上 下
305 / 682
本編

574 八大迷宮のダンジョンコア。才能ある引きこもり。

しおりを挟む

「まず、お前が知らない大迷宮の主を上げておく」

 スローフの口から、俺が知らない大迷宮の主の名前が告げられる。
 デプリの東に存在する、奈落墓標の虚飾のバニティ。
 魔国のどこかに存在する、夢幻楼街の色欲のラスト。
 海を越えた南方に存在する、魂枯砂漠の強欲のグリード。

 その他にも、一応知っている部分でもおさらい。
 極彩諸島の怠惰のスローフ。(トガル北西の島々)
 断崖凍土の憤怒のヒューリー。(ギリスとノルトの境目の北海)
 深淵樹海の暴食のグルーリング。(ストリアと魔国の国境)
 天海深塔の憂鬱のメランコリー。(南東、陸地の中の海と呼ばれる場所)
 天界神塔の傲慢のアローガンス。(タリアスの首都)

 こんな形だ。
 こうして並ぶと、中二病感が加速した気がする。

「他にもダンジョンコアはこの世界にごまんといるが、特に名高いのはこの八つ」

 彼らが、平定者と呼ばれる遥か昔に世を正した存在。
 厄災と呼ばれるナニかを鎮め、世界に平穏をもたらした。

「他のダンジョンコアと違う点って、ありますか?」

「文字通り、格が違うなー」

「ダンジョンをどんどん巨大化すれば、いずれは特殊な立ち位置になると……?」

「いや、そういう訳ではない。……が、そういうことでもある」

「……?」

 トンチが効いた回答が来たのだが、どう察すれば良いのやら。
 それぞれポジションが開けば、引き継がれるとでも言うのか?
 尋ねると、スローフは言う。

「もともとが、こうなる運命だったと言えば良いのかー?」

「はあ……」

「要するに、みんながみんなダメな才能持ちだったってこと」

「なるほど……」

 乱世に英雄が生まれるように。
 英傑、豪傑、その他諸々の才能を持った個が出るが如く。
 彼らは至るべくして、ダンジョンコアへと至ったそうだ。
 つまり、言い換えると最強の引きこもり。
 今は色々とその中身が時代とともに変容しているが、根底は変わらないとのこと。

「グルーリングみたいに抗う奴もいれば、好き放題する奴もいる」

「スローフさんが良い例ですね」

「そのとーり! でも俺は中でも無害な方だぞ」

 カリプソのお尻にを触って、ふとももの匂いを嗅ぎながら彼は続ける。

「バニティは、隙あらば殺してくるし」

「殺……」

「グリードも、隙あらば奪ってくるし」

「ころ……」

「ラストなんか、洗脳されて一生労働奴隷か、性奴隷」

「ひえ……」

「今までお近づきになって来た相手が悪い奴じゃなくてよかったなー?」

「そうっすね」

 たまたまなのかもしれないが、九死に一生を得たような気分だ。

「断崖凍土のヒューリーだって、起きてて怒りを買えば余波で死ぬぞ」

「……」

「天界神塔のアローガンスはまだマシだが、強すぎて並の者なら余波で死ぬ」

「そ、そっすか……」

 それだけの才覚を持った奴らがダンジョンコアとして永遠を生きる。
 つまりは、老いることなくずーっとずーっとレベルが上がり続けるのだ。
 ある程度は停滞するかもしれないけど、経年とともに強くなる。
 控えめに言ってもやばいと思った。

「まあ、憤怒と傲慢はまだこっちから何かしなければ安全なタイプだ」

「ふむふむ」

「それぞれの能力も教えておきたいところだが、聞く?」

「できれば教えてほしいですね」

「でも多分聞いたら何かの因果関係に巻き込まれると思うぞ?」

「……」

 それはちょっと嫌だなと思ってしまった。
 スローフは言う。
 知ると言うことは、関わることに同義だと。
 世の中、知らない方が幸せなこともあるのだと。

 確かにそうだ。
 知らないこと、すなわち存在しないもの。
 人間、そのくらいに留めておく方が良いのだ。

「主様、つまりお前は知り過ぎた……ってされるの?」

「そうそう。なんかよくわからんけど、この世界って謎の力が働いてるからね?」

「ぁん、あんまり揉まないでよ。で、スローフ、その謎の力ってなんなのかしらー?」

「俺も知らん。詳しく知ろうとも思わん。けどそう言うもんだと覚えておくと良いぞー」

「な、なるほど……」

 なんとも気軽な雰囲気でそう言うが、心当たりはある。
 因果応報って恐ろしいよな、常々俺はそう思って来た。
 つまり、お天道様は見ているんだよ。
 誰が俺たちをこの世界に呼び込んだかを考えれば一目瞭然。
 次元を超えるほどの力を持った何かが、確かに存在するってことだ。

「ちなみに、そんなやばいダンジョンを勇者は攻略しようとしてますけど……」

 とりあえず、能力の話はさらっと流してそっちに話題を変える。

「ああ、なんかしてるっぽいな?」

「スローフさんから見て、攻略できそうですか……?」

「基本的には無理だけど、勇者ならいける可能性を持つ」

「な、なるほど」

 勇者すげー。

「ポテンシャルっていうよりも、何か別の力が働くもんなのさー」

「別の力……」

「それに他の何かが突き動かすことだってあるぞ。勇者を利用しようとする悪党なんてごまんといるから」

「ああ……」

 デプリとかそうだな。
 教団とかも、傀儡にしようと画策していたくらいなんだから。
 腕輪はぶっ壊して偽装しておいたけど。
 果たしてそれで勇者たちの命運がどう変わったのかは知らない。

「で、もし一つのダンジョンが崩壊するとするだろう?」

「はい」

「それは……そうなってみないとわからないってのが、一つの答えだ」

「わからない、ですか」

「うん。今までそんなことは一度もなかった」

 ダンジョンは人間にとって敵だ、という立ち位置になっている。
 しかし、平定者である八人を倒せる奴は今までいなかった。

「奥までこれる奴もいるぞ。でも基本、俺たちには勝てないし、その在り方を知って意見を変える者が多い」

 それが、過去の賢者や勇者だったと言う。
 なんとなく、邪竜を倒した件につながってくるな、この辺り。

「しかし、長い時が立った」

 スローフは言う。

「俺はそろそろバニティあたりが何か余計なことをしてくる様な気がする」

「余計なことですか」

「他は純粋に好き放題やるだけの奴だが、あいつだけは毛色が違う」

「毛色……」

「本質が虚飾で、その最終守護が悪意だぞ? 聞いただけでやばいだろ?」

「た、確かに……」

 なんとなく、デプリ上層部のお国柄と似たようなもんかなと思った。
 勇者に嘘を飾り立て教え、そして悪意を持って自由に使う。
 うん、なんとなく繋がりがありそうに思えてきた。

「裏でこそこそするのが好きな陰湿野郎だから、ま、そいつにだけは気をつけとけ」

「勇者、そこを攻略しようとしてますね……」

「とっくに関わり持たれておもちゃにでもされてんじゃねーか?」

「なんかそんな気がします……」

 勇者、やばいのと関わりを持っちゃったんだな。
 御愁傷様って感じがする。
しおりを挟む
感想 9,833

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。