装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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1巻

1-3

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「徒党を組んだゴブリンは知恵が回り凶悪になると聞きますが、大丈夫ですか?」
「今回は複数パーティーが参加する討伐依頼だから大丈夫よ」
「なるほど」

 複数パーティーで挑むのなら、まだマシか。
 ちなみに依頼ランクの設定基準は四~六人のパーティーが達成できる難易度とされている。
 実力とランクが離れている場合もあるからそれがまったく正しいとは言えないけど。

「それでもちょっと危険だから、また荷物持ちでついてきてとはさすがに言えないわね」
「ハハハ……」

 ゴブリンの集落討伐依頼についていくのはお断りだ。
 今の俺がゴブリンの集落になんかホイホイついて行ったら普通に死んでしまう。

「それより荷物持ちさん、見て見て! 僕達のマントはどう?」

 くるくると回りながら新しいマントを見せびらかす僕っ娘フーリ。

「ああ、それが先日の魔物のやつですか?」
「そうだよ! 体を覆うと一定時間気配を消す効果を持ってるんだよ!」
「おお、すごいっすね」

 ドロップした装備の上位版みたいな感じだった。
 俺のマントはレベル10の装備で、彼らのマントはレベル30の装備。
 やっぱり、自分で倒さないとレベル相応のドロップは期待できないことが窺える。

「本当はこっそりトウジさんのも作ってお渡ししようと思ったんですが……」

 素直に驚く俺に、アレスがやや申し訳なさそうな表情で言った。

「必要レベルが30からなので……すいません、売りに回してしまいました……一応売ったお金がありますけど……どうですか?」
「いやいやいや、そのお金はそのままパーティーで使ってください」

 慌てて断ると、それでまた「トウジさんは優しい」とか言われるんだが、俺からすればアレス達こそ、どこまで優しいんだと思う。

「それでは! いってきまーす!」
「お気をつけてー」

 俺は手を振りながら、旅立つ《新緑の風》を見送った。
 人柄も良く実力も確かだから、ゴブリン討伐も簡単に成し遂げるだろう。
 俺も彼らのような冒険者といつかパーティーを組んでみたいものだ。
 でも、このセコいチートの都合上、罪悪感で耐えられなくなりそうでもある。
 そもそも人に話したらどうなるのだろうか……安易に話すのは危険だよなあ……。
 だがいつかは本当に信頼できる人と巡り合って、話せる時が来たら良いなとも思う。
 このチートがあれば一人で生きていくことはできるけど、いつまでも一人っていうのも、それはそれでちょっと寂しいのだ。




 第二章 王都を旅立つことにした


 それから数日ほど、荷物持ちと薬草採取をちまちま続けて、レベルは9にまで上がっていた。そろそろ近場のラビッツを狩っても、レベルの上がりは遅くなる。
 攻撃系のスキルを持ってないから、どうしても魔物を倒すのに時間がかかるのだ。
 さらに、他の冒険者はパーティーを組んで依頼をこなしてガシガシ魔物を狩るが、俺は未だソロで薬草採取依頼の片手間でコツコツやっているわけだし。
 だが下手に冒険はしないことに決めていた。命を大事にがモットーなのである。
 さて、職人技能開放レベルまで、残すところあと1というところまで来たので、今日は早めに切り上げることにした。
 ここ最近休みなく頑張って来たのだから、少しはダラける日があっても良いだろう?
 間借りしている宿に帰る前に、お腹がいたので冒険者ギルドの向かいにある喫茶店に立ち寄り、少し遅めの昼食をとっていると……。

「早く探し出せ!」
『ハッ!』

 なんだか物々しい雰囲気の奴らが、大勢で向かいの冒険者ギルドに入っていくのが見えた。
 ガチガチとした鎧を身にまとった彼らには見覚えがある。
 王城の兵士だ。そして冒険者ギルドの中から叫び声が喫茶店まで響いてくる。

「トウジ・アキノという冒険者はどこだ!」

 ……え、俺?
 いきなり名前を呼ばれたもんだからびっくりした。俺が何したって言うんだ。

「ここで冒険者相手に荷物持ちをしているという情報も得ている! 知っているんだぞ!」

 冒険者ギルドの受付相手に叫ぶ兵士。
 ぶっちゃけギルドは、俺が個人的に荷物持ちしていることは見て見ぬ振りをしてくれているから、情報はないはずなんだよなあ……。
 まあ、所属している冒険者に俺がいますとは言えるけど。
 とにかくだ。なんだかよくわからんのだが、王城の連中が俺を探している。
 つまり、連れ戻しに来たとかそんな感じなのだろうか?
 これはまずい状況だと思った。
 正面から出る訳にはいかないので、こっそり食堂の裏口を利用させてもらうことに。

「すいません、多めにお金払うので裏口から出してもらっても良いですかね?」
「それは構わないけど、荷物持ちの兄ちゃん、いったい何やらかしたんだ?」
「いや、特に何もしてないですけど」

 心当たりはめちゃくちゃあるのだが、連れ戻されるいわれはない。
 だいたい、王城側が俺を放逐したんだろうに。

「そうだぜ、荷物持ちのトウジさんが何かするわけねえよ!」
「そうだそうだ! トウジはそんな奴じゃねえ!」

 おお、これまたよくわからんが、食堂にいた冒険者達が俺の言葉を信じてくれた。
 食堂の人も「まあ、そうだよな」と言ってくれる。
 格安で荷物持ちを引き受けるっていう良い人キャンペーンをやっててよかった。
 情けは人の為ならずって、こういうことを言うんだね。

「うわっ! 食堂にも来た! トウジ急げ!」
「わわわっ」

 かされるように裏口から外に追いやられる。
 それと同時に兵士が食堂にも聞き込みにやって来たようだ。

「トウジ・アキノという奴を知らないか? ここにいつもいると聞いている!」
「さあ? 俺達知らねえよな?」
「おう、まったく知らねえ。誰だそいつ?」
「なんか寒そうな名前だよな?」

 演技が下手くそ過ぎる。それに寒そうな名前って、ディスってんのか。
 まあいいや、とりあえず泊まっている宿に私物を取りに行こう。
 裏路地を走って間借りしている宿に向かうと、入り口にはすでに兵士が立っていた。
 マジか……宿に出しっぱにしていた私物は持っていかれても仕方ないな、諦めよう。
 大事なものはほとんどインベントリに入れてあるので、取られて困るものは何もない。

「しかし、今更なんで俺を探しているんだ……?」

 走りながらそう独りごちる。
 スキルなしの一般人だと証明されて金貨五枚の手切れ金とともに追い払ったはずなのに。
 ……まさか、荷物持ちとして目立ってしまったのがダメだったのだろうか。
 王城に連れ戻されたら、きっと勇者達の荷物持ち奴隷みたいな扱いになる。
 最悪だ、自由が無くなってしまう。それだけは避けたかった。

「……予定を繰り上げて、他の街……いやむしろ他の国を目指した方が良いのか?」

 国内の街だったら追いかけ回される可能性がある。
 だからいっそのこと、別の国を目指したほうが良いだろうと考えた。
 幸い、冒険者ギルドは、いろんな国に支店を構える組織である。
 よし、そうと決まったら行動あるのみ。

「トウジさん!」

 王都の門を目指して道を進んでいると、《新緑の風》のメンバーと遭遇した。

「なんだか王城の兵に追われてるって聞きましたけど、大丈夫ですか!?」

 リーダーのアレスが血相を変えて近づいてくる。顔が近い。

「ま、まあ……今の所はなんとか」

 捕まったらどうなるかわからないけど。

「いったい何をしたのよ?」

 エリーサが俺にそう尋ねるが、俺だって知りたいよ。
 荷物持ちとして冒険者に同行するか、自分で薬草採取の依頼を受けながら弱い魔物を倒して地道にレベル上げすることしかやってないからな、悪いことは一切してないはず。

「何もしてないんですけどね……ハハハ」

 実は巻き込まれて召喚された一人だなんて、言っていいものか迷ってしまった。
 勇者を召喚したってことは王都の人は知ってるようなのだが、俺みたいな変なのも一緒に召喚されたから、適当な理由をつけて放逐した……なんて公表するはずはないだろう。
 後ろ頭を掻きながら笑って誤魔化す俺に、アレスが尋ねる。

「トウジさん、これからどうするんですか?」
「そうですね……王都を出ようかと思っています」

 そう答えると、エリーサが両手をパンと叩く。

「ならちょうど良いわね!」
「ちょうど良い? いったいどういうことですか?」

 首をひねるとアレスが説明してくれる。

「今から行商馬車の護衛依頼で王都をつんです。ですから、どうせ王都を出るなら一緒に行きませんか?」

 渡りに船だった。冒険者達に愛想良くしといてよかったと、今日は散々実感した。

「え、いいんですか?」
「いいですよいいですよ! トウジさんには恩がありますし!」
「でしたら、道中の荷物は俺が全部持ちますよ?」
「本当ですか! ありがたいです!」

 助けてもらえるんだから、それくらいやっておかないと罰が当たりそうだし。
 心の平穏を保つためにも、相手の心遣いにはしっかり返しておくことが重要だ。
 俺の場合、セコいことをしているので少し過剰なくらいに恩返しすることが、今後のカルマ的な部分で重要になってくる……ような気がしている。

「もうこれを機に私達のパーティーに入ったってことにしたらいいんじゃないの?」
「……ハハハ」
「まーた曖昧あいまいな返事をして! 私は諦めてないわよ!」

 そんなこと言われてもなあ……。
 正直セコいチートがバレて、なんか裏切り者みたいな目で見られるのが嫌なのだ。
 特に《新緑の風》メンバーは、度々同行させてもらうほど仲が良い。
 素性がバレて、それで関係が変わってしまうことが怖いのである。
 インベントリに眠ってる大量のドロップアイテムも一緒に行動すると売りづらくなるしな。
 こういうのは誰も知らないところでこっそり、名前を隠して売るのがいいのだ。

「ちなみにトウジさんはどこまで行かれるんですか? 僕達は隣町までの依頼なのですが」
「決まってないですね。とりあえず、隣町まではご一緒します」
「わかりました!」

 本音を言えば、違う国に渡るつもりだ。
 だが、そこまで言ってしまうと、この人の良いパーティーはついて来そうな気がした。
 これは、隣町から国境までは自力で移動することになりそうだな……。

「さて、依頼主の行商人の方との待ち合わせ時間がそろそろなので、行きましょう!」

 アレス達に連れられ、待ち合わせ場所とやらに出向くと、すでに依頼主の行商人が待機していた。
 二頭の馬が積荷を乗せた荷馬車につながれていて、その御者ぎょしゃ席にはオーバーオールを着た金髪の少女が座っている。


「お待たせしましたマイヤーさん!」
「おう、待っとったでー……って、ん? 誰なん?」

 日に焼けた小麦色の肌、そして少しカールした肩口までの金髪。
 麦わら帽子を被っていたら、テキサスあたりの農家の娘って感じの美少女だ。
 その美少女の口から、日本の方言のような言葉が出たので、少し唖然あぜんとしてしまった。
 本当はこっちの世界の言葉なんだろうけど、俺の耳にはそう聞こえた。
 勇者召喚時に目に見えるチートスキルはなかったが、文字と言葉が母国語に翻訳ほんやくされて理解できるってるのは、デフォルトチートだよな。
 転生物で一から言葉を覚えたり……実際大変だろうし。

「トウジさんだよ。今冒険者に対して格安で荷物持ちをやってる、あの」
「え? あのうだつの上がらなそうな兄ちゃんが、トウジ・アキノっていう最近冒険者の間で有名になっとった荷物持ちの人なん?」

 ……悪かったな、うだつの上がらなそうな顔つきで。
 この年までフリーターやってたから事実なんだけどさ。

「どうも」
「おおきに、うちはマイヤーっていうしがない行商人や」

 手短に挨拶を済ませる。

「マイヤーさん、今回はこの人も加わることになったんですが、大丈夫ですか?」
「ほんまに? 護衛依頼の報酬……うちの分しか出してへんけど……?」

 少しだけ渋い表情をするマイヤー。商人だけあって金勘定に鋭いようだ。
 急遽きゅうきょ同行させてもらうのだから、その分の対価は払うつもりなので、マイヤーに提案する。

「私が荷物をアイテムボックスに入れますので、どうか同行させていただけませんか?」
「え? ほんまに? 助かるわあ!」

 露骨に表情を変えるマイヤーだった。
 荷物持ちだと知っていたようだし、これを狙っていたのかな。まあ、インベントリにはまだまだ余裕があるから良いか。
 荷物がいた分、荷台に全員乗れそうだから、ついでに聞いてみる。

「少し駆け足で移動したいので、荷台に乗ることは可能ですか?」
「ええよええよ! 実は隣町まで三往復せなあかん量の物を頼まれててさ、隣町からは積んで戻ってくる荷物は無いしで、ごっつ面倒臭い仕事やったんよ? すっごく助かるわあ」

 どうやら荷物はまだあるっぽい。だが大丈夫。
 同じ種類のアイテムを詰め込んだ木箱であれば、ほぼ無限に収納できるのだ。

「全部持っていけますよ」
「ほな、早速そっちに移動して、積み込みしてから王都を出よか!」
「はい」

 荷台に載せられていた荷物をインベントリに全て入れると、早速マイヤーとともに商人ギルドの倉庫へと向かい手早く荷積みを行った。
 街を衛兵が闊歩かっぽしていたのだが、からになった荷台を見て外から戻って来た商人と思われたのか、ろくに確認されなかった。でも、裏を返せば門には検問があるってことだ。

「あちゃー……おるわ……」
「いるとは思ってましたけど……多いですね……」

 苦い顔をするマイヤーとアレス。
 予感は的中だ。王都の正門にはたくさんの衛兵がずらりと並んでいる。
 そして出て行く馬車を逐一確認しているようだった。

「トウジ、作戦その一よ」
「は?」

 エリーサの言葉に首をかしげる。
 いったい何の作戦?
 作戦も何も、そんな話は一言も聞いてないんだけど、と思っていたら、クラソンが太い腕で俺の体を掴んで大きな袋に詰め込んだ。

「はぷっ!?」
「良いかしらトウジ? あなたは今、私達が持ってるキャンプ道具よ?」

 キャンプ道具よ、と言われてもな……だが何となく察したぞ。荷物と称して門を出ようって作戦なのだろう。
 俺はそのままクランに抱かれ、荷物と化した。
 まったくそういうことは事前に教えておいて欲しいのだが、恐らくマイヤーと倉庫で荷積みを行っている最中に考えてくれたんだろうな。

「よし、行こうみんな!」

 袋の隙間から見えたのだが、なんで《新緑の風》は荷馬車の隣に横一列で並んでるんだ。
 昔あった映画のワンシーンみたいになっている。
 もしくはみんなで並んで歩く女子高生。
 そして荷馬車にはマイヤーしか乗ってないし、致命的なほどに怪しいぞこれ。

「本当に大丈夫なんですか?」

 不安に思って聞いてみると、エリーサが答えた。

「しっ! キャンプ道具はしゃべらないで!」
「ああ、はい……」
「ぷークスクス。絶対怪しいやんこれ」

 マイヤーの笑い声が聞こえてくる。
 そう思っているなら、全員荷台に載せてやってくれよ。
 そうすれば怪しく無いし、護衛プラス隣町まで送迎する的な体裁が取れるんだが……。

「なんだあの集団は、止まれ!」

 案の定止められてしまった。馬鹿かこいつら、もー!

「どこへ行く! 念のため荷物のチェックをさせてもらう!」
「かまへんよ~」
「門番長! 荷台には荷物が載っていません! 送迎でしょうか?」
「ふむ……」

 なんだか上手いこと、送迎用だと思われていた。
 何も載せてない荷馬車は、冒険者の送迎用なのが、この世界のデフォルトなのだろうか?
 それを理解している冒険者ならではのアイデアだ。疑ってごめんなさい《新緑の風》。

「む? なんだその大きな荷物は?」

 門番長とやらの声が響く。声の矛先はクラソンの抱えるキャンプ道具。
 ……つまり俺のことだ。

「これは野営用の物資だ」
「なるほど、とりあえず確認だけはさせてもらう。男一人がちょうど入りそうな大きさだからな」

 やばいな、これはバレる。っていうか、バレてる。

「外に出したら、また袋に仕舞わねばならん」

 クラソンはなんとか食い下がろうとするが、

「なあに、片付けぐらい手伝ってやる。私も若い頃は野営用の荷物持ちを良くさせられて、その道には精通しているからな! ガッハッハ、なんなら備品チェックと、これがあると便利だってものを教えてやろう!」

 そう言われてしまえば食い下がることはできない。
 悪意をはねのけることはできても、善意に対して人はなかなかノーとは言えないのだ。

「あ、ああ……」

 これはやばいな、とクラソンも思ったのか、情けない声を出していた。
 本格的にまずい状況だ。バレたらどうしよう。
 これは《新緑の風》も何かしらの罪に問われてしまう可能性が出て来た。
 最悪、自分から出て行って彼らの荷物にこっそりまぎれ込んだと言い張って、彼らだけでも守ろうと思ったその時である──。

「──トウジ・アキノだ! あの服装は、トウジ・アキノのものだぞ!」

 街の方から、衛兵の叫び声が上がった。

「何ィッ!?」
「門番長! どうしますか!?」
「うむ、本人が現れたんだから、検問をしてる場合じゃ無いな。とにかく捕まえることが絶対命令だ! 全員で退路を塞いで取り囲むぞ!」
「はい!」
「よし、君達はもう行って良い! 道中気をつけろよ!」

 門番達はそれだけ言って、足早に声の聞こえた方向へと走って行った。
 それを見送ってから、マイヤーが言う。

「フフッ、こんなこともあろうかと、うちが秘策を仕込んどいたんやで?」


       ◇ ◇ ◇


 王都を発ち、監視の目が届かなくなった頃合いで俺は袋から出してもらえた。
 全員で荷台に乗り込んで揺られる中、マイヤーが秘策とやらを説明してくれる。

「トウジさんが呉服屋に売り払った珍しい服があったやろ? 実はそれ、うちが買ってん」
「ああ、あれですか……確か銀貨三枚くらいにはなったなあ……」

 変な服装してるな、と言われたから初日に二束三文で売っぱらった代物である。ぼんやりと答えると、マイヤーがすごく驚いていた。

「はあ!? あの上質な服を銀貨三枚ってアホちゃうか!? 何が3000ケテルやねん!」
「ええ?」

 元は日本の量販店で購入した、上下セットで1000円くらいの安物だ。
 1ケテル=1円で考えても元値の三倍で売れたんだから、十分だろうとその時は思っていた。
 そりゃ売り物がアタッシュケースとか、腕時計とか、スーツとかなら話は変わってくるけど……たかがジャージだぞ。
 上質な服と言われても、着古して糸がほつれたりしている。

「うちはあれ、金貨三枚で買ってんねんで! うわー、ぼられたわー!」

 マイヤーは一人叫びながらわしゃわしゃわしゃーと頭をかき回した。
 金貨三枚ってことは、3万ケテルだよな?
 十倍の値段をつけて売りつけるとか、あの服屋の店主、とんでもない詐欺さぎ野郎だぞ。

「そもそもなんで俺の服を買ったんですか? サイズが合わないと思うんですけど」
「ああ……うちな、珍しいものが好きやねん。面白い品物を集めるのが趣味やねんけど、風の噂で面白い服着てた人が冒険者相手に面白い商売をやっとるっていう話を聞いてな? まあその繋がりで何かに使えんかなと思ってたんよ」

 で、彼女が言うには、たまたま俺が追われているという騒ぎが起きて、荷積みの途中で適当なやつに服と小銭を渡し、それを着て適当に歩き回れとの指示を出したそうな。
《新緑の風》の作戦を横目にクスクスと笑っていたのも、結局はこうやって騒ぎを起こして、うやむやのうちに脱出できる目処めどが立っていたかららしい。

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