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本編
484 黄金樽の美酒と酒騒動・6
しおりを挟む……──って思ったけど、やっぱ回想無しで。
何故ならば、俺記憶がないからだ。
回想というなのポチ談義に耳を傾けましょう。
「アォン」
ため息をつきながら、やれやれと首を横に振るポチ。
なんだか少しやさぐれているようである。
「ジュノー通訳」
「はぁ……ってため息ついてるし」
そのまんまだったか。
だと思ったんだよな!
「でもポチ、俺のせいじゃないでしょこれ?」
「アォン」
「トウジがああなったら、みんな引っ張られるってさ」
「ええー」
引っ張られたというより、むしろイグニールに引き摺りこまれた。
そう表現していいと思うけど……?
「アォン」
「簡潔に話すけど、原因はマイヤーの酒が5000万だったことに起因するし」
「えっ、この樽ってそんなにすんの!?」
超高級酒だとは聞いていたが、まさか5000万ケテルもするとは……。
俺の世界の名だたる高級ワインにも引けを取らない、そんな酒である。
でもまあ、大きな樽に入ってる量だから、瓶単位にするとそうでもないか。
世の中、ひと瓶1000万だったり5000万を超える値で落札されたワインだってある。
超高級だとされて、この量と樽の装飾を合わせて、5000万円はわりかし普通かもね。
「それでも高いなあ……この樽そんなすんのかあ……」
「アォン」
「強化に5000万とかポンとだして破産しかけてるトウジに言う資格はないってさ」
「あっはい」
しかし、よくもまあそんな大金をお小遣いとして持ってたな、マイヤー。
学校に行ったとしても普通に働き詰めだし、他にも色々金策してるからそんなもんか。
トガルで名のある大商会の娘さんは、ブルジョワなのである。
「アォン」
「それで、トウジが買い直すって言ってたし?」
「うん」
「で、マイヤーが5000万って告げたら」
「告げたら……?」
「目の色変えて探しに行くことになったし」
「マジか……」
念のためにマイヤーにも視線を向けてみると、彼女はあっけらかんと頷いた。
「せやで」
俺は、スピリチュアル瓶ごと一気飲みして、マイヤーとイグニールを両隣に侍らせたそうだ。
二人を肩で抱きながら5000万ケテル勿体ないから取り戻しに行くと叫んだらしい。
格好いいのか、格好悪いのか、わからん有様だな。
ちなみに、その時は既にパンツ一丁……ダサい、ダサいぞ。
「ォン」
「その時、トウジがノリで俺も服を脱いでるんだからみんな脱いで戦えって」
「……う、うん」
それはさすがに不味いとのことで、ポチ、ゴレオ、コレクトが止めたようだ。
力セーブルールは、そこから派生して生まれたものらしい。
「それでもパンツを脱ぎ出すトウジをポチが必死に止めてたし」
「アォン……」
そ、そうだったのか。
ありがとう、ポチ。
俺の最終防壁を守ってくれていたのはポチだったようだ。
「ポチ、苦労かけたな」
「アォン……」
もうこれっきりだからな、というポチの感情が伝わって来る。
酒は飲んでも飲まれるな、まさにそれを身を以て味わった。
「にゃはは! やっぱり飲んだらみんな薄着になるんやね!」
「笑い事じゃないだろ」
もはや薄着どころの騒ぎではない。
全裸とまではいかないが、半裸以上。
8分の7裸である。
「パンツ一丁なのに、靴下と靴だけ律儀に履いてるのがギャクセン高いと思うで!」
「ぐうっ」
まあいいや、大体のことはわかった。
大事な時以外、酒は控えるようにしないと……。
「そもそも異常状態耐性それなりに積んでるのに、どうしてこうなった?」
「──それはスピリチュアルが私たちの細胞に素早く届くからだ!」
今度は上から声が響いてきた。
ウィンストのものである。
見上げると巨大なガイアドラゴンに乗ったウィンストが空にいた。
何故か全裸だった。
「なんでお前は何も来てないんだよ!?」
「問題ない」
「問題ないわけあるか!」
「賢者式宴会魔法スキル──ミステリックライトを用いてあるからな!」
チビの頭の上で仁王立ちになるウィンスト。
確かに輝いて何も見えなかった。
ちょっとエッチなテレビアニメで言うところの謎の光である。
「どうだ私の宴会芸は! これで局部を一切見せずに裸芸ができる!」
「えっと、その……うん、すごいね……」
もうついていけない。
そして男の裸なんか見せられても嬉しくない。
「チビ! 360度、全方位から見せてやれ!」
「ギャ、ギャオ……」
チビも呆れているようだ。
ガイアドラゴンの力って、限定的なものなんじゃないの?
クソほどにもくだらない理由で惜しみなく使ってるけど。
従魔の無駄遣いが過ぎるぞ、ウィンスト。
「他にも色々見せてやろう!」
「もう良いから! 降りてこいよ!」
「賢者式宴会魔法スキル──ハイドロピラー!」
ドッ──と、ウィンストの後ろで水柱が二つ巻き起こった。
さらにその水柱は竜と虎の顔を形作って、互いにぶつかり合う。
「おい! お前だけなんかここに来てる理由が違うって!」
一応樽酒を回収に来たんだよな?
その認識は俺が正しいよな?
ウィンストの様子を見ていると、すごく不安が募った。
「ただのハイドロピラーの造形をここまで細かくするのに50年近くかかった!」
「そう言うの良いから!」
「ついでになんか賊みたいな奴も見つけたから叩きのめして来てやろう! チビ!」
「ぎゃおー」
「ああもう! なんだよ!」
全裸でどっか行っちまった。
俺もう知らないぞ。
なんか言われても、赤の他人だってことにしよう。
「ちょっとー! トウジ杖返してってば! 本当に強いわよコイツ!」
「ゴアアアアアアアアア!」
辟易とする俺の耳に、未だオーガと戦うイグニールの声が届く。
「そろそろ加勢してやるか……」
この状況の全貌も知れたからな。
「そうだ、酒好きリクールって言われてたけど……なに、あいつネームドなの?」
「せやね。馬車を襲った犯人があいつや」
俺の質問にマイヤーが頷く。
奴は酒関係の行商馬車を優先して狙う一体のはぐれレッドオーガ。
角は4本で、酒を飲めば飲むほど強くなると言われてるそうだ。
「トウジが酒盛りしてるオーガの寝床に、パンツ一丁で突っ込んで取り返したんだし!」
「オーガとトウジの全裸鬼ごっこはおもろかったなあ! わはははっ!」
見せもんじゃねえぞ!
まったく……。
俺は一瞬だけ寒さ無効の装備を外して、外気に体を晒した。
寒いけど、これで思考がクリアになる。
「よし、さっさと倒してみんなで家に帰るぞー」
帰ったらみんなで仲良く禁酒だ。
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