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本編

475 戦い終わって

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「……これで、世界の状況にもよるが、向こう10年は大丈夫だろう」

 怨嗟の鎖から解放され、意識を失ったままのルイスを見ながらウィンストは呟く。

「向こう10年って……意外と復活早いんだな……」

「奴は恨みの数だけ存在する概念体。完全に消し去ることは不可能だ」

 時が経てば、自然と力が蓄えられ、無から忽然と生まれ出るらしい。
 まさに恨みのビッグバンである。
 なんとも厄介な世界だな、なんてそう思った。

「もし平和な世界が続けば、私の予想よりも長くなるだろう……だが」

「ああ、最近色々と物騒だもんな」

「その通り、デプリの勇者、そして魔国が魔王の力を再び抑止力として所持しようとしているそうだ」

「知ってるよ」

 深淵樹海では、それにある種巻き込まれた様な形だったからね。
 まったく、デプリも余計なことをしたもんだ。

 勇者の仕事がない平和な世界かと思っていたけど。
 逆に魔王の仕事を作ってないだろうか。

「波乱の種は蒔かれ、すでに芽吹こうとしている」

「うわっ、面倒くさっ」

 隣の家で育てられたミントがうちの庭にまで侵食してくる気分。
 そういうのは他人に迷惑がかからない範囲でやってほしい。

「トウジは召喚者だろう? 必ず、巻き込まれるぞ」

「……ぐぬぬ」

「結果や形はどうであれ、何かしらの役目を背負ってこの世界に来ているのだから」

「役目、ねえ……」

 召喚された時のことを思い出す。
 俺が勇者たちの前を通りかかった偶然のタイミング。

 あれが運命とか、必然のものだとして。
 いったい俺に何をしろと言うのだろうか。

 望まぬ召喚に巻き込まれた訳なんだから、自由に生きさせてくれと。
 強く、そう思う。

「心配するな、危機には私が駆けつける。チビと共にな」

「ギャオッ!」

 ガイアドラゴンの魂をその身に宿したチビは、いつの間にか小さくなってウィンストの頭の上にいた。
 竜の魂はトガルの山脈深くに安置されている様だが、限定的に地竜の力を使うことができるらしい。
 前よりもなんだかウィンスト強いな、なんて思ったのだけど。
 その加護も今は合わさって、前とは比べものにもならない力を得たんだそうだ。

 みんな強くなってズルいな!
 俺もそう言うの欲しい!
 置いていかれてて寂しい!

「ギュアァ……」

 巨体仲間として、ワシタカくんがチビと友達になりたそうな顔をしている。
 さらに羨ましそうな目をして「小生も自分の意思で小さくなりたい」みたいな雰囲気も醸し出している。

「主よ、ワシタカは真似して頭の上に乗りたいそうだぞ」

「無理、遠慮するわ」

「ギュア……」

 ゴレオもそうだけど、体格さを考えろと。
 レベル10000くらいになったら検討する、とだけ伝えておくか。
 巨人の秘薬を二回使って小さくすることも可能だが……。
 恐らく、それでもデカイ、無理です、諦めてどうぞ。

「あ、そうだ」

 俺はインベントリから勇者御一行から取り戻した杖を取り出した。

「いつかトガルに行ったら渡そうと思ってたんだけど、今渡しておくよ」

「これは……私の……」

「うん、ひと月ちょっと前に、なし崩し的に取り戻したんだよね」

 渡すと、ウィンストは涙ぐむ。

「まさか再び私の手に戻ってくるとは……」

「もともとウィンストの物だろ?」

「う、うむ……しかし、トウジからもらった杖は……」

「それは持っといていいよ」

 持ち主にも、攻撃を受けた相手にも強制ハッピーの特別製。
 その杖を持って攻撃する限り、ウィンストは束縛を受けない。
 もっとも、ウィンストほどの人物が、2度も恨みに飲まれるとは思わないけど。

「いいのだろうか、ここまでされて、私は何も返せない」

「いや、今日助けてもらったのでチャラでいいよ」

 俺のビッグマグナムも無事だからね。
 この借りはでかい。
 ……ビッグマグナムは言い過ぎた、ミドリガメ。

「トウジ! 大丈夫かしら!?」

「大丈夫だしー!?」

 そんなことを話していると、イグニールとジュノーが森の奥から駆けてくる。

「トウジ、いったい何が起こったと言うんだ!」

「な? すげぇ光が見えたけど! どうした!」

 イグニールたちから少し遅れてドルジやノーマリーたちも一緒にだ。

「ルイス! 大丈夫か! しっかりしろ!」

「う、ぐ……」

 ドルジは、すぐに倒れこんだルイスに気づいて慌てて駆け寄る。
 その言葉に反応して、ルイスも無事に意識を取り戻した。
 あちこち傷だらけになっていた体も、幸運にもカースデーモン化した時に再生されている。
 つまり、無傷ということだ。

「……ルイス、ほ、本当にごめん! 色々と俺が迷惑かけちまった! ごめん!」

 ロイ様がみんなの元に連れて帰ったジャードが、ドルジたちの後ろから駆け出して来て土下座する。
 ルイスに、そして振り返ってドルジたちにも、地面に頭をこすりつけてだ。

「いや……もともと僕が悪いんだ。ジャードは悪くない。全部、僕が……う、ぐ……ううう……」

 泣きながら頭を下げるルイス。
 うーむ。
 事の発端がもともとなんだったかすら忘れてしまうほどに、怒涛の戦いだったな。

「まあ怨嗟の鎖が全部悪いですし、そいつはもうなんとかしたからもう大丈夫ですよ」

 そういうことにしておきましょう。
 全ては怨嗟の鎖が悪いってね。
 一切合切、全部あいつに罪を被せてやれ!

「トウジ、なんかさっきからこいつビクともしないし……?」

「ん?」

 ジュノーが俺の元に、小瓶を抱えて飛んで来た。
 その小瓶を見ながらウィンストが声を荒くする。

「むっ!? それをどうしたのだトウジ! 怨嗟の鎖はまだ生きているじゃないか!」

「あっ、そういや言ってなかったな。ウィンストがくる前に捕獲しておいたんだよ」

「ほ、捕獲……?」

 目を丸くするウィンストに、ジュノーが言う。

「うん! 魚捕まえるみたいにだし! これをハッピーナイフで10回小突けば、あたしがパンケーキもらえるし!」

「パ、パンケー……え? は?」

「パンケーキはあんまり関係ない話だから置いといていい」

「関係なくないし!」

「いや、ちょっと待ってって、話がこんがらがって訳わかんなくなるから」

 一旦ジュノーを黙らせると、こうなった経緯をウィンストに話した。
 そもそも、怨嗟の鎖が全力で俺を狙った原因がこれにある。
 こうして捕まえて煽り倒して、そしたら俺を殺すことを決意して、戦いが始まったのだ。

「一応、ここに捕まえてる分も消さなきゃいけないの?」

「むむむ……レアケース過ぎて判断がつかないな……」

「霧散の秘薬の効果で力は使えないっぽいけど?」

「私が知っているのは、消してもまた生まれ出ずるということだけ……しかし、こうして捕獲して、ここに残りカスとして隔離されて残っているとなると……残りは消滅させたことはあの焦りっぷりから判断できるし……」

「やっぱ消滅させたほうがいいかな?」

「いや、消滅させるよりもこうして管理下に置いておいたほうが良いだろう。何かできるならば、多少なりとも繋がりを持った私が察知できるし、トウジのいう通り拷問にかけて問いただすこともできるからだ」

 よし、小賢のお墨付きをいただいたぞ。
 どうやら、瓶詰め封印は正しいことだったと言える。

「なら、このままこいつは俺が持っとく? それともウィンストが管理する?」

「いや、トウジが持っておく方が良いだろう。奴の天敵認定されているからな」

「わかった」

「それにしても、このままこいつが瓶の中でおとなしくしているならば……一つ運命が切り替わったかもしれないな」

「そうなの?」

「厄災の中で、誰かれ構わず力を貸して弄ぶ様な性悪な奴だから、一つ不安要素が消えたと言っても過言ではない」

 ウィンストは小瓶を見て少し笑みを浮かべながら続ける。

「トウジがここに存在する意味。それがなんとなくだが理解できたかもしれない」

「ええ……」

 それって面倒ごと請負人みたいな形じゃないよな?
 俺の存在理由がそれだったら、断固拒否だぞ。
 丁重にお断りしたいんですが……マジで。

「ねえトウジ! なんかなんかこいつ黙っちゃったし!」

「今度はどうした……?」

 ジュノーの方を見ると、抱えられた瓶の中で白目を剥いた怨嗟の鎖がいた。
 なんか、キマちゃった感じの雰囲気だけど、いったいどうしたんだろう?

「小突いても何も言わないってことは、パンケーキもらえないし?」

 そう言いながらコツコツコツコツとナイフで瓶を小突くジュノー。

「──ッ──ッ、ッッ」

 その度に、白目を剥きながらビクビクビグゥッと揺れる怨嗟の鎖。
 ああ、どうやらジュノーの幸せ攻撃によってラリってしまったらしい。
 怨嗟の幸せ落ち、完了である。

「反応がないからパンケーキもらえないじゃん! 起きるし! ほら!」

 コツコツコツ。
 ビクビクビクンッ!

 なんだか可哀想だけど。
 これもさだめだ、受け入れろ。
 俺はあえてジュノーを止めなかった。

 そして帰りの道中。
 ジュノーはずっとコツコツし続けていた。
 パンケーキが一枚二枚と数えながらずっとコツコツ。
 精神崩壊してしまったのは、ジュノーだった?

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