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本編
565 一件落着?
しおりを挟む「キ、キングさんが一瞬で……?」
と、思っていると、キングさんのみ目に光を宿して水面で踏ん張った。
「──プルゥッ! 我の核に直接攻撃して来るとは、やる」
「ほう、堪えますか」
「我の無敵能力が発動しなければ、一瞬で割られるところだった」
「チッ……あの時の仕返しも兼ねていたのに、しぶといですね」
どうやら、邪竜はキングさんにだけガチで殺しにかかったらしい。
高密度の重力場を体内の魔核にて発生させて、割ろうとしたのだ。
ポセイドンは、手加減して心臓付近にショックを与えたのだとさ。
高密度の重力場って、ブラックホールかな?
よくわかんないけど、とんでもなくやばいものを体内で作ったの?
邪竜やばすぎぃ。
「あの時、私が本調子であれば貴方たちは全員殺していましたよ」
「たわけ、我はこうして立っているぞ」
それに、とキングさんは続ける。
「あの時使えなかったのも、理由があるとみた」
「……」
「我の予測では、負荷が大きい、MP消費が大きい、接近戦でしか無理」
黙ったままの次男と末っ子を見ながら、さらに言う。
「両サイドを見ている限り、扱うための負荷が大きいのが事実か」
「……よく気づきましたね」
「体内の水分を操作する我も、その難しさは良くわかるのだ」
「知ったところで無敵の能力がなければ回避困難ですけども」
「今のところ、その辺も貴様の言葉に頷いておこうか」
その辺も、とはどういう意味だろうか。
キングさん、もしかしたら邪竜の強さを認めたのかな……。
だが、確かに本気の時の邪竜は圧巻の強さだ。
首が三つで思考も三つ。
引力、斥力を二つの首が敵の動きを基本阻害。
それに対抗しても一番やばい重力が控えている。
確かステータスが一定値以下のものを潰すこともできる。
いったいどれだけを指定し、重力を行使できるのか。
うーん、強い。未知数。
「……主よ、戻せ」
「あ、はい」
「そして、荒事を引き起こしてしまって、申し訳なかった。謝ろう」
それだけ告げて、キングさんは静かに図鑑へと戻っていった。
「……いや、謝らなくても大丈夫なのに……」
図鑑の中のキングさんに語るように俺は言う。
キングさんは、ここぞという時にいつも助けてくれる。
俺は、その背中に支えられて来た。
逃げたいことは多々あるが、その背中に。
いや、敵を見据えて背中を見せない姿に。
前を向こうって気持ちにさせられて来たのだ。
「たとえ耐えきれても、何もできずに初手やられたのは完敗扱い、そう捉えたのでしょう」
若干スッキリしたような顔つきで長男は語る。
俺は気になることを聞いた。
「初めて指輪から出した時、それ使ってれば殺せたんじゃないの?」
もしかして、あの時から実は少し態度が軟化していたとか?
そう思ったのだが、長男はあっさりと冷たく言い放つ。
「普通に尻尾で死ぬと思ってましたが?」
「あっはい」
「それに死なない指輪持ってるでしょう、貴方」
「そうっすね」
長男と仲良くなるのは、まだまだ先になりそうだな……。
「ほら、約束は果たしました。早く末の弟に料理を振る舞いなさい」
「ギャオッギャオッ!」
今まで黙っていた末っ子が待ってました言わんばかりに吼える。
「はいはい」
この状態を維持し続けるだけでも魔物が100体近く犠牲になるんだ。
さっさと食わせて、指輪に戻ってもらったほうがいいだろう。
顕現させ続けているだけでも、地味にこの世界の生物がやばい。
それが今の邪竜。
「じゃ、末っ子に長男、ポチ特製の牛丼をたんと召し上がれ」
「ぎゃおー!」
「ふふっ、末の弟がここまで喜ぶ姿は初めてみましたね」
慈愛の目を向ける長男を、ほーそんな表情もできるんだと見ていると。
長男は咳払いをしたのち、毒味だと言って巨大牛丼をばくばくと食べ始めた。
「……」
その様子を黙って寂しそうに見ている次男坊。
なんか、かわいそうになって来たから牛丼あげようかな。
「もう一個牛丼だそうか……?」
「──ぬ!」
俺の言葉にビクンと反応する次男坊に、長男が言う。
「ダメです。次男坊、お前は思考の邪魔ばかりしたのでお預けです」
「兄者ぁぁああ! 何をする時も三兄弟揃ってって話ではないか!」
「ギャオギャオ!」
「めちゃくちゃ美味しい初めて食べただとっ!! 弟よ、自慢か!」
再び三つの首があーだこーだ言いながら揉め始める。
そうして500体分の魔物の犠牲の上。
快速の勢いで牛丼を食べ終わった長男と末っ子。
仲間はずれはやめてくれと泣く次男坊と一緒に指輪に戻っていった。
「ふう、これでひと段落ってところか……」
「ォォォ……」
巨大化したワルプの上に腰掛けながら、俺はこの後どうしようか考えていた。
17メートルのこの体が戻るのは明日の明け方ごろだ。
それまでずっと沖合で過ごすことになるのか……苦痛である。
飯はインベントリ内に保管しておいたものを食えるとして。
今日1日の予定が全て潰れてしまったのが残念だ。
「はあ……」
ため息をついていると、遠くから声が聞こえてくる。
声の方向を見ると、カリプソの船団たちが近寄って来ていた。
そして、何故かワシタカくんがその上を飛んでいる。
あれ、イグニールたちの元に向かったんじゃ、と思っていると。
「トウジー! 大丈夫かしらー」
「トウジー……ってデッカー!」
「なんやトウジ! やばない!?」
船にイグニールたちが乗っているじゃないか。
みんな心配になって来てくれたのかな。
少しだけ寂しさが紛れたけど、この状況に少し恥ずかしくなった。
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