上 下
198 / 682
本編

467 怨嗟の霧散の秘薬漬け

しおりを挟む

「久しぶりだな──天敵」

 血走った目は、怨念に取り憑かれた時のウィンストを思い出した。

「足掻いても無駄だぞ」

 鎖に捕らわれながらも無理やり腕を動かし、首元を掴みながら言う。

「ジャードを操ってもお前の攻撃は俺には届かないからな」

 ドルジをかばった際に、それは実証済みだった。
 現に、鎖で俺の動きを完全に止めきれてない訳である。
 霧散の秘薬は、基本的に俺の飲料水。
 1日1回は欠かさず飲んでいるから、取り憑かれる心配もない。

 それに、もし前のようにどこか別の空間にお呼ばれするならば。
 またせっせと捕え続けた恨みつらみを浄化して荒らしてやろう。

「──無駄だと? 無駄なのは貴様の方だ、天敵よ」

「はあ?」

 怨嗟の鎖は、ジャードの口を借りて告げる。

「見ての通りこいつの体力は残り少ない……この意味は分かるだろう?」

 人質か、相変わらず汚い奴め。

「今すぐ訳のわからん攻撃をしてみろ、こいつはすぐに死ぬぞ」

 どうやら俺が以前、幸せ攻撃によってウィンストの体からこいつを追い出したことを加味し、怨嗟の力によってあらかじめジャードのHPを限界まで低くしていたようだった。

「面倒だな、マジで」

 ため息を吐きながらそう言うと、怨嗟の鎖は嘲笑う。

「まあそう怒るな、一つ取引といこうじゃないか」

「取引?」

「そうだ。もう一度言おう、私と組もうではないか、そうすれば望みの全てを──」

「──いい加減にしろ」

 食い気味で言葉を返してやった。
 今後に及んでまだ諦めてなかったのか。
 まったくため息が出る。

「良いのか? このままだと、こいつは死んでしまうぞ?」

「一つ勘違いしているけどな……」

 上から目線で言い放つジャード。
 もとい怨嗟の鎖の首根っこを持ち上げた。
 そして、インベントリから液体がたっぷり入ったバスタブを取り出して。

「──わぷっ!?」

「ハッピーアタックの他にも手立てはあるぞ」

 シャバッ!
 そこに顔ごと突っ込んでやった。

 ちなみに、バスタブの中身は霧散の秘薬である。
 なぜバスタブに秘薬が入ってるのかって?
 特にこれといって理由はない。
 単純に持ってる桶の中で、風呂桶が一番容量があるからである。

 横着して利用して作っていたのだけど。
 まさかこんなところで役に立つとはね!

「がぼぼぼぼぼ!?」

 バタバタと暴れる怨嗟の鎖。
 時折、ガバッと顔だけ外に出して息継ぎをさせる。

 ほらほら飲め飲め。
 浄水を嫌がることはルイスでなんとなくわかってんだ。
 だったらさらに強力な霧散の秘薬ならばどうだ。

「や、やめ! がぼぼぼ!? やめろ! がぼ!」

 ジャボジャボ霧散の秘薬漬け。
 これで体から出ていくのかは知らん。

「本当に! がぼばっ! や、やめ、やめろぼぼ!」

 だが、慌てふためく様子は効果抜群に思えた。

「こ、こいつが! こいつが!」

「こいつが何?」

「し、死んでも良いのか!? おい! 本当に死ぬかもしれんぞ! おい!」

「最悪、致し方ない」

「なっ──!?」

 俺の故郷では、テロには絶対譲歩しない。
 屈しないってのが国際常識になってんだ。
 その考えに則って、ここはもうこうするしかない。

「それにどうせ回復阻害でポーションも効かないんだろう?」

「がぼぼっ」

「だったらこれしか選択肢ないな、うん」

「がぼぼぼっ」

「人質だって?」

「がぼぼぼぼっ」

「それをやって俺の選択肢を一つ消したお前が悪い」

「がぼっ──私のせいに──するな──がばっ」

「いやお前のせいだよ。恨まれたら次は俺がお前を恨むぞ」

「あばばばっ」

「よかったな? 俺とお前で恨みの連鎖反応だ」

 それってもう、恨みの永久機関としても同義である。
 俺は良いぞ、社会に義憤たっぷりの人生だった。
 そのくらいの恨みだったらなんぼでも背負ってやる。

「路線変更。やっぱり取引に応じてやる。だから出てこいよ。ほらこっちこいや」

 ただ、精神を乗っ取られるようなことは万が一にもない。
 毎日飲んでるおかげで、霧散の秘薬の効果が途切れないからだ。

「おいなんか言えって、怨嗟の鎖さん、鎖の拘束解けてますけど?」

「……」

「ちょっとー? まだ飲み足りないなら、たくさんありますよー?」

「……」

「……逃げたか。まったく概念的存在は対応が面倒だな、マジで」

 舌打ちをする俺にジュノーが言う。

「いや、ジャードが気絶してるだけだと思うし……?」

「う、うむ……盟主よ、それは少しばかりやりすぎでは……?」

 人道的ではない、と言っているのかスライムキング。
 だがしかし、無差別恨みテロを終結させるには慈悲はいらん。
 ここで一思いに終わらせてやるのが、唯一の慈悲である。

 つーか。
 俺のところに来れば良いって言ってんだからそうしろよな。
 取引に乗ってやってんのに、逃げるとかマジないわ。

 それでも恐るべき悪しき者ですか?
 禁忌の正体である怨嗟の鎖ですか?
 マジでないわー。

「う、ぐ……」

「お、まだいたのか」

 うっすらと開かれたジャードの目がまだ血走っていることから、怨嗟の鎖は未だ彼の中にいることが判断できた。
 ザバッと顔をバスタブの中から持ち上げて、怨嗟の鎖に再び問いかける。

「さっさと出ていくか、俺の前に再び現れた目的を言え」

 さもなくば、霧散の秘薬漬けで漬け殺す。

「や、やってみるが……良い……」

「オッケー」

 まだ俺の言葉を虚勢だと思っている怨嗟の鎖。
 俺はため息を一つつくと、ポチからフォルに切り替えてそのままバスタブに突っ込んだ。

「がばっ──ごぼぼっ──!!」

「ト、トウジ! さすがにやり過ぎだし!」

「大丈夫。信用しろ」

 フォルを出してるからグループに入ってれば一回だけ死亡は免れる。
 HPがゼロになって、そこから回避と全回復が入るのだ。
 一度本当に死ぬことになるのだから、怨嗟の鎖も抜けるはずだ。
 うむ、これは荒療治である。

「──ぶはっ!!」

 俺の思惑通り、ジャードのHPが一度消えて完全に回復した。
 意識も目覚めて赤く染まった目が元に戻っている。
 成功だな。
 さらにジャードの体から黒いもやもやが出てきて、霧散の秘薬風呂の中で蠢いていた。

「な、なんか風呂の中にいるし!」

「中にいた怨嗟の鎖の正体だよ。瓶詰めしてやろうぜ」
しおりを挟む
感想 9,833

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。