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本編
462 怨嗟の鎖再び……?
しおりを挟む「ブレイドが亡くなってすぐなんだけど……」
俯きながら、ルイスは話す。
ブレイドとは、恐らく《編み髪》のクランマスターだった人物。
「僕は、一度ドルジを殺しに向かったことがある」
「……」
衝撃的なその言葉を聞いて、ドルジの顔が曇る。
同時刻にトロール狩りを行なっていたのが《鉄壁》。
恨まれるのも仕方ないとは、腹を括っていたのだろう。
だが、知らない仲ではないルイスから、だ。
まさかそんな言葉が出るとは思っていなかったらしい。
「誰だって関連性を疑うだろう……?」
「そうだな……」
「僕だって例外なく、ブレイドの死を悲しみ、受け入れることはできなかったんだ」
その時、とルイスは続ける。
「なんだろう、どす黒い感情が心の中に入ってきて、気がついたら短剣片手に宿を飛び出していた……」
「なるほど」
「ドルジの言っていた悪しき者、かもしれない」
どす黒い感情、受け入れられない死の悲しみ。
なんかどっかで聞いたことある。
怨嗟の鎖のことなんじゃなかろうか?
あの時倒したと思っていたけど……。
完全に消滅させきることはできていなかったようだ。
まあ、概念的な魔物っぽいし仕方ないよな。
恨みなんて、感情持ってる生き物の数だけあるようなもんだから。
「で、そいつをどうした?」
ドルジは聞く。
「俺の故郷では、悪しき者に取り憑かれたら墓が二つ作られると言うが……?」
「ジャードが助けてくれた。彼、ああ見えて回復スキル持ちだから……」
嘘だろ?
思いっきり喧嘩っぱやそうな前衛職っぽい雰囲気なのに。
もしくは、索敵が得意なスピードタイプ。
だが、どうやら《編み髪》での役割は支援。
そしてHPやMPを回復する役割だったそうだ。
治癒とか魔力譲渡とか、そんな感じ。
「俺のミスだから……邪悪な魔力は俺が背負うって……そのおかげで正気を取り戻したんだけど……」
話しながら、ルイスの声が震え出す。
「そ、そこから、ジャードの様子がだんだんおかしくなっていって……」
「落ち着くし。ほら、飴ちゃんあげるから」
「あ、ありがとう……」
「様子がおかしくなって、あんなに悪態をつく様になってたのかしら?」
ジュノーからもらった飴を口に放り込んだルイスはイグニールの問いに答えた。
「いや、もとからあの性格だよ。治療院を追い出されて冒険者になったからね」
あれがデフォルトか……。
どうやら性に合わない、と治療院を飛び出して冒険者になったそうだ。
この異世界で、比較的安定的な稼ぎをもらえる治療院の仕事。
そんな良い職業をほっぽり出すのは、一癖も二癖もある奴だってことだな。
過去にあったあのクソビッチもそう。
まったく、恵まれてるとは思わないのだろうか?
ま、恵まれてるとか恵まれてないのはあくまで個人の主観か。
「軽口は言うけど、そこに強い感情を持つ部類じゃなかった。癖みたいなもんだから」
ルイスはセリフを続ける。
「でも、いつの間にかみんなの輪から外れる様になっていって……毎晩恨みつらみを吐く様になって……僕の中にいた悪しき者に飲み込まれてしまったみたいに、変わっていったんだ……」
ルイスは話を聞いてあげたり、色々とジャードに目をかけていた。
一度治療院に連れて行こうと思ったが、彼はギリスの治療院で色々とあって飛び出した身。
簡単には受け入れてもらえなかったそうだ。
「何度も大丈夫かって聞いたんだけど。その度にそのうち浄化できるって言われてたんだけど……昨日……」
「なるほど。昨日の一件は、その悪しき者に心を蝕まれてしまったからか」
「……たぶん、ね」
怨嗟の鎖は、心を蝕み、恨みを増幅させて力を与える。
ドルジの言葉を前にして抑えきれなくなり、感情が爆発してあの行動に出た様だ。
だったら、おそらく心の中では必死に争っていたのだろうか?
確定的なことは何もないけど、悪いのはあの鎖野郎だってことでいいだろう。
よくよく考えれば、ルイスが俺の出した浄水を飲まなかったことも説明つく。
どこかしら心の中に残っていた怨嗟の鎖との繋がりが拒否していたのだろう。
「ねえ……トウジ」
黙って話に耳を傾けていると、隣でイグニールが俺の肩をチョンチョンとつついた。
「うん?」
「もしかしたらだけど……怨嗟の鎖って、あわよくばでトウジのことを狙ってたりしないかしら?」
「……それ、あるかも」
あの鎖野郎は、俺のことを覚えているはずだ。
あわよくばで攻撃したってのは十分あり得る。
だが、全く歯が立たなかったのでジャードを逃走させた。
十分にあり得るぞ、これ。
俺は鎖野郎の弱点を知っているからな。
そんな俺とイグニールの会話を他所に、ルイスは言う。
「助けてもらったんだ。だから、見捨てることなんてできないよ」
「ふむ……」
全てを聞いた上でドルジは言う。
「だが……悪しき者は、俺の故郷の言い伝えに寄ればかなり厄介な存在だ。それに取り憑かれてしまえば、恨みを晴らすまで、もう2度と戻ってこれないとも言われている。犠牲者が出て、さらにその連鎖が必ず続くと言われているからだ。恨みを持つ者、持たれた者の墓が必ずできるのだ」
故にここで断つと。
「なんかすげぇ話になってるけど……結局ドルジがジャードを殺しても、またルイスが恨みを受け継いじまうんじゃないか? 連鎖してくっていうすげぇ恐ろしいもんなんだろ?」
「ぐむう……確かに……」
どうしようもねぇじゃねぇか……というノーマリーに、ドルジは苦悶の表情を作っていた。
そうなんだよなあ、それが一番厄介なところである。
強靭な精神力とかをもっていれば、なんとかなるかもしれないけど。
ちょっとでもきっかけがあれば、容赦なく蝕んでくるのだ。
だからこそ、強制的に排除し、黒ウィンストを白ウィンストに戻した後。
俺は持ってるだけでトリップできる幸せの杖を渡していたのである。
トウジ式フルカスタマイズにプラスして、もってるだけで幸せを感じるハッピー杖。
勇者一行から奪った杖を返した後も、必ずもっておく様に言うつもりだった。
どっかでせき止めとかないと、鎖野郎の呪縛からは逃れられないからね。
「だから僕がまたジャードの代わりに!」
「戯けが。一度飲まれてるお前を信用なんかできん!」
「ならどうするんだ! 何を言われたって無駄だ! 僕は行くよ!」
「待て!」
死んだ《編み髪》のクランマスターからルイスの面倒を見ると約束したドルジ。
そして、怨嗟の鎖を代わりにジャードへ背負わせてしまい、助けたいルイス。
これだと話は永遠に平行線である。
まさに、怨嗟の鎖の思う壺、といった形になっていそうだった。
「ロ、ロイ様……」
「私に縋るな。もはや状況は円満解決とは程遠い状況に陥っているのが目に見えてわかるだろう」
「そうだけど、なんか良いアイデアとかありませんかね……?」
「だから縋るな」
ひどい! この薄情スライム!
「はあ……とにかくなんとかするしかないか……」
ため息をつきながら言い争いを続けるルイスとドルジを向く。
結局、このすったもんだを収めないと一行に動き出さない気がした。
直にワイバーンライダーも盗賊も来るし、もう時間がないのである。
「ドルジさん、ルイスさん、その悪しき者とは、怨嗟の鎖のことですよ」
「何? 知っているのか《名無し》のトウジ」
「た、対処法を知っていたりするのかい!?」
「ええ、まあ荒療治にはなりますけど……一応追い払った実績はありますから……」
「俄かには信じがたいな……?」
「それが本当なら! お願いします、ジャードを助けてください!」
「とにかく、もう敵襲間近なので早く動きましょう」
えっと……今回のミッションは……?
ワイバーンライダーを倒す。
盗賊を倒す。
ジャードから怨嗟の鎖を剥がす。
多いな、自戒クエストにまとめておいてくれよ……。
と、思って六大性質を見たら、なぜかあった。
三つとも。
クエスト達成報酬は、経験値のみ。
モ、モチベーションあがんねえよー。
=====
怨嗟の鎖さん久々に登場します。(予告)
そして、久々に名前に出てきたビッチさん。
なんと2巻の挿絵にて登場(爆)。
かわいかった。
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