プライベート・スペクタル

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第三話 第二章

第四節

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「ここは…?」
敗北を喫したあの日。
大和と同じように『魔女の旅団』の1名とラインで繋がったエイプリル。
即座に一対一の戦場へと飛ばされていた。
「ここは?…師匠達はいったい何方へ?」
「心配しなくていいぜお嬢ちゃん」
そうエイプリルに告げたエイプリルと線で繋がったトワの仲間。纏った外套を脱ぎ捨てる。
現れたのは一名の男性の【星】であった。
ジャングルパターンのマント、その下には革の服や靴を身に纏い。白い羽のついた帽子を被った中世狩人のような見た目。手にはクロスボウを持っている。
強面の顔には獣の爪痕のような大きな傷があり歴戦の雰囲気を纏うそんな【星】である。
「貴方は?」
「俺の名はフッド。トワの連れをやらせてもらっている。よろしくな」
「うぃ、エイプリルです。どうもご丁寧に……」
互いに挨拶を交わしたエイプリルとトワの仲間フッド。
「話を元に戻すが、此処は俺の仲間が【演目】で生み出した空間。言うなれば簡易的な【領域】のようなモノだ。条件を満たせばすぐに出ることが出来るぞ」
「コレはどうもご丁寧に…してその条件とは?」
「事ここまで来ているんだ理解出来るだろ……俺を斃す事さ」
そう言い放ちクロスボウを構えたフッド。エイプリルは「成る程」と頷く。
「しかし、前もって断っておくが……俺は少々このチョイスには不満なのも理解してくれ。『龍王』はトワの奴がるのは決定事項だったが…俺の相手に与えられたのが『鬼神』や『爆炎』でない小鹿バンビのような君……コレにやる気を起こせというのも難しい話だろ?」
『言わせておけば……結構な物言いだなぁフッドさんよ…』
「事実だろ?訂正したいなら実力で示してみな…」
思わず口を挟んだ狗に悪びれる様子もなくそう挑発したフッド。
その様子に狗は苛立った様子で吼えた。
「言われなくとも…やるぞ将軍!!」
「うぃ!参ります!!」
臨戦態勢に入った双方。名乗りは省き同時に動いた。

次にエイプリルの記憶は、フッドの目の前で自身が全身ボロボロで倒れ伏している場面であった。
「……う……ぃ…」
敵の目の前でもあり、何とか身体を動かそうとするが力が入らないエイプリル。肉が裂けている自身の指先を見ながら歯噛みをする。
『将軍ッッ!!?』
心配して駆け寄る狗。だが彼も針鼠の様に背部に矢が大量に突き刺さっておりエイプリル以上にボロボロの状態であった。
「やっぱりこうなってしまったか……だから俺に『鬼神』や『爆炎』をやらせろというのに…」
退屈そうに呟くフッド。
敗因は不明。何をされたのか未だに理解出来ていない。
おそらく大和や門司、晴菜なら目で追えるだろうが自分は出来なかった。文字通り手も足も出せずに敗北。それ程までに力量に差があった。
「まあ斃し斃されの【星】の世界。恨むなら未熟な自分を恨んでくれよ……」
そう言ってクロスボウの銃口を向けたフッド。
「自分はここで終わるのだ」とエイプリルもそう腹を括る。
その時…。
『聞こえていますか僕達。全員とどめを刺さず解放しなさい。コレは命令です』
突如として聞こえたトワの通信。思わずフッドは舌打ちをする。
『いいの~ぉ?』
「トワ…………こいつ等は絶対後で厄介の種になりますぜ」
『構いません…………』
まるで問題ないようなトワの言葉。フッドはエイプリルが見てわかる程に不満そうな表情を見せていく。
『……もう一度言います解放しなさい。破るような無能は始末いたします』
「…………わかりましたよ」
命令のようなトワの言葉にそう漏らし通信を切断ったフッド。そのまま怒りに任せ地面を踏みつける。
二回、三回と地団太を踏むフッド。地面がひび割れ砕けた後、「ふぅ~……」と一息吐く。
「命令だからな……解放してやる」
その言葉と共にエイプリルは解放され式典会場に戻って来たのであった。


「…………ッ!!?」
先日の情景がフラッシュバックし飛び起きたエイプリル。荒い息のまま辺りを見回す。
隣に大和が眠っているのを見てようやく先程の情景が夢であることを理解した。
軽く一息吐き再び床に就くエイプリル。
だが、再び眠りに落ちる事が中々出来なかった。
(………このままで良いのでしょうか?)
その思いが胸中を占める。
鍛錬し、語り合い、笑い合う。
【星】として覚醒めざめ『創世神』に大和達に迎え入れられてから初めてとも言える位に穏やかで緩やかな時間。
『創世神』のメンバーとしてまた大和達の仲間として、刺激的な毎日というのも悪くは無いが、こんな生活が続くのも幸せなのだろう。そう思える程に…。
(ですがこの時間は猶予のようなモノ……)
見逃されるような形で生き延びてしまった。これまで以上に強くならないと今度こそ終わってしまうだろう。
10日存在する内もう5日は過ぎた。まだ半分もあるといえばそうだが、逆を言えばもう半分しかない。
三笠に言われた余分というのもまだ掴んですらいない。
(眠れませんッ!)
寝ても居られず、着替えて外へと飛び出したエイプリル。街灯もほとんど存在していない外ではあるが月明かりにより十分に明るく。周囲には虫の声が競うように響いていた。
(兎に角、何かしましょう!)
取り敢えず教えられた体術の型を行うエイプリル。三笠の言葉を思い出しながらなぞる様に演舞を行う。
だが、教えてもらった時に比べると動きが固く重い。
まるで藻掻く様に動いたが振り払うことは出来ない。
そしてその重さは動きを鈍くし最終的には止めてしまった。
「はぁはぁはぁ……」
心や身体が重い理由。自らで止めてしまった理由。そんなもの直ぐに理解出来た。
エイプリル自身、不安なのである。
三笠の指導により体術のキレや動きは劇的に向上した。それに伴い身体能力も…おそらくこの【領域】に来る前のエイプリルとは雲泥の差があるだろう。
エイプリルは強くなった。
だがそれでも不安なのである。
先の戦いで何も出来なかった自分自身。その経験が心の中に蛇の様に絡みついて離れない。
「勝てるのでしょうか……次は……」
『創世神』に加入直後の無力感、それとは異なる恐怖のような感覚がエイプリルの心を掴んで離さなかった。
(のぅ…わかりきっております…この感覚をどうにかしない限り……決して)
「眠れないのかい?」
「ッツ!?」
ふと声をかけられビクリとするエイプリル、振り返る。
声の主は三笠であった。
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