プライベート・スペクタル

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第三話 第二章

第五節

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縁側にちょこんと座っている三笠。
聞こえる虫の声に耳を澄ませていた。
「夜更かしも別に悪くないけれどね…明日の楽しくする為の元気だけは残しておきなさい」
「………………」
「まあ今夜はキレイなお月様に虫の合唱。そういう風に創り上げた【領域ばしょ】だけれど……聞きたくなることも分からなくはないけれどね…」
「お、お婆様……あの…」
「わかっているよ、焦っているのよね?」
見透かしたような三笠の言葉。エイプリルは「うぃ…」と小さく頷く。
「一度こっちにおいで、色々話してみよう」
「う、うぃ」
「良い子」
三笠の隣に座ったエイプリル。
そしてこれまでの自身の事を全て話した。
何も言わず「うんうん」と聞いてくれる三笠。やがて全て話し終えたような機会を見計らって口を開く。
「人に歴史あり…エイプリルちゃんも色々見て来たみたいねぇ……そして先の事、か……」
「まだお婆様に言われた「余分なモノ」それすらも理解出来ていなくて……後5日しかもうないというのにこれでは……」
恥じる様に俯くエイプリル。
そんな彼女の頭を三笠は優しく撫でた。
「エイプリルちゃん。大和ちゃんから聞いたけれど、エイプリルちゃんは面白い能力を持っているのよね?」
「『死せる忠臣の影』でしょうか?うぃ、確かに私は多くの影を生み出し操る能力は持っておりますが…」
「一回婆ちゃんに見せて」
「ええッ!?」
思いがけない三笠の提案に面食らうエイプリル。
「お、お婆様。私の能力はあまり見ても面白いものではありませんよ?」
「それでも良いのよぉ。婆ちゃん自身そういう能力も無い地味な【星】だからさ、ちょっとした憧れや珍しさがあってね。お願いだから…ね?ね?」
子供の様に目を輝かせている三笠。そんな彼女に大和の師匠だと感じつつ断ることは出来ずエイプリルは「うぃ…」と頷いた。
「えっと…では………早速…」
そう言いつつ、頭をフル回転させるエイプリル。この能力を戦闘や雑事以外では使ったことはなく。ましてや第三者を楽しませたことなんて考えたことも無かった。
(どうすれば良いのでしょうか?……最近会得した『形象変化』でしょうか?……ですがそれを見せるだけで面白さなんて……)
「エイプリルちゃん」
「う、うぃ!?」
「観客は婆ちゃんだけなんだから、エイプリルちゃんが思うままに楽しい事をしてみなさい!」
うんうん悩んでいたエイプリルにそう伝えた三笠。
(思うがままに楽しく…)
何故かそのアドバイスがスッと染み込んだのを感じたエイプリル。恰好や体裁なんて後だ、取り敢えずやれるだけやってみようと杖を握りしめた。

「では……」
いつも通り銃士の影を顕現させるエイプリル。だが影達の手に持っているのは銃や槍などの武器ではなく楽器。影達は演奏を始める。
何故に楽器?その答えはその方が楽しそうだからと意味だけである。
音楽は詳しくはわからないが、聞いた事のある曲を思い浮かるだけで楽団はものの見事に奏でてくれる。
楽団のみでは不満になり銃や旗を持った影達も顕現させ曲に合わせて踊らせる。
更には『形象変化』による大きな動きも付け加える。
徐々に脳内が追い付かなくなってくれば、狗のような指示役を生み出し即応させる。
楽しいように楽しいようにどんどんと思いついたままに三笠に魅せていくエイプリル。
つたない部分もあるが、影達も徐々に動きを洗練させ、マーチングバンドのような形へと姿を変えていった。
そうしてわずか15分という短い時間ながらも、様々なモノを見せつつ演奏は終わりを迎えたのであった。

「わぁあああ!スゴイスゴイわ!エイプリルちゃん!!」
「う、うぃ…ありがとうございます」
大きな拍手で返してくれた三笠。息を切らしながらもエイプリルはお辞儀で応じる。
額に付いた汗をぬぐった。
「…うん!エイプリルちゃん。スゴイ良い顔になったわね、する前と今とじゃあ大違い」
「え?」
言われて初めて自覚するエイプリル。心の中も何か清々しい。
初めはどうすれば良いのかずっと考えていた。だが、中盤を過ぎたあたりからその感情は消え楽しくなってきていた。
どうすればもっと楽しんでもらえるだろう?そんな思いだけが頭に浮かんでいた。
ただひたすらに楽しく楽しく…魅せて見せる様に……。
(楽しく。楽しませる。魅せる。見せる…)
その瞬間、突如溢れ出すイメージ。
これまでバラバラであったパズルが一気に組み上がるような爽快感。
そしてふつふつと沸き上がる熱。
(うぃ。もしかしてこれが……)
そして言われた余分なモノというのもこれならと確かな実感が生まれていく。
「何か掴んだね」
「うぃ!ありがとうございますお婆様!!」
「それは何より」
清々しそうな表情に笑みを浮かべる三笠。
おこがましいながらもわがままを言いたいエイプリル。
「それでですね…あの……無理を言うのですが…」
「わかっているさ……一晩付き合ってあげる、私も、熱に浮かせれちゃったかなぁ、もう少しこの夜の景色を見ていたくなったからね」
「ッ……うぃ!」
快く引き受けた三笠。縁側から立ち上がりエイプリルの元へと向かった。
「こいつでエイプリルは大丈夫そうだな…」
その様子を襖の隙間から見ていた大和。閉じると布団に戻る。
その夜。虫の声に楽器達の音色も加わった。特別な夜になった。


それから8時間後。
日はすでに昇っている【領域】内に一つの扉が開く。
現れたのはフッドであった。
「トワの奴には悪いが、俺は獲物を逃さない性質たちでな……」
そう呟いたフッド。取り逃がされた獲物を求めて【領域】の奥地へと足を進めた。

※来週は休筆致します。次回は6/10更新予定です
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