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本編
446 狼狽のオスロー
しおりを挟む「……も、もう一度言ってくれるかい?」
「ん? はい、ヒヒイロカネ」
なんとなく、狼狽えるオスローの反応は面白かった。
いつもジト目仏頂面だから新鮮だ。
「この目の前にある、太陽の様な明るさと光沢を持つやや黄を帯びた赤色の丸い石の玉が、ヒヒイロカネだって?」
「うん」
「……もう一度聞こう」
「いや、もう良いよ。鑑定士にでも見せてきたら良い」
もしくはマイヤーがいる時に改めて聞いてくれ。
ここにあるのは紛うことなきヒヒイロカネ。
ありとあらゆる希少金属を合成して生成される合金だ。
「こ、これがヒヒイロカネの現物だと仮定しよう。しかし、これをどこで手に入れたんだ……?」
「自分で作ったよ」
材料は、アダマンタイト、オリハルコン、ウーツ、白金、玉鋼、アマルガム。
これらの他に、浄水を瓶単位100本と賢者の石を100個くらい使用する。
浄水を清水から制作するレシピは妖精の楽園を助けた時にロウェンから聞いた。
だが、賢者の石のレシピは持ってない。
賢者の石は、オリハルコンやアダマンタイトなどの希少鉱石類を使った装備。
それを分解することによって一定の確率で得られる。
コレクトや秘薬を用いてそれなりに分解ドロップするのだけど、割と渋い。
しかし、強化合成が失敗した装備はめちゃくちゃあった。
それを分解してリサイクルしていたら、インベントリには賢者の石たっぷりです。
賢者の石の問題が解決したら、あとは無限採掘場で根こそぎ収集できた。
玉鋼に関しては、無限採掘はできない。
だが無限に採掘できる鉄鉱石をインゴットにしてさらにそこから抽出。
もしくは分解を行うことによって一定確率にて得られるのでやはり無限。
竜樹とか、植物系は育てる必要があるのだけど。
鉱石に関しては砕いたものをジュノーが再構成できるから強い。
装備制作系チートの、装備を作る前段階のチートが遺憾無く発揮された形だな!
「じ、自分で作った……そ、そんなことありえるのだろうか……?」
「まあ、実際ここにあって、持ってた本人が作ったんならありえるでしょ」
「しかし、しかししかししかししかし」
目をパチクリとさせながら、理解しようとするオスロー。
だが、彼女の頭脳を持ってしても理解が追いついていない様だった。
そりゃそうだよなあ……。
概念的にはこの世のもんじゃないのだし。
俺だって理解しているかしていないかで言えば、していない。
これをこうすればどうなるとか、方法と結果しか知らない。
でもそれで良いのだ。
結果的にできたらそれでオッケー、な体裁なのだ。
「詳しく話を聞くことは?」
「それは秘密」
「むぐぐ……」
「まあ、ほらポチをもふもふして一旦落ち着いてくれ」
「あ、ああ……もふもふ、しかし、もふもふもふ……」
「ア、アォン……」
ブツブツ呟きながら一心不乱にもふもふもふ。
ポチは俺をジト目で見つめてため息をつきながら、もふもふされていた。
すまんなポチ、スケープゴートにしてしまって。
素材関係と装備関係に関しては、やはり滅法強い。
事細かな製作法を知ってレシピ認定されれば、あらゆるものを作ることができる。
さすがに魔導機器は無理だろうけど、ガスを液体化するくらいならいけると思う。
そして浮遊結晶も、制作方法をもっと詳しく聞けば作れる様になるはずだ。
もっとも、仕事を奪ってしまいかねないのでしないけどね。
「ヒヒイロカネ自体は、あと10個くらいストックしてあるよ」
「あっうん」
「足りる?」
「えっうん、足りるというか……1個で良い……」
やけに大人しくなったな、まあ良し。
「わぉお、我が娘が圧倒されてるところなんて初めて見たよ」
オスローの様子を見て、オカロがヒューッと口笛を吹いていた。
ぶっちゃけヒヒイロカネの利用は【神匠】から。
そしてそこまで、単純計算でもあと半年くらいかかりそうな気がする。
だからヒヒイロカネが必要ならば、あるだけ使ってもらった方が良かった。
これからもまだまだ作れる余地はあるのだし。
もしかしたら【神匠】になればもっと良い素材を作れる様になるかもしれないしな。
「とりあえず予備も合わせて10個渡しておくから、好きに利用してくれ」
「う、うむ……」
「なんだか軽い扱い過ぎて、本当にヒヒイロカネなのか逆に疑い深くなってくるね……」
10個ほど適当に手渡す姿を見て、そういうオカロ。
そんなことを言われてもなあ……。
確かにすごい鉱石なのかもしれないけど、今の俺からしたら何個でも作れる代物だ。
なんならどっかの国に高値で売り払うのも良いアイデアなのかもしれない。
しかし、そういうのってあまりよろしくない気がした。
C.Bファクトリーの様に、悪しき考えの奴もいる。
そういうのを見極めないとダメだよな?
「と、とにかく先ずは小型機から作り浮遊鉱石や船のテストから始めないと行けない……うむ、そうだ、そうしよう。色々な懸念が晴れた今、ただ狼狽するのではなく、空を目指さなければ!」
頬をパチンと両手で叩いたオスローは、なんとか気持ちを持ち直した様だ。
「テストでヒヒイロカネ使っていいからね」
「ありがたい。ヒヒイロカネの前に白金を使った浮遊結晶にてあらかた制御法を確認するつもりだったのだけど、現物があるのならばそれで良し、早速私は諸々の準備に取り掛かろう!」
「じゃ、テストは僕も付き合うよ。とりあえずこの場以外で竜樹とヒヒイロカネの件は口外しない様にしようか。あくまで気嚢式の飛行船は民間機用として開発を続ける。浮遊結晶を使った……飛行船?」
「これは私が作り出した新たな空へのアプローチである……飛空船と名付けよう、パパ」
「ああ、種類がよくわからないけど、その飛空船っていうのの技術を民間向け気嚢式に流用していく様な形で開発を進めていこうと思うよ。どこで誰が聞いてるかわからないしね」
「お願いします」
さて、話もまとまったところで、もう一つやっておくことがあった。
「オスロー、もう一つあるんだけど」
「なにかね? ポチをもう一度もふもふさせてくれるのかね?」
「いや違うけど、多分俺のいうとおりにしたらポチも嫌がらないと思うよ?」
「む……教えていただこう」
「簡単なことだよ」
それは、毎日俺の家の浄水温泉に入り、そして毎日寝る前にチョコレートを少し食べる。
食い過ぎは良くないが、気持ちリラックスさせる程度に摂取するのだ。
「……意味がわからんな、風呂なんて1週間に1回でいいだろう」
「毎日入れよ……」
1週間に1回とか、なめてんのか。
今は冬場だけど、さすがにそれは汚い。
ポチも嫌がるはずだ。
「それに寝る前に甘いものを食べるのも、逆に脳に栄養がいって寝れなくなりそうだ」
「だったら苦めの奴あるから、それを少量、作業中にでもつまんでみてくれ」
「……? まあ、良いだろう。それでポチを抱っこさせてくれるならばな」
「オッケー」
ポチが俺のふくらはぎあたりをサンドバックにしているが、効かないぞ。
どうせどっかのタイミングで抱っこさせろと言ってくるんだ。
だったら綺麗綺麗にしておいた方がいいだろう?
オスロー浄化作戦、密かに開始である。
ポチを与えればいうことを聞くから楽だな、パンダ女。
って、おい、噛むな!
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