装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

445 あります、ヒヒイロカネ

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「──浮遊結晶。我ながらとんでもないものを作り出してしまったよ」

 浮遊結晶……確かにとんでもない効果だ。
 オスローを起点として、すべてのものが無重力空間に来てしまったかのように浮く。
 なんとなくどこかのアニメで見たような風景だった。

「しかし、一つ懸念がある」

 オスローがそう言った瞬間、結晶石にピキッとひびが入った。

「消費量が膨大、かつ結晶自体は非常に脆く耐えきれないのだ」

 ──パリン。
 オレンジ色の浮遊結晶が割れて、その瞬間急に重力が戻って来た。

「おわっ!?」

「きゃっ!?」

 俺の顔の上に、イグニールのケツが降ってくる。
 柔らかいって思うだろ?
 役得だって思うだろ?
 違うんだな、尾てい骨が痛えんだよな。

「ご、ごめんトウジ」

「いや、大丈夫……」

 潰された鼻を押さえながら、なんとか立ち上がった。
 しかし、浮遊鉱石すごいな。
 周りにいる人の人数とか、物の量関係なしに浮かぶ。
 無重力空間を発生させるようなものなのだろうか?

「しかし娘ちゃんさ、どうやって作ったんだい?」

「液状化した魔力ガスがあっただろう?」

 俺が渡したタンクのことだな。

「あれの作り方を調べていて、強い圧力を加えると気体は液体になることが判明した」

「そうだね。気嚢の予備ガスとして飛行船に積んでおこうかって話になったね」

「その液体化したものとアマルガムをどうしても組み合わせたい衝動に駆られてしまってな」

 オカロは扱いが危険だ、と俺が旅立つ前に釘を刺していたにも関わらず。
 オスローは小さな液体化ガスを作り出してやって見たそうだ。

 アマルガムと液体化したガスではなんの反応も見られない。
 しかし、そこに触媒となる鉱石を加えることでアマルガムが反応して、小さな結晶が生成されたらしい。
 それをかき集めて固形化したものがオレンジ色の結晶。

「色々試したのだが、基本的には金、もしくは白金が適していたよ」

 どれも浮遊の効果を持つ。
 その中でも、魔力と反応して周りを浮遊させるほどの力を得られたのは金と白金。
 ともに、魔力との親和性が高く、ロスが少なく魔導体の役割を果たすものだそうだ。

「もう、話についていけないわね……」

「俺も」

 素直に首を傾げた反応をするイグニールに同意しておく。
 俺もその辺はまったくわからない。
 けど、精密機器に使われているものだと捉えて良いのかな?

「私は、かねて開発していた巨大バッテリーとこの浮遊結晶を巨大化したものを組み合わせることによって……気嚢いらずに船は浮くと考えたのだよ。そっちの方が理論値最高で軽量化にも成功するだろう?」

「でも、まとめて浮いちゃってたら意味ないし?」

 スッと疑問に思ったことを口にしたと思うのだが、珍しくジュノーが鋭い指摘をしていた。

「フフフ、その辺は心配ないさ。魔力の方向性や対象を選別する仕組みは、長年のアーティファクト研究にて大いに進んでいるのだから」

「んー、よくわかんないし?」

「つまり、ものを冷やす魔導機器だって、そういった応用がなければ周りのありとあらゆるものを冷やしてしまうだろう? 火を起こす携帯コンロだって、制御しなければ周りが大火事になるだろう? 他にもだ、バッテリーとして作り出したものだって、方向性を決めてやらなければ周りにただ魔力を垂れ流すゴミと化す。古代の賢者が作り出したアーティファクトの何が、どうして、どうなっているのか、それを考えるのがアーティファクト研究、そしてそこから生まれたのが魔導機器。日進月歩する技術力の前に、細かな疑問なんて障害ではなく、解明されるべき謎、謎なのだよ!」

「……早口でよくわかんないから、パンケーキで例えてもらえるし?」

「パッ……パンケーキで例えろとは、なかなか面白いことを言うね君……」

 別にさらっと流しても良いのだけど、オスローは律儀に考える。
 俺は話の長いやつはたいていまだ考え中だってことだとして受け止めている。
 解明されるべき謎と言っているから、まだそこは思いついていないと思った。

「一般的なパンケーキの作り方は決まっているだろう? そこに少しアクセントとアレンジを加えることによって、極彩諸島の七色パンケーキや、他のパンケーキへと変貌する。同じパンケーキだが……これはちょっと違うか……」

「食べる専門だから、あたしにはさっぱりわかんない!」

「ぐむ……ちょっとパンケーキ作って見よう。そこから良い例えを……」

「待て待て待て待て」

 慌てて止める。
 パンケーキ作る流れになってるのはおかしい。
 話が脱線しているどころではなく。
 そっくりそのまますり替わってるレベルだった。

 とにかく理論値最強なのはわかった。
 それをオスローが求めていることも理解した。
 確かに気嚢ありの飛行船よりも、全てをとっぱら飛空船。
 こっちの方が、俺も格好良いと思った。

 C.Bファクトリーも、設計図がないがおそらく飛行船に着手している。
 空路を最初に取れることは大きく、絶対に着手しないはずがないからだ。
 そいつを出し抜いた最新技術はかなり良いものだと俺も思う。
 素人目線で単純に考えただけなんだけどね。

「より良い材料が白金だって言うなら、白金をとってくれば良いのか?」

 貨幣価値で行くと、小さなもので100万ケテル。
 だが、材料だけならジュノーのダンジョン部屋にある採掘場でいくらでも手に入るのだ。
 そこから貨幣を作りゃ、俺億万長者だよな、なんて思うけど。
 さすがにそれをしたら絶対バチが当たるというかしっぺ返しをくらいそうなのでしない。

「いや」

 俺の問いかけに、オスローは首を振る。

「またしても無理難題を言ってしまうことになるのだが……」

「うん、とりあえず話だけは聞くよ」

「結晶の磨耗が激しい点を改善できる鉱石を取ってきてほしい、その名もヒヒイロカネさ」

「ヒヒイロカネだって!?」

 その言葉に、側で聞いていたオカロが声をあげた。

「娘ちゃん、また無理難題を押し付けて! そんなの竜樹よりも価値の高い伝説的な代物じゃないか!」

「あらゆる金属の性質を持ち、そして朽ちないと言われている伝説の鉱物は、全てを改善できると踏んでいるのだ」

「いや、だからそんなものもうずーっと昔の文献にしか載ってないし、ダンジョンでも取れた記録は極僅かだろう?」

「知ってるさパパ。でも、あるんだろう?」

 オスローは続ける。

「だったら探せば手に入るかもしれない。トウジはなんだかんだそういう運に恵まれている気がするから、きっと取ってこれると私は思っている。根拠はないが、珍しく私の勘がそう告げるのだよ」

「でもさっ! 竜樹よりも情報が少ないものを、今から探すのはまた手間がかかるよ! やっぱり気嚢式にして、急いで民間に卸して運用しないと、コストと時間だけを無駄に浪費して、せっかく雇った研究員も養えなくなるって!」

「竜樹が手に入ったらな、用意していたお金は浮くと思うが……」

「あのね、C.Bファクトリーの圧もすごい状況でマイヤーちゃんがほか商会との交渉を引き受けてくれてるんだよ? あんまり余裕ブッこいてる余地はないんだから、やっぱりもっと現実的に見ていった方がいいとパパは思うよ」

「でもそれでは良いのが作れない……もん」

「駄々こねても譲らないよ! まったく、凝り性は父さん譲りだね! 開発は自分のためではなく人のためにやるものなんだから、イッテンモノじゃなくて誰でも気軽に使えるもっと簡単なローコストなものを目指さなきゃだよ!」

「むぐぅ……費用の話をされると、さすがの私でも言い返すことはできない……」

「パパは今まで自由を認めてきたけど、そこは断じて譲りません! そもそも出資されたお金は規模拡大のための戦略に使わなきゃ、どこかで絶対にパンクするんだよ!」

 勃発する親子喧嘩。
 そんな中、俺はインベントリからあるものを取り出した。

「あっ、話の途中で悪いですけど、はいヒヒイロカネ」

 実はあるんだよな……。
 レシピは以前手に入れていて、材料もほとんど揃っていた。
 ヒヒイロカネは【巨匠】で生成可能である。
 だとしたら、俺が作らない訳ないだろう?

 使用した装備類を作るには【神匠】からじゃないとできない。
 だからインベントリの肥やしになっていたのだけど。
 これがあれば色々捗るっていうのなら、どうぞ使ってくれって感じだ。

「……は?」

「ん?」

 いつも半目で何考えてるかわからない表情のオスローが、珍しく唖然とした顔を浮かべている。
 しっかり目を見開いたら、目の周りの隈が少し緩和されて、それなりに美人に見えた。
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