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本編
519 立会いテスト
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住宅街からそこそこ歩いた場所に、飛空船の製作所は存在する。
街中で浮遊結晶の実験なんてできないからだ。
大掛かりなプロジェクトとなるので、研究所の移設も一つ案としている。
移動に手間がかかるから、うちのダンジョンと繋げることも考えていた。
しかし、付き合いのある友達以外は、あんまり家に入れたくないタイプ。
ドアのコストの問題もあるし、少し見送りということにあいなっていた。
オスローは研究所に全然顔を出さないと愚痴っていたけど。
そりゃ、ローディがいるから迂闊に顔は出せない。
家と繋げるのも、彼女の脅威が薄れない限りは無しで行きたい。
……本当は宿直だってやりたくないんだ!
故に、今後。
あの学院の研究室は、水島一人に行かせることにしている。
でも、ダンジョンに使えるリソースを増やしていくという課題はこなしたい。
この際、ダンジョンの階層を増やしに増やしまくるという手はどうだろうか?
全ての階層を浄水の泉……いや地下水脈にしてしまうのだ。
薬草ばたけをどんどこどんどこ拡張し、そこで日々薬草の生産を行う。
ゴレオを筆頭に、薬草の管理は全てガーディアンを作り出してやるのだ。
で、大量に取れた薬草を用いて、一つの階層に俺が手を突っ込んでオイル化。
そこから様々な材料を突っ込んでポーション化、秘薬化。
どうせなら、瓶を並べておくと自動的にその中に液体が詰められる工場にしたい。
が、色々とがちゃがちゃするよりも、ガーディアンにやらせたら良いだろう。
深淵樹海の樹木ガーディアンを見て、指示すればしっかり働いてくれるのがわかったんだから。
鉱石に関して、俺が職人技能の採掘によって砕かなきゃいけない。
故に、どうしても小規模なものにせざるを得なかった。
なんか鉱石作り出してくれるような不思議な魔物を飼い慣らせたら良いのにね。
話がそれてしまったが……。
研究所と製作所を繋ぐドアを作るには、まずダンジョンの拡張をしなきゃならんのだ。
ギリスからあまり動かない、今のうちにやっておくほうがいいかね、やっぱり。
「さて、ここが製作所だ。とりあえず入りたまえ」
オスローの案内によって、俺たちはぞろぞろと大きな建物の中へと入っていく。
俺の隣にいたライデンが、キョロキョロと通路を見渡しながら言う。
「ここでいったい何を作ってるんですか……?」
「飛空船」
「ひ、くう……せん……?」
首をひねるライデンに前を歩くオスローが振り返って言った。
「船は海に浮かぶ物だと言う常識は今日捨て去ることになるだろう」
「常識を、捨てる……」
「物作りはいつだってそうだ。君だって武具に回復効果をつけるという、小さい事だが常識を覆したアイデアを実践していただろう? それと同じで、私はトウジとともに空に浮かぶ船を作ろうと、長い期間頑張って来ていたのだよ」
「そうだったんですね! 常識を捨てる……覚えておきます!」
「うむ」
通路を歩き終わり、オスローはライデンの言葉に頷きながら最後の扉を開いた。
「色々あって長い時間がかかってしまったが、ようやく一つの壁をクリアした。大いなる空への第一歩、そして常識への挑戦はこの飛空船──その名もミニ・ガルーダ試作機によって行われる」
そうして姿を見せたのは、船首と船尾の左右に翼のようなスラスターをつけた中型船である。
船といっても、大きく違うところはマストがないことだ。
翼がついた、巨大な手漕ぎボートのように見えないこともない。
俺のボキャブラリーが貧弱だから、なんとも凄みがないが、でも目の前で見たら「おおっ」って思うよ。
「それにしてもガルーダか、ご大層な名前だな」
ガルーダと言えば、俺の世界では神話にもある大いなる神の鳥。
この世界は、ロック鳥よりも伝説的な存在である四枚の翼を持った綺麗で巨大な赤い鳥だ。
船首と船尾に取り付けた翼のような四つのスラスター、これが四枚翼を表しているらしい。
「ふふん、神の鉄とも呼ばれるものを動力として使うんだから、名前もそれに見合ったものにしないとだろう?」
「なるほどね。すごいよオスロー。やっぱりお前は天才だ」
「むぅ……褒められることは当然として、なんだか面と向かって言われると恥ずかしくなってくる……」
その気持ちはよくわかる。
俺もお前も性根がひねくれてるタイプだから、むず痒くなるんだよな。
「しかし……なんか思ったより小さいな?」
巨大な船を想像したし、オーダーは快適に住める空間だ。
しかし、大人が二十人乗ったらいっぱいいっぱいな船がそこにあった。
みんな期待に胸を膨らませていただけに、ちょっと物足りないような表情をしている。
「これが完成系なの?」
「いや、完成系ではない。言っただろうミニだって」
「ああ……」
どうやら、俺の望むような巨大な船の製作にはかなりの時間がかかる。
一応、船の枠が準備していたが、あとあと重要な船の木材も変更となった。
動力部の設計も、結果的に一からやり直しとなり大きな船を作る時間はなかったらしい。
「そもそも貿易船クラスのデカさの場合、設計、そこから材料の加工に入って、組み上げ終わるまで1年以上かかるものなのだが……まさかすぐにできると思っていた訳ではないだろうな……?」
「うっ」
完成系をちょっと想像していた、なんていえない。
「こうして中型船を早い段階で準備できたってところは、評価されるべきところだろう?」
「その通りです」
そこそこ長い間、飛空船の計画を考えてきたからね……。
もうできてもいい頃かな、なんて思ってた俺がバカでした。
そっか……。
船を作ったりそこに部屋作ったり、色々しなきゃいけないんだ。
船側だってそう簡単にできてたまるかって思うだろう。
「しっかし、みんなこんな船いつの間につくっとったん? どっかに依頼したん?」
マイヤーの言葉にオスローが答える。
「もともと設計していた部分はあって、各部材料を加工して組み上げるだけだからそこまで問題はない。しかも、空に浮かぶテストであるから、スラスター自体はまだ搭載してないし、船の中も基本的に全くの空っぽ。あくまで骨に皮だけ貼り付けた簡易的なものだから、時間はかからないのだよ」
それに、とオスローはそう言いつつどこかに走って行き、何やらフォークリフトのような乗り物に乗って俺たちの前に戻ってきた。
「前もって重たい材木を運び、持ち上げる製作用の魔導機器を作ってあった」
フォークの部分がアームになっており、オスローの操縦に合わせて上下して木材を持ち上げたりしている。
便利だな、あれ。
「このように、重作業用魔導機器リフトくんを使えば、最悪私一人でも組み上げられて問題ない」
「なあ、そのリフトくん売ったらええんちゃう……? めっさ便利そうやん」
「すでに製作のライセンスはC.Bファクトリーに売り払って、私は勝手に作れないのだ」
「ああ、もう奴さんの手の内にわたっとるわけね?」
「ちなみに、馬鹿高い値段で売られ、造船現場ですでに何台かが密かに活躍している。今はまだ試験的導入だが、いずれはさらに馬鹿高い暴利を乗せて他国に発売されるかもしれない。もうC.Bファクトリーとは関わりがない故に、お金が手元に入ってこないのが残念なところだ。そして、このリフトくんはいわば初号機で試作機。それをパパがもっと重たいものを持てるように改良してくれたからな、現場にあるものよりも格段に良いぞ。見て欲しい、このスムーズな動きを」
ウィーンウィーンウィーン。
アームが怪しげで、そしていやらしい動きをしていた。
どんな動きだったかは、想像に任せます。
「さて、とりあえずミニガルーダに乗りたまえ。今日はそのために来てもらったんだから」
街中で浮遊結晶の実験なんてできないからだ。
大掛かりなプロジェクトとなるので、研究所の移設も一つ案としている。
移動に手間がかかるから、うちのダンジョンと繋げることも考えていた。
しかし、付き合いのある友達以外は、あんまり家に入れたくないタイプ。
ドアのコストの問題もあるし、少し見送りということにあいなっていた。
オスローは研究所に全然顔を出さないと愚痴っていたけど。
そりゃ、ローディがいるから迂闊に顔は出せない。
家と繋げるのも、彼女の脅威が薄れない限りは無しで行きたい。
……本当は宿直だってやりたくないんだ!
故に、今後。
あの学院の研究室は、水島一人に行かせることにしている。
でも、ダンジョンに使えるリソースを増やしていくという課題はこなしたい。
この際、ダンジョンの階層を増やしに増やしまくるという手はどうだろうか?
全ての階層を浄水の泉……いや地下水脈にしてしまうのだ。
薬草ばたけをどんどこどんどこ拡張し、そこで日々薬草の生産を行う。
ゴレオを筆頭に、薬草の管理は全てガーディアンを作り出してやるのだ。
で、大量に取れた薬草を用いて、一つの階層に俺が手を突っ込んでオイル化。
そこから様々な材料を突っ込んでポーション化、秘薬化。
どうせなら、瓶を並べておくと自動的にその中に液体が詰められる工場にしたい。
が、色々とがちゃがちゃするよりも、ガーディアンにやらせたら良いだろう。
深淵樹海の樹木ガーディアンを見て、指示すればしっかり働いてくれるのがわかったんだから。
鉱石に関して、俺が職人技能の採掘によって砕かなきゃいけない。
故に、どうしても小規模なものにせざるを得なかった。
なんか鉱石作り出してくれるような不思議な魔物を飼い慣らせたら良いのにね。
話がそれてしまったが……。
研究所と製作所を繋ぐドアを作るには、まずダンジョンの拡張をしなきゃならんのだ。
ギリスからあまり動かない、今のうちにやっておくほうがいいかね、やっぱり。
「さて、ここが製作所だ。とりあえず入りたまえ」
オスローの案内によって、俺たちはぞろぞろと大きな建物の中へと入っていく。
俺の隣にいたライデンが、キョロキョロと通路を見渡しながら言う。
「ここでいったい何を作ってるんですか……?」
「飛空船」
「ひ、くう……せん……?」
首をひねるライデンに前を歩くオスローが振り返って言った。
「船は海に浮かぶ物だと言う常識は今日捨て去ることになるだろう」
「常識を、捨てる……」
「物作りはいつだってそうだ。君だって武具に回復効果をつけるという、小さい事だが常識を覆したアイデアを実践していただろう? それと同じで、私はトウジとともに空に浮かぶ船を作ろうと、長い期間頑張って来ていたのだよ」
「そうだったんですね! 常識を捨てる……覚えておきます!」
「うむ」
通路を歩き終わり、オスローはライデンの言葉に頷きながら最後の扉を開いた。
「色々あって長い時間がかかってしまったが、ようやく一つの壁をクリアした。大いなる空への第一歩、そして常識への挑戦はこの飛空船──その名もミニ・ガルーダ試作機によって行われる」
そうして姿を見せたのは、船首と船尾の左右に翼のようなスラスターをつけた中型船である。
船といっても、大きく違うところはマストがないことだ。
翼がついた、巨大な手漕ぎボートのように見えないこともない。
俺のボキャブラリーが貧弱だから、なんとも凄みがないが、でも目の前で見たら「おおっ」って思うよ。
「それにしてもガルーダか、ご大層な名前だな」
ガルーダと言えば、俺の世界では神話にもある大いなる神の鳥。
この世界は、ロック鳥よりも伝説的な存在である四枚の翼を持った綺麗で巨大な赤い鳥だ。
船首と船尾に取り付けた翼のような四つのスラスター、これが四枚翼を表しているらしい。
「ふふん、神の鉄とも呼ばれるものを動力として使うんだから、名前もそれに見合ったものにしないとだろう?」
「なるほどね。すごいよオスロー。やっぱりお前は天才だ」
「むぅ……褒められることは当然として、なんだか面と向かって言われると恥ずかしくなってくる……」
その気持ちはよくわかる。
俺もお前も性根がひねくれてるタイプだから、むず痒くなるんだよな。
「しかし……なんか思ったより小さいな?」
巨大な船を想像したし、オーダーは快適に住める空間だ。
しかし、大人が二十人乗ったらいっぱいいっぱいな船がそこにあった。
みんな期待に胸を膨らませていただけに、ちょっと物足りないような表情をしている。
「これが完成系なの?」
「いや、完成系ではない。言っただろうミニだって」
「ああ……」
どうやら、俺の望むような巨大な船の製作にはかなりの時間がかかる。
一応、船の枠が準備していたが、あとあと重要な船の木材も変更となった。
動力部の設計も、結果的に一からやり直しとなり大きな船を作る時間はなかったらしい。
「そもそも貿易船クラスのデカさの場合、設計、そこから材料の加工に入って、組み上げ終わるまで1年以上かかるものなのだが……まさかすぐにできると思っていた訳ではないだろうな……?」
「うっ」
完成系をちょっと想像していた、なんていえない。
「こうして中型船を早い段階で準備できたってところは、評価されるべきところだろう?」
「その通りです」
そこそこ長い間、飛空船の計画を考えてきたからね……。
もうできてもいい頃かな、なんて思ってた俺がバカでした。
そっか……。
船を作ったりそこに部屋作ったり、色々しなきゃいけないんだ。
船側だってそう簡単にできてたまるかって思うだろう。
「しっかし、みんなこんな船いつの間につくっとったん? どっかに依頼したん?」
マイヤーの言葉にオスローが答える。
「もともと設計していた部分はあって、各部材料を加工して組み上げるだけだからそこまで問題はない。しかも、空に浮かぶテストであるから、スラスター自体はまだ搭載してないし、船の中も基本的に全くの空っぽ。あくまで骨に皮だけ貼り付けた簡易的なものだから、時間はかからないのだよ」
それに、とオスローはそう言いつつどこかに走って行き、何やらフォークリフトのような乗り物に乗って俺たちの前に戻ってきた。
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便利だな、あれ。
「このように、重作業用魔導機器リフトくんを使えば、最悪私一人でも組み上げられて問題ない」
「なあ、そのリフトくん売ったらええんちゃう……? めっさ便利そうやん」
「すでに製作のライセンスはC.Bファクトリーに売り払って、私は勝手に作れないのだ」
「ああ、もう奴さんの手の内にわたっとるわけね?」
「ちなみに、馬鹿高い値段で売られ、造船現場ですでに何台かが密かに活躍している。今はまだ試験的導入だが、いずれはさらに馬鹿高い暴利を乗せて他国に発売されるかもしれない。もうC.Bファクトリーとは関わりがない故に、お金が手元に入ってこないのが残念なところだ。そして、このリフトくんはいわば初号機で試作機。それをパパがもっと重たいものを持てるように改良してくれたからな、現場にあるものよりも格段に良いぞ。見て欲しい、このスムーズな動きを」
ウィーンウィーンウィーン。
アームが怪しげで、そしていやらしい動きをしていた。
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