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本編
453 払い過ぎたかもしれない
しおりを挟む「ポチ! トロールはどっちだ!」
「アォン!」
「そっちか、了解!」
俺とポチは、ギリス中央山脈の山中を駆け回る。
魔物討伐一本勝負。
俺たちが走った場所と別の方向では、ゴレオとイグニールが討伐を行っていた。
こちとら索敵に秀でたポチがいるんだぞ。
負けることはない。
そう思っていたのも束の間、後ろでゴウッと火柱が上がっていた。
イグニールの火属性魔法である。
そして爆発。
「……お、大人気なくない?」
「アォン……」
イグニールは多分本気だ。
ジュノーにパンケーキ絶対不味い宣言を受けて、怒っている。
火柱大爆発は、その鬱憤を晴らすが如くに思えた。
そこまで言われちゃ、意地でも食わせてやろうじゃないの。
って、感じに。
いや、本当のところはどういう感じなのかはわからない。
俺と同じように面倒な雰囲気を察したのかもしれないから。
でも──ゴッバアアアアアアアアアア!
「うわぁ……」
ちょっとガチ目に、夕暮れ時になりそうな山中を照らす火柱の明かり。
マジで怒ってるのかな、なんて思えないこともなかった。
「しかし、スペリオルって強化したらやっぱりエゲツないなあ……」
「アォン……」
俺の言葉に、頷くポチ。
以前の流星夜にて、俺は先んじてイグニールの杖を特殊強化していた。
守護迷宮セットももちろん特殊強化した。
だが、それはイグニールの杖を強化したあまりのお金をちょろっと使ったに過ぎない。
そんな訳で、メモっておいたイグニールの杖の詳細はこちらです。
【豪炎の霊杖】0/100
必要レベル:83
STR:0(+225)
DEX:0(+225)
VIT:0(+225)
INT:83(+225)
AGI:0(+225)
魔力:83(+210)
UG回数:0
特殊強化:◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◇◇◇◇◇
限界の槌:4
装備効果:スペリオル 霊装(イフリータ) 成長武器 属性強化(火)
うん、補正がエゲツないことになってますよ。
なんやねん。
全てのステータス225伸びとか、強過ぎ。
特殊強化10回だけで、全ステ+225。
攻撃力・魔力+180。
やはり恐ろしかった、スペリオル装備。
スペリオルという名を冠するだけある装備である。
そうだ、+180なのに+210になっている所以だけど。
魔力のスクロール10%が5枚成功してあるからだ。
元のUG回数は10回。
その中で10%を5回成功させるって、俺なかなかの運じゃないかな?
さらに、これにかかった費用は2億5000万ケテル。
◆10まで、一回の特殊強化費用が5000万。
それが、流星夜の特殊強化費用30%オフと自戒クエスト+20%オフの効果で半額。
つまり、全部一発成功できたっていう神の一品だった。
これはひとえに、俺がイグニールのことを思う気持ちの勝利じゃないかな?
そう、愛の力である……冗談だ、彼女にそんな気持ちはないだろうし。
「あっ、また火柱爆発してら……グリフォン根こそぎ蹴散らしてら……」
この世界は、ゲームのように攻撃時に自分の叩き出したダメージが出ることはない。
故に、そういうものは目に見えた威力で確認することができるのだ。
特に、魔法スキルとかは派手だからそれが顕著となる。
「……こ、これからはあんまり逆らわない方が良いかな?」
「……アォン」
火柱を見ながら、火属性魔法の申し子であるイグニールはあまりからかわないでおこうと決めた。
まあ、俺が彼女をからかうことなんて、そこまでないんだけどね。
ちなみに、杖だから魔力以外の記載は存在しない。
だが、特殊強化で伸びるものは全ステと攻撃力・魔力。
強化合成特殊強化した俺の武器の2倍以上の攻撃力も秘めているのだ。
つまり、どういうことかと言うと……あれで殴られたらガチでヤバイ。
「あっイフリータ出てる……もう100体近く仕留めたのか……」
上空に出現して火球をポンポコ飛ばしまくる火の大精霊の姿。
こっそり露払いをしておくつもりだったのだけど……。
これはもう払い過ぎだぞ……。
「──ト、トウジッ!」
「あっはい」
トロールを盾で殴りつけて蹴散らしていると、凄い形相をしたノーマリーが走って来た。
「ど、どういうことだ!? ありゃなんだ!? もうワイバーンライダーが来たってのか!?」
「い、いや……うちのパーティーメンバーが張り切ってるみたいで……」
餌食になっているのはこの辺に生息しているグリフォンとトロール。
あとは、それ以外の適当な魔物だと思う。
「は、張り切ってる……?」
目をパチクリとさせるノーマリー。
「ええ、どうせ狩るなら誰が一番倒せるか勝負してまして……」
「しょ、勝負っておいい……心配して損したぜ……」
どうやらノーマリーや鉄壁、編み髪の連中も火柱大爆発が見えていたそうだ。
なんらかの強敵が現れたのか、と慌てて戦闘態勢をとったらしい。
とにかく全員集合させようとのことで、ノーマリーのパーティーメンバーが散り散りに呼びに来たそうだ。
「お騒がせしてすいません」
「いや、何もないなら良いんだけどさ……これ、どうやって説明すりゃいいんだ?」
「うーん、すごい魔法スキルってことにするのはどうですか?」
「お前もなんでのほほんとしてるんだ……? つーか、なんだこのトロールの死体の山……50体くらいいるぞ……ロック鳥を使役するくらいだから、やっぱとんでもねえ実力持ってたんだな……?」
「いやぁハハハ」
伊達にレベル100を超えてないし、良い装備も作ってないからね!
トロールと戦ったのはレベルがもっと低い頃、そして装備もエピックのみだったはず。
その時と比べたらステータスの差は2倍近くだからなあ……。
「とにかく集合なら戻りますか?」
「そ、そうだな……」
「先に戻っててください、俺たちもすぐに後を追いますから」
「お、おう……もうすぐ日が暮れちまうのに空が明るいぞ……」
なんだか力の抜けた様な表情をするノーマリー。
俺は作り笑いを浮かべて、彼の背中を見送った。
さてと、倒した魔物の回収作業を急がないとね。
コレクトを戻してグリフィーを召喚すると、乗ってイグニールたちの元へと向かった。
ちなみに、紛うことなきイグニールの勝利。
ジュノーの今日のデザートは、彼女お手製パンケーキになりそうだ。
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