プライベート・スペクタル

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第三話 第四章

第九節

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「ウ…ウォー…ロック…さん?」
刺された状況ながら未だ状況が飲み込めないウルフ。口は血で溢れ、腹部から切っ先が見える程に深い。
そんなウルフの問いかけにウォーロックは笑顔のまま剣を引き抜いた事で応じる。
糸の切れた人形の様にウルフは血だまりの中に沈んだ。
「ウォーロック……いや、貴方誰なの?」
炎の拳銃を顕現させて即座に臨戦態勢へと入る晴菜。ウォーロックはニコニコとした笑みを一切崩すことはない。
4名の合衆国エージェントも後ろで同じ笑みのまま晴菜を見ていた。
「ふフふ…」「…つれないじゃア無いカ…」「『爆炎』いヤ、早乙女・晴菜ドの」「折角の再開ダといウノに……」
一人の言葉をそれぞれ分けて喋るウォーロックと合衆国エージェントを模した何か、まるで遊んでいるかのようである。
「………お生憎様、他人を後ろから刺すような奴を知り合いに持った覚えは無いわ……それも部下の信頼に付けこむような卑劣な輩とはね……」
「おやオや…」「まっタく」「こイツは」「手厳シい…」
今度は一斉に肩をすくめる。
「それにアンタ…アタシ達と会う前に…いいえウルフと合流した時からもうすでに成り代わっていたんでしょ?これまでの中でそんな隙がどこにも無いことを考えるとね」
「ふゥむ…」「ご明察」「よくわかりまシたね」「クラッぷユあハンズ」
「……煽られているようで、何かムカつくわね」
「だガ…」「少々アやまりが…」
「俺達は成り代ワったのでは」「ありマせん」
「書き換えタのです。俺ノ俺たチ自身の【演目】でネ……」
最後にそう言ったのは何と刺されたウルフ。血塗れながらもむくりと起き上がる。
その表情はウォーロックと同じある種不気味にも見え始めたニコニコした笑みであった。
「俺の【演目】『既視感の男ディス・メェン』ハ…」「相手を俺に書き換えルことガ出来る…」「ソれによって」「彼等はみンな俺達になったノだ」
『存在の改変…ふむ、【演目】にしては特異過ぎですね』
「特異過ぎるでしょ…そんな事が出来るのは世界の支援を受けている……ッ!!?」
『晴菜?』
とそこで何かに思い至る晴菜。
「思った事はわかりマすよ…」「たダ俺は少々そチらに一日の長があルだけ……」「そシてようやく『爆炎』も気づいたヨうだし」「そろそロ動きやスい身になるかネ…」
そう言って変化する6名。身に着けている衣服ごと身体をぐにゃりと歪ませ、まるで存在そのものを書き換える様に変質していく。
そうして現れたのは一人の男であった。
白髪が混じった黒髪のオールバック。着崩されたスーツと革靴。無表情な強面でサングラスをかけているせいで目元を窺い知ることが出来ない。
そして何よりも特徴的なのはひび割れ。見えている人肌の部分の所々がまるで強く扱ったガラス細工の様にひびが入り欠けている。
そんな奇妙な【星】の男。それが複製された様に6名とも同じ姿に変化したのであった。
「ウん、やハりこの姿の方ガ身に馴染む…」「そして改めて自己紹介ヲ……」「『魔女の旅団』幹部の一人」
「元【天使】ブレイク…」
一糸乱れる事無く恭しくお辞儀をしつつそう名乗った男ブレイク。その姿に晴菜は不快そうな表情を見せる。
『【天使】…世界秩序の維持の為に創り出された世界による世界の為のセキュリティソフト…そしてこの見た目と名前は…晴菜もしかして』
「そう…そしてただそれだけの存在なのに故障バグって消去されかけた欠陥品。そして式典でアタシが敗けた相手よ」
『…ッ、言っていた存在ですか…?』
晴菜の言葉に睦美は声を強張らせる。
あの式典の際、全員が敗北しているのは周知の事実。だが自分以外がどのような相手に敗れたのかはわからない事もあり、大和達は情報交換を行ったのだった。
フッドと戦ったエイプリル等。ある程度の情報の擦り合わせが出来た大和達。そこで晴菜は『天使・戦技』を扱う元【天使】に敗れたと言っていたのだ。
「【天使】連中がアタシ達の【演目】に対抗する為に編み出した『天使・戦技』。アタシと戦った時はそれだけしか使わなかったけれど、それがアンタのもう一つの【演目】なわけね…」
「えエ…」「そノ通り…」「デも舐めプしていたわけでは無イぞ」「まエ持って言うガ…」「コの【演目】は格下等の取るに足らナい連中には便利なのでスが……」「流石ニ【銘付き】相手にはねェ……」
「少しは買ってくれるのね……むしろこっちには皮肉にしか聞こえないけれど…」
「しカし、全く持っテ使エないモノという訳でも無いんだナこれが……」
言って構えたブレイク。全員が同時にである。

【演目】『天使・戦技 ―パッア使天』

躊躇いなく振るわれる『天使・戦技』。囲むような形で同時にである。
「ッツ!?」
咄嗟に炎の壁を作り上げコレをなんとか防いだ晴菜。続けて跳躍し壁の無い天井を跳ねる形で三次元的に包囲網を突破する。
だがそれに喰らいついてきたブレイク。
【天使】のよく使うボクシングスタイルを崩さず構えたまま晴菜を追うと『天使・戦技』を演った。

【演目】『天使・戦技 トーレトス使天』

鋭く重い一撃。
自らの無い【天使】には決して出せない。壊れたが故の憎らしくも鍛え研鑽された【星】の一撃。
模されたモノでない正真正銘昇華したこの【演目】に以前の晴菜は敗れたのだ。
「くッ……ぅ!」
(二度目だけど恐ろしい程の練度ね…でも!)
「アタシも以前とは違うのよッ!!」
ブレイクの打撃を防御した晴菜。炎の拳銃を盾や打撃武器に上手く使いブレイクの徒手空拳と渡り合う。
コレが修行の成果その一。近接戦闘力の向上である。
以前も使えなくは無かったが中・遠距離の面での制圧が大きかった晴菜。だが大和や門司このブレイクの様に白兵戦が強い【星】もごまんといる。彼等の様な存在に距離を詰められるのはどうしてもネックであった。
それ故に鍛えたのだ。晴菜の修行先として選んだ過去の『爆炎』の再来。10日間限定の傭兵家業の復活の中で…。
別に大和や門司、本職達の様な熟達する必要は無い。あくまで晴菜の強みは中・遠距離の制圧力だ、それを削るのは本末転倒。
その自分の本領に引き摺り込めたらそれで良いのだ。
そしてその結果が着実に表れていた。
「………!!?」
「貰ったァ!!」
一瞬を突き、炎の拳銃をブレイクの眼前で自爆させた晴菜。怯んだ隙を見て距離を取る。
晴菜の土俵。中・遠距離の距離へと…。

【演目】『爆炎 炎銃 両腕 ミニ・ミトラィユーズ』

【演目】『爆炎 炎壊 ヘルグローリー』

炎の軽機関銃と焼夷爆弾をそれぞれ顕現させた晴菜。それぞれ一気に叩き込む。
まるで戦場の様な轟音。ブレイクは6名とも吹き飛んだ。
「どうだ見たかッ!」
「あア…」「見させてモらったゼ」
晴菜の言葉に応じる様なブレイクの声。厨房に一名入ってくる。
「素晴らしイな『爆炎』」「フっドが返リ討ちにあっタ時に聞いたが」「本当にこノ10日で鍛えて来タとは…」
『新手…』
続々と入ってくるブレイク。全員で5名、おそらく6名以外に書き換えられた者達だと睦美は即座に察する。
「はッ、アンタこそ吹き飛ばされたのにゾロゾロと…しつこい男は嫌われるわよ」
「覚えておコう」「元【天使】故にそうイう情緒は薄かったんデな…」「でもこチらの【演目】の真価を見せずに終わらセるのは問題があルだろう?」「ダからな…」
言って先程と同じく構えたブレイク。今度は同時に動き晴菜に殺到する。
「だからしつこいのよ!」
爆撃で牽制しつつ炎の軽機関銃を巧みに扱い距離を保つ晴菜。
だが2名を盾にして再び接近される。

【演目】『天使・戦技 トーレトス使天』

再び演たれた『天使・戦技』。同じく晴菜は防御した。
筈だったが……。
「おオっと、それで良イのか…」「『爆炎』?」
影から現れた残りの2名。防御に間に合わない中『天使・戦技』が演たれる。

【演目】『天使・戦技 ュシッラ使天 ×2バイツー

「くぅぅうううあアア!」
同2方向からの突きの連打。完全に無防備だった晴菜はそれをモロに受ける。
晴菜の身体は厨房の壁を勢いよく突き破り隣の部屋まで吹き飛ばされた。

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