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俺はイグニールを連れてみんなの場所へ戻った。
その時、仁王立ちで待っていたドルジより、こんな言葉を受けた。
「……朗報だぞ《名無し》、すぐに配置転換を行い、お前たちは《編み髪》と交代だ」
「は、はあ……?」
満足そうに口角をやや上げながら、ドルジは言う。
「露払いをさせておくには、実に惜しいと我らは判断した」
だから、その戦力を加味して配置転換を行うそうだ。
より依頼を確実に遂行するためには、必要なことだとドルジは言う。
彼の後ろに控えるクランメンバーは、皆ウンウンと太い首を縦に振っていた。
「情報にあった通り、本当にロック鳥を持つ冒険者か確かめてから判断しようと思っていたのだが、従魔を抜きにしても、Aランクパーティーだとギルドから判断される実力はあると見た」
基本的にはあまり多くを語らない《鉄壁》のクランマスタードルジ。
そんな彼がいきなり友好的な態度を表して来て、少し戸惑った。
「依頼が終われば、我らがクランに招待しよう……どうだ?」
「えっと、すいませんお断りします」
いきなり態度を変えた次は、勧誘か。
正直なんとなく予感はしていたのですぐにぺこりと頭を下げて断る。
現時点で俺はイグニール以外とはパーティーを組もうと思わない。
クランなんて以ての外だった訳だ。
「なに……?」
俺の答えに、ドルジは若干眉間にしわを寄せながらも話す。
「基本的な依頼は全て網羅し、ギルドからも直接情報を受ける討伐専門クランの《鉄壁》は利益となるはずだ」
「いやその……まだ良いかなって……? ええ、はい……」
「さらにC.Bファクトリーともギルドを通して専属契約を果たし、最新の武具を斡旋できる」
「うーん……」
それこそまさに興味なかった。
装備とか、自分で作った方が強いからである。
「傷を負った場合の治療院は格安。さらにポーションも5等級以上を無料で10本各パーティーに必ず配備させている」
「あっいや……それも……大丈夫っす……」
1等級どころか、それを超える秘薬がインベントリには四桁単位で収まっている。
うん、いらん。
激しくいらんかった。
「ならば何が欲しいか言ってみろ。ギルドの評価も、対外的な評価も、《鉄壁》のクランメンバーパーティーであると言う事実だけで全てが手に入るぞ。この依頼を遂行すればSクラスクランにも手がとどく範囲となる。ライバルクランも一つ減り、ギリス国内では我々が一番の勢力を持つクランとなる日も近い」
「欲しいものですか……」
ちょっとだけ考えてみたけど、特に欲しいものはなかった。
ストリアとか深淵樹海でも再確認できたけど。
隣に信頼できる家族の様な仲間がいてくれるだけで、十分なんだ。
「………………特にないっすね」
「貴様、まさか欲がないのか?」
頑張って交渉したのに、俺がさらりと受け流し続けたもんだから、ドルジの形相が凄いことになっていた。
歯を食いしばって、顔中の筋肉を引きつらせながらピクピクとしている。
「欲はまあ、人並みにありますけど」
「だったら何が欲しいんだ言ってみろ!」
「いや、特にないっす」
「それを無欲と言うのだ! なぜ、お前は冒険者をしている!」
「なぜって……」
それくらいしか身元を保証するものがないから、ってのが始まりだったかな。
あと、俺の能力上、寄生したりとか自分で魔物を倒してお金を直せる得られる。
異世界で、すっごく都合の良い存在と言うのが冒険者と言う職業だったのだ。
「地位、名声、富、我らについてくればいずれは全て手に入るんだぞ?」
「いやぁ……」
ざっと今まで生きて来て、異世界は共産主義でも社会主義でもなんでもない。
思っくその資本主義だ。
あくまで雇われ身分の自由業である冒険者に権力なんてないだろうに……。
強くなれば、自由に過ごすことは可能かもしれないけど。
そこに地位と富があるのかは謎だよな、と素で思う。
「くっ……求めるものをなんでも良いから言ってみろ、検討するぞ」
「ええ……」
だいぶさらっと受け流して興味ない風を装ってるのに、随分と諦めの悪いやつだな。
それだけ実力を認められた証かもしれないけど、果てしなく困った。
求めるものなんて、理論値最強の装備。
飛行船とか飛空船。
だがそれは提示できんだろうし、俺も言うつもりはない。
あとは、誰からもなんのやっかみも受けない平穏。
末長く、死ぬまで楽しく暮らせる保証。
これも絶対に無理な条件だな……言ったら顰蹙を買いそうだ。
面倒臭い話を早く切り上げるためのアイデアを考えていると。
「アハハハハッ! 全部断られてんじゃん! だっせぇ!」
後ろからジャードが腹を抱えて笑い始めた。
「ジャード! やめないか!」
ルイスが声を張上げるが、ジャードは言う。
「天下の《鉄壁》さんよぉ、随分と下手に出たくせに、無様過ぎるだろ!」
「……クランですらない奴が口を出すな。こっちの話だ」
「確かにクランですらねぇが、一つわかったことがあるぜ! やっぱり俺らを嵌めたのはテメェらだろ!」
「ジャード! お前はいきなり何を言い出すんだ! その話は今することじゃないだろ!」
「ライバルクランも一つ減りって、こいつの口から出た言葉。それが全部物語ってるだろうが!」
どうやらドルジの言葉を少し湾曲して理解した様だ。
一体全体どういう思考回路をしているんだとため息が出る。
しかし、鬱憤が溜まっていたらそうもなるか。
思考ロック。
こうなってしまうと、もはや誰も手がつけられなくなる。
ストーカーに多いよな、こう言うのって。
ネトゲにもいましたよ、ストーカー。
99%違うと周りから言われても、恋心とか禍根とか。
そういうのが人を残りの1%に誘導してしまうのだ。
「Sクラスクランに上がるために、邪魔だった俺らを壊滅に追い込んだのはテメェらだろ!」
「はあ……だから違うと言ったはずだ。何度言えばわかる」
「何度でも言ってやるよ! テメェらが、テメェらが俺らを嵌めた! 嵌めたんだろ!」
「そういう話は依頼が終わってからギルドを通して抗議しろ。依頼の邪魔だ」
「依頼中に熱心に勧誘して、無様に振られた野郎に言われたくねえヨッ!」
「なっ──」
腰に下げた短剣と長剣を抜いたジャードが、身を低くして一気に飛び出した。
狙いは、俺の正面にいるドルジ。
いきなりの動きに、ドルジは固まり、ルイスはさらに顔を真っ青にさせていた。
「ちょっと!」
とっさに腕を前に出して刃を受け止める。
防寒着を大きく貫こうとするが、鈍なのか、俺の装備が良いのか。
貫通はしなかった。
まったく、頭沸いてんのかこいつ……いきなりそりゃないぞ……。
「助かったぞ《名無し》……編み髪め、ここまで成り下がるとは笑止に値する」
すぐにドルジが巨大な盾を身につける腕を振り上げてジャードの頭に振り下ろす。
ゴッと重たい音がして、ジャードは一撃で昏倒し、白目を向いて地面に倒れた。
「ジャ、ジャード!」
ルイスが駆け寄ってくる。
その姿を蔑んだ目で見ながらドルジは言った。
「ギルドには確と報告させてもらう。お前たちは処罰を受けることになるだろう」
「ド、ドルジ……ジャードも色々といっぱいいっぱいだったんだ……それだけは……」
「知らん」
なんとかそれだけは避けたいルイスだが、冷酷に言い放つドルジである。
この暴挙に、周りにいたメンツは騒然とし、再びエゲツない空気が蔓延していた。
ど、どうすんだよ!
この空気!
「と、とりあえずもう陽も落ちて来てますから、野営の準備しませんか?」
冷酷にしつつも目の奥では怒りを露わにするドルジ。
そんな彼を収める様に、なんとか話をすり替える。
「ト、トウジの言う通りだぜ!」
雰囲気を察したノーマリーも駆け寄って来て、加勢してくれる。
「多分腹が減ってイライラ溜まってたんだ。飯でも食べて、話はそっからやろうぜ! な? トウジ?」
「そ、そうですね! じじじ、時間も惜しいですし、勧誘の話とかは食べつつ話しましょうか!」
「うむ、一度冷静になってから、今後について検討をさせてもらおう」
よし、なんとか場を繋いだぞ。
空気は相変わらず最悪のギスギス。
ポチの料理をみんなに振舞って、そのままお茶を濁してしまおう。
ついでにこの料理を超える美味さを条件にクランも断るぞ。
うん、そうしよう。
俺たちは一斉に野営の準備を始めた。
みんな気まずかったのか、すごい勢いで取り掛かっていた。
はあ……。
なんでこんな役目してんだろう俺……。
冒険者同士のいざこざなんて、昇格依頼の時でお腹いっぱい。
お代わりなんていらないんだけど。
つーか、ジャードの様子が明らかにおかしかったんだけど。
本当に大丈夫だろうか?
もう、帰った方が良いんじゃないだろうか?
その時、仁王立ちで待っていたドルジより、こんな言葉を受けた。
「……朗報だぞ《名無し》、すぐに配置転換を行い、お前たちは《編み髪》と交代だ」
「は、はあ……?」
満足そうに口角をやや上げながら、ドルジは言う。
「露払いをさせておくには、実に惜しいと我らは判断した」
だから、その戦力を加味して配置転換を行うそうだ。
より依頼を確実に遂行するためには、必要なことだとドルジは言う。
彼の後ろに控えるクランメンバーは、皆ウンウンと太い首を縦に振っていた。
「情報にあった通り、本当にロック鳥を持つ冒険者か確かめてから判断しようと思っていたのだが、従魔を抜きにしても、Aランクパーティーだとギルドから判断される実力はあると見た」
基本的にはあまり多くを語らない《鉄壁》のクランマスタードルジ。
そんな彼がいきなり友好的な態度を表して来て、少し戸惑った。
「依頼が終われば、我らがクランに招待しよう……どうだ?」
「えっと、すいませんお断りします」
いきなり態度を変えた次は、勧誘か。
正直なんとなく予感はしていたのですぐにぺこりと頭を下げて断る。
現時点で俺はイグニール以外とはパーティーを組もうと思わない。
クランなんて以ての外だった訳だ。
「なに……?」
俺の答えに、ドルジは若干眉間にしわを寄せながらも話す。
「基本的な依頼は全て網羅し、ギルドからも直接情報を受ける討伐専門クランの《鉄壁》は利益となるはずだ」
「いやその……まだ良いかなって……? ええ、はい……」
「さらにC.Bファクトリーともギルドを通して専属契約を果たし、最新の武具を斡旋できる」
「うーん……」
それこそまさに興味なかった。
装備とか、自分で作った方が強いからである。
「傷を負った場合の治療院は格安。さらにポーションも5等級以上を無料で10本各パーティーに必ず配備させている」
「あっいや……それも……大丈夫っす……」
1等級どころか、それを超える秘薬がインベントリには四桁単位で収まっている。
うん、いらん。
激しくいらんかった。
「ならば何が欲しいか言ってみろ。ギルドの評価も、対外的な評価も、《鉄壁》のクランメンバーパーティーであると言う事実だけで全てが手に入るぞ。この依頼を遂行すればSクラスクランにも手がとどく範囲となる。ライバルクランも一つ減り、ギリス国内では我々が一番の勢力を持つクランとなる日も近い」
「欲しいものですか……」
ちょっとだけ考えてみたけど、特に欲しいものはなかった。
ストリアとか深淵樹海でも再確認できたけど。
隣に信頼できる家族の様な仲間がいてくれるだけで、十分なんだ。
「………………特にないっすね」
「貴様、まさか欲がないのか?」
頑張って交渉したのに、俺がさらりと受け流し続けたもんだから、ドルジの形相が凄いことになっていた。
歯を食いしばって、顔中の筋肉を引きつらせながらピクピクとしている。
「欲はまあ、人並みにありますけど」
「だったら何が欲しいんだ言ってみろ!」
「いや、特にないっす」
「それを無欲と言うのだ! なぜ、お前は冒険者をしている!」
「なぜって……」
それくらいしか身元を保証するものがないから、ってのが始まりだったかな。
あと、俺の能力上、寄生したりとか自分で魔物を倒してお金を直せる得られる。
異世界で、すっごく都合の良い存在と言うのが冒険者と言う職業だったのだ。
「地位、名声、富、我らについてくればいずれは全て手に入るんだぞ?」
「いやぁ……」
ざっと今まで生きて来て、異世界は共産主義でも社会主義でもなんでもない。
思っくその資本主義だ。
あくまで雇われ身分の自由業である冒険者に権力なんてないだろうに……。
強くなれば、自由に過ごすことは可能かもしれないけど。
そこに地位と富があるのかは謎だよな、と素で思う。
「くっ……求めるものをなんでも良いから言ってみろ、検討するぞ」
「ええ……」
だいぶさらっと受け流して興味ない風を装ってるのに、随分と諦めの悪いやつだな。
それだけ実力を認められた証かもしれないけど、果てしなく困った。
求めるものなんて、理論値最強の装備。
飛行船とか飛空船。
だがそれは提示できんだろうし、俺も言うつもりはない。
あとは、誰からもなんのやっかみも受けない平穏。
末長く、死ぬまで楽しく暮らせる保証。
これも絶対に無理な条件だな……言ったら顰蹙を買いそうだ。
面倒臭い話を早く切り上げるためのアイデアを考えていると。
「アハハハハッ! 全部断られてんじゃん! だっせぇ!」
後ろからジャードが腹を抱えて笑い始めた。
「ジャード! やめないか!」
ルイスが声を張上げるが、ジャードは言う。
「天下の《鉄壁》さんよぉ、随分と下手に出たくせに、無様過ぎるだろ!」
「……クランですらない奴が口を出すな。こっちの話だ」
「確かにクランですらねぇが、一つわかったことがあるぜ! やっぱり俺らを嵌めたのはテメェらだろ!」
「ジャード! お前はいきなり何を言い出すんだ! その話は今することじゃないだろ!」
「ライバルクランも一つ減りって、こいつの口から出た言葉。それが全部物語ってるだろうが!」
どうやらドルジの言葉を少し湾曲して理解した様だ。
一体全体どういう思考回路をしているんだとため息が出る。
しかし、鬱憤が溜まっていたらそうもなるか。
思考ロック。
こうなってしまうと、もはや誰も手がつけられなくなる。
ストーカーに多いよな、こう言うのって。
ネトゲにもいましたよ、ストーカー。
99%違うと周りから言われても、恋心とか禍根とか。
そういうのが人を残りの1%に誘導してしまうのだ。
「Sクラスクランに上がるために、邪魔だった俺らを壊滅に追い込んだのはテメェらだろ!」
「はあ……だから違うと言ったはずだ。何度言えばわかる」
「何度でも言ってやるよ! テメェらが、テメェらが俺らを嵌めた! 嵌めたんだろ!」
「そういう話は依頼が終わってからギルドを通して抗議しろ。依頼の邪魔だ」
「依頼中に熱心に勧誘して、無様に振られた野郎に言われたくねえヨッ!」
「なっ──」
腰に下げた短剣と長剣を抜いたジャードが、身を低くして一気に飛び出した。
狙いは、俺の正面にいるドルジ。
いきなりの動きに、ドルジは固まり、ルイスはさらに顔を真っ青にさせていた。
「ちょっと!」
とっさに腕を前に出して刃を受け止める。
防寒着を大きく貫こうとするが、鈍なのか、俺の装備が良いのか。
貫通はしなかった。
まったく、頭沸いてんのかこいつ……いきなりそりゃないぞ……。
「助かったぞ《名無し》……編み髪め、ここまで成り下がるとは笑止に値する」
すぐにドルジが巨大な盾を身につける腕を振り上げてジャードの頭に振り下ろす。
ゴッと重たい音がして、ジャードは一撃で昏倒し、白目を向いて地面に倒れた。
「ジャ、ジャード!」
ルイスが駆け寄ってくる。
その姿を蔑んだ目で見ながらドルジは言った。
「ギルドには確と報告させてもらう。お前たちは処罰を受けることになるだろう」
「ド、ドルジ……ジャードも色々といっぱいいっぱいだったんだ……それだけは……」
「知らん」
なんとかそれだけは避けたいルイスだが、冷酷に言い放つドルジである。
この暴挙に、周りにいたメンツは騒然とし、再びエゲツない空気が蔓延していた。
ど、どうすんだよ!
この空気!
「と、とりあえずもう陽も落ちて来てますから、野営の準備しませんか?」
冷酷にしつつも目の奥では怒りを露わにするドルジ。
そんな彼を収める様に、なんとか話をすり替える。
「ト、トウジの言う通りだぜ!」
雰囲気を察したノーマリーも駆け寄って来て、加勢してくれる。
「多分腹が減ってイライラ溜まってたんだ。飯でも食べて、話はそっからやろうぜ! な? トウジ?」
「そ、そうですね! じじじ、時間も惜しいですし、勧誘の話とかは食べつつ話しましょうか!」
「うむ、一度冷静になってから、今後について検討をさせてもらおう」
よし、なんとか場を繋いだぞ。
空気は相変わらず最悪のギスギス。
ポチの料理をみんなに振舞って、そのままお茶を濁してしまおう。
ついでにこの料理を超える美味さを条件にクランも断るぞ。
うん、そうしよう。
俺たちは一斉に野営の準備を始めた。
みんな気まずかったのか、すごい勢いで取り掛かっていた。
はあ……。
なんでこんな役目してんだろう俺……。
冒険者同士のいざこざなんて、昇格依頼の時でお腹いっぱい。
お代わりなんていらないんだけど。
つーか、ジャードの様子が明らかにおかしかったんだけど。
本当に大丈夫だろうか?
もう、帰った方が良いんじゃないだろうか?
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