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本編
476 ただいまギリス(デジャブ)
しおりを挟むワイバーンライダーの依頼報酬に関しては、デミドラゴン化した上位個体という報告により、ウィンスト+他パーティーのみんなで割っても、元の報酬額よりもそれなりに高めの額をもらえることに。
ほぼほぼ何もしていないということで、《平々凡々》や《鉄壁》、あと案内役として前線までついて来ていたパーティーらは参加報酬のみで討伐報酬の辞退を申し出るなんてことにもなったけど。
そこはさすがになあ……?
依頼に参加したのは全員ですってところをゴリ押しして、討伐報酬を渡すことにしたのである。
確かに大変だったが、ここで売った恩は巡り巡って返ってくるのだ。
もちろん、直接的に関わってないドルジやノーマリーたち以外の案内役のパーティーからすれば棚ぼたもので、返ってこない可能性の方が高いのだが、Aランククラン《鉄壁》との繋がりができたのは良いと言えるだろう。
ワイバーンライダーの依頼、クラン同士のいざこざ、出落ち大盗賊団と怨嗟の鎖。
なんともごちゃごちゃした今回の冒険も、無事に終了だ。
今回は長かったように思えて、移動で往復十日と深淵樹海の頃に比べれば短い。
山への滞在期間も、敵が勝手に向こうからやって来てくれたおかげで一泊二日。
面倒だとは愚痴っていたが、肝心の依頼に関しては割とスマートだった。
「トウジー! 早くー!」
冒険者ギルドの入り口に突っ立って、もう何度目かもわからない帰ってきた感を味わっていると、ジュノーの声が響く。
「お買い物に行くんでしょ! 早くしないと売り切れるし!」
「別に限定品とか買いに行く訳じゃないから、そんな訳ねえよ」
「帰ってきたら、すぐに再会を祝う会の買い出しに行くって決めたし!」
「はいはい、ウィンストが手続きもうちょっとかかるから待てってば」
再会を祝う会、と言うのはガレーが名付けた久しぶりにあった友人と共に過ごす会のことである。
実は、ウィンストも依頼の報告、報酬受け取りのためにギリスのギルドへと立ち寄るから、帰りの馬車の中で再会を祝う会を開こうって話になったのだ。
お楽しみ会を前に、テンションを上げたジュノーが早くしろ早くしろと急かすのである。
「再会を祝う会……? なんか語呂悪くね……?」
呆れる俺の後ろからノーマリーたちが話しかけて来る。
「他に言いようがないですしね」
再会を祝う会。
ずっとこっちにいる訳じゃないから、歓迎会とはまた違う気がする。
かといって略そうにも、『再会』って言葉はそのまま過ぎてしっくりこない。
他の名前を色々考えてみたけど、結局途中で面倒になってそのままだ。
ここは考案者であるガレーの意思を汲み取ったってことにしよう。
「次、再会したら俺たちも混ぜてもらえたりするのか?」
「んー、ノーマリーさんたちが遠くに行ったりしたら、ですかね?」
友達か、と言われれば、まだ彼らは知り合いの範疇を出ない。
こういうのは、仲間内だけでするのが良いのだ。
国を跨いで離れてないと、再会を祝う会にはならないってことにしておこう。
つーか、身内以外のただ飯はお断り。
来るなら参加費を取ります。
白金貨一枚という競売所より高い参加費です。
来るなってことかと言われた、その通りさ。
「遠くに行ったらかあ……! 多分ギリスからでねぇから、一生お呼ばれしねえなあ!」
「まあ、冒険の行きずりでまた会ったら、ご馳走しますよ」
「俺たちパーティーはポチに完全に胃袋を掴まれちまったから、その時を心待ちにしてるぜ」
「はい」
「じゃーな!」
笑顔で手を振るノーマリーたちを見送ると、今度はドルジたちが話しかけてきた。
「トウジ、俺はまだお前の勧誘を諦めてないぞ」
「何かと思えば勧誘ですか……お断りします!」
俺の小脇にいるポチと共に「断固拒否」と書いた看板を持って掲げる。
すると、ドルジは「ぐむぅ」と悩ましげな声をあげた。
おっさんの悩ましげな声なんて聞きたくない。
「いつのまにそんな看板を準備したんだ……」
「みんなに山中でポチの料理を振る舞った際にです」
この断固拒否看板は、ポチのお品書き看板の裏を使ったもの。
断る理由を告げるのも面倒になったら使おうと思っていた。
そして早速出番が来た。
「だが、我らクランに入れば……」
「ポチを超える美味しい料理があれば検討します」
「……」
ふはは無理だろう、無理だろう。
ちなみに独断と偏見で、たとえポチより美味くてもポチの方が美味しいと言うぞ。
集団との関わりは、もう行きずり以外では持たないと断固たる意志のもと決めた。
「ドルジ、しつこい勧誘は良くないよ!」
後ろから、ドルジの頭を叩きながら、ルイスが出て来る。
「それもそうだな……」
ドルジはそう言いつつ、大きく息を吸って頭を下げた。
「この度は色々と助けられた。本来であれば我々が指揮を取り率いていかねばならない立場なのだが、ワイバーンライダーも、盗賊の襲撃も、全てをお前に任せっきりにしてしまった。この恩は絶対に忘れない。もし何か困りごとがあれば、我らが《鉄壁》になんでも相談してくれ、必ずトウジの力になることを約束しよう」
どうやらこうしてお礼を言うためのジャブとして、勧誘の話をしたっぽい。
「いえいえ、また依頼でご一緒したら、よろしくお願いしますね」
「うむ」
「トウジさん、僕からも……本当にありがとうございました」
「お、俺も! 最初に色々と舐めた口聞いてすいませんでした!」
ドルジに続いて、ルイスとジャードからも頭を下げられる。
お礼に次ぐお礼、背中がむず痒くてたまらなかった。
やっぱりこう言うのには未だ慣れないなあ……。
「ドルジ、僕たちのクラン加入の手続きとかあるだろうし、早く戻ろう」
「そうだな」
ルイスとジャードは、そのまま《鉄壁》のクランメンバーとして加入することが決まったそうだ。
さらに、もともと《編み髪》にいた連中も《鉄壁》が引き受けに動くらしい。
良からぬ誤解も解けたから、両者のライバル関係はもう無いとして、それで良いんじゃないかと思う。
惜しむらくは、唯一犠牲になってしまった先に戻ったパーティーメンバー。
彼らだけは、さすがに助けることはできなかった。
助ける前に、色んな敵が襲来してそれどころじゃなかったからである。
それを悔いてないかと聞かれれば、なんとも反応に困るといったところ。
ぶっちゃけて言えば俺は関係ない間柄。
しかし、近場で起こってしまった特に悪とも感じていない人の死。
まったく心痛く無いかと聞かれれば、それは嘘になる。
テレビで流れる居た堪れない悲しいニュースみたいなもんだな……。
「すまない、待たせた」
ドルジたちの背中を見送ると、ようやく待っていた人物が姿を出す。
さて、行くか。
ジュノーも待ちくたびれてることだしね。
「そうだ、ウィンストって酒は飲めるの?」
「昔、師匠に無理やり飲まされて以来だな」
「なるほど」
「これといって強くもなければ弱くもないはずだったが、残念ながら飲んだ後の記憶はない」
記憶が飛ぶタイプか。
あんまり飲ませない様にした方がいいかもな、こりゃ。
「だが、再会を祝う会とやらで出されるのならば、甘んじて飲もう」
「いや、無理しなくても」
「コールとらやらをされたら、一気飲みするのが賢者の嗜みだと師匠から教わった」
「コール!?」
こいつの師匠、まさか。
「師匠からは宴会に使える魔法も一通り教わっている、だから任せてくれ」
「えっと……」
思ったより乗り気のウィンスト。
キャラがブレてるぞ……。
なんだかこのまま宴会を開いて大丈夫なのか、心配になった。
「もー! 早く来るし!」
「はいはい」
ま、まあいいか。
楽しみにしてくれているのならば、それは何よりである。
──この時、俺は宴会がまさかあんな騒ぎになるとは思ってもいなかった。
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