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本編
471 幸せの押し売り
しおりを挟む装備の変更によって、攻撃力は60%ほどダウンしてしまう。
それでも、特殊強化の恩恵によって普通の15倍くらいはあるのだ。
盗賊相手には事足りる。
「ハッピー確率、120%とは? どういうことだ盟主よ」
「来たかロイ様」
いつの間にか、俺の隣にロイ様が立っていた。
「うむ、待たせた。して、この勢力に秘策があるようだが説明をしていただこう」
「ああ、怨嗟の鎖には強制的に幸せにする能力が効果抜群なんだよ」
「ほう……一種の洗脳能力のようなものか?」
「そうそう、それを武器(片手剣)と補助武器(小盾)の潜在能力にしてるって訳」
ゲームの世界では絶対に使えないネタ武器扱いされる3重複幸せ効果。
だが、この世界ではなんとも恐ろしい洗脳効果となる。
もっとも、使える相手は怨嗟の鎖のみなんだけどね。
しかも、潜在能力3重複に追加して、追加潜在も幸せ能力で3重複だ。
なんとも馬鹿げた装備だって俺も思う。
この追加潜在とは、潜在能力とは別個でステータスを補正する潜在能力のこと。
普通の潜在がポテンシャル能力というのなら、この追加潜在はサポートポテンシャル能力。
これもまた、ゲームの世界でプレイヤーの火力を一気に引き上げたインフレの根源である。
俺みたいな廃人は、普通の潜在も追加潜在も全てレジェンダリーで揃える。
レジェレジェと呼ばれる装備のことだ。
普通の潜在能力よりかは、上昇値の%が1段階劣るものだけど。
それでも全ての装備に搭載すれば上昇値はありえないものとなる。
例えば、レジェンダリーの潜在能力で全ステ+20%の3重複が最大値だとする。
揃えることができれば、一つの装備で全ステ+60%を誇るバケモノ装備。
これに、追加潜在もレジェンダリーで揃えることで3重複でなんと全ステ+45%。
すなわち、ステータス補正合計値が、全ステ+105%。
まさに伝説の中の伝説となるのだ。
追加潜在が現れるのは、100レベル以上の装備となる。
本来であれば、装備製作を用いても追加潜在がつくことはない。
ゲームの世界では、追加潜在覚醒のスクロールを用いなければならなかった。
だが、深淵樹海での冒険が終わって、家に帰って熟成させたものを見てみると。
100レベル装備の一部が、なぜか等級上昇せずに追加潜在が覚醒していた。
原因はわからないが、また一つ目標が定まったと言える。
全ての装備をレジェレジェにすることが、今の俺のやるべきことだ。
飛空船製作に合わせて、この潜在装備もどんどん探って自分のものにしていこう。
「って、ことだよ?」
「……ふーむ、つまりは盟主の攻撃力やステータスはインフレしまくっているということか」
「そうそう。まあ、俺の装備を身につけたイグニールを見たらわかるでしょ?」
INT6万越えとか、もう半端ないよね。
でも、ゲームにおける俺のメインキャラのステータスはSTR20万くらいあった。
表示されていた攻撃力はもちろんカンストだったし、ダメージもカンスト。
できればそこまで行きたいものなのだけど、今の俺では到底無理だろうな。
ゲームの世界と異世界では大きく違う部分が存在する。
レベルだって、ゲームのカンストレベルは300。
適正の狩場で、狩りに狩りを続けて、だいたい3年くらいかかった。
うん。
異世界じゃ、無理の無理の無理。
その辺は、できる範囲で現実的に理論値最強を目指すしかないよな。
そもそも、潜在装備を作れるだけでも、この世界ではすごいんだからね。
「コロセコロセコロセコロセ!」
「恍惚に語っているところに水を差すようだが、来たぞ」
「うん、わかってるよ」
説明もこのくらいにして、襲ってくる盗賊たちの相手をしようか。
「──クイック!」
すでにクイックは常時使っているが、もう一度重ねがけしておく。
多勢に無勢な状況かもしれないが、逆にそれがよし。
まとめていっぺんに攻撃するために、高級巨人の秘薬を服用した。
「うおおおおおおお!」
「ほう、やるではないか。では私も」
巨人化する俺を見て感心するロイ様は、同じようにグンと体を膨らませた。
「ん? 周りに水がなくてもいけるの?」
「上位種になれば、水分の調達なんぞ容易いぞ」
なるほど、空気中から水をかき集めるのと一緒か。
進化すれば進化するほど、水の扱いに長けてくる。
それがスライムという存在なのだそうだ。
「では、盟主の実力を再び見せてもらおうか」
「別に見せるようなもんじゃないさ」
ロイ様にそう返しつつ、俺は盗賊たちに向かって駆け出す。
やることは決まっていた。
「でかくなって、早くなって、攻撃するだけだ……よっ!!」
ズザザザザザザッ!
巨体になれば、スライディングが映えるな。
その威力、まさにキラースライディング。
「うわああああああ!?」
「ぐあああああああ!?」
盗賊たちを次々を弾き飛ばし、宙に打ち上げていく。
全ての攻撃に幸せ効果が付属し、みんな幸せそうな表情で生き絶えていた。
これって大量虐殺になるのかもしれないけど。
盗賊だったら罪悪感も薄かった。
こう言う時に偽善ぶるやつはよく言うよな。
盗賊にも、悪党にも家族がいるって。
悪どいことして家族が持てるだなんて、なんとも贅沢なご身分だとこ。
俺なんか、境遇を考えて女の子へのアプローチすら、できないでいる。
まったく。
こうして敵対する奴が現れるとは思わないのだろうか?
そうなれば、家族にだって大きな危険が及ぶのである。
今しか考えてないヤンキーにありがちだけど。
家族ができて足を洗わなかったことを恨むんだな。
「そのままハッピーに死ね盗賊畜生が! 他人に迷惑かけて真っ当に生きれると思うなよ!」
「うーむ、何か恨みでもあるのか……?」
「いや、個人的にこういう奴が嫌いなだけだよ」
たとえ生かしたとしても、子供に武勇伝として語り継ぐだけ。
芽は、摘んでおかないとね。
これも世のため人のため、そして圧倒的自分のためであるとしよう。
「あ、もう30秒切れた。もう一本もう一本」
ゴクゴクうまし。
再び850センチの巨人トウジとなり、盗賊たちを滅殺する。
ドロップも何もないから、良い敵ではないと言えた。
俺が攻撃するたびに、盗賊たちの体から黒いもやもやが出る。
それも、できる限り霧散の秘薬を掛けて消しとばした。
俺が巨人化していれば、インベントリの中にある物も取り出したら大きくなる。
この仕様を利用して、量増しされた秘薬を惜しみなく使っていくのだ。
「良い調子だな!」
「どうも!」
「元より恨みつらみが深すぎて、盟主には怨嗟の鎖の束縛も効かないのでは?」
「……それは余計なお世話だよ」
効かないのは霧散の秘薬のおかげだと思いたい。
「さてと……これでだいぶ蹴散らせたと思うけど……上のデミドラゴンライダーはどうだろう?」
見上げると、キングさんとワシタカくんはまだ戦っていた。
「──グォオオオオオオオ!」
「──プルァ!」
「──ギュアッ!」
だいぶ時間がかかっているようだが、大丈夫なのだろうか。
その様子を見ながらロイ様が言う。
「盟主が取り逃がした怨嗟の鎖の力が、全てあのデミドラゴンに集約されているのが見えた」
「え、マジで?」
「ああ、途中から倒されてない盗賊たちの体からも、勝手に力が漏れ出てしまっている……おそらくだが、全体に振り分けるよりも、単一強化して大王と空の王を先に仕留めることにしたのだろう。怨嗟の鎖も、彼らが我々の最高戦力とわかっているのかもしれん」
「なるほど」
だったらさっさと加勢に行った方がいいな。
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