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本編

496 料理研究クラブ・ポチ編後

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「アォォォォン!」

 ポチがノートに自分の意思を書いて高らかと掲げる。

 魔物の調理。
 それは一歩間違えればとんでもない参事に変わる。

 これを受けて、料理研究クラブのメンツがざわつく。

「それは知ってますよ、ポチちゃん」

「ええ、知ってます知ってます」

「これでも私たちは、魔物の調理を専門とした料理研究クラブなんだから」

「ねえ? 部長」

「ええ、あまり私たちを侮ってもらっては困りますよ」

 ニコニコとポチに返答する料理研究クラブの部長。
 だが、表情とは裏腹に纏う雰囲気的なものは笑っちゃいなかった。

「アォン!」

 またポチが吠えながらノートを掲げる。

 魔物食材は時として、作り手にも食い手にも牙を剝く。
 調理方法を確立した上でじゃないと、人に出してはいけません。

 うんうん、その通りだ。
 古いと孵化してしまう虫卵ドリンクとか、出しちゃダメだ。

 虫の卵料理とか、下手したら体に寄生されかねないだろう。
 ポチの説教をその身に確り受け止めてほしいね。

 ちなみにオークは豚肉扱いだが、寄生虫はいないとされている。
 万能豚肉オーク。
 繁殖力も高いし、自分で勝手に集落持つから割と手頃に手に入るのだ。

 しかし、飼育できない理由もある。
 食うものが新鮮な野菜とか木の実とか果実とややグルメ。
 そして人間の女を本能的に襲うという点があるからだ。

 頭が働くから徒党を組んで反旗を翻し、スタンピードの温床にもなる。
 故に山の中とか森の中にいる奴を狩るだけで飼育は認められていない。
 調理実習室にいる子オークのピーちゃんは許可を申請して飼われているものである。

「ぐむむ……しかし、栄養価は抜群ですし、孵化しなければ大丈夫です!」

「部長のいう通り! ピーちゃんにあげてちゃんと大丈夫か見てますし!」

 ピーちゃん、そんなマッドな料理実験に付き合わされているのか。
 オークだから別に死んでもなんとも思わないけど、不憫だな……。

「ぶひー!」

 ピーちゃんの抗議の鳴き声が響くが、シカトして話は続く。

「ォン!」

「はいはい」

 ポチに言われてノートをみんなに読み上げる。
 いつの間にか俺がノートを掲げる役目になっていた。

「でも、知れば知るほど、魔物珍味は食を彩るアクセントになる」

「アォン」

「それを心に確と刻み、調理に励めばきっと良い料理ができるよ」

 まあ、確かにポチのいうことは正しいっちゃ正しいな。
 どんな魔物でも、ポチにかかれば美味しくなるのだ。

 デンキウナギの魔物、サンダーイールだって。
 あのビリビリの雷属性器官が、癖になるアクセント。
 しかし、加減を間違えれば感電死。
 今思えば、割と適当に料理したら死ぬ生き物を食っていたんだな……。

「ォン」

「これを見てほしい、さっきの卵ドリンクに孵化しない加工を施したもの」

 ポチは、俺たちに出されたドリンクと同じようなものを取り出した。

「ォン」

「これは古くても孵化することがなく、さらにある程度は日持ちもする」

「えっ! ポチちゃんいつのまにそんなものを!?」

 驚く部長に、ポチが言う。
 いや、ノートに書かれた文章を俺が読み上げてるだけなんだけど。

 なんとなくフィーリングが伝わる俺からすれば、結構面倒なやりとり。
 パインのおっさんはよくポチを雇い入れて意思疎通できていたな……。
 改めてすごいと思いました。

「アォン!」

「塩茹でしたらいい。あと、たまに夕食作る時に使ってるし」

「し、塩茹で!? そ、そんな簡単な方法で……?」

「ぶ、部長! 私たち……どうやら新鮮さに気を取られて、下処理を怠っていたようです……」

「くっ、まさかそんな方法があったなんて……! 気がつかなかった……!」

 マジかこいつら。
 下ごしらえは料理の基本じゃないのかよ。
 料理研究クラブとかやめてしまえよ……。

「卒業料理のテーマ。魔物珍味でかつしっかり栄養を取れるもの……そのイメージが先行して、すっかり基本中の基本を忘れている状況でした……くっ、料理研究クラブの部長してあるまじき失態です……!」

「アォン」

 落ち込む部長に、ポチがてちてちと歩いて手を差し伸べる。
 そしてノートを広げて意思を伝える。
 もう読むの面倒だから、読み上げるぞ。

 ──素揚げ芋虫プリンは、新食感でサクサクプリプリ美味しかったよ。

「ポチちゃん……いや、ポチ先生……っっ!」

「アォン……」

「え、卒業料理の監修をやってあげるから、落ち込まないでって……本当ですか!?」

「ォン」

「調理の基本は下ごしらえから、そこを最初から教えてくれるって……ポチ先生ーッ!」

 涙を流しながらポチに抱きつく部長とともに。
 料理研究クラブのメンバーも感動したように一気にポチに群がって泣く。

「顧問も匙を投げるこのクラブに……やっと本物の顧問が来てくれましたね! 部長!」

「部長! 食中毒起こして傷ついてしまったこの部の伝統を守っていけますね!」

「部長ー! ポチ先生ー! うわああああん!」

 ……な、なんだこれ。
 全然感動しないんだけど。
 つーか、食中毒起こしてるってマジかこいつら。

「うぅ、青春ですねえトウジ先生……」

「え? あっはい、青春っすねー」

 俺の隣でアシュレイも涙を流している。
 雰囲気だけの青春劇に涙を流している。

 俺の求めてた青春ってこんなんだっけ……?
 そんな疑問を抱きつつ、とりあえず一件落着ってことにしておいた。
 もうそれでいいだろう、面倒くさいし。

 つーか、赤蟻の卵をたまに夕食で使ってるってどう言うことだろう。
 ポチがポロッと告げたその一言。
 走馬灯ように夕食の記憶が蘇り、なんと無くブツブツしたいくら見たいなサラダを食べたことを思い出した。
 あれか、あの白いいくらみたいな、ブチュブチュか。

 ……ゾワゾワゾワゾワッッ。
 みんなが涙を流す中、俺はこみ上げる胃酸と戦っていた。



 その後の料理研究クラブが、ポチの手によってとんでもない変貌を遂げるのはまた別のお話。








=====
ポチ編終了。
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