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2巻
2-2
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◇ ◇ ◇
さて、Dランクの冒険者として最初の依頼を、順調に終えた翌日。
俺は一人ソファーに座って日課の装備製作を行っていた。
そういえば、30レベルになったことで、ついにあの機能が開放される──そう、特殊強化機能だ。
通常の強化は、UG(アップグレード)回数に応じてスクロールを使用するが、この特殊強化はまったく違う。
簡単に説明すると、『すでにUG回数を全て消費して、強化が終わった装備』を、お金を対価として追加強化を行う……というシステムだ。
最初に強化した【長剣】を用いて説明するとだな。
【長剣】
必要レベル:0
攻撃力:10(+3)
UG回数:3
特殊強化:レベル30より開放
限界の槌:2
これが、メモっといた特殊強化機能が開放する前の記述で、次に開放した後を記載する。
【長剣】
必要レベル:0
攻撃力:10(+3)
UG回数:3
特殊強化:◇◇◇◇◇
限界の槌:2
このように、特殊強化の項目に◇マークが出現した。
◇マークが5個、これが装備の特殊強化の可能回数に当たる。要は装備を強化した後、5回特殊強化できますよってこと。
装備の必要レベルによって、この◇マークの個数が変わり、確か最低値が◇5個で、最高値が◇25個だったはず。
よし、では次に実践編だ。
特殊強化を行うためには、まず装備のUGを全て埋めなければならないので、適当に攻撃力が1上がる成功率100%のスクロールを使用しよう。
【長剣】
必要レベル:0
攻撃力:10(+6)
UG回数:0
特殊強化:◇◇◇◇◇
限界の槌:2
もちろん全て成功し、攻撃力の強化値が+6になった。「攻撃力:10」というものが、この武器本来の攻撃力で、カッコ内の数値が強化した値となる。
これで準備が整ったので、いよいよ特殊強化を施していく。
【長剣】
必要レベル:0
STR:0(+2)
DEX:0(+2)
VIT:0(+2)
INT:0(+2)
AGI:0(+2)
攻撃力:10(+7)
UG回数:0
特殊強化:◆◇◇◇◇
限界の槌:2
2000ケテルを対価に、一回だけ特殊強化を行ってみた。すると5個あった◇マークが、一つ黒く塗りつぶされる。この黒塗り◆マークが、強化を行いましたよって証明だ。
全てのステータスが2ずつ上昇し、攻撃力も1増える。
この【長剣】は特殊強化可能回数が五回なので、最大数まで特殊強化すると全てのステータスが+10になり、攻撃力が+5されるのだ。
【長剣】
必要レベル:0
STR:0(+10)
DEX:0(+10)
VIT:0(+10)
INT:0(+10)
AGI:0(+10)
攻撃力:10(+11)
UG回数:0
特殊強化:◆◆◆◆◆
限界の槌:2
そして特殊強化を全て終えたものがこちら。攻撃力が少しでも上がっていれば、強い武器だとか名剣だとか言われる世界で、この上昇値はとんでもない。
だがそこで喜ぶなかれ、特殊強化はこれからが本領発揮なのだ。
合成強化で武器の強化値を倍にできて超強いだのなんだの、俺はウィリアムの武器屋で宣っていたと思うのだけど、この特殊強化はそれを遥かに凌駕する。
◇1~5……全ステータス2、攻撃力・魔力1
◇6~10……全ステータス5、攻撃力・魔力3
◇11~15……全ステータス7、攻撃力・魔力5
◇16~20……全ステータス10、攻撃力・魔力10
◇20~25……全ステータス10、攻撃力・魔力15
覚えている限りなのだが、必要レベルが上昇するとともに増える◇マークの数に乗じた強化の値がこんな感じだった。
はっきり言おう、◇16以降の攻撃力・魔力の上昇値が化け物レベルだ。しかも、強化方法はスクロールではなく単純にお金を払うのみで、超絶お手軽ときている。
だったら、強化のスクロールは適当でこっちを優先したら良いじゃん、なんて言われると思うのだけど、難点も存在しているのだ。
実は特殊強化の回数を重ねるにつれて、対価となるお金も莫大となっていくのである。
一回目は2000ケテルほどだったが、最終的には2000万ほど必要になる。2000万ケテルである、2000万。やべぇよ。
しかもだな、強化を重ねるにつれて成功確率もどんどん絞られていき、失敗したら一つ前の強化段階戻ってお金の無駄になったり、装備破壊のペナルティが存在したりするのだ。
◇16~20くらいの段階で、成功確率は50%以下に落ち込み、破壊確率が出現。さらに20~25までの段階だと、成功率より破壊確率のほうが高くなる始末。
ゲームでは、このシステムのおかげでプレイヤーの攻撃力が大きく上昇した。しかし同時に、ゲーム内通貨が莫大に消費され、デフレが巻き起こった……まあそんな与太話はいいか。
「とりあえず最初は別に問題ないだろう」
多額の費用を要求されるのは高レベル装備から。現状30レベルの装備なんて◇マーク5個までのものしかないので、強化費用はすごく安いから気にする必要はない。
それでも行く行くは、莫大な費用が必要になってくるので、今のうちにしっかり金策を行い、生活費と強化費用を溜め込んでおくことが重要なのである。
「ォン」
「あ、軽食? ありがとうポチ」
特殊強化について思考を重ねつつ、やっぱり金策は魔物狩りとギルドの依頼をしっかりこなすことだよな、なんて思っていると、ポチが軽食を持ってきてくれた。サンドイッチである。
「うまっ、なにこのタレのコク……って、照り焼きサンド?」
「ォン」
シャキシャキのレタスと鶏の照り焼きが絶妙にマッチした一品だ。アクセントとして甘酸っぱいピクルスも挟んである。
それを食べつつ、今日は依頼を受けずに一日使って装備の新調をすることに決めた。
俺の分と、ポチ達の分である。
「……あ、でも不味いな」
「ォン!?」
俺の何気ない呟きに、ガビーンとした表情を作るポチ。
「あ、ごめん、違う違う。このサンドイッチのことじゃないよ」
膝の上に乗っかって、拗ねてしまったポチをなでなでしながら考える。
特殊強化が開放され、俺の貧弱ステータスでもなんとかやっていける感が出てきた。でもそのためには、まず装備のUGを全て埋めてしまわなければならないのだ。
装備の製作、強化、合成、特殊強化。この一連の流れを繰り返すことになる訳だが、当然のことながら、全ての装備を強化するために必要なスクロールの不足が懸念される。
ゲーム内では、強化のスクロールを売ってくれるNPCの存在があったのだが、この世界には存在せず、ドロップアイテムとして落ちたスクロールの供給源となるプレイヤーとしての立場も、俺一人しか存在しない。
必然的に、ドロップ率アップの能力を持つコレクトを連れて、ドロップスクロール狙いで魔物を大量に狩るしか入手方法はないのだが、マップに入れば魔物が自動的に湧いてくるようなゲームとは勝手が違うのだ。
「うーん……」
一日引きこもろうと思っていたのだが、前言撤回。装備製作を中断し、気分転換がてらに拗ねるポチを抱っこして街へ出ることにした。
「ほら、拗ねるなってば」
「アォン……」
不味いな、と言ってしまったことは謝るが、あれは事故だ。照り焼きサンドはとても美味しくて、一瞬にして俺の腹に消えたのを見ただろうに……。
「まったく……ん?」
パインのおっさんの牛丼屋に連れて行けば機嫌が直るかな、と思って歩いているとたまたま通りかかった書店においてあった物に目がついた。
「……『勇者伝説』?」
書店に平積みしてある本を手に取る。召喚勇者が過去に世界を救った伝説譚だ。
さらに隣には『新・勇者伝説』というタイトルの本が並べてある。俺が召喚に巻き込まれた件の勇者の話だった。
発行元はデプリ王国。よくもまあ、抜け抜けとこんな金策に走るもんだ。
今回の勇者召喚は、国家間で色々と物議を醸しているなんて噂されているのに、それを本にして隣国で売るなんて。
他国からすれば喧嘩を売られているレベルなんじゃないだろうか?
当然ながら、俺のことはどこにも書かれていない。
ふと思ったんだが……強化のスクロールだって紙で出来ているんだから、こういった書物を分解したら、上手いことスクロールが手に入ったりしないだろうか?
さすがにそこまで都合よくできてはいないと思うのだけど、とりあえずワンチャンというものに賭けて、ページ数が少なくて安かった『新・勇者伝説』のほうを購入し分解してみた。
【白紙】
何も書かれていない質の良い紙
【強化の欠片】
必要枚数を集めると、強化のスクロールに錬成できる。
錬金術レベル:【匠】
成功率100%のスクロール各種一つ=百枚
成功率60%のスクロール各種一つ=六百枚
錬金術レベル:【巨匠】
※未開放
錬金術レベル:【神匠】
※未開放
お、おい……マジかよ……できちまったよ。
これはゲームにはなかった要素である。
いや、もしくは俺が異世界に飛ばされる時に、アップデートとかが入って、そういった強化方式のシステムが追加されたのだろうか。
最終装備は全て揃えていたし、サブキャラ用の装備も全て作り終わってたからなあ……。
深く考えてもしょうがない。スクロールの入手方法を確立できたので良しとしておこう。
なんだろう、俺の知らない要素だから、早く錬金術を成長させたくなってきた。
そうと決まれば、さっさと装備製作系の職人技能を【匠】にして、錬金術のレベル上げに着手しないといけませんね、これは!
俺はルンルン気分で全ての『新・勇者伝説』を買い占めることに。
分解用だから、普通の本はなんとなく憚られるが、デプリ発行なら話は別だ。
布教のためにかなり安い値段にしてあるっぽいが、買い占めてやろう。
第二章 スタンピードチャンス
ある日、いつも通り冒険者ギルドへ赴くと、なんだかギルド内が騒がしかった。
横長の依頼掲示板に、赤枠の依頼書が張り出されている。
「緊急依頼……?」
依頼書の説明書きを読んでみると、なんと山脈にてスタンピードの兆候が確認されたので、広く戦闘員を募集する、と書かれていた。
この世界でスタンピードというのは、いわゆる魔物の暴動のことを指す。
ゴブリンやオークのような魔物の集団が大きくなると、人里を侵略して反撃を受けたり、強大な力を持った魔物同士の争いが起こったりする。
その被害から逃れるため、魔物が他の土地へと大移動を行うことを、スタンピードと呼んでいるのだ。
今回のスタンピードは、大量の魔物が山脈を越えてトガル側へ来ているとのこと。
「傍迷惑な話だぜ……絶対デプリの仕業だろ、これ」
「向こうの召喚勇者が、冒険者の食い扶持を奪ってるって、流れてきた奴が言ってたしな」
緊急依頼を見ながら立ち話をする、冒険者達の会話が聞こえてくる。
仮にも伝説の存在だというのに、デプリ以外の国の人からは、あまり良い印象を受けていない勇者御一行だった。
そりゃ世界が窮地に陥っている状況じゃなければ、そんなもんか。
イメージ戦略のために『新・勇者伝説』を発行して、安く各国の書店に流しているっぽいけど、それは全て買い占め、俺の強化スクロールとなる。
デプリ側が本の儲けを得てしまうが、より大きな売り上げを手にするのは販売店だと思うので、経済を回してやっている、と思うことにした。
そんなことはさておき、俺はこの緊急依頼をどうしようか?
スタンピードは、ギルドの他に国からもお金が出るようなので、報酬が高い。
その分危険もあるのだが、倒した魔物の数に比例して報酬が増えていくから、この赤枠の緊急依頼を受ける冒険者はたくさんいた。
「おはようございます、トウジさん」
「おはようございます。緊急依頼の参加受付をお願いします」
当然ながら、俺も参加することにした。
考えてみてくれ、魔物が大量に狩られる状況は、あのゴーレム通りの時とまったく一緒。つまりこのスタンピードは稼ぎ時なのだ。
きっとドロップアイテムの宝庫で、まさに夢のようなチャンスタイムになる。
「ああ、スタンピードの依頼ですね?」
「はい」
「Dランクにとってはかなり危険な依頼になりますけども、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
心配してくれる受付のお姉さんである。だが、多少の危険を冒してでも、参加する価値があるのだ。ピンチになったらキングさんに土下座して助太刀をお願いしよう。
「過激な戦闘が行われないと予測される場所に配置するよう、言っておきましょうか?」
「え? いや、普通に他と一緒で大丈夫ですけど」
むしろ、過激な場所のほうがドロップアイテムを大量に得られる。
理想なのは、戦いで傷を負った冒険者にポーションを配って回る支援ポジションだ。
そうやって前線のすぐ側で戦線維持に努め、魔物を倒してもらうことでドロップアイテムをたくさんいただくのである。
「でも本当に危険ですよ?」
「だ、大丈夫です」
そうやって口酸っぱく言われてしまうと、なんだか怖くなって判断が鈍るからやめて欲しい。
とりあえず「前線で」とだけ告げて、俺は冒険者ギルドを後にする。
ギルドの予想では、魔物が押し寄せてくるのは二日後。装備の一新は終わっているので、この二日間でスタンピード用のポーション作りをやってしまおう。
◇ ◇ ◇
依頼も受けずに引きこもり、すぐにスタンピードの予定日が到来した。
前日の夜から、兵士と冒険者で隊列を組んで移動し、明け方に戦闘が開始される。
今は、いくつか築かれた野営地の一つで、ポチが作る飯を待っている状況。
この依頼でパーティーを新たに組む冒険者が多く、明日の戦い方やら、お酒や食事をともにした交流などが行われているのだけど、俺は知り合いがいないので当然ぼっち。
外だし、広いしってことで、ポチやコレクトの他にもゴレオを出して、なんちゃってパーティー気分を味わいつつ、ご飯ができるのを待っている。
「──あーもう! うっさいわね! 戻らないって言ってるでしょ!」
ポトフを作るポチの姿をぼーっと見ていると、聞き慣れたが声が響いてきた。
このキレッキレの声は、イグニールだな。
声のほうに視線を向けると、元パーティーメンバーのブレイとフレイが、イグニールと言い争いをしていた。
「頼むよ! 今日くらいは前みたいに一緒のパーティーに戻ってもいいじゃないか!」
「そうです! イグニールさんがいてくれれば、火力的にも助かります!」
「だから、戻る気はないって言ってるでしょ?」
必死にお願いするブレイとフレイを、冷たくあしらうイグニール。
「あ、夕食は食べました? うちのパンも持ってきてますから! 食べません?」
「そうだよ! 美味しいよ! パーティーに入ればこのパンも安く買えるんだ!」
……そこ、タダじゃないんだ?
「何度言われても一緒よ、嫌。それにコレクションピークの報酬も、手切れ金として全部渡したでしょ? まったく……パーティーメンバーが揃わなかったから、私に声をかけてきてるんでしょう? あんた達と一緒にやってると、またランクも落ちかねないから、何度言われたところでもう二度と戻ることはない」
さらにイグニールは大きく息を吸うと言葉を続けた。
「っていうか、パーティーの不仲だってことで色々と悪目立ちしているのに、こんなに人が多いところで良く誘えたものね。周りが見てるわよ?」
「ぐっ」
「そもそも私、フレイの家のパン、好きじゃないし」
一つを言ったら三倍以上にして言葉を返すイグニールに、ブレイとフレイは弁明する隙も与えられずに黙っていることしかできないでいた。
その様子をフンと鼻で笑ったイグニールは、彼らを残して何故か俺のところに来た。
「まったく、しつこい奴らよね!」
なんでこっち来んだよ。目立つだろうに……。
「また話しかけられたら厄介だから、今日だけこっちにいても良いかしら……?」
「まあ、構わないけど」
面倒ごとは嫌いだが、彼女の胸中を察すると無下に断ることもできない。
「あら、今日はポチだけじゃなくてゴレオもいるのね? ハァイ、ゴレオ~」
「……!」
ふりふりと手を振るイグニールに、関節をゴリゴリ言わせながら手を振り返すゴレオは、立ち上がると彼女の隣にそっと座り、地面にゴリゴリと何かを書いた。
しつこい男、めんどうなのは、わかるよ。
「本当よね! まったくもう!」
そこから烈火のごとく飛び出してくるイグニールの愚痴を、ゴレオはコクコクと頷きながら聞き、時折地面に文字を書いて会話をしているようだった。
「もーっ、ゴレオってば、やっぱりそうよね?」
「……(コクコク)」
意気投合する二人。……なんだ、これ?
まあ、俺がわざわざ愚痴を聞かされないだけ、良いんだけどさ。
「ォン」
「あら? いただいても良いの?」
「アォン」
盛り上がるイグニールとゴレオの元に、ポチが出来上がった夕食を持っていく。
料理を受け取ったイグニールは「悪いわね」と言いながら、銀貨を三枚ポチに渡した。
そしてポチは受け取った銀貨を俺に持ってくる。
「ォン」
「あ、ありがとう……」
──金、稼いどるがな。
実はこれ、詰所の食堂でとんかつ定食を振る舞った際に、冒険者と兵士達がその美味しさに驚愕して、求めてもいないのに何故かお金を払い出した、という流れから来ているものだ。
自然にお金を払われるとなれば、ポチはもう一端の料理人である。
「ォン」
次は俺の分をポチが持ってくる。
「ありがとう」
しかし、あれだな。何やらブレイとフレイの視線をすごく感じる。横目でちらりと見ると、何かを言いたげな表情で、パンをもさもさ食べている彼らがいた。
……面倒臭そうな気配がするので、戦いが始まったらできるだけ離れて行動しよう。
ソーセージと野菜の具沢山ポトフを食べながら、俺はそう思った。
明け方、ギルドが予想していた通り、大量の魔物が山脈を下ってきた。俺の知らない、ありとあらゆる魔物がわんさかである。
かなりヤバそうに思えるが、迎え撃つ冒険者や兵士もわんさか。
参加報酬に追加して、倒した魔物の討伐証明部位を持って帰れば追加報酬の対象となる。
なので、血気盛んな冒険者達の雄叫びがあちこちで響いてくる。
「うおおおおおおおお!」
「装備の一新資金を蓄えっぞおおおおお!」
「おらあああああああああ!」
まるでお祭り騒ぎだな。これには、むしろ魔物のほうが圧倒されている。
無論、俺のテンションも上がりっぱなしだ。
ドロップアイテムが、ドロップアイテムが!
至る所に散らばっていて、さらにスクロールも大量! レアドロップっぽい装備も!
「ウハウハウハハッ!」
若干失語症ちっくな感覚に陥りながらも、強化合成特殊強化を全て終えた武器で魔物を倒しながら戦場を駆け巡り、ドロップアイテムを根こそぎ回収していく。
30レベル用の装備の攻撃力や装備補正は、強化によって50レベル後半相当になり、だいたいの魔物が一回攻撃すれば倒せてしまう。順調の一言だった。
俺が持っている装備は、ゲームではまだ攻撃力がインフレする前の物である。
これで潜在装備を作れるようになってしまえば、天を貫く攻撃力インフレを巻き起こし、真の装備製作チート野郎となるだろうなあ……!
「おい! ゴーレムマニアの冒険者がヤベェ顔で魔物を倒してるぞ! なんだあれ!」
「や、ヤベェ! ヤベェよ! こっちも負けねぇように討伐だ! やるぞ!」
テンションマックスの俺を見る冒険者が、負けじと前線に出ていった。
そうだそうだ、戦え戦え、戦って魔物を倒してドロップアイテムを量産してくれ。
中には無理して負傷する冒険者もいるが、そういう人達は、ポチにポーションがたくさん入ったカバンを持たせて、どんどん配らせていた。
「ォン!」
「あ、ありがとう……?」
「ポーション売りのコボルト……?」
「と、とにかく助かったよ!」
状況が状況だから、お金を取るつもりはまったくなかったのだけど、みんな律儀に払ってくれている。冒険者は恩を売られるという行為が、あまり好きではないようだ。
「おーい! ワイバーンだー! 大物だー! Bランク以上が対応してくれー!」
「任せろ! 俺達《鉄甲の義賊》が対応する!」
「うおおおお! 討伐専門クラン《鉄甲旅団》所属のパーティーだああああ!」
手に負えない魔物が出たら、こんな風に誰かが叫んで、相応のパーティーが戦場に颯爽と参上してくれる。
この依頼にはサルトを拠点とするクランも参加していて、そのクランへの加入を目論む冒険者達が、良い印象を与えようと奮い立つのだ。
能力が人に言えないため、半永久的にソロが確定している俺には、クランはまったく関係ない。
それでも周りの冒険者から羨望の眼差しを受け、頼りにされている姿を見ると、なんだかすごく格好良く思えた。
「ぜひポーションを使ってください!」
「む? いきなりなんだ?」
「戦いながらポーションを配っている者です」
「なんだそれ……まあ、助かるからありがたいけど……」
強そうな冒険者を見つけたらポーション配りを自称して近づき、さりげなくグループに入れて、彼らの魔物を倒して得た経験値も余念なく稼いでおく。
人様の経験値を奪うのは、あまりよろしくないと思っている。
でも今日一日くらいは、代わりにそれなりのポーションを無料もしくは格安でばら撒いているので、許してほしい。
さて、Dランクの冒険者として最初の依頼を、順調に終えた翌日。
俺は一人ソファーに座って日課の装備製作を行っていた。
そういえば、30レベルになったことで、ついにあの機能が開放される──そう、特殊強化機能だ。
通常の強化は、UG(アップグレード)回数に応じてスクロールを使用するが、この特殊強化はまったく違う。
簡単に説明すると、『すでにUG回数を全て消費して、強化が終わった装備』を、お金を対価として追加強化を行う……というシステムだ。
最初に強化した【長剣】を用いて説明するとだな。
【長剣】
必要レベル:0
攻撃力:10(+3)
UG回数:3
特殊強化:レベル30より開放
限界の槌:2
これが、メモっといた特殊強化機能が開放する前の記述で、次に開放した後を記載する。
【長剣】
必要レベル:0
攻撃力:10(+3)
UG回数:3
特殊強化:◇◇◇◇◇
限界の槌:2
このように、特殊強化の項目に◇マークが出現した。
◇マークが5個、これが装備の特殊強化の可能回数に当たる。要は装備を強化した後、5回特殊強化できますよってこと。
装備の必要レベルによって、この◇マークの個数が変わり、確か最低値が◇5個で、最高値が◇25個だったはず。
よし、では次に実践編だ。
特殊強化を行うためには、まず装備のUGを全て埋めなければならないので、適当に攻撃力が1上がる成功率100%のスクロールを使用しよう。
【長剣】
必要レベル:0
攻撃力:10(+6)
UG回数:0
特殊強化:◇◇◇◇◇
限界の槌:2
もちろん全て成功し、攻撃力の強化値が+6になった。「攻撃力:10」というものが、この武器本来の攻撃力で、カッコ内の数値が強化した値となる。
これで準備が整ったので、いよいよ特殊強化を施していく。
【長剣】
必要レベル:0
STR:0(+2)
DEX:0(+2)
VIT:0(+2)
INT:0(+2)
AGI:0(+2)
攻撃力:10(+7)
UG回数:0
特殊強化:◆◇◇◇◇
限界の槌:2
2000ケテルを対価に、一回だけ特殊強化を行ってみた。すると5個あった◇マークが、一つ黒く塗りつぶされる。この黒塗り◆マークが、強化を行いましたよって証明だ。
全てのステータスが2ずつ上昇し、攻撃力も1増える。
この【長剣】は特殊強化可能回数が五回なので、最大数まで特殊強化すると全てのステータスが+10になり、攻撃力が+5されるのだ。
【長剣】
必要レベル:0
STR:0(+10)
DEX:0(+10)
VIT:0(+10)
INT:0(+10)
AGI:0(+10)
攻撃力:10(+11)
UG回数:0
特殊強化:◆◆◆◆◆
限界の槌:2
そして特殊強化を全て終えたものがこちら。攻撃力が少しでも上がっていれば、強い武器だとか名剣だとか言われる世界で、この上昇値はとんでもない。
だがそこで喜ぶなかれ、特殊強化はこれからが本領発揮なのだ。
合成強化で武器の強化値を倍にできて超強いだのなんだの、俺はウィリアムの武器屋で宣っていたと思うのだけど、この特殊強化はそれを遥かに凌駕する。
◇1~5……全ステータス2、攻撃力・魔力1
◇6~10……全ステータス5、攻撃力・魔力3
◇11~15……全ステータス7、攻撃力・魔力5
◇16~20……全ステータス10、攻撃力・魔力10
◇20~25……全ステータス10、攻撃力・魔力15
覚えている限りなのだが、必要レベルが上昇するとともに増える◇マークの数に乗じた強化の値がこんな感じだった。
はっきり言おう、◇16以降の攻撃力・魔力の上昇値が化け物レベルだ。しかも、強化方法はスクロールではなく単純にお金を払うのみで、超絶お手軽ときている。
だったら、強化のスクロールは適当でこっちを優先したら良いじゃん、なんて言われると思うのだけど、難点も存在しているのだ。
実は特殊強化の回数を重ねるにつれて、対価となるお金も莫大となっていくのである。
一回目は2000ケテルほどだったが、最終的には2000万ほど必要になる。2000万ケテルである、2000万。やべぇよ。
しかもだな、強化を重ねるにつれて成功確率もどんどん絞られていき、失敗したら一つ前の強化段階戻ってお金の無駄になったり、装備破壊のペナルティが存在したりするのだ。
◇16~20くらいの段階で、成功確率は50%以下に落ち込み、破壊確率が出現。さらに20~25までの段階だと、成功率より破壊確率のほうが高くなる始末。
ゲームでは、このシステムのおかげでプレイヤーの攻撃力が大きく上昇した。しかし同時に、ゲーム内通貨が莫大に消費され、デフレが巻き起こった……まあそんな与太話はいいか。
「とりあえず最初は別に問題ないだろう」
多額の費用を要求されるのは高レベル装備から。現状30レベルの装備なんて◇マーク5個までのものしかないので、強化費用はすごく安いから気にする必要はない。
それでも行く行くは、莫大な費用が必要になってくるので、今のうちにしっかり金策を行い、生活費と強化費用を溜め込んでおくことが重要なのである。
「ォン」
「あ、軽食? ありがとうポチ」
特殊強化について思考を重ねつつ、やっぱり金策は魔物狩りとギルドの依頼をしっかりこなすことだよな、なんて思っていると、ポチが軽食を持ってきてくれた。サンドイッチである。
「うまっ、なにこのタレのコク……って、照り焼きサンド?」
「ォン」
シャキシャキのレタスと鶏の照り焼きが絶妙にマッチした一品だ。アクセントとして甘酸っぱいピクルスも挟んである。
それを食べつつ、今日は依頼を受けずに一日使って装備の新調をすることに決めた。
俺の分と、ポチ達の分である。
「……あ、でも不味いな」
「ォン!?」
俺の何気ない呟きに、ガビーンとした表情を作るポチ。
「あ、ごめん、違う違う。このサンドイッチのことじゃないよ」
膝の上に乗っかって、拗ねてしまったポチをなでなでしながら考える。
特殊強化が開放され、俺の貧弱ステータスでもなんとかやっていける感が出てきた。でもそのためには、まず装備のUGを全て埋めてしまわなければならないのだ。
装備の製作、強化、合成、特殊強化。この一連の流れを繰り返すことになる訳だが、当然のことながら、全ての装備を強化するために必要なスクロールの不足が懸念される。
ゲーム内では、強化のスクロールを売ってくれるNPCの存在があったのだが、この世界には存在せず、ドロップアイテムとして落ちたスクロールの供給源となるプレイヤーとしての立場も、俺一人しか存在しない。
必然的に、ドロップ率アップの能力を持つコレクトを連れて、ドロップスクロール狙いで魔物を大量に狩るしか入手方法はないのだが、マップに入れば魔物が自動的に湧いてくるようなゲームとは勝手が違うのだ。
「うーん……」
一日引きこもろうと思っていたのだが、前言撤回。装備製作を中断し、気分転換がてらに拗ねるポチを抱っこして街へ出ることにした。
「ほら、拗ねるなってば」
「アォン……」
不味いな、と言ってしまったことは謝るが、あれは事故だ。照り焼きサンドはとても美味しくて、一瞬にして俺の腹に消えたのを見ただろうに……。
「まったく……ん?」
パインのおっさんの牛丼屋に連れて行けば機嫌が直るかな、と思って歩いているとたまたま通りかかった書店においてあった物に目がついた。
「……『勇者伝説』?」
書店に平積みしてある本を手に取る。召喚勇者が過去に世界を救った伝説譚だ。
さらに隣には『新・勇者伝説』というタイトルの本が並べてある。俺が召喚に巻き込まれた件の勇者の話だった。
発行元はデプリ王国。よくもまあ、抜け抜けとこんな金策に走るもんだ。
今回の勇者召喚は、国家間で色々と物議を醸しているなんて噂されているのに、それを本にして隣国で売るなんて。
他国からすれば喧嘩を売られているレベルなんじゃないだろうか?
当然ながら、俺のことはどこにも書かれていない。
ふと思ったんだが……強化のスクロールだって紙で出来ているんだから、こういった書物を分解したら、上手いことスクロールが手に入ったりしないだろうか?
さすがにそこまで都合よくできてはいないと思うのだけど、とりあえずワンチャンというものに賭けて、ページ数が少なくて安かった『新・勇者伝説』のほうを購入し分解してみた。
【白紙】
何も書かれていない質の良い紙
【強化の欠片】
必要枚数を集めると、強化のスクロールに錬成できる。
錬金術レベル:【匠】
成功率100%のスクロール各種一つ=百枚
成功率60%のスクロール各種一つ=六百枚
錬金術レベル:【巨匠】
※未開放
錬金術レベル:【神匠】
※未開放
お、おい……マジかよ……できちまったよ。
これはゲームにはなかった要素である。
いや、もしくは俺が異世界に飛ばされる時に、アップデートとかが入って、そういった強化方式のシステムが追加されたのだろうか。
最終装備は全て揃えていたし、サブキャラ用の装備も全て作り終わってたからなあ……。
深く考えてもしょうがない。スクロールの入手方法を確立できたので良しとしておこう。
なんだろう、俺の知らない要素だから、早く錬金術を成長させたくなってきた。
そうと決まれば、さっさと装備製作系の職人技能を【匠】にして、錬金術のレベル上げに着手しないといけませんね、これは!
俺はルンルン気分で全ての『新・勇者伝説』を買い占めることに。
分解用だから、普通の本はなんとなく憚られるが、デプリ発行なら話は別だ。
布教のためにかなり安い値段にしてあるっぽいが、買い占めてやろう。
第二章 スタンピードチャンス
ある日、いつも通り冒険者ギルドへ赴くと、なんだかギルド内が騒がしかった。
横長の依頼掲示板に、赤枠の依頼書が張り出されている。
「緊急依頼……?」
依頼書の説明書きを読んでみると、なんと山脈にてスタンピードの兆候が確認されたので、広く戦闘員を募集する、と書かれていた。
この世界でスタンピードというのは、いわゆる魔物の暴動のことを指す。
ゴブリンやオークのような魔物の集団が大きくなると、人里を侵略して反撃を受けたり、強大な力を持った魔物同士の争いが起こったりする。
その被害から逃れるため、魔物が他の土地へと大移動を行うことを、スタンピードと呼んでいるのだ。
今回のスタンピードは、大量の魔物が山脈を越えてトガル側へ来ているとのこと。
「傍迷惑な話だぜ……絶対デプリの仕業だろ、これ」
「向こうの召喚勇者が、冒険者の食い扶持を奪ってるって、流れてきた奴が言ってたしな」
緊急依頼を見ながら立ち話をする、冒険者達の会話が聞こえてくる。
仮にも伝説の存在だというのに、デプリ以外の国の人からは、あまり良い印象を受けていない勇者御一行だった。
そりゃ世界が窮地に陥っている状況じゃなければ、そんなもんか。
イメージ戦略のために『新・勇者伝説』を発行して、安く各国の書店に流しているっぽいけど、それは全て買い占め、俺の強化スクロールとなる。
デプリ側が本の儲けを得てしまうが、より大きな売り上げを手にするのは販売店だと思うので、経済を回してやっている、と思うことにした。
そんなことはさておき、俺はこの緊急依頼をどうしようか?
スタンピードは、ギルドの他に国からもお金が出るようなので、報酬が高い。
その分危険もあるのだが、倒した魔物の数に比例して報酬が増えていくから、この赤枠の緊急依頼を受ける冒険者はたくさんいた。
「おはようございます、トウジさん」
「おはようございます。緊急依頼の参加受付をお願いします」
当然ながら、俺も参加することにした。
考えてみてくれ、魔物が大量に狩られる状況は、あのゴーレム通りの時とまったく一緒。つまりこのスタンピードは稼ぎ時なのだ。
きっとドロップアイテムの宝庫で、まさに夢のようなチャンスタイムになる。
「ああ、スタンピードの依頼ですね?」
「はい」
「Dランクにとってはかなり危険な依頼になりますけども、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
心配してくれる受付のお姉さんである。だが、多少の危険を冒してでも、参加する価値があるのだ。ピンチになったらキングさんに土下座して助太刀をお願いしよう。
「過激な戦闘が行われないと予測される場所に配置するよう、言っておきましょうか?」
「え? いや、普通に他と一緒で大丈夫ですけど」
むしろ、過激な場所のほうがドロップアイテムを大量に得られる。
理想なのは、戦いで傷を負った冒険者にポーションを配って回る支援ポジションだ。
そうやって前線のすぐ側で戦線維持に努め、魔物を倒してもらうことでドロップアイテムをたくさんいただくのである。
「でも本当に危険ですよ?」
「だ、大丈夫です」
そうやって口酸っぱく言われてしまうと、なんだか怖くなって判断が鈍るからやめて欲しい。
とりあえず「前線で」とだけ告げて、俺は冒険者ギルドを後にする。
ギルドの予想では、魔物が押し寄せてくるのは二日後。装備の一新は終わっているので、この二日間でスタンピード用のポーション作りをやってしまおう。
◇ ◇ ◇
依頼も受けずに引きこもり、すぐにスタンピードの予定日が到来した。
前日の夜から、兵士と冒険者で隊列を組んで移動し、明け方に戦闘が開始される。
今は、いくつか築かれた野営地の一つで、ポチが作る飯を待っている状況。
この依頼でパーティーを新たに組む冒険者が多く、明日の戦い方やら、お酒や食事をともにした交流などが行われているのだけど、俺は知り合いがいないので当然ぼっち。
外だし、広いしってことで、ポチやコレクトの他にもゴレオを出して、なんちゃってパーティー気分を味わいつつ、ご飯ができるのを待っている。
「──あーもう! うっさいわね! 戻らないって言ってるでしょ!」
ポトフを作るポチの姿をぼーっと見ていると、聞き慣れたが声が響いてきた。
このキレッキレの声は、イグニールだな。
声のほうに視線を向けると、元パーティーメンバーのブレイとフレイが、イグニールと言い争いをしていた。
「頼むよ! 今日くらいは前みたいに一緒のパーティーに戻ってもいいじゃないか!」
「そうです! イグニールさんがいてくれれば、火力的にも助かります!」
「だから、戻る気はないって言ってるでしょ?」
必死にお願いするブレイとフレイを、冷たくあしらうイグニール。
「あ、夕食は食べました? うちのパンも持ってきてますから! 食べません?」
「そうだよ! 美味しいよ! パーティーに入ればこのパンも安く買えるんだ!」
……そこ、タダじゃないんだ?
「何度言われても一緒よ、嫌。それにコレクションピークの報酬も、手切れ金として全部渡したでしょ? まったく……パーティーメンバーが揃わなかったから、私に声をかけてきてるんでしょう? あんた達と一緒にやってると、またランクも落ちかねないから、何度言われたところでもう二度と戻ることはない」
さらにイグニールは大きく息を吸うと言葉を続けた。
「っていうか、パーティーの不仲だってことで色々と悪目立ちしているのに、こんなに人が多いところで良く誘えたものね。周りが見てるわよ?」
「ぐっ」
「そもそも私、フレイの家のパン、好きじゃないし」
一つを言ったら三倍以上にして言葉を返すイグニールに、ブレイとフレイは弁明する隙も与えられずに黙っていることしかできないでいた。
その様子をフンと鼻で笑ったイグニールは、彼らを残して何故か俺のところに来た。
「まったく、しつこい奴らよね!」
なんでこっち来んだよ。目立つだろうに……。
「また話しかけられたら厄介だから、今日だけこっちにいても良いかしら……?」
「まあ、構わないけど」
面倒ごとは嫌いだが、彼女の胸中を察すると無下に断ることもできない。
「あら、今日はポチだけじゃなくてゴレオもいるのね? ハァイ、ゴレオ~」
「……!」
ふりふりと手を振るイグニールに、関節をゴリゴリ言わせながら手を振り返すゴレオは、立ち上がると彼女の隣にそっと座り、地面にゴリゴリと何かを書いた。
しつこい男、めんどうなのは、わかるよ。
「本当よね! まったくもう!」
そこから烈火のごとく飛び出してくるイグニールの愚痴を、ゴレオはコクコクと頷きながら聞き、時折地面に文字を書いて会話をしているようだった。
「もーっ、ゴレオってば、やっぱりそうよね?」
「……(コクコク)」
意気投合する二人。……なんだ、これ?
まあ、俺がわざわざ愚痴を聞かされないだけ、良いんだけどさ。
「ォン」
「あら? いただいても良いの?」
「アォン」
盛り上がるイグニールとゴレオの元に、ポチが出来上がった夕食を持っていく。
料理を受け取ったイグニールは「悪いわね」と言いながら、銀貨を三枚ポチに渡した。
そしてポチは受け取った銀貨を俺に持ってくる。
「ォン」
「あ、ありがとう……」
──金、稼いどるがな。
実はこれ、詰所の食堂でとんかつ定食を振る舞った際に、冒険者と兵士達がその美味しさに驚愕して、求めてもいないのに何故かお金を払い出した、という流れから来ているものだ。
自然にお金を払われるとなれば、ポチはもう一端の料理人である。
「ォン」
次は俺の分をポチが持ってくる。
「ありがとう」
しかし、あれだな。何やらブレイとフレイの視線をすごく感じる。横目でちらりと見ると、何かを言いたげな表情で、パンをもさもさ食べている彼らがいた。
……面倒臭そうな気配がするので、戦いが始まったらできるだけ離れて行動しよう。
ソーセージと野菜の具沢山ポトフを食べながら、俺はそう思った。
明け方、ギルドが予想していた通り、大量の魔物が山脈を下ってきた。俺の知らない、ありとあらゆる魔物がわんさかである。
かなりヤバそうに思えるが、迎え撃つ冒険者や兵士もわんさか。
参加報酬に追加して、倒した魔物の討伐証明部位を持って帰れば追加報酬の対象となる。
なので、血気盛んな冒険者達の雄叫びがあちこちで響いてくる。
「うおおおおおおおお!」
「装備の一新資金を蓄えっぞおおおおお!」
「おらあああああああああ!」
まるでお祭り騒ぎだな。これには、むしろ魔物のほうが圧倒されている。
無論、俺のテンションも上がりっぱなしだ。
ドロップアイテムが、ドロップアイテムが!
至る所に散らばっていて、さらにスクロールも大量! レアドロップっぽい装備も!
「ウハウハウハハッ!」
若干失語症ちっくな感覚に陥りながらも、強化合成特殊強化を全て終えた武器で魔物を倒しながら戦場を駆け巡り、ドロップアイテムを根こそぎ回収していく。
30レベル用の装備の攻撃力や装備補正は、強化によって50レベル後半相当になり、だいたいの魔物が一回攻撃すれば倒せてしまう。順調の一言だった。
俺が持っている装備は、ゲームではまだ攻撃力がインフレする前の物である。
これで潜在装備を作れるようになってしまえば、天を貫く攻撃力インフレを巻き起こし、真の装備製作チート野郎となるだろうなあ……!
「おい! ゴーレムマニアの冒険者がヤベェ顔で魔物を倒してるぞ! なんだあれ!」
「や、ヤベェ! ヤベェよ! こっちも負けねぇように討伐だ! やるぞ!」
テンションマックスの俺を見る冒険者が、負けじと前線に出ていった。
そうだそうだ、戦え戦え、戦って魔物を倒してドロップアイテムを量産してくれ。
中には無理して負傷する冒険者もいるが、そういう人達は、ポチにポーションがたくさん入ったカバンを持たせて、どんどん配らせていた。
「ォン!」
「あ、ありがとう……?」
「ポーション売りのコボルト……?」
「と、とにかく助かったよ!」
状況が状況だから、お金を取るつもりはまったくなかったのだけど、みんな律儀に払ってくれている。冒険者は恩を売られるという行為が、あまり好きではないようだ。
「おーい! ワイバーンだー! 大物だー! Bランク以上が対応してくれー!」
「任せろ! 俺達《鉄甲の義賊》が対応する!」
「うおおおお! 討伐専門クラン《鉄甲旅団》所属のパーティーだああああ!」
手に負えない魔物が出たら、こんな風に誰かが叫んで、相応のパーティーが戦場に颯爽と参上してくれる。
この依頼にはサルトを拠点とするクランも参加していて、そのクランへの加入を目論む冒険者達が、良い印象を与えようと奮い立つのだ。
能力が人に言えないため、半永久的にソロが確定している俺には、クランはまったく関係ない。
それでも周りの冒険者から羨望の眼差しを受け、頼りにされている姿を見ると、なんだかすごく格好良く思えた。
「ぜひポーションを使ってください!」
「む? いきなりなんだ?」
「戦いながらポーションを配っている者です」
「なんだそれ……まあ、助かるからありがたいけど……」
強そうな冒険者を見つけたらポーション配りを自称して近づき、さりげなくグループに入れて、彼らの魔物を倒して得た経験値も余念なく稼いでおく。
人様の経験値を奪うのは、あまりよろしくないと思っている。
でも今日一日くらいは、代わりにそれなりのポーションを無料もしくは格安でばら撒いているので、許してほしい。
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