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本編
563 末っ子の不満
しおりを挟む「──グォォォォオオオオオオオオオ!!」
と、特大の咆哮を上げて、邪竜が指輪から顕現する。
霊気に関しては、この戦いの最中で勝手にたまった。
要するに巻き込まれた魔物がたくさんいるってこと。
ポセイドン、グレイトキングさん、邪竜イビルテール。
海に佇む巨大な3体の怪物たちよ。
そんな中に、巨大なワルプと17メートルのおっさん。
たった今。
この場は、様々な要素が混み合った魔の海域と化した。
この情報量、見ている奴がいたらわけわからんだろう。
大丈夫、俺もあんまりわかっていない。
「邪竜、力を──うおっ!」
ズバァッ!
尻尾が飛んでくるのを小盾で受け止めた。
くそが、何となくわかってたぞ、来るの。
「ほう、挨拶代わりの一撃を受け止めるようになりましたか」
ビタンビタンと尻尾を海面につけながらそう言う長男。
相変わらず俺へのヘイトは変わらずってところだった。
どうにかこいつらとのわだかまりも消したいんだけど。
中々どうして、対話をするために呼び出すのは危険だ。
「良いから、とにかく今は力を貸せ三兄弟」
そう長男に言葉を返すと、次男が声を荒げた。
「力を貸せだと? この儂らに、力を貸せだと? 殺すぞ?」
「相変わらず血の気が多い奴だな、良いから力を貸せってば」
この高波と津波の嵐を止めるには、こいつらの重力しかなかった。
重力によって強制的に津波を抑え込むのである。
「ほう、自分ではどうにもならないから私たちに頼むのですか?」
長男は続ける。
「ずっと見てきましたけど、貴方って責任感中途半端ですよね?」
「ぐっ」
「女性関係も、自分の中で適当に言い訳してなあなあですよね?」
「それ、関係ないだろ!」
こいつ、他のと違って理路整然と伝えて来るから面倒臭い。
「ま、まあ良いさ……」
図星をつかれて焦った気持ちを何とか保って告げる。
「呼び出した本当の理由は俺がスキル使うためだしな」
顕現させると、斥力と引力のスキルが合わさって重力に変化する。
ぶっちゃけ、それだけで十分だった。
まだ使ったことはないけれど、邪魔さえ入らなければ何とかなる。
そんな気がしていた。
「兄者の力を我が物顔で使用するとは、下衆野郎め」
「何とでも言えば良い。時間が無いから相手は無理」
「くそが! 兄者! 今すぐにこいつを亡き者に!」
儂に権限を寄越してくれ、という次男。
くそ、やっぱりこいつらを出すのは面倒だな。
こんなやり取りをしている間に時間は過ぎる。
駄弁ってる時間とか、真面目に無いんだけど。
「ギャオ、ギャオッ!」
「おや、可愛い末っ子も暴れたいと言ってますね」
「ほら兄者、末っ子も儂も暴れたい、権限を!」
「ふむ、能力をただで使われるのも癪に触りますし──」
邪竜の尻尾がズドンと海面を叩き。
今の権限を持っている長男が俺に鋭い眼光を向けて言った。
「──ひとつ大暴れして、津波の規模を拡大しますか」
くそ、やっぱり邪魔して来るんだよな。
まったく、面倒臭いことこの上ない。
巨大化した今なら、後で相手してやるから黙っててくれよ。
しかし、交渉手段ならまだあるぞ。
「おい末っ子! 暴れる前に飯にしないか?」
「──ッ!」
そう告げると、邪竜の動きが一瞬だけ乱れた。
やはり、前から思っていたが末っ子は割とアホ。
素直だ、と思えば良いのだけど。
言い方を変えれば、わがままっこなのである。
「見てきたはずだ、俺が食ってきた美味い飯の数々!」
「……ギャオ」
「食べたいだろ? なあ、食べたいよなあ?」
最悪クサイヤでも付着させて、脅すつもりだった。
この不快感を消して欲しければ、言うこと聞けと。
だが、その必要はなく、末っ子は迷う。
「くっ、儂らの可愛い末っ子を誑かすとは……!」
「落ち着きなさい末の弟。食べたいならこいつを殺せば良いのです」
「は? 殺したらポチも消えるから、末っ子は一生食べれないぞ?」
「ギャォ……」
首を真ん中の長男首に向けて、どうしたら良いかって顔を向ける末っ子。
これは、いけそうな予感がする。
「言うことを聞いてくれれば、食べさせるぞ!」
そんな末っ子の前で、俺は立ってインベントリから出した牛丼を貪った。
秘薬で巨大化している時、インベントリの中身も俺に合わせて巨大化する。
腹が膨れない、なんてことはないのだ。
ポセイドンの時、なぜこの手法を用いなかったかと聞かれれば。
小人の秘薬ペナルティを使いたくなかったからだ。
あと、高級巨人でも大きさは5倍で30秒しか持たないので無理。
そういう理由ね?
「……ギャオー」
どでかい牛丼を貪る俺を見ながら、末っ子はヨダレを垂らしていた。
もう、ダバーッと口からすごい勢いで漏れ出ている。
「食べたいか?」
「ギャオ」
「末の弟、騙されてはいけません! そんなもの食べたらお腹を壊しますよ!」
「弟よ! 騙されるな! そいつは餌で釣って、強制労働させる悪い奴だぞ!」
邪悪の邪の文字を冠する竜が何を言ってるんだか。
二人の説得を無視して、俺は末っ子にのみ話しかける。
「末っ子よく聞け。血の気が多い次男と、無駄に小賢しい長男には飯はやらん。でも、お前には飯をやる」
「ギャオ……?」
首を捻る末っ子に優しく語りかける。
「それはいつも、指輪から食べたそうな気持ちを感じていたからだ!」
「ギャオ」
ぶっちゃけ、嘘だ。
だが、こいつなら食欲と思っていた。
それだけだ。
嘘でも何で飯やって餌付けできたら何でもええねん。
「この先、ずっと俺の指輪として生きていくんなら、楽しみもあった方がいいだろう?」
「ギャオ」
「食べたいなら働こうな?」
「ギャオ」
頷く末っ子。
なんかもう、あんまり邪悪さを感じない。
「でも、お前の兄貴二人がずっと俺を狙って来るから出せないんだよ。対話もできん」
「ギャオギャオ!」
「なに!? 弟、儂らにそろそろ強がりもやめろだって!? 殺すぞ!!」
「末の弟、騙されてはいけませんよ。言葉巧みに操ろうとしているのです」
「ギャオ!」
「食べたい? だったら人間食べれば良いじゃないですか。ロック鳥も美味しいですよ?」
「そうだ! 高純度の魔力を持った魔物を探して食べようぞ! 赤い髪の女とかをだ!」
「ギャオ!」
「は……? 昔は次男の方が美味しいところを食べて、筋とか羽とか食べさせられてた……?」
「ギャオ!」
「そこまで美味しいと思ったこともないし、今まで苦痛に感じていた? それは本当なのですか?」
「ぐっ、そんなことないぞ!」
「ギャオギャオ!」
「私の首が別のところを向いている時に、よく噛み付かれて遊ばれてた? 弟よ、本当ですか?」
「嘘に決まってる! しかもそれは遊びだったんだ!」
「ギャオ!」
「末っ子は嘘をつきませんから、これに関しては少し後で話をしますよ、次男坊」
「うっ、それは……」
何だか雲行きがあやしいぞ、三つの首が兄弟喧嘩を始めてしまった。
その間に、俺は重力を使って波を抑える。
早く終わってくれないかな?
霊気はいまだにマックスでたまる一方だけど、そろそろきついって。
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