プライベート・スペクタル

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第二話 序章

始まり

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某合衆国N州。某収容所。
一般的には宇宙基地だの秘密施設だのと噂される場所。
その中に収容されている収容体。№H3050はふと思う。
(……ああ………退屈だ…………)
目には目隠しが耳には防音用のイヤーマフが施され、身体には四肢どころから関節一つ一つが鋼鉄製の板金で固定されている。
光も音も無く肉体すら指先一つも満足に動かすことが出来ない状況。
出来るのは一日一度口に流し込まれる流動食を貪る程度である。
全く持ってやることが無い。
否、それでは語弊が出てしまう。正しくは…全く持ってやる気が起きないである。
人類から逸脱した超人【星】である自分としてはこの程度の拘束、破る事は容易い。
少し力を込めれば鋼鉄の板は容易く引き裂かれるだろう。
だが………破ったからどうなるという話である。
人類から逸脱し【星】になってもはや幾星霜。やりたいことはやりたいだけやった。
喰らいたいモノを好きなだけ喰らい、抱きたいだけ女を壊れるまで抱き、殺したいだけ面白く殺戮した。
今さら外に出てやりたいことなんて無いのである。
ここに居るのもワザと捕まったからに過ぎない。
「ああ…退屈だ……」
今度は口に出してみるH3050。瞬間、巡回中の看守より警棒による殴打を受けるが、特に気にしない。人の渾身の打撃なんぞ痛みなんて無いからだ…。
とそこで2名の看守が言葉を発した事を察するH3050。耳はふさがれてはいるが皮膚の一部はふさがれていない。皮膚から察する空気の振動である程度聞くことができる。
(珍しいな…はてさて内容は…?)
耳を否、皮膚を傾ける。
「………ああくそ、なんて時代が始まっちまったもんだ…【星】。こんなミュータント共が存在し今や我が物顔で世界の表舞台を歩き回ってやがるとは……」
「全くだ…今や政府の連中とも手を結んだらしい。軍内に【星】の部隊を設立するって国防省のお偉いさんも言っていたらしいぜ……」
(……………ッ!!?)
その言葉を聞いた時、既に拘束を引きちぎっていたH3050。立ち上がり目隠しとイヤーマフを外す。
久方ぶりに見た光に電灯でも眩しく感じたが、気にせずに看守に詰め寄る。
「本当かその話?」
「なんだ手前ッ!いつの間に拘束をッ!!」
「本当か?」
「撃て!撃ち殺せ!!」
拳銃を抜き撃ってくる看守達。即座にこの弾丸が対【星】にも通ずると察するH3050。
だが躱すことなく受け入れる。肉体に指程の穴が開くがこんなもの大したものではない。
「本当なのか?」
「ジーザス………」
「嘘だろ……所長の奴…こいつは効くって言ったじゃあないかッ!!」
「おい?」
「「うわああああああああぁぁぁぁぁああああ!!」」
「全く……」
話にならない…。そう感じたH3050は看守をそれぞれ両手で掴み持ち上げる。
そしてそのままブンと縦に振るった。
「あパァ!!?」
「うん。回答は最低だったが武器としては良いじゃあないか…」
振るわれたあまりの速度に全身の血管が破裂し一振で絶命した看守。それに気にすることなくH3050は満足げに頷く。
と同時にけたたましいサイレン音が鳴り響いた。
『エマージェンシー!!エマージェンシー!!!複数箇所に被収容者の脱走を確認!!職員は武装の後、即時現場に向かえ!!繰り返すッ!!……』
「来るのか……それよりも……」
複数個所とアナウンスは言っていた。自分以外にも抜けた者がいるのだろう。
だが、気にしないことを決めたH3050。先の話を聞けば抜け出したく者が現れるのは道理だ。
自分の障害になりえないなら放置しても問題はない。
「それよりも、所長室だ……」
もう少し情報が欲しいと感じるH3050。暇つぶしで得ていた内部構造を頼りに足を運ぶ。
数分後…難なく到着したH3050。所長と思われる者の首根っこを掴み持ち上げた。
「さぁ詳しく教えてくれ…」
「し、知るかッ●ァック!!」
「そうか……」
残念そうに呟き、握る手に力を込めたH3050。鈍い音が首から響き所長はあっけなく絶命した。
所長の亡骸を適当に投げ捨て溜息を吐くH3050。
ふと所長の机に目をやると、そこには開いたままの新聞が置かれてある。
見出しの文字には『東京変革からはや数週間。混乱未だ続く』と綴られていた。
手に取り内容を見る。
「東京か…なるほどな………」
理解したH3050。そこに行けばよいと確信する。
そうと決まればこの番号も捨てる時だ…本来の名に戻る時だ……。
胸に付けてあった番号のワッペンを引きちぎり、所長室を後にした元H3050。
そして自らが殺めた大量の職員の亡骸が転がる廊下を気にすることなく出口へと足を進めた。
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