232 / 650
本編
533 船旅・2
しおりを挟む旅客船は、貿易船と違って船内に絨毯が敷いてあり、なんとも豪華な印象である。
そんな絨毯の上を歩き、ライデンのいる部屋まで進んでいると声が聞こえてきた。
「立ち去れ、いちいち絡んで来て面倒な奴らだな」
「ああ? 何だその言い草?」
なんとも物々しい表情の生徒連中がライデンたちを取り囲んでいる。
ライデンの後ろには、少し怖がる委員長と何食わぬ顔のエイミィ。
この3人、実は一緒にオデッセイを観光する一つのグループなのである。
相変わらずぼっちなライデンのために、俺も善処した結果だった。
だがしかし!
なぜこの3人なのか、という疑問に対して回答するならば……。
すでに固まったグループに入れるのもキツイだろうってことだ。
俺ならキツイ。
だから、とりあえずなんかあぶれてた連中を無理やり組ませてみたのだ。
よかったなライデン、ハーレムだぞ。
余った人でグループ組んで、ってかなり酷かもしれないけど。
一人で行動するのは学院の方針的にNGだった。
故に仕方がないと言うことにして、無理くり組ませたのである。
え、強要はだめだって?
知らん。ルールなんだからな。
大人になったら好きにしたらいい。
「言い草も何も、いきなり絡んできたのはお前らだろ」
影からこっそり見ていると、ライデンが気丈に言い返していた。
確かに、いきなり絡んだのはあいつらだろうな……。
ビビると思っていた不良たちは、落ち着いた正論を言われ逆に狼狽える。
「ラ、ライデンのくせに生意気言ってんじゃねーよ!」
「そうだそうだ!」
「テメェのせいで、俺たちがどんな目にあったと思ってんだ!」
「そうだそうだ!」
うーん、なんとも負け犬の遠吠え染みた奴らだろうか。
何事もにしっかり言葉を返す、これが重要なことだね。
「俺のせいで、お前たちがどんな目にって……」
ライデンは「はあ……」とため息を吐きながら言葉を続ける。
「そういうのを自業自得って言うんだ」
「テメェ!」
さすが、なかなかの煽り力である。
やっぱり因縁つけてくるやつらには正論っぽい疑問を打つけるのが良い。
なんでそんなことするの?
なんでわるいことするの?
ねえ、なんで? なんで?
これが一番効く。
そしてすごくイライラして相手から手を出し、御用だ。
「テメこの!」
「殴りたいなら殴ればいい。でも停学解けたばかりだろ?」
「ぐっ」
この一言によって、今にも殴りかかろうとしていた手を止める。
そう、こいつらは……。
あの時、オーガ事件を引き起こした不良どもは無期停学を終えたばかり。
退学や留年こそ免れてはいるが、アーティファクト科を除籍。
問題を起こすような生徒は最初からいなかった扱いになっていた。
研究者としての望みはもう薄く、有名どころには行けないだろう。
その鬱憤を晴らすために、ここにいるのだろうか。
「まあ、憂さ晴らしにだけ付き合えよライデン」
「断る」
「いいじゃねえか、俺とお前の仲だろ?」
「断る」
なんとしても連れ出したいような不良たち。
それに対して、断固拒否の姿勢を貫くライデン。
すげーな、俺だったらビビっちまうのに……。
実際、ライデンは鍛錬もそれなりに積んでいるので不良たちが束でかかってもかなわない。
不良たちも、そんなライデンによくもまあ……。
「チッ、だったらテメェはここに残っとけ、俺たちはそこの女二人を連れてくからよ!」
「ヘヘヘ、船の中で楽しもうぜ? とりま俺らの部屋来いよ」
「なっ!? ハ、ハハハ、ハレンチです!!」
この言葉に後ろでオドオドしていた委員長が顔を真っ青にした。
ふむ、委員長はそういう耐性がないってことだな。
ギャル子エイミィの方は……。
「え、ふつーにヤなんだけど? なんであんたらみたいなクズの相手しなきゃなんないの?」
……おおうっ!
思ったよりもど真ん中直球ストレートで言葉を返していた。
さらに、エイミィは髪をいじりながら続ける。
「つーか、今時不良系とかダッさ、そんなんに魅かれるわけないっつーの」
「おいこらテメェ、バカにしてんのか!」
「バカにしてるってゆーか、バカじゃん実際? ダサ過ぎてヤバい」
「……ぐぐぐ」
「実際あんたたちにどんな権限があってそんなこと言えるワケ?」
「くっ」
「言ってみなよ、ほら。聞いといてあげるから。なんでしょーもないことしてるんの?」
質問の嵐だ。
不良になんで不良やってるんですか?
なんて聞いたとて、答えが出てくるわけがない。
そもそも憧れとか。
そう言った部分で漫画のかっこいい不良は生まれてくる。
貫く漢の美学みたいなね?
それと引き換えこいつらは……。
ただストレスのはけ口にしてやがるんだ。
やることなすこと中途半端。
自業自得なのに、人のせいにして、今後も変わらないんだろうな。
「除籍されたアホなんかより、やっぱ将来性はライデンくんっしょ?」
「このアマァ!」
そろそろ本気で手を出しかねない気がしたので、止めに入る。
クイック俊足移動にて、手をあげた男の子の拳を顔で受けた。
「お、お前は──!?」
いきなり現れた俺に驚く不良諸君。
ちなみにダメージは……ゼロ。
ほんと、しょーもない。
「そのくらいにしとけよクソガキ。女の子に手をあげるな、格好悪い」
98
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。