装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

452 ストレスフルから逃れたい

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 それから日が暮れる前に、俺たちは雪が降り積もるギリス中央山脈へと入った。
 俺らは寒さとは無縁に近い状況だが、他のメンツは防寒に荷物を取られている。

 ドルジの言っていた体力温存策。
 それは、これを加味してのことだったのかもしれないと思った。

 複数の冒険者パーティーが寄せ集まった集団の先頭は、俺たちとノーマリーたち。
 その後ろから、現地にいたAランクのパーティーが地図を持ち案内役とポーターを兼ねる。
 次に、《編み髪》のパーティー、そして一番後ろを《鉄壁》が歩く形だった。

「……チッ、後ろから刺されねえか怖えなおい」

「ジャード」

「ヘイヘイ」

 後ろのドルジ達を横目で睨みながら悪態をつくジャードと、それを言い含めるルイス。
 何を言っても通じないと理解したドルジ達は、ただただ彼の言葉を無視するだけだった。
 それが鼻についたのか、ジャードの機嫌はどんどん悪くなって行く。
 隣にぴったりとついて彼を制す、ルイスの顔色も心労なのか寒さなのか、真っ青だった。

 そんな様子を尻目に俺の隣を歩くイグニールがポツリと呟く。

「ああいうのって、結局何を言っても無駄よねえ」

「そうだね」

「みんな依頼に真剣なんだから空気を悪くするくらいなら、帰って貰えないかしら?」

「まあ、あんまり関わらない方が良いよ」

 何言っても、悪態は止まないだろう。
 どう転んでもトゲトゲしてるなら、ドルジ達の無視は一番得策だと言えた。

 触らぬ神に祟りなし。
 俺たちは指示された役割をちゃんとこなせば、それで良いのだ。

「ォン」

「トウジ、ポチがトロールの匂いを近くで感じたってさ、方向はあっち」

 ポチの声と、それを通訳しながら山の奥を指差すジュノー。

「なら先手必勝で速やかに討伐しようか」

 ここにいても良い事なんか一つもない。
 だから、露払いの役割に便乗して少しでもドロップアイテムを集めておくことにした。

「ノーマリーさん、トロールを発見したので、先手を打って来ます」

「本当か? 手伝いはいるか?」

「いえ、大丈夫です」

「了解。なら先導と一緒にこのまま正面を警戒しながら俺たちは進ませてもらうよ」

「はい、お願いします」

 俺の実力を知っているノーマリーは、この提案を快く受け入れてくれた。

「そのまま別行動しつつ、ここら一帯の魔物を露払いしておきます」

「大丈夫か……って聞くのもアレか。じゃ、露払い頑張ってな」

 そんな言葉を背中に受けて、俺たちは山の奥へとさっそく進んでいった。
 頭ごなしに言うのではなく、こんな言葉をかけてやるだけで話は円滑に進む。
 気持ちよく依頼がこなせる。
 色々とわだかまりがあるのは理解するが、それでも依頼意識を持って欲しかった。

 社会人としての意識が最低レベルだった俺が言うのは筋違いかもしれない。
 けど、仲が悪くても仕事はしなきゃいけないし、冒険者はそれが命取りだ。

 帰ってくる頃には、なんとなくその辺が緩和されてば良いな、と思うけど。
 多分無理だろうな、ドルジたちは完全に無視してるし……。

 だったらせめて、他にギスる要因を取っ払っておかないとな!
 この空気が面倒だから距離を置いた、という訳では断じてありません。
 ありませんよ?

 心の中でそんなことを考えつつ歩いていると、ジュノーが俺の顔を見ながら言った。

「トウジ、上手く距離を置けたしって顔してるし」

「は、してないし?」

「えー? 今絶対、しめしめ顔してたしー?」

 俺の胸中を的中させながら、疑いのジト目を向けるジュノー。
 うっとおしいのでインベントリから甘味を取り出した。

「はいスフレパンケーキ」

「わーい! わかれば良いんだし、わかれば」

「何かにつけて揺するのやめてくれよ……」

 まったく師匠は今日も平常運行だな。
 ムードメーカーの役割を果たしてくれたと思えばありがたい。

「いや、揺するって言うか、今のはトウジは買収したんじゃないの?」

「ォン」

「クエッ」

「……あっトロールだ!」

 みんなの視線が俺に注目してしまったので、体良く目の前にいたトロールに飛び込んでいく。
 そしてクイック連続付きをお見舞いしてあっさりと倒すことに成功した。

「よし、一体目終わり! どうよ、今の剣さばき」

「露骨に話をすり替えたわね」

「ォン」

「クエッ」

「みんなの疑惑から逃れるための弁護には、チョコパンケーキを所望するし」

 なんだよ、なんだよみんなして。
 これ、気まずい空気を俺で発散させてるだけだろうに……。

「とりあえずここら一帯の魔物は全部倒そうか、疑惑の追及はそれからだぞ」

「話を長期化させてうやむやにしようって作戦ね?」

「ぐっ」

「すり替えは男らしくないし、男らしく甘いもの出すし」

 いや、甘いもの出すのも男らしくないよな?
 ……巨匠のカナトコの見た目を写す機能が装備以外もできるなら、だ。
 リバフィンの乾物とか、イナゴの佃煮とか。
 それにパンケーキの見た目を写してこいつに食わせてやりたいと思った。

「つーか、イグニールも悪ノリやめて!」

「良いじゃない、たまには」

 たまには……良いかあ?
 まあクソつまらん、ストレスフルな状況よりはこうしてワイワイやるのがマシか。
 うん、たまには良いだろう、そうしよう。

「ほら、トロール寄って来てるから早く倒して疑惑追及しましょ?」

「オッケー、俺の弁護人はポチでそっちの弁護人はゴレオね?」

「……!」

 頑張る、とガッツポーズをするゴレオ。
 それを見たイグニールは難しい顔をした。

「卑怯よ。でもジュノーを通訳として……」

「イグニール、通訳代金のパンケーキが払えるのか?」

「……なら今日は私が作ってあげ──」

「──絶対いらない! 絶対不味いもん!」

 被せ気味に即答するジュノー。
 露骨に頬を膨らますイグニールが可愛い。

「異議申立てということで、勝敗は倒した魔物の数で決めようじゃないの」

「え、話が変わってるんですけど……?」

「私が勝ったら、ジュノーのデザートは私がいただくわね?」

「えっ!? なんであたしだし!?」

 どうやら、即答したことでイグニールの怒りを買ったっぽい。
 ジュノーざまあ。
 俺もそれに便乗することにした。

「じゃあ俺が勝ったら俺がジュノーのデザートもらう」

「あたしに利がないし! ダメ!」

「交渉成立ね」

「オッケー、お互いベストを尽くそうか」

 チームは俺とポチ。
 イグニールとゴレオ。
 審判役としてコレクト。

「ぜんぜんベストじゃないし! ダメ! ダメだって! あーん!」

 こうして、露払いバトルが開始された。
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