装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

本編

４８０ 黄金樽の美酒と酒騒動・２

　べろんべろんになったマイヤーは、イグニールの手によって服を着せられてリビングに正座させられていた。
　酒や嘔吐物に塗れてしまった汚洋服、そして部屋は、メイド服を身につけたメイドゴレオが掃除してくれている。
　洗濯や掃除に使う水は、全てダンジョン内にある浄水だから前より綺麗になった。

　もちろん、魔導機器文化が発展したギリス。
　洗濯板でゴシゴシするのではなく、洗濯用の魔導機器をゴウンゴウンと回す。
　床の掃除に関しても、モップが回転するなんか業務用っぽいやつですぐに終わった。

「で、なんか言うことあるだろマイヤー」

「………………お、おかえり」

　椅子に正座させられたマイヤーは、そっぽを向きながらボソッと呟いた。

「うん、ただいま。とりあえず１ヶ月酒禁止な」

「ま、まってっ！　まってや！　堪忍して！　ごめん！　あやまるからぁっ！」

　俺の服に涙目で縋り付くマイヤー。
　うむ、先にまず謝ることが大事なのだよ。

「うぅ……依頼でもう少しかかる思ってたのに、あかんところで見つかってしもうた……」

「え、なに？　俺がいない時って、全裸で飲み明かしてるの？　やばっ」

「ちゃ、ちゃうわ！　そんなはしたない真似せーへんよ！」

　せーへんよ、と言われてもな……説得力皆無である。
　やはり、酒は飲んでも飲まれるな。
　へべれけでからみ酒になるくらいならば許せるけども。
　そこに裸族属性が付与されてしまうことになったら、もうやばいだろ。

　しかも、マイヤーは女の子である。
　目も当てられないとはこのことだ！

「なあ南蛮？　今までもこっそり飲むことはあっても全裸にならんかったよな！？　なっ？　なっ？」

「コ、コケェ……」

　自分のペットに、弁護を求める飼い主。
　まったく、どっちが主人でどっちが従者だろうか。
　おっと、こればっかりは俺は人のことを言えないか。

「ジュノー、通訳」

「んー、確かにご主人様のマイヤーは体が熱いとか言って下着姿にはなることは何度もあるけど、ここまで酷く酔い散らかしたことはなかったってさ。帰って来ていきなり酒を浴びるように飲み始めて、何か悩みを抱えてるかもしれないから、トウジさん聞いてあげて、って言ってるし」

「そ、そうか」

　今の「コ、コケェ……」にそこまでの意味が込められているとは……。
　何者だこいつ？
　まあ、確かにここまで酷く酔ったマイヤーは初めてなので、話を聞こう。

　いつだって酒に溺れる原因って、酒が好きだからとかじゃないのだ。
　酔いつぶれて忘れたい、そんなことがあるから人は暴飲をする。

　真なる酒好きとは、酒は飲んでも飲まれるな。
　そして、酒の一滴は血の一滴。
　断じてリバースして無駄にすることは無い奴らなのである。

「マイヤー、最近色々と頼みごととか任せたこと多くて忙しいもんな？」

　結構寂しがってるのに、ここに残して新たなメーカーの件とか任せっきりだった。
　オスロとオカロ、あのワーカーホリック勢をまとめるだけでも、相当辛いだろう。

「すまん、相談に乗ってやれなくて」

　俺は素直に頭を下げた。
　同居人だが、彼女は家族にも似たパートナーである。
　命を救ってもらった恩もあった。
　成人したばかりの女の子一人では、辛いこともあるだろう。
　弱い部分をあまり見せないようにしているが、寂しいだろう。

「ようやく落ち着けると思うし、今度がっつり休暇を取ってリフレッシュに行こう」

　冬もそろそろ終わって春が来る頃合い。
　学校の方も春休みとかあれば、それに合わせて旅行もありだ。

　みんなで行こう！
　一人だけ家に残って仲間はずれとか、悲しいしね。
　王国に放逐された俺が、何をしてるんだって話だ。

「え？　それほんま？　二人で行くん？」

「みんなに決まってんだろ」

　仲間はずれはダメです、みんなでです。
　それに、絶対ポチたちサモンモンスターがいるんだから、俺にそんなシチュエーションなんて皆無。
　俺の目を通して、俺の息子だって、俺の視線だって、全部見られている。

　む、むむむ？
　そう考えると密かに目で追ってる部分とかバレるよな。
　まったく、プライベートのへったくれもねぇや！

「……」

　チラッとポチの方を見るとお品書き板に「むっつり野郎」と書かれていた。
　それは図鑑勢の総意とも取ることができるのだが、くそほっとけよ。

「前みたいに一緒に行商回りたいんやけど……」

　マイヤーは昔を懐かしむようにしながらイグニールをチラ見すると言った。

「まっ、ええか。絶対約束やで！　約束やで！」

「うん。指切りげんまんだ」

「あと、ついでに誓約書も書面で残しとこうや」

「えっ」

「トウジ、みんなでどっか遊びに行くって前も言ってたやん、イグ姉案内するついでにって」

　確かに、言ってたような、言ってなかったような。
　でも俺が知らん間にそんなの終えてると思っていた。

「すっぽかしたやん？　すぐ深淵樹海行ったやん？　どないするんその落とし前」

「お、落とし前って……いやいや、忙しかったから……」

「せやからしっかり書面で残しとかんと、安心できへん！　できへんよ！」

「わ、わかった」

「ほな有効期間は２週間や！　不履行の場合は、ちょっとうちに付きおうてもらうで？」

「まあ、それくらいなら良いよ」

　付き合うっていっても、なんか珍しいもの買いに行くとか。
　インベントリを利用した行商の手伝いとか、そのくらいだろう。

　つーか、俺にそれ以上のことなんてできないからな。
　専門家でもあるまいし。

「で、何があったのか話してみ、みんなで相談聞くよ」

「ああ、えっとな……せっかく遠くから取り寄せたうちの貴重な酒がな……なくなってしまったんや！」

「……ん？」

「馬車で大事に大事に運んできてもろた、かなーり貴重な酒やったんよ！　それが、まさか途中で魔物に馬車が襲われたとかなんとかで、届かずじまいやったんよ！」

　え、ちょっと待って。
　暴飲してた理由って……まさかそれ？

　真摯に相談に乗ろうと思っていた俺含む周りのメンツは、その言葉に目を丸くしていた。
　イグニールは額を押さえてため息をつき、ウィンストは難しい顔をして考え込んでいる。

「くうー！　ムカつくわー！　南蛮ちょっと酒持ってきてや！　腹の虫が収まらんねん！」

「コ、コケェ……」

　プリプリ悔しそうに怒りながら、さらなる酒を南蛮に所望するマイヤー。
　南蛮は愕然とした表情で俺に助けを求める目を向ける。
　どうやら、暴飲した原因が酒が届かないことによるショックだと、南蛮も知らなかったらしい。

「やっぱお前、禁酒しろ、禁酒」

「えっ！？　なんで！？」

「取り寄せてた酒が来なかったから気晴らしで暴飲したとか、ざけんな！」

「ええええ！　なんで怒ってるん！？　ちょっとちゃうって！　そんなんちゃう！」

「心配して損したわ！」

　暴飲の原因が酒が届かないことによるものだとは……こいつは立派な中毒者だ。
　断腸の思いで、ここは禁酒を伝えなければ、肝臓が持たんぞ。