言うのも良い加減にしたほうがいい。この結論はデプリの王議会が決めた罪だぞ」

「いや、だからそんなの知らないですって。確認したら良いじゃないですか。さっさと」

「閲覧魔道具をも謀るスキルを持っているから意味がないと王様は言っていた!」

「決めつけられても、持ってないものは持ってないです」

「嘘だ!」

「本当ですよ勇者様ぁ~」

「嘘だ!!!!」

 しつこいな。
 面倒臭いからこの会話をさっさと切り上げることにする。
 俺はアドラーを向くと告げた。

「そんな訳で、確認が取れ次第解放してもらえませんか?」

 再召喚によって突然消えたから、みんなが心配している。
 ポチたちは呼び出せるが、ここは何もできないことを貫こうと思った。
 うん、ガチで何もできない一般人を装うぞ。

「あ、それはできません。僕らの国で手厚く保護させていただきます」

「え……無価値ですよ? 邪魔ですよ? 汚い話、うんこ製造機です」

「ハハハ、確かに汚い話ですけど……あなたは“バカ”ではないでしょう?」

 勇者を横目に、アドラーは続ける。

「色々と“存じ上げている”ことも多数ありそうですし、協力していただきます」

「存じ上げていること……」

「ええ、忌まわしきダンジョン、そのコアを使役するあなたなら、ね?」

「……」

「別にとって食おうなんて考えてもおりませんし、ギリスにいるお仲間さんに危害を加えることもありません」

「それは」

「──このまま、協力していただけるならば、ですが」

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