プライベート・スペクタル

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第三話 第一章

第二節

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一方大和達とは別の【領域】。
摩天楼のような天を衝く程のビル群が果てなく建ち並ぶような景観。
門司とミコはそこで用意された相手との模擬戦を行っていた。
「ふぅ……」
刀を振るい刀身に付いた血脂を落とした門司。鞘に納めながらたった今斬り倒した相手を見下ろす。
肌色の肉片。所々から伸びる触手。のっぺらぼうの様な虚無。
依然戦った『旧支配者』その『断片』と呼ばれるモノである。

『東京変革』後倒した残骸を『フツノミタマ』が回収し培養・調整。
それをトレーニング用のダミーとして採用するようにしたのである。
元々戦力的な部分も考案されてはいたのだが、リスクを考え見ての今回のダミーでの採用。
その試運転テストとの名目を兼ねて門司達は修行用の相手にしたのであった。

「実験記録004観察終了…動画停止」
戦闘が終わった門司の様子を見て近づく『フツノミタマ』の者達。
『フツノミタマ』内で【星】や【星具】の関係から、SFからオカルトに至るまで、様々な研究や実験、解析等を行う化学班の者達である。
その中の班長である壮年男性の【星】が門司に問いかける。
「『鬼神』殿いかがです?このダミーの性能の程は?」
「悪くはない。ただ少々悪趣味ではあると感じるがな…」
死体を復活させ【星】達の練習相手にさせる。その行為は非道、若干外れているモノである。
門司達なら出来ても絶対にしない行為だろう。
「ご意見はご尤も…ですがこれは貴方がたによって本体を斃されてもまだ肉体は活動している稀有な存在…こんな貴重な標本。ただホルマリン漬けにするのは忍びないですからね…」
「そうかそれならば何も言わないさ」
言っても部外者である。これ以上は口出しは避ける門司。
「まあこういうのモノのお約束テンプレート。暴走や脱走だけは起こらないように祈っているよ」
そうとだけ言っておく。
「その点についても抜かりなく対応いたしております。このように……」
指を鳴らした班長。するとダミー達は融解し始める。
ものの十数秒でダミー達は中の機器を残しきれいに消滅した。
「全ダミーには自爆機能を搭載しております。またこの機器にてダミーに命令を書き込むことも可能です」
「ほぅ…」
「また基本的に幼体のような小型形態で携行し、使用時に成長させて運用することにより制御性を完全にしました。強さの調整も『鬼神』殿のような【銘付き】クラスの練習相手から戦闘能力が低い【星】が善戦できる程度まで調節が可能、終了後は融解により処理も簡単です」
こちらも実物を見せる班長。言葉通りに班員達のタイピングによりカプセル状の小型形態から成長。即座に停止し融解した。
「こう見ると、よく出来ているな…」
「賛辞感謝感激の至りです」
お辞儀で応じる班長。成果のみが重要であり門司の感想にはあまり関心が無いのか体裁だけを取り繕ったものである。
それについては気にせず別の方向に視線を移した門司。別の方向、同行してきたミコの方を見る。
満身創痍のようなミコ。仰向けで大の字に倒れていた。
「大丈夫か?」
「ぜぇぜぇ……はい………」
肩で荒くしながらミコは答える。
「息切れで倒れているようじゃ…まだまだ動きに改善の余地ありだな……」
「すみません…」
「だが、一体倒したことは素直にスゴイことだ……誇らしいぞ」
続けて移した視線の先、そこには倒されたダミーが一体転がっていた。
ミコに渡した一体である。
(俺達とは行動を共にして、徐々に…寝ぼけ瞼を開ける様に徐々にだが…【星】へと近づいているとはいえ…な)
最弱に調整してもらったとはいえ…一般人でありながら単独で彼女は倒したのだ。
「フっ…」
大和に師事するエイプリルとは違いこちらは単純に預かっただけなのだが…彼女の将来性に思わず笑みが出た門司。
ミコも門司の様子を見て息も絶え絶えながら笑みを浮かべる。
「では門司さんッ…一手御指南お願いしますッ!」
「……良いぞ、その熱さに俺も少々触発されよう…」
フラフラの状況ながら立ち上がったミコ。
見ていた化学班にどよめきが起こる中、納得し刀を抜き放った門司。峰へと返す。
ミコも抜刀と同時に斬りかかった。
それを遠くの方で見る化学班の連中。
「スゴイですね…どう見てもボロボロですよ……」
「ああ合理的でない所業…化学班われわれなら絶対にしないが……コレが少数精鋭である『創世神かれら』の強さ。その一因かもしれないですね…」
先程とは逆門司達の行為を見て述べた化学班。そう結論付ける。
そこに一番日の浅い若手の班員の一名が駆け寄って来た。
「何だ?……………成程……『鬼神』殿!」
「どうした?」
「『フツノミタマわれわれ』経由での日本政府からの通達です。「次回開催予定の合衆国との外交会談の際ぜひとも来賓として出席いただきたい」とのことです」
「何だと?」
手合わせの最中ながら内容に思わず手を止めてしまった門司。
それが新たなる騒動の始まりであった。
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